初出店と寄付と
日が真上に来たのか、影が濃くなる。
「っん~~。このオラン、見た目はいいんだけど。大きいルチェって味はどうなの?」
「肝心の中身がスカスカしてたら、ガッカリだものねぇ」
「そうそう。ついこの間、まとめ買いしてひどい目にあったよ」
今度は、頭に布を巻いた主婦らしき女性2人組だ。オランを品定めするように見ている。
それを聞いたブラヴァートさん、すかさず私に耳打ちしてきた。
「……わ、いいですね!準備してきます」
私は笑顔で応じ、小刀を探しに馬車へ戻る。
「ぜひ、お味見をどうぞ!!」
「甘くて美味しいですよ」
私とメルさんで、カットしたオランの実をお勧めした。
「んっ?ジューシーでいいわねぇ!こんなオラン食べたことないわ。それじゃあ、8つ!」
「んーー、私は6つで」
どうやら気に入って、値切りなしでお買い上げしてくれるみたい。
「どうも!」
「ああ、沢山お買い上げですので、少しお安くしますよ」
ブラヴァートさんが笑顔で言うと、お客さんの顔がパッと明るくなった。
「いいの?嬉しいねえ」
「まあ、よく見たらすっごくいい男!」
「ちょっとアンタ、よく見なくてもいい男だよ」
それを見ていた周りの人々が、次第に集まってきて試食をする。
「ふーむ。これはいい。何ていう種類?」
「まあ、美味しいわ。子ども達にも食べさせたい」
日が沈む前に、並べていたオランは完売。
隣に並んでいたポテや焼き菓子も、初日にしては売れたと思う。
他にも、メイドさんお手製の刺繍入りハンカチは、多くの人々が手に取ってみてくれた。
ミルヴァンさんが用意してくれた風邪薬に、塗るタイプの傷薬は冒険者やお年寄りが好んでいた。
貴族や大商人の邸宅が建ちならぶ区画もあるだけあって、使用人風のお客がまとめ買いしていき、次々に商品がさばけていく。
翌日。最初から試食コーナーをもうけていたら、夕方には生鮮品が完売してしまった。
ブラヴァートさんの手腕に、感服する。
このまましばらく滞在?と思っていたら、夕食の席でブラヴァートさんから
「明日、次の目的地へ移動しますね」
と言い渡された。予想より売れ行きがよくて、目標を達成しちゃったとのこと。
ちなみに、売れた分の商品は、モルデや途中の街で補充されていく。
モルデ特産品の花模様の織り物、銀製品に干し肉など。
「積み荷がなくなったら、戻るのかと思ってた!」
と言ったら、メルさんも初めて知った、と言っていた。
基本的に、遠くの拠点に運ぶほど積み荷の価値は上がるのだそう。
お屋敷の産物やモルデなどの特産品は、原価が抑えられて利益も高く見込めるので、優先して取り扱うべきらしかった。
出発前に、モルデのとある場所へ向かうというので着いていくと、そこは孤児院だった。
年若い男性が世話役の長らしい。スラッとしていて、健康的な雰囲気。
「ご寄付に感謝いたします。……こちらです、どうぞ」
案内されて、建物のなかへ入ると沢山の子どもたちの目線が一気に集まる。
「ブラザぁ~、その人たちは?」
みそっ歯の小さな男の子、三つ編みの女の子たちが、世話役の男性にまとわりついてくる。
へぇ、ブラザーって呼ばれてるんだ。
大きなお兄さんみたいな親しみやすい感じでいいなと思う。
幼稚園生くらいの子の髪を、中学生くらいの子が結んであげている。
麻布を切りっぱなした、丈の短い粗末な服を身に着けているけれど、顔や髪はきちんと整えている。
……ただ、どこか悟ったような、大人びた感じ。
通された部屋の壁際でブラヴァートさんと世話役の男性のやり取りを見ていたら、パンドゥール領で採れたルチェやパン、焼き菓子。それに、売り上げ金の一部までお渡ししていた。
「お姉ちゃんたち、ありがとう」
「こんなの初めて……綺麗なクッキー!お兄さんも、一緒に食べるよね?」
おやつが振舞われる席に立ち会うと、口々にお礼を言われた。
