何だそりゃ
「ふむ。ではそろそろ、出発しますよ」
とブラヴァートさん。移動の予定もあるのに、小鳥のためにしばらく時間をつくってくれて優しい。
それから、2時間ほど走ったころ。馬がいななき、急停車をした。
同時に、斥候役のメルさんが出ていき、フェルナの姿も消えた。
「?どうしたんでしょう」
「まだ分からない。ただ、俺たちが襲われたわけじゃなさそうですね」
戻ってきたメルさんの説明では、
「この先の道で、恐らく商人の馬車が盗賊に襲われてる。護衛が戦ってるけど、時間の問題にみえます」
……なるほど。ブラヴァートさん、どう判断するかな?
「助けましょう!我々も通れませんし」
うん、予想はしてたけどそうなるのね。私は、フライパンを召喚した。
「今回、私の拘束魔法は使えません。こちらにも襲ってくれば、別ですが」
と、ブラヴァートさん。それは仕方ない。
魔石でわざわざカモフラージュしているのに、魔人化して戦うのは見つかるリスクがあるんだろうし。
「あ~、フェルナも条件が揃っていなくて巨大化できないんです、ホントすみません。ただ、俺が敵を引きつけはしますし、危ない場面でのシールド担当はさせてください」
ザリウスさんのシールド、人間相手もいけるんだ。
「くれぐれも、気を付けてください?この数日、冒険者ギルドが次々に盗賊を捕まえていると評判で、盗賊のほうでも実力のないやつらは活動を見合わせているらしいので」
とブラヴァートさん。
じゃあこれからあたるのは、実力派ってこと……?私とメルさんは、目を見合わせた。
近づいていくと、交戦の音や気配が迫ってくる。
(盗賊のほうの統率がとれてる感じ……やりにくそう)
商人側の護衛は、けっこうな数いたらしいけれど、ほとんどが大けがで地面に転がってしまっている。
残りは……3名だけ?
いっぽう、盗賊側には目立ったケガ人も出ていない。
「わ、分かりました!積み荷はすべて差し上げます。ですのでどうか、命だけは」
ついに商人らしき男の人が、手をあげて訴えている。
でも、血に飢えた盗賊たちは、耳を貸す様子がない。
「弱いヤツの寝言なんか放っとけ」
「やっちまえ!!」
メルさんが素早く投石紐を投げると、2人の足の自由を奪った。
私は少し離れた方向から忍び寄って、曲がった刀を持つ男に後ろから狙いを定める。
……コン。
うまくいった。屈強そうな男が、アヘ?!と声をあげて地面に転がる。
「!おい、なんだあ~?」
さすがに気づかれてしまったらしい。……でも、まだいけるかも。
ザリウスさんとブラヴァートさんが、分かりやすく姿を現したのでそちらに釘付けのご様子だ。
「お前らの仕業か!どこのどいつだっ!」
「名乗る価値などない、小物どもめ」
あ、ザリウスさんのキャラ変スイッチが入ってる。動きがけっこう素早い。
ブラヴァートさんは……素手なんだけど、もう2、3人は相手にして、倒してる。格闘技も強いみたい。
私は忍び足で、盗賊たちの背後を取り、つぎつぎにヒットさせていった。
うん。5人くらいは眠らせたかな?
「う……どうなってる?」
『見えない敵』がいるのが、気味悪いのだろう。
ここへ来て、敵に怯えの色が見え始める。
ただ、盗賊のリーダー格はさすがというか、顔色一つ変えていない。
元気に戦斧を振り回している。
メルさんは道具が切れたのか、遠距離に移動して、クロスボウで狙っている。
気が付けば、盗賊で立っているのは、実力のありそうな盗賊数名とリーダーだけだ。
ブラヴァートさんが、勇敢にも体術で闘っている。ただ、決着がつきそうもない。
人間の身体では、実力が出せないのかも。
「でやあああっ!」
掛け声がした。屈強そうな盗賊に気づいた私はとっさにフライパンを投げた。
メルさんにつかみかかろうとしていたからだ。
投げたフライパンは、男の二の腕に命中。
「ぐわぁーーーっ?」
とすごい声を出して、腕を抑えた。
しかも、思いがけない攻撃を受けてパニックになったのか、辺りを必死にキョロキョロ見回している。
メルさん、すかさず男を拘束してくれた。ナイス!
私はフライパンを1度消して、再召喚する。
いまは拾いに行く手間が惜しい。
あとは、リーダーだけ……。
私は姿を現し、フライパンを構えて近づいた。
さすがにこちらに気づくリーダー。しかし
「うわーっはっはは!何だそりゃ。フライパンって」
おおいにウケている。
「何だあ、お嬢ちゃん。そうかー武器が買えなかったのか!俺が買ってやるよ。そんな恐い顔してないで……」
私は、もう一方の手で火の魔法を召喚した。
「は?火?まほ……!?」
リーダーはほんの少しの間、混乱していた。けれど、小娘の小さな火くらい余裕で受け流せるとでも思ったのか、ニヤッと笑いながら武器を構えた。
闘っていたブラヴァートさんは、いち早く察してくれたようで飛び退る。
私は、一瞬宙に浮かべた火の魔法を、フライパンで勢いよく打ち放った。
例えるとすれば、テニスのサーブのように。
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