新たな問題と山分け
滞在2日目の夜。
宿の食事を取ったあと、ミルヴァンさんに万能薬づくりの理由を聞いてみた。
「万能薬は単純に高値で取引されますから、旅先での資金源にうってつけなんです。それと……」
「それと……?」
「内密に、お願いしますよ。カイ様のことです。
……病弱でいらっしゃるので、体質に合わせた薬を開発したいんです。
私が薬師になった理由の1つです」
「病弱……カイ様が?」
アイリーもこれには意外だったようで、何度も瞬きをしていた。
言われてみれば、出会った頃の顔色など、思い当たることはある。
「伯母のリネンからの情報なので、確かですよ。
ところで貴方たちは日々、カイ様に料理を提供していて何か気づきませんか?」
「あっ……」
「何だよ、急にデカい声出して」
「魔物肉。カイ様の好物は、魔物のお肉だよ。
それも、幼少から好んで食べてるって」
私が打ち明けると、アイリーは
「食事ぐらいで、病気に結び付くワケないだろ~」
とあっさり切り捨てた。
しかし、一方のミルヴァンさんは
「……魔物の肉には、おそらく毒性がありますよ。それに、依存性も。研究が進んでいないだけで。
実際、医学に精通した者は食べないようにしているほどです」
「えっ、そうなんですか」
「情報が、隠されているんです。肉屋や大商人の事情が大きいですね。
魔物肉が売れなくなると、彼らは商売あがったりで困りますから。研究しようものなら即、資金提供を打ち切るとか、圧力をかけてくるという噂もあるくらいで」
「へぇ……」
「それに、魔物の肉を口にしたからといってすぐに症状が現れるわけでもなく、ほとんど平気な者もいるともされます。
貴族や冒険者の中には、魔物肉を食べることで力の源になり、権力を示せる。ステータスと考える方も多いとか」
ステータスかぁ……。これはまた、厄介そうな問題だ。
アイリーは考えることをやめたようで、暖炉の前で足をブラブラさせている。
______________
ところで、沼地食材の採取中、アッシュリザードというワニサイズのトカゲみたいな魔物に、しっぽで何度も泥水をかけられた。
地熱を好む魔物らしく、半分は地中で過ごすらしい。
ミルヴァンさんが、火魔法の練習にいいと言うので戦ってみた。
ただ、アッシュリザードの炎ブレスが危うく直撃しかけた。
フライパン持ってて助かった……。
炎の勢いが一定以上なら、鱗にダメージを与えられるというシンプルな話だったけど、狙って出すのはまだ難しい。
それも、素材を温存するにはなるべく狭い範囲に連続して当てなければいけない。
アイリーの小刀のほうは、鱗の隙間に5,6本命中すれば倒せる。
ただ、相当大変そうだった。
それでも何とか、5体仕留めることができた。
聞いてなかったけど、肝が万能薬の素材になる。
骨は炭化させ粉にして魔法触媒、鱗は耐火防具の素材になるので、いい値段がつくという。
「アイツ、知ってた……?わざと棲息場所に連れてかれたんじゃ……?」
と、アイリーがブツブツ言っていた。
カオススライムの複合体の素材の価値とあわせて、アイリーは報酬をあげるよう、交渉する気満々なようだ。
ミルヴァンは渋っていたけど、帰る途中で冒険者ギルドを経由し、素材一式に値付けをしてもらうことになった。
収穫について話しただけで、受付のタレ耳の女性は顔が引きつっていた。
査定の結果は、だいたいこんな感じ。
カオススライム(初~中級個体×8体)
・核 ・・・金コイン2枚
カオススライム(複合体)
・ガラス核1個(高品質) ・・・金コイン8枚
・カオスゲル(冷却の成果物)・・・金コイン2枚
・副産物 30個 ・・・銀貨20枚
アッシュリザード(×5体)
・1体で金貨計4枚(鱗20枚が金コイン2枚、肝が金コイン1枚、骨が合計で金コイン1枚)
ミルヴァンさんがアイテムボックスから倒した魔物や核を差し出すと、解体係の筋肉質なお兄さんが驚いていた。
それに、他の冒険者がのぞき込んできて、ちょっとしたギャラリー状態に。
「……おいおい、あの3人だけであれだけ倒したのか?」
「あの黒いのは、カオススライムの核?俺、初めて見たぜ」
カオススライムの核は、持ち運びや扱いが難しいこともあり、特に珍しいらしい。
アッシュリザードは、肝以外の素材をギルドに売却。
それ以外はすべてミルヴァンさんが素材として必要!だそうなので、個人で買取りして貰うていになった。
私とアイリーそれぞれが、金コイン16枚と銀コイン5枚を、ミルヴァンさんから支払ってもらう計算。
これでも『仲間割』で、目玉であろうカオススライムの核については譲歩済みだ。
アッシュリザードの素材を売却したことで1人あたり、金貨5枚もプラスされるし。
しばらく考えているようだったミルヴァンさんが、交渉してきた。
「あのぅ。あまり言いたくはありませんが、強化剤やポーションは、自作ですがけっこう貴重で」
「そうでしょうね。それに、ミルヴァンさんの氷魔法がなければ、複合体の時はたぶん大ケガしてたよね」
「あー、ガラス核の回収もできずってことか。でも、装備がだいぶ壊れたよな。アタシは追加で小刀も買わないと。厨房から持ち出してるし、料理にも使うから」
「それは買わないとだね……!」
結局、アイリーは金コイン2枚、私は3枚を差し引くことになった。
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ミルヴァンさんはお屋敷に帰るとすぐ、コインの入った袋を渡してくれた。
私の気持ちを察したのか、ミルヴァンさんは
「ご心配なく、取れるところからは取ってますから。また、よろしくお願いします!」
納得して貰えてるみたいでホッとしたけど……。
当分、湿地帯には行きたくないし、カオススライムやアッシュリザードの相手も勘弁してほしいよ。
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