お口に合いますか?
夕刻。西日の差し込む執事長の部屋で、私は椅子に座り、セラフィさんと向かい合っている。
上質そうな木材で作られた本棚には、分厚い本がきちんと整理されて並んでいる。
シンプルな書机に、使い込まれていそうな羽ペン。
執事長の人柄やお仕事ぶりが垣間見えるお部屋だ。
おそらく、カイ様からの要請をうけての流れだろう。
昨日、冒険者ギルドで判明した鑑定結果と依頼の内容について、一部かいつまんでお話しした。
「……なるほど、ご報告に感謝します」
「あの、今回の依頼と討伐の報酬、どうしたらいいですか」
「そうですね……装備なども整える資金が必要になるかと思うので、そのままお持ちいただいてけっこうですよ」
「!ありがとうございます」
じつはさっき、報酬金のことでアイリーと揉めてしまった。手元に残ると分かれば、喜んでダンスでもしそう。
「しかし、ナガメさんが、ただの転生人ではなく『お客人』しかも、召喚理由の欄があったにも関わらず、確認不可……。これは、検証する必要がありそうです」
セラフィさんの反応を見るからに、よくない事なのかも。
「あの、客人というのは、どのように捉えたらいいのでしょう」
「とても良いご質問です。
一般的には、優れた術士を従える財力のある王族や貴族、教会や大商人が、何らかの目的のため、借りものの器と能力に見合う待遇を用意して行うケースです。
もとの世界に帰るための配慮があり、例えば帰還した際の時間経過が少ない、などがあげられるでしょう」
「な、なるほど……」
「歌女神、ミュリスティアの件ですが、これに関しては直接、確かめる以外は文献などを当たるくらいでしょうね。
ただ、お話から考察するに、ナガメさんやこの屋敷にとって非常に良い影響をもたらしているようですので、加護についてもまず、心配はないかと」
「私も、そう思います!」
ミュリに関して、ネガティヴなイメージは全然ない。しいて言うなら、だいぶやりすぎてしまうところくらい。
「オホン、私は今や現役を退きましたし、戦闘専門ではないので参考程度にしてほしいのですが、ナガメさん自身が伸ばしたいと思うスキル、使い勝手がよいスキルに特化するのもいいでしょう。
……最後に。お客人であること、加護のことはむやみに人に話さないでください」
と、アドバイスや忠告もいただいた。
ミュリスティアに何度か呼びかけてみたけれど、返事がない。
きっと、歌うのに忙しいんだろうな。
______________
料理長に呼ばれていると知り、身支度を整えてから厨房へ向かう。
ちょっと久しぶりな感じ。
「ええええ……」
見慣れた光景を期待していただけに、衝撃が走る。
大鍋では、何か赤黒いものが煮えたぎっているし、まな板の上でカットされようとしているのは、大きなレバー?
棒立ちしていたら、ふよふよと宙を漂うミニ・ブラヴァートが話しかけてきた。
「貴方が、ナガメか。何を作ってくれるんだ?」
「……?!」
そこで、ルーヴァンさんが割って入ってきて、説明した。
「これはね、カイ様のご指示なんだ。ブラヴァートさん達が食べられるような、日常食を作ってほしいと」
「そうですか……」
意外でも何でもない。こうなることは予想できた。
ブラヴァートさんがこうして自由に厨房へ出入りしているのも、カイ様の意向なのだろうし。
「イヤなら、いいんですよ?ただ、少ーし困っていまして」
「……分かりました、やります」
ルーヴァンさんが、パッと明るい顔になる。
「ああ、言い忘れていましたが、見た目には特に気を遣ってほしいそうです」
「了解です。ですが、盛り付けはルーヴァン様ほど上手くありません。お手伝い願えますか?」
「もちろんです」
こうなったら仕方がない。
私は1度、書庫へ行くと料理の指南書の一部を書き写して、厨房へ戻った。
メニューは、大鍋で進行中の何かに必要ならアレンジを加えたものと、レバーのソーセージだ。
まな板で放置されていたレバーは、ミンチくらい細かくした。
つなぎになるゆでたポテ(じゃがいもそっくりの何か)、パン粉とミルダの乳、調味料をあわせて細長く成型し、フライパンで焼いて、血のソーセージ風。
ちなみに、私のフライパンでは浄化が発動されるので、あえて備え付けのグリルを使う。
問題は、大鍋で火入れをされた何かだった。
獣の血に火入れをしたものらしいけど、すでに固まっていたのだ。
ただ、よくかき混ぜたところに赤ワインと植物油、控えめに香辛料や塩を入れ、混ぜながら火を通すと、ポタージュみたいになった。
あとは、見た目……と思っていたら、仕上げはルーヴァンさんがやってくれた。
「これは期待できそうですね!」
と、ウィンクされた。ほんとうに前向きな人だ。
うーん、気に入ってくれるのかなあ。
ミニ・ブラヴァートさんと配下の魔人、2人のために用意された部屋に、食事が運ばれる。
ブラヴァートさんは、料理の盛り付けに、目を輝かせたように見えた。
ただ、スープを一口食べて……
「ぅ゛……」
となってはいたが、少しずつ食べられている。
配下さんのほうも、ソーセージを普通に食べているように見える。
「あの、ムリは、しなくていいのですよ?」
とルーヴァンさん。何だかんだで優しい。
「お気遣い感謝する。でも、これなら忖度抜きに食べられそうだ。
とくにこの香りのいい草が効いている」
スパイスの風味や刺激はOK、と……そっとメモしておく。
「ただ、大変失礼ながら、うまいわけではない。
だが、不思議なことにとても心が満たされる。何なのだろうこの感覚は」
と、ブラヴァートさんは言っていた。
今の彼らにとっては獣の血肉をすするのが1番、効率はいいのだろう。
それを、頂く環境や料理の見た目にこだわっているあたり、妙に人間的だ。
料理はほぼ完食され、ブラヴァートさんは上品な仕草で赤ワインを嗜んでいる。
……どんな味がするんだろう?
ほんのちょっと、親近感を覚えた。
ルーヴァンさんの話では、今後は彼らが希望したときは『特別メニュー』を作ることにするらしい。
「携帯食もあるといいですね、今後は行商で遠出する可能性ありますから。ね?」
と言いながら、私のほうをガン見してきたから、思わず目をそらした。
まあ、そのうち取りかかろう。取りあえずは、干し肉と特製乾パンでもいいだろうか。
そういえばな話、お屋敷の敷地が少し広くなり、少し離れた区画にブラヴァートさん達の滞在する施設の建築が進んでいる。
執事長さんの案が、採用されたのだろう。
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