ロヴェナクへ
この世界にも、季節はあるらしい。
いまは秋口なようで風が少し冷たくなり、木々がオレンジや紫に、まだらに色づいている。
ちなみに冬は1カ月ほどの長さしかないという。
寒いのがあまり好きじゃない私にとって、飛び上がりたいくらいの朗報だ。
先日のギルド依頼の報酬で、アイリーと私は戦闘装備を整えた。ただ、火魔法用の杖はない。
街に1つしかない魔法道具の店に行き、杖を選ぼうとはしたけれど、どの杖も合わなかった。握ったとたん、3回くらい小さく爆発したから、髪が未だにちょっとチリチリしてる。
杖専門だという、やせ型で年齢不詳な店主の見立てでは……。
「アナタは~、杖が必要ないスタイルみたいだねぇ」
そんなスタイルがあるなんて、知らなかった。
「これ以上、大事な売り物に余計なダメージ与えられたくなくて、適当に理由つけたんじゃ?」
とアイリーは言っていた。
ちょっと泣きたくなったところで、思い出した。
リッドさんや冒険ギルドでの鑑定によると大魔法に匹敵するほど。
だから、杖が必要ないんだろうと前向きにとらえることにした。
ここ半月ほどは、料理人のかたわらアイリーの森狩りに同行。
フリクトンさん、従者さんと組みエルカーンや冬眠前のグレッズ狩りにも何度か成功した。
まぐれ当たりだけど、私が構えたフライパンに突っ込んできて、目を回し倒れたアンガーボアは、丸々と肥えていたこともあって肉質がいいらしい。
持ち帰ると、ルーヴァンさんがホクホクしていた。
冒険者ギルドでも依頼を受け、荷物の配送や魔物狩りも件数をこなしている。
金・銀のコインがけっこう貯まってきたので、執事長のセラフィさんに相談して収益の3割をお屋敷に収めることになった。
セラフィさんの説明だと、お屋敷関係で重要かつ大きな出費があるときのみ使うとのことで、収益のほうが多かったら、そのまま貯金・または補てんしてくれたりするそうだ。
4割でもいいと粘ろうとしたけど、セラフィさんのほうが粘り強かった。
少しは役に立てるのかな?と思うと、嬉しい。
ところで。アイリーの打ち明け話によると……
「じつはさー、故郷に弟と母親がいて、以前から報酬の一部を送ってるんだよ」
「え、知らなかった!」
「ま、言ったところでと思ってたから」
「何かできることない?」
うっかり言ってしまった。話し合った結果、私の取り分を少し減らし、仕送り金に充ててもらっている。
「ナガメ、本が読めるしホント頭いいと思うけど、誰かのためってなると大金を簡単に出しがちだよな」
ココロの底でイラッとはしたんだけど、一理ある。
それはさておき、アイリーとの交渉ごとはけっこう愉しい。
同室、かつよく同行する人なのだから、不機嫌な顔を見なくて済むと思えば、かなりお得だ。それに、狩りや冒険の面ではいまだに教えてもらうことばかりだし。
______________
ミルヴァンさんが私たちを探している、と料理人仲間から聞き、薬草小屋をたずねた。このところ、冒険者ギルドで私たちが活動しだしたと知っているらしいから、何かの依頼かな?
小屋に近づくにつれて、草花や丈の高いススキみたいな草が茂っていて、3回は転んだ。
「ほらぁ、言ったじゃん。ミルヴァン・トラップに引っ掛かりすぎだ」
と、アイリーに笑われた。
彼は相変わらず、干しかけの薬草に埋もれるようにして立っていた。
手もとの書類をめくりつつ、何やら大きな独り言がだだ漏れていた。
「ふっふっふ。土壌のせいでしょうか?今夜には、マガの刈り取りが大量にできますよ。こんなに早く手に入れられるとは。
……干し具合を見て、ナージュ草も3束、煮だしておきましょうか!」
周りに誰かいるの?と思って、2度見した。
アイリーが呼びかけると、ちょっとビクッとなってから……。
「貴方がたに、カオススライム狩りをお願いしたいんだ。
万能薬を完成させたいですからね。……念のため、僕も同行します」
やっぱり、依頼。と思っているとアイリーが至極不満そうに言う。
「カオススライムだって……?!
