疑念
午後。カイ様が街の工房へ行くらしいので、同行した。
道行く人たちはおしゃれで、元気そうなので何だかホッとする。
魔法の障壁が、魔物を遠ざけているから?
馬車が次々に行きかう。街の作りが入り組んでいるから、ちょっと目を離すと迷子になりそうだ。
工房は、街の少し外れに位置していた。中へ入ると……
「お客さんか?見ない顔だな」
と、ハッキリ大きな声がしたんだけど……?姿がない。
「どこを見ているんだ、ここだ」
「えっ。あ、どうも……!」
衣服のすそを引かれ、目線を移すと。背は子どものように低いながらもがっしりとした体躯に、たくわえて三つ編みにされたヒゲの男が立っていた。ドワーフ族らしい。想像していた通りの見た目で、ワクワクする。
カイ様が剣を新しく作りたいと相談をはじめ、アイリーも陳列をされた小刀を物色しだした。
交渉と注文が終わり、支払いを済ませたカイ様が切り出した。
「ところでご主人。じつは我々、北の洞窟へ行きたいのだけれど」
「!おい、何を言い出すんだ。他のお客もいるからな。こっちに来てくれ」
北の洞窟、というワードのせいか、主人がなぜか不機嫌そうだ。
誘導された別室で、カイ様が説明を加えると……
「……そういうことなら、アテがないわけでもない。
ただ、見返りを貰わないとな。まずは、酒だ。
それと、洞窟の奥にある鉱石を持ち帰ってくれ。レアなものほどいい」
「お待ちください。あの洞窟はすでに廃坑と聞いていますが」
どうしても気になる。これだけは聞いておこう。
「フン。まずは酒を用意して、出直してくれ」
カイ様は、メイドさんに目で合図する。
アイテムボックスから、木箱入りのルチェ酒が取り出される。
主人は、1本手に取ってグラスに注ぎ、飲み干した。
「む、なかなかだな。用意のいいことだ。
オホン!!鉱石の場所は、極秘でな。だが見るヤツが見れば、すぐにわかる。
うちの若いモンを案内につけるのも条件だ。……2日後、同じ時間に来い」
「助かるよ。それでは」
余計なこと、聞いちゃったかな~。と思っていると、カイ様が察したのか
「気にしなくていいよ。聞いてくれて助かった」
と声をかけてくれる。
「皆も、説明してなくてごめん、驚かせたよね。これは、王様からのご指示だったんだ」
「別にいいって!」
とアイリー。あちゃー、敬語はどこへ。。それよりも。
「ドワーフさん、思ってた通りだったよ!」
とアイリーに言うと
「え、ウソ。初めて会ったの?」
という反応をされた。
2日後、落ち合う約束をして解散になった。
まだ陽が高い。せっかくだから、街を見て回っちゃおう!
私は気になっていた洋服店を目指して、歩き始めた。
_____________
同刻。王宮内にて。
王妃が、リオネル王子の居室を訪ねているようだ。ノックもせず入っていく。
「リオネル、何をしているのです?!」
「……義母上。勉強ですが」
「昼食の席に姿がないので、王様がそれはそれはご心配だったのですよ?」
「……申し訳ありません」
しん……とした空気が流れる。
「食事を運ばせるわ」
「お心遣い、感謝します」
「はぁ……」
こめかみに手をやり、つぶやいた王妃は部屋を去った。
部屋には冷気が漂っている。暖炉はあるものの、火が入っていないのだ。
リオネル王子の顔つきや態度から、感情を読み取ることはできない。
ただ、瞳の奥深くは憂いをたたえているようにも見える。
彼は再び、分厚い本に目を落とした。
翌朝、朝食の席にて。
朝露をふくんだバラが、細工の見事な木製の大テーブルを彩っている。
あーはっはっは、というあどけない笑い声が、広間に響く。
第2王子のレオン様だ。王妃譲りの金髪で華やかな容姿をしている。
少し遅れてリオネル王子がやってくると、レオンは
「お兄様、久しぶりにお会いできましたね!嬉しいです」
にっこりと笑う。それを受けてなのか、王妃が言う。
「遅れてくるなんて、失礼ではないかしら。義弟のレオンを見習ったらどうなの」
リオネル王子は父である国王や王妃、第2王子に向かって丁寧な会釈をし、取り繕ったような笑顔を見せる。
「すみません、本の整理をしていたら遅くなってしまいました」
「……ふむ。よいではないか。マルグリッド」
国王が口を開いたからか、王妃マルグリッドはそれ以上、追及しなかった。
ただ、それまで賑やかな会話のあった食事の席が、急に静かになる。
食器が銀のカトラリーとこすれる音だけが響いた。
_______________
「いよいよ明日かー。洞窟探索」
ベッドに寝そべりながら、アイリーが言う。
ちなみに、私たちは今回、王様の賓客扱いのため、王宮内での寝泊まりを許されている。そこまで格式高いお部屋ではない感じだけど、快適だ。
アイリーは今日、街の東門近くの林で、小刀の修練をしてきたらしい。
「王都はどのお店に入ってもお料理がおいしいから、食べ過ぎてお腹いっぱい。
うう……緊張してきちゃった。眠れるかな」
「アタシも。んー、軽く散策でもしてくれば?」
「戻ってこられるかなあ」
「方向音痴かよ!」
茶化されたことも手伝い、少し歩いてみることにした。
夜だというのに、街は隅々まで明るく見える。
気が付くと、お城に来た初日と同じ場所に来ていた。
「!……」
ポツンと佇むベンチ。誰もいないだろうと思っていたけれど。
「あ、ケーコ……さん」
リオネル様。笑顔で手を振ってくれる。
「王子様……素敵なお花を、ありがとうございました」
「え?ああ……従者に頼んでおいただけ。
喜んでもらえたなら、嬉しいな。
……それより、もう分かっちゃったんだ、僕のこと」
「はい、その節は失礼を……」
「気にしないで。パンドゥール領のパンが美味しいから。
それと、リオネルって呼んでくれていいよ。
……ところで明日は、北の洞窟へ行くんだよね?」
「ご存じなんですね」
「準備は、大丈夫?危ないところなんだ。気を付けて行ってきて」
リオネル様、つくづくお優しい。
「ねえ、僕、もう1度、ケーコの火の魔法が見てみたい」
「もちろんです」
丸い手のひらサイズの炎をイメージし、そーっと宙に浮かべた。
「わあ、綺麗な色だね。それに、温かい」
リオネル様が、炎に手を伸ばす。
あまりに近いので、私が止めようとした時___。
バチッ!!炎が一瞬、大きく燃え上がると、あたりに黒い煙がスッとたなびいた。
「大丈夫ですか?!」
驚いた。どうなってるの?手が触れてはいなかったと思うんだけど……。
「大丈夫。でも、ちょっと驚いた」
リオネル様の手を取って見せてもらったけれど、特に異変はなさそうだ。
「念のため、お医者さまに……」
「大丈夫。ケーコは心配症だなあ。僕、そろそろ行くね」
後ろ姿を見送った。
それにしても。第1王子の彼に、お供がいないのはなぜなんだろう。
彼自身が望んでいること?それとも……。
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