洞窟探索
翌日の昼前。
「お疲れさまです!」
白い鎧をまとった見張りの兵士たちが、敬礼しながら声をかけてくる。
カイ様、執事長、メイドさん。
そして私とアイリーは、洞窟の入り口に立っていた。
先日の武器防具屋の主人が手配してくれたドワーフさん2人が護衛、兼案内役として同行してくれるみたい。
また、ご主人が洞窟の管理をしているドワーフに顔が利くので、短期間で正式な許可が出たようだ。
ドワーフさん2人は武装をしていて、重そうな戦斧を担いでいる。
それに……ネイビー色のローブ姿の、恐らくは女性も一緒だ。恐らくは、というのは聞こえてくる声だけで、ローブを目深に被っていて、顔もよく分からないから。
スキのない身のこなしから、熟練した冒険者だろうと想像はつく。
カイ様と話していた様子からは、すでに面識があるようだ。
「紹介が、遅れたね。この方は、カタリーナさんだ。
優れた冒険者で、サポート役としても優秀なんだよ。
今日の任務に特別に同行してくださるから、宜しく」
と、カイ様が紹介をしてくれた。ミステリアスなイメージはぬぐえないけれど、心強い。
ここへ来るまでの間、馬車の中で執事長が話してくれた。
この2日は、王宮の書庫で調べ物をしていたみたい。
「洞窟内は迷いやすいので、全員で固まって行動します。
もし敵に遭遇したら、カイ様とアイリーさんが前衛、他は後方から攻撃や支援を。
火の魔法も使用してよいです。ですが、狭い空間ですので加減をお願いします」
洞窟に入ってすぐ、湿った空気を肌に感じだした。そして、真っ暗闇だ。
ドワーフさん1人が手にしている携帯用の鉄枠ランタンの灯りが、ゴツゴツとした岩肌を照らし出す。時折、水滴が滴る音が響く。カイ様の声がした。
「皆、少しの間止まって、聞いてほしい」
「カタリーナさんが、強化の魔法をかけてくれる」
カタリーナさんが進み出てきて、呪文を唱えた。カイ様みたいに詠唱が小さく、素早い。
魔法を熟練すると、こうなるのかな?とか考えている間に済んでいた。
なんだか身体が温かい。それに、勇気がわいてきたような……?
それぞれがお礼を言うと、カタリーナさんは
「大したことではないですわ」
と、とっても上品かつ控えめに応えていた。
再び、歩き始める。
「……ナガメさん、フライパンは?」
小声で、カイ様が聞いてきた。
すでに召喚していたのでお見せしたら、ニコッと笑いかけられた。
あまりにいい笑顔だったから、場違いにもドキッとする。……辺りが薄暗くてよかった。
「もしかして怖い?」
「え?いえ……そうですね、少し」
とっても!と言いたかったけど皆の手前、言えなかった。
「聞いて、自信を持ってほしいんだ。君ならこの任務を遂行できる」
改まってどうしたんだろう。私、相当ぎこちなかった?
ただ、こうして言葉をかけていただくのは嬉しい。
「はい、頑張ります……!」
今できる精いっぱいの笑顔を返した。
鉄枠のランタンをかかげたドワーフが先導してくれ、交差した地点に来るたび
「こっちだ」
と手招きしてくれる。
「……静かだな」
ぽつりと言ったカイ様の声が、岩壁に吸い込まれるように消えた。
急に、ドワーフの一人が立ち止まった。
「待て。ここは掘られた洞だ」
ランタンの光が照らす岩肌。
自然の曲線ではなく、意図的に削られている。古くて確かな技術の跡。
もう一人のドワーフが膝をつき、指先で岩を叩く。乾いた音が返ってくる。
「古い封印だな。人間の仕事じゃねぇ。
……ドワーフか、それに近い技術を持つ連中だ」
一同の空気が変わった。小声でのおしゃべりをやめ、動きがややゆっくりになる。
ドワーフはランタンを高く掲げ、壁に刻まれた溝を指し示す。
「見ろ。崩落防止の支え跡だ。千年は持つように組まれてる。だが――」
指が床に落ちる細かな砂をすくい上げる。
「最近、動いた」
私の背筋を冷たいものが走った。
魔人。封印されているはずの存在が、内部で力を動かした痕跡。
ランタンの光が、何度目か分からない分岐を照らす。
「左右は崩落用だ。進むなら正面しかねぇ」
二人の背中に、奇妙な安心感を覚えた。封印された何者かを探るのに、これ以上頼れる存在はいないだろう。
洞窟の深部に、到達したみたい。
自然が作り出した段差が多く、進むのに苦労する。
「なあこれ、何だろうな?」
アイリーが、何か見つけたようだ。灯りを近づけてよく確認すると、岩壁一面に刻まれた幾何学文様が、微かに鈍い光を放っていた。
「これは……封印、ですね。よく見つけてくれました」
観察を終えた執事長セラフィさんが、断定した。
アイリーが照れくさそうに笑う。
カタリーナさんが封印に向かい、羊皮紙に書き込みをしはじめた。
「記録を、取っているんですか?」
「ええ、研究資料として。貴重な機会ですので」
すごく熱心で手早い。カタリーナさん、研究者だったりするのかな?