あいつら、ここから30リューちかくある湿地帯にしかいないし、弱点や属性がコロコロ変わるから、仕留めるのも相当難しいぞ」
「いいや、できる。僕に考えがあるから」
「考えってどんなだよ?説明しろ」
「……依頼を受けるか決めてくれますか。
それによって計画が変わる。準備も急ぎたいんだ。計画は、現地で」
部屋に戻るなり……
「何だあいつ!マジでむかつく!あっさり話を受けるナガメもおかしい」
「ん、でもさ、自信ありそうだったし……戦闘の経験になりそうじゃない?
ミルヴァンさん、王宮に務めてたこともある方なんでしょ」
「それは、護衛や冒険者じゃなく、薬師としてだよ。はぁ~~、カオススライムの面倒臭さ、恐ろしさを知らないヤツは!後悔しても遅いからな!」
____________
数日後。
料理長の許可もとれ、ついでの食材調達も任された私とアイリー。そして、ミルヴァンさんは、湿地方面の街ロヴェナクへ行く馬車に乗り込んだ。
「んー、いい風吹いてる!」
外出できる解放感もあるんだろうけど、機嫌よさげなアイリー。
さっき、ミルヴァンさんから提案された報酬が1人あたり金コイン7枚と、けっこういい額だからかも。
ミルヴァンさんは、フードを深くかぶって丸くなり、寝ているようだった。
私とアイリーは車窓の景色などを材料に、気ままなおしゃべりに花を咲かせる。
目的地、ロヴェナクまでは、休憩をはさみ5時間ほどで着いた。
ここからは、徒歩で向かうようだ。
ミルヴァンさんはよほど気が急いでいるのか、私たちに声もかけず、湿地帯への道のりを歩き始めようとしたので止めた。
食事や、携帯食料の調達が必要だ。
「……で?そろそろ計画とやらを話してもらうぞ」
地元民に評判らしい店に入り、席に着くやいなや、アイリーが切り出す。
名物だという料理は、ザリガニみたいな見た目のフライに、黒っぽいタルタル状のソースがからんでいる。食べてみると、見た目以上に美味しい。
ただし、給仕係さんの説明では、冷めるとガッカリ風味に変わるらしい。
「……いいでしょう。まず、2人にはこれを渡しますね。戦闘の直前に、飲んでください。
または、たどり着く前に強敵にエンカウントした時でもいいです」
渡されたのは、しゃれた小瓶入りの液体だ。
鮮やかな、透き通った赤い色をしてる。
「ありがとうございます。わぁ~、キレイですね!」
「……1つ忠告。ソレ、かなり飲みづらい。
辛さと酸味が強いんだよね」
なるほど。一気に飲み干すしかなさそう。
「どんな効果なんだ?」
「戦闘力を、15分間底上げする。例えばアイリー、きみなら小刀の威力が2倍近くなるハズだよ」
「本当だろうな?まあいい。それで計画は?」
ミルヴァンさんの話をかいつまむと、こうだ。
カオススライムは群れることがあるので、1体でいるところを狙う。
必ず、こちらから『先制攻撃』を仕掛ける。ミルヴァンさんが、弱体と形態変化を抑制する薬品を、大量にかけるそうだ。
さらに、攻撃は念のため一定の距離を取って行い、ターゲットを取るのは基本、体力と素早さ、防御力が高めのアイリー。
攻撃は、小刀とフライパン打撃を2回ずつ交互に。
カオススライムには学習能力があり、2回以上の攻撃で耐性をつける個体がほとんどだから、だそう。
火魔法は、吸収されて内部爆発に巻き込まれるリスクと、素材ごと消える可能性があるから使用不可、だそうだ。
決定打は、攻撃による蓄積ダメージで弱体化したタイミングで、表面化した『弱点』の核に命中させること。
ただ、弱点がかばうように移動でき、見極めが難しいから、ミルヴァンさんが指示を出すらしい。
「ふーん、ま、ふぃいんじゃないふぁ?」
すべてを聞き出したアイリーはようやくナットクしたようだ。
ソースのかかったザリガニを、口につめこむ速さが増している。
私も食べすすめようとしたけど、すでに冷めてしまい、ガッカリ味になっていた。
こうなるともう、もったいない気持ちとのせめぎあいだ。
「ミルヴァ~ン、全然食ってないだろ。もっといっとけ、持たないぞ」
「い、いえ、十分頂きました。ナガメさん、残りはどうぞ」
「え、私はもうけっこう食べたかなぁーって」
そんなこんなで、準備は整った。
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