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教育者×フライパンスキルで、ゆるっと領地再生します!?  作者: 宙子
研鑽

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33/65

ロヴェナクへ

 

 この世界にも、季節はあるらしい。

 いまは秋口なようで風が少し冷たくなり、木々がオレンジや紫に、まだらに色づいている。


 ちなみに冬は1カ月ほどの長さしかないという。

 寒いのがあまり好きじゃない私にとって、飛び上がりたいくらいの朗報(ろうほう)だ。



 先日のギルド依頼の報酬で、アイリーと私は戦闘装備を整えた。ただ、火魔法用の杖はない。


 街に1つしかない魔法道具の店に行き、杖を選ぼうとはしたけれど、どの杖も合わなかった。(にぎ)ったとたん、3回くらい小さく爆発したから、髪が未だにちょっとチリチリしてる。


 杖専門だという、やせ型で年齢不詳(ふしょう)な店主の見立てでは……。


「アナタは~、杖が必要ないスタイルみたいだねぇ」


 そんなスタイルがあるなんて、知らなかった。


「これ以上、大事な売り物に余計なダメージ与えられたくなくて、適当に理由つけたんじゃ?」


 とアイリーは言っていた。


 ちょっと泣きたくなったところで、思い出した。

 

 リッドさんや冒険ギルドでの鑑定によると大魔法に匹敵(ひってき)するほど。

 だから、杖が必要ないんだろうと前向きにとらえることにした。



 ここ半月ほどは、料理人のかたわらアイリーの森狩りに同行。

 フリクトンさん、従者さんと組みエルカーンや冬眠前のグレッズ狩りにも何度か成功した。


 まぐれ当たりだけど、私が構えたフライパンに突っ込んできて、目を回し倒れたアンガーボアは、丸々と()えていたこともあって肉質がいいらしい。

 持ち帰ると、ルーヴァンさんがホクホクしていた。


 冒険者ギルドでも依頼を受け、荷物の配送や魔物狩りも件数をこなしている。

 

 金・銀のコインがけっこう貯まってきたので、執事長のセラフィさんに相談して収益の3割をお屋敷に収めることになった。

 

 セラフィさんの説明だと、お屋敷関係で重要かつ大きな出費があるときのみ使うとのことで、収益のほうが多かったら、そのまま貯金・または補てんしてくれたりするそうだ。

 4割でもいいと粘ろうとしたけど、セラフィさんのほうが粘り強かった。

 少しは役に立てるのかな?と思うと、嬉しい。


 ところで。アイリーの打ち明け話によると……


「じつはさー、故郷に弟と母親がいて、以前から報酬の一部を送ってるんだよ」

「え、知らなかった!」


「ま、言ったところでと思ってたから」

「何かできることない?」

 

 うっかり言ってしまった。話し合った結果、私の取り分を少し減らし、仕送り金に()ててもらっている。

 

「ナガメ、本が読めるしホント頭いいと思うけど、誰かのためってなると大金を簡単に出しがちだよな」


 ココロの底でイラッとはしたんだけど、一理ある。

 

 それはさておき、アイリーとの交渉ごとはけっこう(たの)しい。


 同室、かつよく同行する人なのだから、不機嫌な顔を見なくて済むと思えば、かなりお得だ。それに、狩りや冒険の面ではいまだに教えてもらうことばかりだし。


 ______________

 

 ミルヴァンさんが私たちを探している、と料理人仲間から聞き、薬草小屋をたずねた。このところ、冒険者ギルドで私たちが活動しだしたと知っているらしいから、何かの依頼かな?


 小屋に近づくにつれて、草花や丈の高いススキみたいな草が茂っていて、3回は転んだ。


「ほらぁ、言ったじゃん。ミルヴァン・トラップに引っ掛かりすぎだ」


 と、アイリーに笑われた。


 彼は相変わらず、干しかけの薬草に埋もれるようにして立っていた。

 手もとの書類をめくりつつ、何やら大きな独り言がだだ()れていた。


「ふっふっふ。土壌のせいでしょうか?今夜には、マガの刈り取りが大量にできますよ。こんなに早く手に入れられるとは。

……干し具合を見て、ナージュ草も3束、煮だしておきましょうか!」


 周りに誰かいるの?と思って、2度見した。

 アイリーが呼びかけると、ちょっとビクッとなってから……。


「貴方がたに、カオススライム狩りをお願いしたいんだ。

万能薬を完成させたいですからね。……念のため、僕も同行します」


 やっぱり、依頼。と思っているとアイリーが至極(しごく)不満そうに言う。


「カオススライムだって……?!

