謁見の間にて
人払いされた、謁見の間。
玉座につく国王の傍らに、リオネル王子。
カイ様と、執事長。アイリーも姿勢を正して待機している。
執事長セラフィさんが話し始めた。
「アイリーさんのお話を、わたくしが代弁いたします。
先日の洞窟で起きたことに加えて、彼女が聞いたという声のことです」
「ふむ、声……か。我らしかいない今、忌憚なく話すがよい。
ただし、時間は限られておる」
と、国王。そうは言われても、緊張感ハンパじゃない。
ただ、執事長さんが話してくれるのは心強い。
話を聞いた国王は、考え込むような姿勢を取っていたけれど
「魔人による乗っ取りのさなかに、王子の助けを求める声を聞いた、となると……。
魔人が意図して聴かせた、つまりは罠の可能性もありそうに思うが。
困ったことに、息子の座を狙う者は多い」
王様の考察は、鋭い。感情はみえないけど、かなり不愉快に感じているだろう。
ただ、可能性は他にもありそう。
「一つ、ご提案がございます」
カイ様だ。
「ここにおります、ケーコ・ナガメの浄化スキルを使用して、真相を探るのです」
「浄化……話には聞いておったが。私の息子が、魔人に取り付かれているとでも?」
国王の表情が、険しくなる。
「いえ、あくまでもご提案で、決めるのは王様です。
しかし、万が一のために、ここで一度検証をすべきかと」
「ううむ……」
「何も起きなければ、心配ないということの証明になります」
一応、カイ様から提案するという話は聞かされていたけど……。
心の準備がいま一つだ。
「リオネル、そなたはどう思うのだ?」
「……ケーコのことは、信じてみたいと存じます」
リオネル様が、私に目線を投げかけ、少しだけ微笑んだ。私も、微笑み返す。
「ふむ。ケーコ・ナガメ」
「はい」
「任せるとしよう。
しかしくれぐれも、王子リオネルに害のないようにするのだぞ。
セラフィよ。万が一の時は、王子に対しての拘束魔法の使用を許可する。
他の者も、可能な限りサポート役を頼む」
「仰せの通りに」
私は、フライパンを召喚した。いつもの、料理に使うイメージだ。戦闘の時も同じだから。
「ほう、それが固有スキルのふらいぱんか。
……私も年を取ったものよ。調理道具にしか、見えないとは」
国王が、目を細めた。
「いえ、調理器具でもあります」
むしろ戦闘よりは料理にばかり使っている。
「大変、恐縮です。……それでは失礼します」
リオネル様のほうへ歩を進めると、執事長セラフィさんがスッと側に控えてくれる。
カイ様や、アイリーも少し離れた位置で、無礼にならない程度に身構えている。
リオネル様と目が合う。綺麗な、深い色の瞳。
私は、フライパンを彼のおでこのあたりに慎重に近づけた。
「ルミナ・クレンズ」
浄化を発動。
金色の光が、フライパンの縁をなぞる。無音。
空気がこの上なく『透明』になった__気がした。
リオネル様のほうに、目立つ異変はない。
これは……?そのまま、静まり返るなか数秒が過ぎる。
口を開いたのは、カイ様だった。
「大変、失礼な提案をいたしました。申し訳……」
「いいんです。僕、実はずっとお話ししようと思っていたことがあります」
と、リオネル様。一体何だろう?
「……僕は、この数年、魔人に支配されかけていました」
「!何を、言い出すのだ」
国王の動揺が、伝わってくる。私たちも驚きだ。
「しかし、すでに脅威は去りました。
数カ月前から口にしていた食事によって、ほとんど浄化されたのです」
「な、それはどういうことだ、リオネルよ」
「……パンドゥール領から送られたパンや野菜、そしてルチェのおかげです」
国王が一瞬、口をポカンと開けて固まるのが分かる。
いや、高貴なお方なんだからあんまり観察するのはよくないよね、と思い私は目線を反らした。
「いや、しかし……根拠がないではないか」
「変化が、その点のみなので他にないのです。父上」
リオネル様は、話し続ける。
「私が魔人に取りつかれたのは、母上が亡くなった年の冬でした」
「……ふむ、覚えておる。
それまで外交的で明るく、何にでも興味を示していたそなたが、部屋にこもりがちになっていったことは。しかし、魔人に……とは……」
認めたくない、という心の声がにじみ出るように感じられる。
「声が聞こえ始めたんです。この世ならざる声。
それに、父上も覚えていらっしゃるように、私を取り巻くすべてが変わりました。
食事がまるで灰のように感じられ、温かい暖炉の火がうっとおしくなった。
禁書とされる魔術書と、残酷な歴史書を読みふけりました」
心当たりがあるのか、国王は口をつぐんだ。
「……この数カ月の間、パンドゥール領から献上された作物やルチェは、確かに極上だ。それは認めよう。
しかし、王子が魔人に取りつかれ、その脅威から逃れられたことと関係があるかは今後、厳正なる審議が必要だ。
今日、この場で見聞きしたことは全員、口外無用とする。破った場合、誰であっても厳罰に処す」
「承知いたしました、国王陛下」
深くお辞儀をして、その場を去った。
その後、王宮の客間に集まり、執事長セラフィさんが話してくれたところによると。
「私はこの数年、国王の密命で王子様の身に起きた変異を調べていました」
カイ様が、こちらにうなづいて見せる。
密命のことは、承知みたい。
「セラフィさんはね、国王のご学友なんだ。
年が近いこともあって、よき話し相手でもあるんだよ」
なるほど。それで信頼されているんだ。
というか、セラフィさんすごい。
「リオネル様は、亡き王妃様のことを心から慕っていらっしゃったのです。
残念ですがそのことが、魔に付け入られる原因になったとみています」
アイリーが口をはさんだ。
「ん、国王から密命がでたってことは、国王自身も疑いを持っていたってこと……ですか?」
「ここだけの話しにしてほしいのですが、そういうことです。ただ……」
何なんだろう、セラフィさんが言い淀んでいる。
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