拝謁、温か~いお茶
「国王陛下、王后陛下。
パンドゥール領主カイ・パンドゥール、お召しにより参上いたしました。
日頃の任務、および交易の件、王国のご配慮に重ねて御礼申し上げます」
正装のカイ様が、片膝をつき拝謁をする。
「面をあげよ、遠路ご苦労だった」
王様は、60代近くに見える。体格が良く、洗練された衣装に身を包み、ロマンスグレーという表現が似合う。
……ただ、どこか憂いを帯びた雰囲気を感じる。
何だろう?お疲れなのかな。
王妃様は、40代くらいだろうか、金髪の巻き毛で若々しくってお綺麗だ。
笑顔で迎えてくれている。
私たちも、カイ様によって順に紹介される。
どうやら、略式のやり取りのみのようだ。
あとにお目通りを希望して控える人々が多いことも、要因だろう。
「今日は、別行動な!色々、見て回れるだろ」
と、アイリーが言うので賛成した。何かアテでもあるのかな?
私は、王宮を散策し始めた。お庭には大きな噴水があり、さまざまな種類の花が咲き乱れているし、装飾には高級感があり、何より物珍しい。
お城の塔のらせん階段を上っていたら視界が開けて、見晴らしのいい場所へきた。
城下に広がる広大でおしゃれな街と、遠くにかすむ海。そして太陽の光が眩しい。
「何て、素敵な街……」
そのとき。バサ、という音に驚く。
周囲を見回すと、ベンチがあることに気づいた。
分厚い本が、落ちている。本が落ちた音かと分かってホッとしたのだけれど。本を拾おうと、回り込んで気づいた。
誰かが座っている。
少年だ。15,6歳くらい?よく見ると、衣服が細やかな刺繍で縁取られている。
「お前は誰?」
「!」
あどけなさの残る見ために反して、温度のない大人びた声。
ドキッとして、思わず口ごもった。
「し、招待されて参りました、パンドゥール領の者です。先ほど拝謁を……
すみません、散策をしていたらここへ来てしまって。もう、戻ります」
「……そうか。ねえ、少し話をしない?」
うって変わって、柔らかい声だ。
「お姉さん、お名前は」
「ケーコ・ナガメです」
「ふーん、もしかして異世界人?
……別に答えなくていいけど。僕は、リオネル」
貴族のご子息といった印象だけど。こんな風の冷たいところで読書なんて。
教育方針が厳しいのかな?と勝手に想像してしまった。
「いいお名前ですね!」
「そう?僕、貴方をケーコって呼んでいい?ケーコはいつも、どんなことしているの」
思いのほか、聞き上手だ。私は、料理人であることと、最近の冒険について少しだけ話しをする。
「……ずいぶん、難しそうな本ですね?」
気になっていたことを、聞いてみた。チラッと見ただけでも、文字が細かく、内容もずいぶん複雑そうだ。
「そう、難しい。でも……このくらいはできないとだめなんだ」
どこか思いつめた表情。何だか気の毒な気がする。
「……差し出がましいことを言いますが、夜風にあたると冷えますよ。
暗くなる前にお部屋へ戻られてくださいね」
「ん、わかった、そうする」
「あのー、そちら……よかったらですが、温めましょうか」
「?」
サイドテーブルのトレーに載せられたティーセット。
確認すると、やっぱりだ。お湯がすっかり冷たくなっている。
給仕係も見当たらない。
私は小さめ深めのフライパンを召喚。冷めたお湯を移す。
小さな小さな炎をイメージして、フライパンの底にあてる。
しばらく経つと、湯気が勢いよく立ち上った。
厨房や自室で、練習していた成果の1つだ。炎を調整し、安定して保ついい練習になる。お茶をいれるのにも便利だし。
リオネル君は、嬉しそうな表情でお礼を言ってくれた。
私は手を振り、その場を後にした。
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アイリーは、だいぶ遅い時間に酔っているのか赤い顔で部屋へ戻ってきた。
酒場へでも行ってきたのかな。
「リオネル!?リオネル様に、お会いしたのか?」
と言うので、何のことかと思ったら。
リオネル君はこのアルグレイン王国の、第一王子なのだそう。
ナガメって、肝心なことが抜けてる!と言われ、しばらく落ち込んだ。
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翌朝。部屋に花束が届けられて、驚いた。
アイリーは、のん気に花を愛でている。
送り主は……リオネル様だ。小さなカードがついていた。
『 温かいお茶をありがとう。またお話したいな 』
「優しい王子様でよかったな」
本当にそう。知らなかったことを含め、色々と失礼してしまったのに。
アイリーはこの際だからと、知っていることを教えてくれた。それによるとリオネル様は、元王妃様の子どもだという。
元王妃様は、まだ若くして病で亡くなられ、国王は数年後、新たに王妃となる女性を迎え入れた。
「リオネル様……いつもああなのかな」
昨日のお勉強ぶり。将来、この国を統べる重圧を見た気がする。
「それと、あくまでウワサだけど……王妃はリオネル様をいじめてるってさ。
まだ8歳と幼いけれど、国王との間に王子がいるんだ。
リオネル様を追い落として、王位を継がせたいらしい」
「え?そんな情報、いったいどこで……」
「酒場。3時間は聞き耳たてたよ」
事実だとしたら……リオネル様が、不憫すぎる。
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