謎めいた勢力
今回の行商の成果……もとい報酬をどこからか知ったのか、カイ様の呼びかけなのか、ザリウスさんの元パーティメンバーや、カイ様のご友人のマレオンさんまで、護衛役を希望してきたらしい。
「マレオンさん、最近は自主的に森での狩りもしていて、さらに腕をあげたってさ」
とアイリーが言う。どうやら、フリクトンさんのお墨付き。
マレオンさん、ブラヴァートさんとも仲がいいはずだし、頼れそう。
行商の旅も楽しくはあったけれど、交代できるのは嬉しい。
責任を感じるし、正直なところ向いてないから。
久しぶりに部屋でゆっくり過ごせるのが、1番嬉しいかもしれない。
「モリー、よかった。また会えたね」
モリーは大き目の鳥かごの中で、時折羽ばたきをしている。
止まり木にした枝を気に入ってるみたい。
……ただ、気になる話をアイリーから聞くことになった。
「マレオンさんだけどさー、ブラヴァートさんに血を吸われてそうじゃない?」
飲んでいた水を、ブハッと吹き出しかけた。
「え、何それ……ウワサにでもなってるの」
「それはないけど、あの3人。王国任務のためによく一緒に行動してたらしいよな。
ん?もしかしたら、カイ様も……」
「ちょっと。ただの想像でしょ」
「あ、ナガメ!すっかりブラヴァートさんびいきか?」
「そういうワケじゃないけど……」
むくれ顔をされてしまった。
「アイリーさん。さてはワタシのいない間におヒマを持て余して、乙女の想像の世界にでも浸っていましたか?」
と言うと、今度は少し赤くなってる。
「ナイショだけどね、ブラヴァートさんは血を吸うんじゃなく、手を当てることでエナジーを吸い取れるらしいよ。魔人のなかでも上位クラスはできるんだって」
「えっ、そなの?……ふーん」
お酒の席で、ブラヴァートさんがザリウスさんに話していたのを聞いたから、本当だ。
アイリーがコロコロと表情をかえるので、クスッと笑えてきた。
それにしても__深夜、横たわって眠るカイ様の白い首筋に手をあて、うっすらと赤く目を光らせて微笑むブラヴァートさんの図。深紅のバラの花弁が、無数に舞っている。
こういうのってよろしくないんだけど、絵になる……気がする。
私の頭の中から、しばらくその絵が離れなかった。
_______________
大都市ドーヴァ。貴族の大邸宅にて___
「ティフ、話がある」
「いまはムリ。あとで」
「……わかった」
ティフ、と呼びかけられた色素の薄い髪の若い男は、大きな陶製のバスタブに身を預けている。が、湯気は立っておらず、よく見るとバスタブは薄汚れ、高級そうなタイル張りの床も黒ずんでいる。
「はあぁああ~~~」
大きな欠伸が広い空間に反響した。
およそ2時間後。寒々しいバスローブ姿になったティフという男は、叩けば埃が舞いそうな本革のソファーに長々と伸び、数名の男女が興じるボードゲームを見ている。
「あー、やっぱ赤に賭けるわ」
と宣言するティフ。ゲーム終盤だというのに、賭けの対象を変えるらしい。
周囲も慣れているのか、何なのか文句を言い出そうとすらしない。
近くの小型テーブルには、銀製のトレイ。上に載った細長いグラスに濃い色の液体が注がれ、ゴボゴボとにごった泡がたっている。
大皿には、カビの生えたような見た目のドロドロの物体が山盛り。
具材が分厚い青色の肉だけの生臭そうなサンドイッチ。
それに、目の覚めるような毒々しい色の何かが添えられ、手づかみでそれぞれの口へ運ばれていく。
そこへ、扉を開けて入ってきた者が口を開いた。先ほどの女だ。
「失礼、改めて話したい。例の調査に関して……」
「調査ぁ?頼んでねえし。いま、いいところなんだよ」
「え、でも……」
「そんなことより見ろ。サンドイッチぜんぜん足りてねえだろ。さっさと持って来い」
「…………」
スレンダーな体型に、似つかわしくない声色。そして言葉の圧が空気を不穏なものに変えた。
あしらわれ、部屋を出たのは、スラリとした眼鏡の女。
かなり苛立っているのか、敷物を踏み鳴らしながら毒づく。
高価そうだけれど薄汚れた敷物。しかも、もうもうと埃がたつ。
広い廊下にまで、空虚な騒ぎ声だけが届いていた。
____________
一方、パンドゥールのお屋敷では。
「ええっ、人が押しかけてきてる……?」
アイリーが、新情報を持ってきた。
「そう。屋敷が新たに奉公人を募集すると領内に通達したんだ。おもに畑と、動物たちの世話要員として」
カイ様の、言い出しそうなことだ。前もって相談がないスピード決断なのも、いかにも彼らしい。
農地管理官の人たち、前にも増して忙しそうだな~とは思っていた。農地、明らかに広がっているし(とくに野菜)
「メイドたちも、減ってるんだよなー」
「ああ、それは。毎日見てるし」
「今のとこは数名だけど、武術や魔法に目覚めた。それで、ギルドから正式に要請されて修行に出たんだ。特に、魔法が使えるとなると、扱いが変わる」
「へ、へぇ~!」
そうとは知らなかった。この短期間に、そんなことが。
「あれ?でも、魔法が使えるメイドさんもいるよね」
「年齢とか、本人の事情。あとはー魔法の種類によるかな。レアだと外に引っ張られやすい。あとは、上の方同士の話し合いも」
「なるほどね」
じゃあ、ゆくゆくは冒険者や狩人として活躍する……?
「……ただ、ナガメ達がこの間、行商中に捕虜にした元盗賊のヤツらまで来てるらしくて」
「ぅげ……!」
衝撃が大きすぎて、おかしな反応してしまった。
「まあでも1度、ギルドに拘束されてるからな。どうしようもない大罪人は、まだ監禁中か裁かれてる。ここに来れるのは罪の軽いヤツらだけのはず。カイ様が領主でもあるから、再審査もできるし」
ああそうか、この時代の領主様にはそんな役割もあったんだ。でも……
「わ、私、顔を知られてる。会わないようにしなきゃ!
……でも、そのうち顔を合わせそう。どうしよ~」
「落ち着けよ。それが……向こうは、ナガメに会いたいみたいよ?」
「!?」
「さ、じゃあ行こうか!」
「!?ええー」
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