目の前のおやつを勝手に独り占めしたり、奪い合う子はいない。思わず、眼がしらが熱くなる。
……あれ?いままで隣にいたザリウスさんの姿がない。メルさんに聞くと
「あはは、ザリウスももと孤児らしいから。灰色魔法が使えなかったら、孤児院で働くつもりだったらしいよ。感動して、近くで思いっ切り泣いてるんじゃないかな」
ウワテがいて驚いたからか、私の涙はすっかり引っ込んだ。
その分、子どもたちの中へ入ってお話を聞くことができたけど。
おやつを口いっぱい頬ばる少しふくよかな子は、世話役のシスターからやんわりと注意を受けていた。
痩せた女の子が、クッキーをよほど気に入ったのか、そーっと1,2枚ポケットに忍ばせようとしているのは見たけど、境遇を思うと私から注意しようとは思えなかった。何よりも、可愛いし。
「本当、だったんですね、寄付のお話」
ブラヴァートさんに声をかけた。
「ええ、盗賊相手とはいえ口にしてしまいましたし、それに……ご依頼はカイ様からお受けしていたんです。今はまだそれほど寄付できませんが、商売が上手くいくほどより多くを、様々な施設に寄付できるでしょう」
ブラヴァートさんの闇魔法、縛りかもしれないけど誠実だ。
自然に社会貢献しようとするカイ様を尊敬する気持ちが改めて高まった気がする。それに、やる気も出てきた。
……ザリウスさんほどじゃー、ないけど!(明らかにやる気になってる)
______________
「今回の目的地フォーンマーケットまで、どのくらいかかるんでしょう?」
荷馬車の中で話題にしたら、ザリウスさんが教えてくれた。
「この調子なら、明後日の昼過ぎくらいだと思いますよ」
「楽しみ~!」
メルさんも初めて訪れる街らしい。
(__そろそろかな?)
私はブラヴァートさんから守護の魔石を預かり、魔力の充填をした。
メルさんとザリウスさんが、興味を示してくる。
「ナガメさん、魔法が使えるんですね!」
「そうだよ?メル。前に話したじゃないか」
「コホン、実際見ると綺麗で、すごいなーって……」
魔石に力が戻った感じがする。
手渡すと、ブラヴァートさんからもお礼を言われた。
……感謝の言葉をきちんと言えていい人だよね。ブラヴァートさんって。
翌日のお昼過ぎ。小雨がちらついている。クッキーや干し肉を食べながら、
「そろそろ、休憩かな?」
とメルさんと話していたら、荷馬車がスピードを落とした。
「乗り捨てられた荷馬車があるようなので、見てきていただけますか?」
とブラヴァートさん。私とメルさん、そしてザリウスさんは馬車を降りた。
「まず、私が行きます」
とメルさんが言い、矢のように走って行く。
すぐに戻ってきて、手招きをされたので近づく。
「……うーん、これといってなさそうですけど」
と、ザリウスさん。私も見て回ったけど、特に収穫はなさそう。
車輪が1つもない。盗賊が漁った後で、捨てていったんだろう。
戻ろうとした時、私の耳にごく小さな鳴き声が飛び込んできた。
ピ、ピピ……!
同時に、フェルナが何か言いたそうにこちらを見てくるので、後をついて行く。
「小鳥……!こんなところに」
つぶれかけた木箱の影に、小さな籠があり、中には小鳥がいた。
小さな身体全体がうぐいす色で、くちばしがうっすらピンク色。
「かわいそうに、置き去りだね」
と、メルさん。全身が緑色の個体は珍しいというけど、白やブルーのほうが人気で、価値としてはそう高くないという。
それにしても……かなり弱って見える。私は羊皮の袋に入れていたお水を指先につけて、少しずつ与えた。
最初は反応しなかったけど、徐々にくちばしを小さくふるわせ、飲んでくれる。
携帯していた木の実も小さくしてあげてみる。
小鳥は元気になってきたのか、止まり木で身づくろいしている。……とーーーっても可愛い。
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