王都帰りの薬師、ミルヴァン
初依頼の帰り道、フレイムモスに囲まれた私たち。
アイリーは、1人で2体仕留めてくれたようだ。さすがは冒険者の先輩。
ただ、フレイムモスの光る鱗粉攻撃を浴びたのか、髪や服がところどころ、焦げている。
「ハネを集めるぞ!それと、鱗粉がいいコインになる。
お、魔虫核!魔石や魔法スクロールの素材になるから、高く売れるんだ。幸先いいなっ」
さっきまでとはうって変わって、ゴキゲンそう。
それにしても、格上すぎる危険な魔物じゃなくて助かった。
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街に戻ってすぐ、食料店の店主にお金を届ける。店主は笑顔で受け取った。
……少しは信用してくれたかな?
ギルドでは、タヌキ耳な受付嬢さんが
「お帰りなさいです!わぁ~、初任務をみごと達成ですね。
えっ、それにフレイムモス?へ、3体も?やりますねぇ……」
アイリーのアイテムバッグから出された魔物には、ちょっと固まっていた。
フレイムモスの素材は、Dランク指定で依頼が出ていて、即納品もできた。
報酬が金のコイン5枚と銀コイン20枚だから、こう言っては何だけど、お届け物よりはるかにいい計算。
さらに、魔虫核は金コイン8枚で引き取ってもらえたから、配達の報奨金、銀コイン10枚とあわせて、一気に金コイン16枚になった。1人あたり、金コイン8枚!
「フレイムモスは、森を焼いてしまうんです……!
なので、報酬額も高く設定されていて。何より、発生しだい優先討伐の対象なんです。
今後も発見したら、ぜひご討伐のほど、宜しくお願いしますね」
と、たぬき耳嬢が真剣な感じで言ってきたので、了解しておいた。
街の食堂でお腹いっぱいになるまで食事を取った。アイリーはけっこうお酒を飲んでいた。
だいぶ遅い時間で馬車もないので宿を取り、翌日の早朝、荷馬車でお屋敷に帰った。
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顔を洗ってリフレッシュしたあと、お屋敷の廊下を歩いていたら、カイ様がお庭にいらした。
白シャツにベストで、ずいぶんと軽装だ。
ハサミを片手に、野草?を摘んでいるみたい……?
「おはようございます、カイ様」
「ああ、ナガメさんか、おはよう。ギルドでの鑑定結果は?依頼は、どうだったかな」
「はい!鑑定、しました。それとお届け物の依頼を。それから……」
一部始終、お話した。
鑑定結果の部分、私が『客人』であり、転生理由が不明、というところを、カイ様はかなり真剣……というか、深刻そうな表情で聞いていた気がする。
「……そうか、それはお疲れさま。ただ、あまり無理をしないでくれるといいんだが」
「気を付けます。ところで、そちらは?」
「ああ、これは薬草。ちょっとした、気分転換だよ。
そうだ、私はまだしばらくここで作業をするから、これを届けてくれないか」
「もちろんです。……どちらに?」
カイ様が指示したのは、裏庭のさらに奥の方だ。細く、白い煙が出ている。
何だろう……?近づくと煙が立ち上っているのは、小さな小屋からのようだ。
ガサッ!深い草むらに、足元を取られた。
小さな白い花や、透き通る青い花だ。
あやうく転びかけたけど、どうにか立ち直る。
「……あの~、誰かいます?」
ノックして、小屋のドアを開け、中へ入る。
明々と照らし出された木製机の上には細長いガラス瓶や柄の長い木のスプーン。
そして、陶器の白いボウルが大小、いくつも散らばっている。
壁には沢山の植物が、種類ごとにくくられ、つり下げられている。
ここだけ見ていると、ドライフラワーを飾ってあるお花屋さんに来たみたい。
それと、ちょっと暑い。
こじんまりとした空間のなかで存在の目立つ大きな鍋が、くつくつと泡を立てていた。
私が鍋をのぞこうと、近づいた時___私の足が、何かにつまずいた。
「ッ……!」「わわぁ!」
声にもビックリして、体勢を崩した私はズササ、と転んだ。
眼鏡の、男性だった。