「私に、考えがあります」
と、セラフィさん。
「封印を、強化しましょう」
それを聞いたドワーフは首を振る。
「そうしたいが……誰ができるというんだ」
「私が。方法はすでにこの頭に入っておりますので」
さすがはセラフィさん。
「まあ、待て。それより持ち帰る物の調達が先だ」
ああ、そうだった。鉱石を持ち帰る約束……。
「こんなチャンス、またとないぞ!」
深部に来られて気が昂っているのか、ドワーフ2人はどんどん歩いて行ってしまう。
道案内ができるくらいだし、少しくらい放っておいても大丈夫そうだけど……。
それから、1時間近く経っただろうか。
お目当ての鉱石は、いっこうに見つからない。
「ああー、お腹空いた~~」
とアイリーが言いだす。メイドさんに携帯食を出してもらって、補給をした。
ゆでたコケットの卵にマヨネーズをたっぷりとまぜた具をはさんだ、卵サンド。
シンプルだけど、美味しく感じる。
私がフライパンと火の魔法を組み合わせて白湯を用意したら、皆に好評だったしカイ様が褒めてくれた。
軽食パワーか、運なのか分からないけれど。
ドワーフ2人がようやく鉱石を探し当てた。
「掘って、掘って、掘るぞ~!」
と張り切って、歌まで口ずさんでいる。
勇ましくって、どこか楽しい響きと、ツルハシが岩を削る音。
……うーん、ずっと聞いていたいような。
だけど、封印されてる魔人に聞えないか、ちょっと心配になってくる。
「我々も、手伝いましょう」
とセラフィさんが言い出し、掘り出された鉱石を、手分けしてメイドさんのアイテムボックスまで運んだ。
この鉱石、モルヴェインというらしい。黒い鉱石に銀のスジが走っている。
長年の圧力でしか生成されず、鍛えるほどに強くなり、高級装備の素材にうってつけだそうだ。
ただ……貴重な鉱石を掘ることに夢中のドワーフさんたちが、なかなか満足しない。
どうやら入れ知恵をされたメイドさんが、精いっぱいの演技で
「ボックスが、もう満杯なんです!!これ以上はムリです。
私、動けなくなってしまいますぅ」
と言ったのが、切り上げる合図になった。
さて、問題の封印がある地点には、わりとすぐ戻ることができた。
セラフィさんが懐から手帳を取り出し、封印に手をかざすと、呪文を唱え始める。
封印は怪しい輝きを放ち、抵抗しているようだった。
……セラフィさん、苦戦しているように見えるけど大丈夫かな?
同じく不安そうなアイリーと、顔を見合わせる。
スッと進み出たカイ様が、目を閉じて何か唱えた。
「……!!」
瞬間、光が一段と強くなり、急激に収束した。
打ち合わせしてあったのか、アドリブかは分からない。
カイ様やセラフィさんの様子を見る限り、上手くいったみたい。
封印の強化が完了し、帰路につこうとしていた時__
「うわああっ!」
洞窟に、大声が反響。と同時に、辺りが暗闇に転じた。
ドワーフさんが、灯りを取り落とした?!
「どうなってる?一体……」
カイ様の声が、いつにない緊迫感を伝えてくる。
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