カオススライム VS 即席パーティ
店を出てから、湿地帯までの道のりは順調に運んだ。
「うへぇ……防水の長靴がほしいよー」
思わず不平がでちゃった。ウカツすぎた……足元がかなりぬかるんでいる。
じわじわと水分がしみ込んでくる感覚が、気持ち悪い。
「ボース?まーたヘンなこと言ってるな」
アイリーが、ひょいひょいと身軽にまだマシな足場をたどっていくから、そのあとを踏んでいく。
「このあたりは100年ほど前、違法な魔術実験施設でした。
過酷な実験に苛まれたあげく絶命し、行き場無くさまよい続けた数多の生物たちの思念が、カオススライムのような魔物を生んでいるんですよ」
ミルヴァンさんが、ご丁寧な解説を入れてくれたおかげで、余計に気持ちがズーンとなった。
途中、くぼんだ大岩に雨水のたまりがあったので深めのフライパンを呼び、いつもの要領で水の浄化をした。
カップ入りの水を飲んだミルヴァンさんは、目を輝かせて反応してきた。
「この水、最高ですね!クリアで薬剤づくりにも最適ですよ。
あのフライパンは、いったいどこから。浄化法は?」
説明したけど、いまいち理解できないといった風に、首をかしげていた。
固くなりかけのパンで試作し、忍ばせてきたラスクは好評だった。
ミルヴァンさん、甘いものは好きらしい。
「……いつもありがと。美味しく食べてます」
と言い出すのでちょっと驚いた。普段の、屋敷での料理のことなのだろう。
アイリーは聞こえないふりしてたけど、微かに耳を赤くしている。
途中、小雨が降り出したけど、雨宿りをする時間はないとミルヴァンさんがいい、私たちも同意して、そのまま歩き続けた。
「!見ろ」
アイリーが小声になり、前方を指し示す。
濃い紺色と紫が混ざりあうような毒々しい色合い。
透き通る身体が、ゆるやかに形を変えながらうごめいている。
お目当ての、カオススライムだ!ただ……。
「あれはやめよう。回り込んで、他へ」
と、ミルヴァンさん。周囲の岩陰や木々の根元に、他の個体がいるからだろう。
私も最近は注意深くなっているから、状況が理解できる。
3人でうなづきあうと、道をそれて朽ちかけた細い木々の間を行く。
いつエンカウントするか分からないから、先ほどまでよりも、歩みはゆっくりになった。
少し薄暗くなってきた気がする、と思っていた時____
泥が波打つような、低い湿った音が響いた。
「!!……」
平たい水たまりのように見えていたモノが、次第に立ち上がり、目線の高さを超えた。
魔法陣の渦巻きや、大きな目玉が内包されていて、パッと浮かび上がっては消え、うごめいて……を繰り返している。どこから見ても、不気味だ。
「わわわわゎ……!」
思わず、距離を取ろうと飛び退る。
ここまでくる時、見落としていたのかな?!
「あーわっりぃ、さっき踏んでたかもなー」
と、アイリー。
「ちょっ!どうして言ってくれな……」
言いかけた時、カオススライムが形態を変えた。
細い鉄パイプのようなモノを飛ばし、攻撃してくる。
横飛びで避けたけど、かすめたマントにはかぎ裂きが。
当たっていたらと思うと……考えるのはやめよう。
「召喚!しておけよ!ナガメ」
アイリーがそう言うと同時に走り出し、低い体勢から小刀を2本続けて放つ。
1本は、地面に落ちた。
混乱する頭を切り替え、イメージした。
手の平に金属の感触と、少しの重みを感じる。なぜか少し落ち着いた。
思い出して、ミルヴァンさんがくれた小瓶の液体を飲み干す。
喉に熱い感触が残り、思わず手で押さえた。強烈!
アイリーが命中させた小刀は、カオススライムの身体に吸い込まれるように消えた。
これは、想定外だ。
……2連続で攻撃が当たったら、私の番だよね。あれ、何か忘れてる?
バシャバシャ!!!
大量の液体が、カオススライムに振りかけられた。
「早くないですか?攻撃。いいですけど」
役目を終えた木の桶を、ミルヴァンさんが素早く格納するのが見える。
そうだ、弱体化させるんだよね。
空中に50センチほどの空間が開いている。
ミルヴァンさん、アイテムボックス持ちなんだ。
「よそ見してんなよ!!」
アイリーの声。彼女は、しっかりと2発目を命中させたようだ。
ただ、小刀は虚しくスライムに吸収されていく。
それを目の当たりにするアイリーの表情が少し苦々しい。
私は、アイリーの逆方向に回り込んだ。
そして、スライムの体表に浮き出た魔法陣めがけてフライパンを振るう。
カオススライムに命中する寸前で、スライムが形を変えようとうごめく。
……しかし、それは叶わなかったようだ。
ミルヴァンさんの薬剤が、効いているんだろう。
粘りのある水分と金属がぶつかる音。命中だ。
「静かだな、何か言ったらいいのに」
アイリーが茶化してくる。
「どこにいても、気づかれてるみたいだしね」
フライパンは、手元に残った。浄化が発動したから?
何にしても、召喚の手間がかからないのは助かる。
「へぇ、いいですね」
と、ミルヴァンさんが言い、それを合図に私は次の打撃を繰り出した。
「アイアン・スプラーッシュ!」
だが、この攻撃は当たらなかった。
カオススライムが早くも学習してしまった?らしい。
直撃の寸前、地面にベチャリと広がって避けられたうえに、高速で移動された。
しかも、けっこう素早い。
「……ったく、下手だな!」
アイリーが呆れたように言う。
小瓶の薬を飲んだのか、ひときわ苦々しい顔で口元をぬぐった。
鋭いダッシュで旋回したアイリーが、スライムの進行を一瞬だけ遅らせた。
そこへ、小刀を3本放ち、2本が的中した。
その様子を少し後ろで見ていたミルヴァンさんが言う。
「うん、だいぶ弱りましたね。計画とは違うけど。
……核が出現しているからよく見て」
見た。……分からなかった。
私は一か八かでフライパンを振りかぶった。
先ほどより、手ごたえが軽い。スライムの体積が目減りしているせいだろうか。
「えー……黒っぽくて、光る、ガラス玉、です」
ミルヴァンさんが、説明を加えた。
(なるほどね。……どこ?)
さらに目を凝らそうとした時___
勢いよく飛んできた小刀が、地面を捕らえた。
「!?」「目印、つけといた!」
とっさに理解できたわけではない。直感を信じて、打撃を繰り出す。
カオススライムが、地面と接しているスレスレを狙って。
命中の瞬間、目の前にいたカオススライムがはじけ飛ぶ。
「っ下がるんだ!!」
とミルヴァンさんの声。
でも、だいぶ踏み込んでしまっていた。
私の手を取った誰かが、後方へ強く引っ張る。
ドボドボッ……!
重たく、冷たい液体の飛沫を浴び、マントにまた穴が開いた。
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