30代くらい?少しボサついたオリーブグリーン色の髪。
白いシャツに濃い色のパンツ。首元には長い布を巻いている。
植物の束に埋もれ、影の落ちた床にいたから、うっかり見落としてしまった。
「ご、ごめんなさいっ……!大丈夫、ですか」
目を細めてこちらを見てきた彼は、ずり落ちた眼鏡を片手で直してから
「いいよ、こんなところで寝てた僕もよくない……ところで、ご用件は何ですか?」
さっきから目線が合わないし、怒っているような感じ。
お休みのところビックリさせちゃったし、そりゃーそうだよね……。
薬草のお届けで、と私は話した。
「ああ、どうも。他にないならもう放っておいてくれる?ここには、何もないよ」
きっぱりと言われてしまった。私が退散しようとすると。
「……ん。ソレ、さっき転んだときの?」
「あぁ……みたいです、ね」
ヒザのあたりから、うっすら血がにじんでいる。
ケガをしたと気づいたからか、じわりと痛みを覚える。
このくらい平気、と言いたくて、私は男性に向けて笑顔を作った。
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「ああ、ミルヴァン、戻ってきたんだなー」
部屋へ戻ると、アイリーが教えてくれた。彼は、リネンさんの甥っ子らしい。水属性魔法の使い手で、放浪癖があるという。
王宮にも勤務していた時期があり、あの小さな部屋は、薬師でもある彼のために用意されたスペース。彼が使わない時は、農園管理用の物置をかねているそうだ。
「不愛想だけど、薬の調合の腕はかなりのものだってさ。
ただ、研究しだすと他を忘れるのがなー。パン1個で5日持たせたってウワサになってた」
なるほど。言われてみれば、そんな感じの人だよね。
ところでこの塗り薬、効き目がいい感じがする。痛みもスッと引いた。
……さっきうっかり転んだ時、ミルヴァンさんが手早く用意してくれたのだ。
短い木の杖で、サッと魔法をかけるところ、絵になってたな。
聞いた話ほど、とっつきにくい感じがしない。
目線はやっぱり合わなかったけど。
「また、転ばないようにしろよ?
ミルヴァンが屋敷にいる間は、あちこちに薬草の種をまくって話だからな。
しかも、成長剤か魔法なのか知らんけど、すぐ育つから。ちゃんと足元見て歩け」
小屋の近くにもこもこ生えてた草花は、そういうことか。
「はーい、アイリー先生」
おどけたように私が言うと、アイリーは一瞬ムッとした顔を見せたあと
「疲れた、ちょっと寝る」
と言い、ゴロンと自分のベッドに転がった。
すぐに寝息が聞こえてくる。最近は、以前よりもだいぶ静かだ。
この世界へ来てからというもの、元の世界にいた記憶をだんだん思い出せなくなってる気がする。
いま、アイリーにお説教めいたことを言われて、ちょっとだけ同僚のイメージを思い出しそうになったんだけど。
私にも父や母、兄弟がいて、友人もいたはず。私を心配していたり、するのだろうか。
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考案をしたチェリー……じゃなく、チェリリのパイが、瞬く間に大人気メニューになった。
大人気というより、超絶人気かも。
私の隠れた好物スイーツなので、まだ色づかないチェリー(風味のルチェ)を見てからずっと、レシピを模索していた。
つややかに実ったチェリ……チェリリは、アメリカンチェリーよりも大きく、深みのある赤色で、酸味があった。
チェリリの種を1つ1つ取り除いたり、鍋でカスタードクリームを焦がさないようかき混ぜたりと手はかかるけど。
仕上げはもちろん、ルーヴァンさんだ。
彼の手にかかると、チェリリの見栄えが最高に仕上がる。
……じつは、そういう魔法を使ってる?
ただ……この頃、やせ気味だった若い料理人やメイドさんがふっくらしてきた気がする。
この世界でも、肉付きの良さは宝っていうらしいし、いいことだよね?そうだよね?
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