若き英才の決意
しばらく間があったあと。
「これから話すことは、くれぐれもご内密に。
リオネル様はもともと、優れた闇属性の魔法使いなんです。
それも、この国始まって以来とされるほどの」
「ええっ、そう……なんですか」
「はい。ただし、稀代の闇魔法使いがゆくゆくは一国を治めるとなると、どうにもイメージが。
特に身分制議会においては、一部の聖職者・貴族議員から、すでに多くの異論もでていまして。
……あなた方はどう思いますか?」
「うーん。アタシは気にしない!でも、いい印象を持たないヤツも多そう、かな……」
「私も、アイリーと同じ意見です」
「ふむ。最悪のケースですが、盗賊や魔人が活気づくなどして国民の生活に影を落としかねないという声もあるのです。ですから、リオネル様が正式にお王位を継がれた場合も、基本は重要機密の扱いとなります。
……私個人としては、属性など関係なく国を統治する器と才覚があればよいと考えますが。
リオネル様の闇魔法で魔人勢力を従えるとまではいかずとも、抑えられるなら国にとって思いがけない幸運です。……それほど、この国にとって闇の影響が脅威なのです」
セラフィさんの分かりやすい説明で、私は改めてリオネル様の隠された事情や魔人族の脅威を感じた。
「リオネル様は、亡きお母上から手ほどきを受けていることもあり、光属性の魔法も大変お得意です。その背景には、相当な努力があったと伺っていますが」
「え、初耳なんだけど!すごいんだな、あの王子様」
アイリーが、感心している。
少し考えた私は疑問をぶつけてみることにした。
「あの……、リオネル様が魔人に完全に支配される可能性は、ないに等しいということですか?あまり心配していなかった?」
今度はカイ様が答えてくれるようだ。
「そうなるね。リオネル様に影響しているとされる魔人の動向は、以前よりできる限り監視している。
確実に言えるのは、リオネル様が言う通り魔人が取り付いているとしても、リオネル様の実力にははるかに及ばないということなんだ」
「それは……鑑定か何かで、検証をしたのですか?」
「国中の高名な鑑定師すべてが、王子には内密に、他の名目で鑑定をした結果だよ。
……リオネル様ご自身が、自分より弱い魔人による支配を望むなら、別な話になりそうだけど」
「ちょ、ワケ分からないんだけど!誰か説明してよ」
アイリーがわたわたしだして、ちょっとだけおかしかった。
ようやく理解した(?)アイリーの発言が、これだ。
「あの王子、魔人にとりつかれたんじゃなく、好奇心やヒマつぶしで相手してただけなんじゃ!?」
超絶無礼っていう言葉以外当てはまらないような解釈。
だけど、私も今はそう思う。
もっと言えば社会勉強とか、成長のためかも。
あれだけ『学習意欲』のあるお方だから……。
「属性というのは、どのように使い分けるのでしょうか?」
「ああ、カオススライムを相手にしたナガメさん、アイリーさんにはイメージしやすいと思う。
ただし、光魔法と闇魔法を、同時に使うのは不可能に近い。
かなりの修行の累積と、莫大な魔力量が必要なんだ。それに、普通は切り替えに時間がかかるはずだ」
「切り替え……ですか」
ピンときた。先日、最後に王子と塔で会った時、私が宙に浮かべた火の玉に触った王子がバチッ!となった出来事。
あの時の王子はおそらく闇属性で、私の火魔法の浄化作用に気づいていない状態だった。
出力する闇魔法の威力が少なかったから、火にはじかれたんだろう。……なんか、黒い霧でてたし。
ん?何かいまゾワッとする考えがよぎったんだけど。
「あのー。リオネルさまが事前に光属性魔法に切り換えていらした場合。
または、私のスキルの浄化作用がリオネル様の闇属性魔法よりもはるかに格下な場合、そもそも発動しない可能性は……?」
セラフィさんとカイ様が、顔を見合わせた。
「ないと申し上げたいところですが……おおいに、あり得ますね。先だっての様子から考察するに、前者の光属性同士、共鳴しただけの可能性が高いでしょう」
「……!」
「……セラフィさん。のちほど、速やかに国王のお耳に入れてください」
「承知しました、カイ様」
セラフィさんがカイ様に向かって上品に会釈をした。
「あの……!先日の洞窟探索は、どう捉えれば」
「うん……表向きは、国王からの指令だった。
けれど、その背景にリオネル王子の影響があった可能性もある」
「そう、なんですか……?」
「憶測、だけどね。国王の手の者の報告によると、リオネル王子が魔人に取りつかれたと主張している期間と、洞窟の封印が弱まった時期がほとんど一致しているんだ」
封印された洞窟の魔人にも、王子が関わっているということ?まさか……。
私の困り顔を見たからか、カイ様が言う。
「結局のところ、王子や国王様を信じて、見守るほかないんだ」
うーん、まとめると……またなんか厄介な問題増えたってこと?
しかも、とびっきりの。
ただ、セラフィ様とカイ様、お2人の様子や表情を見るに、見解は明るそう。
私なんかより、よほど関わりがあるだろうから、信じても大丈夫……だよね?
____________
翌日の早朝。まだ薄暗い時間。
王都の大聖堂を、白色の長いローブを身に着け、フードを目深にかぶる人物が訪れた。
優しい日差しが差し込むなかを、すれ違う神官や司祭に会釈をしながら、歩を進める。
たどり着いた先は、霊廟のようだ。
持参していたらしい、白い花のリースをそっと捧げると、ふわり、とかすかにいい香りが広がった。
「母上……どうか安らかにお眠りください」
何度となく参拝をしているのか、一連の所作がとてもスム-ズだ。
いつもと違ったのは、振り返った先に、よく見知った存在がいたことだろう。
「父上……!!」
「リオネル。息子よ。よい心がけだな」
お忍びで訪れていたのだろうが、一部の司祭などには知らされているのか、明らかに視線を送られている。
「意外、です。……なぜここへ?」
「私も、お前の母を想う気持ちは同じだと分かってほしい」
「……急に、言われましても」
国王が、寂しげに目を細める。
「お前のそのようなところ、少し母親に似ているな」
「……私は、そうは思いません」
側で見守っていた年老いた司祭が、見かねたように進み出て口を開いた。
「リオネル様、国王陛下はこちらへ何度も参られておりますよ。貴方様と同じく、お忍びで」
「!……信じられません」
「偽りなど、申しません。天に誓って」
うつむく、リオネル王子。その頬を、涙が伝う。
「リオネル、息子よ。これまで口にできず、寂しい思いをさせた。
私は、そなたが例え何者であろうと、私にできる限り守り抜くと決めている。そなたが生まれた日から」
「父上……お心に感謝します。僕、母上が病に倒れた真相を探ります。今度は本気で。
内政のお勉強もこれまで以上にしますし、外交でもできることならお役に立ちたいです。
親愛なる国民たちが、安心して健康で暮らせるように」
「……そうか、それはよい。お前なら、必ずできる。
私も、できる限りの力添えをしよう。約束だ」
国王は、息子の肩に手をやり、優しく寄り添うのだった。
そんな2人を、朝日が眩く照らし出した。祝福するかのように___
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