予定外の交戦
「ふうぅ、ようやくか」
アイリーが、うんざりしたように言うのが聞こえた。
倒れこんでいて少しの間わからなかったけど、手を引いてくれたのはどうやらミルヴァンさんだ。
「ありがとう、ございます」
私が言うと、ミルヴァンさんはふいっと顔をそむけた。……照れてる?
地面に拡がった、粘性の高そうな水たまりにかがみこんだミルヴァンさんは、テニスボールほどの球状の物体を拾い上げる。
黒いガラス玉の中を、メタリックにチラチラと光る渦巻き。
ミルヴァンさんは呪文を唱えながら、なめし皮の覆いつきの、何かの液体入りの瓶を取り出して収め、さらに皮紐でグルグル巻きにしていく。
「核ですか?なんだか、綺麗」
「うん。状態もいい。理想的」
「わ、よかったですね!」
「……そういえばさぁ、何体ぶん必要なんだ?」
と、アイリー。確かに、確認してなかった。
「そうですね……今日は、あと6体で」
サラッと言ってのけたミルヴァンさん。
対して、アイリーが拳を握りこむのが分かる。
「ところでナガメさん、貴方のフライパン、浄化の作用がカオススライムにも有効みたいなので、作戦を変えましょう。
まずは私が弱体化させますので、アイリーさんがターゲットを取り、または足止め。
ナガメさんはできる限り、攻撃で」
「分かりました」
「チッ……やるしかないか」
「そうだ、これを」
……?今度は細長い瓶を渡された。青い透明の液体が入っている。
「対象者の近くで割れば、発動します」
この薬品は、ポーションらしい。
しかも、使ってみた感じ効果が高い。
身体が軽くなり、やる気がわいてきた。
_____________
ミルヴァンさんの作戦がよかったと言うべきか、それから4体のカオススライム狩りに成功した。
ただ、もう全身ドロドロで、マントや衣服の破損もかなり気になる。
小瓶の液体にも、多少の副作用があるのか、とにかくドッと疲れた。
私とアイリーはそろって音を上げ、ちょうど日暮れも近かったので、一度ロヴェナクへ戻ることになった。
とっておいた宿で、お湯を使えたので助かった。
ダメ元だったけど、交渉したら宿の台所を借りられたので、アイリーがバッグに持参していた食材で即席を用意して、3人で食べた。
部屋へ着くなり、アイリーは疲れたとも言わずに寝落ち。
緊張感しかないなか走り回ってくれて、どちらかといえばメンタルにきているハズ。
「ふふ、おやすみなさい」
私も、間もなく意識を手放した。
_____________
翌日は、朝食のあと防具と武器の店で一応だけれど装備を整え、半日かけてカオススライムを相手にすることになった。
少し慣れたとはいえ、ぬかるみに足を取られたり、最後の一撃とほぼ同時に発生するとばっちりを受け止めるたびに装備は傷む。
アイリーの表情が険しくなり、愚痴が増えたところでようやくミルヴァンさんが折れてくれた。
「やっとだぁ、これで帰れるー!」
と、アイリーが背伸びをした時___
視界の目と鼻の先で、グニャリ、と得体のしれない何かが隆起した。
見覚えはある。ただし、これまで見た中で群を抜いて大きい。
「うっ……集合体か、しまった」
とミルヴァンさんが目を見開く。
これまでの音や振動で、集まってきてしまったのかも。
「いま相手にしてられるか、強化剤も切れたし。まいてやれ!」
と、アイリーが言い、3人とも走り出す。
…………しかし、1キロは走っただろう時点で、距離が開かなくなった。
ロックオンされているかのように。
棒状の攻撃が飛んでくるのをかわすため、目も離せない。
私も辛くなってきたけど、ミルヴァンさんが苦しそうに見える。
「あぁー、もう!仕方ない、やるか」
アイリーが、中身を飲み干し空になった小瓶を投げ捨てた。
イヤだけど、私も飲んでおこう。
小刀の連続攻撃を繰り出し、少し方向を変えて走り出すアイリー。
引きつけてくれるみたいだ。私も少し遅れはしたけど後を追う。
ミルヴァンさんは、その場で立ち止まったようだ。
アイテムボックスから木桶を取り出し……なぜか地面に中身を撒いた。しかも繰り返し。
「アイリーさんっ、戻ってきてください!」
呼びかけが聞こえたのか、アイリーが走る方向を変える。
彼女を追尾しているカオススライムも、同様だ。
……今かも?私は、フライパンを構えて振りかぶった。
「アイア……」
ところが、巨大なカオススライムから、尖った棒状のものがいくつか放たれてきた。
「あぶな……!!」
とっさに、フライパンを持ち直して前方に構える。防御体勢がやっとだ。
次の瞬間。
ドドォン……地響きがして、辺りがグラリと揺れる。
見ると、黒くて丸い、愛着のあるフライパンのフォルム越しに、カオススライムの巨体がぴたりと止まっていた。
「?!どうして……」
ワケが、分からない。
バシャッ!!
いつの間にか近くへ来ていたミルヴァンさんが、木桶の中身を勢いよく回しかけた。
スライムが抵抗するようにうごめき、すぐに追尾を始める。
今度はミルヴァンさんに狙いを定めたようだ。
「!えっ……」
判断がつかないで慌てる私を、アイリーが急かした。
「追うぞ!」
ぬかるんだ地面に足を取られそうになりながら走る。
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