憧れの大商業都市『フォーン・マーケット』
「貴方たちは恩人だ!本当に、本当にありがとう!」
商団を率いる男性は、30台くらいにみえる、ぽっちゃり体型。
「ワタクシ、こう見えて商会を営んでおります。バルトロ・マグナと申します!」
何度も頭を下げて、感謝の意を伝えてくる。とっても照れくさい。
私は手を取られ、すごい勢いでブンブンと振られた。手、取れちゃわない?
「たまたま通りがかっただけですよ!でも、大事な商品を守るお役に立てて、良かったです」
ブラヴァートさんはさすが、ニコニコと笑顔で応対している。
「……あの盗賊団、どんどんやることがひどくなってて、最近は村を夜襲したのでギルドの最優先討伐対象だったらしいよ」
メルさんが言ってきた。情報収集が早い。
駆けつけてきた、冒険ギルドの一団からも、敬礼とともにお礼を言われた。
それから、報奨金を取りまとめておくので取りに来るよう、念も押された。
さっきまで息巻いていた盗賊のリーダーは、服や髪やヒゲが焦げ付きほとんどなくなった状態で、意識を失っている。倒れた時の打ちどころのせいか、頬もブクッと腫れている。
檻つきの荷車に他の盗賊の皆さんとともに詰め込まれた。
かすかに『フガ、フガガ』と言いつつ、軋む車輪の音とともに連行されていく。
……とっさに構えたあの大きな刀では、ほんの一部しか守れなかったのだ。
直前に、かなり《《煽られ》》たことと力加減が思いのほか難しく、けっこうな威力が出てしまった。
(目覚めたら、どんな反応するんだろ。もともと美容に気を遣う人種じゃなさそうだけど、意外に繊細だったりして。何にしても、反省反省。もっと練習しなきゃ)
「さっきの火魔法とフライパンの合わせ技、かっこよかった!」
「初めて見る、ワザでした」
と、仲間から褒められたり、驚かれたりした。
とっさにイメージが浮かんで、やってみたんだよね。元の世界で少しだけテニスやっていたのかも。案外うまくいって、ホントよかった。
でも、一番は……油断こそが敵。
あの男、自分でこの道を選んだようなものだ。
___________
翌日、夕暮れ前。
待望のフォーンマーケットに到着した!……道中、色々ありすぎて遅れたけど。
これまでみた街の中で一番、人々や荷馬車の往来があって賑やか。
市場の賑わいはもちろん、路面店も沢山あっておしゃれで、『大商業都市』という言葉がふさわしい。
緑が多い。道沿いの花壇には、白や橙、なじみのない色合いの赤紫色の花が植えられ、風にユラユラゆれていて華やかだ。
「じつは、私も行商で訪れるのは初めてです。商人なら一度は訪れたい都市の一つですよ」
とブラヴァートさん。
「揃わないものがないって聞くけど、ホントかな?」
「今からわかるかも!」
メルさんと一緒に、窓からの景色にも夢中になる。
ブラヴァートさんが店主と顔なじみだという宿屋に泊まるらしい。
併設されている厩や、倉庫も借りたようだ。荷物を満載しているから、万が一に備えておきたいという。
「せっかくなので、まずは街を見て回ってきていいですよ。夕食時に、ここでおちあいましょう」
と提案をしてくれた。
御者さんとザリウスさんは残って目を光らせてくれるらしい。ちょっと気の毒だけど、おかげで安心。
大きな噴水や緑で作られたさまざまなオブジェのある通りを過ぎ、思い思いのお店を見て回る。
近隣の街では見かけないマネキンたちが、上品なワンピースを着せられている。このリボン、メイドさんたちが喜ぶだろうな。
市場には美味しそうな作物やルチェが、ずらりと並んでいた。
うっ……まぶしい。光り輝いてるよ!?
トゲトゲのある実や、ヤシに似た南国風のルチェまである。
「このジュース、美味しい~!!」
とメルさんが興奮しているので、私もマネして飲んでみる。
「わー!すごく美味しいね」
……グァバにスイカを足したような、スッキリとした風味だった。
楽しい時間は、すぐに過ぎてしまう。私たちは、宿へ戻ることにした。
「乾杯~~!」「お疲れさまでーーす」
5人でグラスをあわせる。はじけるような音が、小気味いい。
私はアルコールが得意じゃなくて、オランのジュース。皆が楽しそうに飲んでる空気だけで酔えそう。
ブラヴァートさんが笑顔でねぎらいの言葉をかけてくれるから、疲れが軽くなった。
……この笑顔、ポスターにして部屋に飾っておきたーい!
もうすっかりファンになってしまった。アイリーが知ったら、何ていうかな。
アイリーやミルヴァンさんに、手紙書きたいな。。
このお店、ブラヴァートさんのおススメだというけれど、料理がかなりのものだ。
シンプルな味付けながら、串焼きに、揚げ物まである。苦戦してたレシピのヒントになるかも。
深い赤色のお酒入りのグラスを何度も傾けていたブラヴァートさんと、メルさんの話が耳に入ってくる。
「ブラヴァートさん、ホントかっこいいですよね~!」
「そうですか?ありがとう。……しかし、ここだけの話。私は自分や商品を売り込みやすくするために、魅力を高めたり、信頼性を上げるスキルを発動します。それが関係しているのかもしれません」
「え~~!はじめて聞きました」
そんなスキルがあるとは驚き。ブラヴァートさん自らオープンにしてくれたおかげで、少し冷静になれたかも。
メルさん、恐らくはザリウスさんもしばらく『ん?』みたいな反応をしていた。
「ブラヴァートさんの拘束スキルもすごいですが、ナガメさんのおかげで今回は魔力を温存できて助かりました」
と、ザリウスさんが真顔で言ってきたので
「ザリウスさんの魔力量が、あがってきているんじゃないでしょうか?」
と言っておいた。ホントにそんな感じがするし。
その後も皆で楽しくおしゃべりしながら飲み食いする。魔人であるブラヴァートさんと御者さんに壁を感じていたことなんて、もう忘れていた。
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