あいつら、ここから30リューちかくある湿地帯にしかいないし、弱点や属性がコロコロ変わるから、仕留めるのも相当難しいぞ」


「いいや、できる。僕に考えがあるから」

「考えってどんなだよ?説明しろ」

「……依頼を受けるか決めてくれますか。

それによって計画が変わる。準備も急ぎたいんだ。計画は、現地で」



 部屋に戻るなり……


「何だあいつ!マジでむかつく!あっさり話を受けるナガメもおかしい」


「ん、でもさ、自信ありそうだったし……戦闘の経験になりそうじゃない?

ミルヴァンさん、王宮に務めてたこともある方なんでしょ」


「それは、護衛や冒険者じゃなく、()()()()()だよ。はぁ~~、カオススライムの面倒臭さ、恐ろしさを知らないヤツは!後悔しても遅いからな!」


 

____________


 数日後。


 料理長の許可もとれ、()()()の食材調達も任された私とアイリー。そして、ミルヴァンさんは、湿地方面の街ロヴェナクへ行く馬車に乗り込んだ。


「んー、いい風吹いてる!」


 外出できる解放感もあるんだろうけど、機嫌よさげなアイリー。

 さっき、ミルヴァンさんから提案された報酬が1人あたり金コイン7枚と、けっこういい額だからかも。


 ミルヴァンさんは、フードを深くかぶって丸くなり、寝ているようだった。

 私とアイリーは車窓の景色などを材料に、気ままなおしゃべりに花を咲かせる。


 目的地、ロヴェナクまでは、休憩をはさみ5時間ほどで着いた。

 ここからは、徒歩で向かうようだ。


 ミルヴァンさんはよほど気が急いでいるのか、私たちに声もかけず、湿地帯への道のりを歩き始めようとしたので止めた。


 食事や、携帯食料の調達が必要だ。


「……で?そろそろ計画とやらを話してもらうぞ」


 地元民に評判らしい店に入り、席に着くやいなや、アイリーが切り出す。


 名物だという料理は、ザリガニみたいな見た目のフライに、黒っぽいタルタル状のソースがからんでいる。食べてみると、見た目以上に美味しい。

 

 ただし、給仕係さんの説明では、冷めるとガッカリ風味に変わるらしい。


「……いいでしょう。まず、2人にはこれを渡しますね。戦闘の直前に、飲んでください。

 または、たどり着く前に強敵にエンカウントした時でもいいです」


 渡されたのは、しゃれた小瓶入りの液体だ。

 (あざ)やかな、()き通った赤い色をしてる。


「ありがとうございます。わぁ~、キレイですね!」


「……1つ忠告。ソレ、かなり飲みづらい。

辛さと酸味が強いんだよね」


 なるほど。一気に飲み()すしかなさそう。


「どんな効果なんだ?」


「戦闘力を、15分間底上げする。例えばアイリー、きみなら小刀の威力が2倍近くなるハズだよ」


「本当だろうな?まあいい。それで計画は?」


 ミルヴァンさんの話をかいつまむと、こうだ。


 カオススライムは群れることがあるので、1体でいるところを狙う。


 必ず、こちらから『先制攻撃』を仕掛ける。ミルヴァンさんが、弱体と形態変化を抑制(よくせい)する薬品を、大量にかけるそうだ。


 さらに、攻撃は念のため一定の距離を取って行い、ターゲットを取るのは基本、体力と素早さ、防御力が高めのアイリー。


 攻撃は、小刀とフライパン打撃を2回ずつ交互に。

 カオススライムには()()()()があり、2回以上の攻撃で耐性をつける個体がほとんどだから、だそう。


 火魔法は、吸収されて内部爆発に巻き込まれるリスクと、素材ごと消える可能性があるから使用不可、だそうだ。


 決定打は、攻撃による蓄積(ちくせき)ダメージで弱体化したタイミングで、表面化した『弱点』の核に命中させること。

 

 ただ、弱点がかばうように移動でき、見極めが難しいから、ミルヴァンさんが指示を出すらしい。



「ふーん、ま、ふぃいんじゃないふぁ?」


 すべてを聞き出したアイリーはようやくナットクしたようだ。

 ソースのかかったザリガニを、口につめこむ速さが増している。


 私も食べすすめようとしたけど、すでに冷めてしまい、ガッカリ味になっていた。

 こうなるともう、もったいない気持ちとのせめぎあいだ。


 「ミルヴァ~ン、全然食ってないだろ。もっといっとけ、持たないぞ」

 「い、いえ、十分頂きました。ナガメさん、残りはどうぞ」

 「え、私はもうけっこう食べたかなぁーって」


 そんなこんなで、準備は整った。

 


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