ルミナ・クレンズ
私はとっさに、火の魔法をイメージした。
辺りを照らしてくれるように、中空に浮かぶ火の玉を。
いつもよりコントロールしやすい気がする。カタリーナさんのおかげ?
上手くいった。と思ったら、異様な光景が目に飛び込んできた。
倒れて腕を押さえ込んでいるのは、やはり灯りを手に道案内してくれていたドワーフさん。
そして、赤く目を光らせた何者かが、8メートルほど離れた暗がりから、体勢を低くしてこちらを窺っている。正体不明だし、野獣のようで恐い。
「!な、何なの……」
すると、執事長セラフィさんが呼びかけた。
「アイリーさん、どうされました?」
こんな状況なのに、いつもの調子の声。
おかげで少しだけ、落ち着きが戻ってきた。
「アイリー?ねえ、どうしたの」
何者か(アイリー?)は、応える代わりに人間離れした素早い動きでジグザグに動いた。そして、小刀を投げてきたのだった。
しかも、同時に3方向に。
金属が激しく衝突する音がこだまする。
私は手にしていたフライパンでとっさにガードでき、ケガはない。
……狙われたのはショックだけど。
カイ様は、氷魔法で応戦。わりと余裕がありそう。
カタリーナさんは、小刀を魔法障壁のようなもので受けていた。狙われたメイドさんをかばってくれたみたい。
近づいて来たから、ハッキリ確認できた。背丈や髪の色からして、残念ながら正体はアイリーだ。
「カタリーナさん、強化魔法を……」
カイ様が呼びかけると、カタリーナさんが間髪入れず応える。
「ええ、すでに解除済みです」
アイリーにかけていた、バフ魔法のことだろう。
これで弱体化してくれるといいけど……。
アイリーは少しだけ静止したが、再び攻撃を仕掛けてくる。2度目の攻撃も、鋭い。
__ビュオッ!!
私の髪をかすめた小刀が、洞窟の岩肌に突き立つ。
カイ様も、氷魔法を展開するものの、防御目的みたいだ。
味方だから、仕掛けるのをためらわれるらしい。
セラフィさんが、恐らく拘束の魔法を発動させているけど、動きが早すぎて捉えられないみたい。
アイリーは今度は、戦斧を手にした、ドワーフさんを狙うようだ。
狩りの時みたいに、目線の動きで分かりやすい。
「……止まって!お願い」
近くにいたこともあり、私は何とか回り込みに成功した。
( ガード!!)
アイリーが、動きを止める。……よかった、効いてくれた。
目線があう。赤い光を放つ目の奥が、ゆらゆらと陽炎みたいだ。
「(……ごめんね)ルミナ・クレンズ」
ためらいを振り切って、浄化を発動。
このくらいのパワーなら……!
「う゛ああうっ……!!」
アイリーは頭を抱え込み、崩れ落ちて両ひざをついた。
彼女から、黒い霧状のものがワッとたちのぼり、消滅した。
駆け寄って確認すると、赤い光を放っていた目が元の澄んだブルーに戻っている。
「はれ?アタシどうなって」
「……!よかった……」
目をぱちぱちさせるアイリーを、私はぎゅっと抱きしめた。
「もう大丈夫、ですね」「よくやった、ナガメさん」
その後、アイリーの話から察するに、意識を乗っ取られていたようだ。
目が赤く光るなどの特徴からして、たちの悪い魔人のたぐいだろう。カイ様と執事長。そしてカタリーナさんが話していた。
封印されている魔物の抵抗かも。何にしても、調査が必要だ。
アイリーは、2言目に
「腹が減った~」
と訴えたので、ズッコケそうになった。
「フンッ!」
と鼻を鳴らす、戦斧持ちのドワーフさん。
あのままアイリーが突進してたら、どうなってただろう……。ちょっと想像したくない。
洞窟の入り口をめがけて歩く途中。
「……いい名前だな、浄化のスキル」
とアイリーに言われた。
「ああ、ありがと。クレンズはね、2人とも冬に沢山、洗い物したじゃない?それで思いついてたの」
「なるほど、洗い物の成果か」
アイリーは、執事長さんに向き直る。
「そういえばさっき、誰かの声が聞こえました。
男の子、だと思う。たぶん……助けを求めてた」
「ほう、助け……ですか。気に留めておくのがよろしいでしょう」
セラフィさん、しっかりと書き付けていた。
洞窟を出てしばらく歩いていたら、アイリーが急にガクッと膝を折り、昏倒した。
セラフィさんが魔法で受け止めてくれたけど。
……まるで、こうなると予測していたかのように。
「魔人に乗っ取られるということは、身体や心にかなりの負担がかかるということです。
どの程度のものかは、本人にしか分かりませんが」
______________
もう夜だ。ようやく帰り着いたお城の客間で、アイリーは眠りこけている。
心配だから、側についている。念のためフライパンを持って。
「きっと大丈夫ですよ」
メイドさんがお茶を運んでくれた。
探索で疲れてそうなのに、優しい。一緒に軽くお菓子を食べ、空腹を紛らわせる。
そういえば、同行してくれていたカタリーナさんとは、王宮へつく前に別れた。街に用事があると言っていた。
カイ様とセラフィさんは王様に呼ばれ、報告をしたらしい。
王様からはねぎらいの言葉を賜り、心ゆくまで休み、滞在していくようにとのことだったようだ。
魔人の封印を強化することはできたけど、解決ではないような。
これでいいんだろうか。わずかに残った気がかりが、ぬぐえそうにない。
______________
目覚めたアイリーは、食欲を爆発させた。
街で一番の名店だというお店で、メニューを開くなり
「ここからここまで持ってきてよ♪」
と注文し、次々に料理が運ばれた。
他のお客さんがジロジロ見てきて、悪目立ちしている。
見るからに田舎モノだわ~とか、女の子がムボーな大食いチャレンジやってる~。
とか呆れられてそうだけど、美味しいからいっか。
特にこの、魚介の煮込みとリングパスタのアーリオ・オーリオ風の料理はすごい。
洗練されたおしゃれな盛り付けで、味はもちろん食感が楽しい。
何より、海の風味がたっぷり味わえて、口の中がシアワセすぎた。
「う~ん、美味しいね!」
「うまいなあ」
2人で笑いあう。色んな事がどうでもよく思えてくる。
美味しいものの前では仕方ないよね!
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