怒られちゃったよ・・・
翌日。約束なので農地のほうへ行くと、管理官の女性が駆け寄ってきた。
「ナガメ!土の手触りがぜんっぜん違うよ!ふかふかだ」
めちゃくちゃ嬉しそう。あ、名前ちゃんと覚えてくれてる。
「これまでに見たこともないくらいの実りが得られるよ。
もう、アンタが通ってくれなくても大丈夫そうだ。
……あ、来てくれるのはいつでもカンゲイだけど!これまで、ホントにありがとうねえ」
うっすら涙ぐんでる?手を握られ、ブンブンと勢いよく振られた。
な、なるほどー、そう来た。
他の管理官も、明らかに張り切っている。
「早速、種を植えるんだ!たっぷりの水と、肥料も」
……昨日のブラヴァートさんの話には、続きがある。
屋敷の一部を中心に、注入していた闇魔法を解除しておいた、という。ただ、屋敷の外部はすぐに元仲間に察知されないよう、効果を弱めただけにしておくそうだ。
「あの、これよかったら!」
と、私は持っていた物を管理官の女性に手渡す。
「ん?何だこれ……うわぁ、いいニオイだねぇ。
それに、この見た目。飾っておこうかしら」
「作ってみたんです、石鹼。飾っておくのももちろんいいですが、お手洗いの時に、どんどん皆さんで使ってください。また、持ってきます」
「ふーん、手を綺麗にするため……か。
わかった、他の者にも言っておくよ」
メイドさんたちからの要望もあり、ハーブでつくったものだ。
けっこういい出来だと思う。
材料は、豚の脂・木の灰、そして香づけのハーブ数種だ。
私はフライパンをマントに忍ばせるように持ち、屋敷の農地一帯と、動物たちのもとを歩いて回る。
心の中で、願いを込めながら。これは、リネンさんの案。
期待通りに浄化の効果がでれば、さらにうまくいくだろう。
……とくに効果がなければ、ただのちょっとイタい人だ。でも……
農地管理官たちが、前にも増してイキイキしているのを見ると、この人たちに任せていればもう大丈夫だと思える。
ただ、誰のマネごとなのか、彼らが
「よしよーし、よーしよし!」
と至る所で作物や動物に接しているのを見ると、いたたまれない。
……まあーでも、やらないより効果あるかも。
作業を終えた管理官が、手洗いをしているのもよく見かける。
うんうん、これはいいことだ。
小屋にミルダを見に行くと、見ちがえるほど綺麗にされ、だいぶ元気そう。
以前は1匹だったけど、4匹も増えて、合計5匹になっていた。チーズづくりに、静かな意欲が見える。
私は管理する人たちに、よくブラッシングをするよう勧めた。
図書館の本で、方法はインプットしておいたので、実演もしつつ。
それに、改めての話になるけど、動物に触る前後は、手を洗うことも。清潔にするのが本当に大切だから。
皆、真面目に話を聞いてくれる。この様子では、飲み込みも早そう。
_____________
「ナーガメちゃーーん」
ミュリの声だ!呼びかけられるのは、初めてかも。
パッと顔をあげると、キラキラの音が降り注いできた。
「お屋敷がね、すっごくキラキラ輝いて見えるよ。
土や生き物たちも、息を吹き返したね!
私は信じていたけど。実力を持ってて、あきらめない人達がお屋敷には沢山いるのだもの」
「あ、私もそう思います。尊敬できる人に囲まれてるなーって」
ミュリのいる天界からの眺めってどんなだろう。見てみたい気がする。
ただ……さっきから、ミュリの声に、いつもの元気がないような?
「……もしかして、何かありました?」
「あ、わかる~?私ね……ちょっとやりすぎって、言われてしまいました~~」
「?誰からですか」
「私たちを監視してくださっている、イリディ様というお方。
とっても賢くて、お綺麗なんだよ。
でもね、たま~にすごく恐くて」
「そんな方が、いらっしゃるんですね」
監視してくださって、という表現がミュリならではすぎる。尊敬の証だろうか。
「そうなの。だからね、ホンットにごめんなんだけど、しばらくは本当にすこ~しのお手伝いしかできないよ~」
「い、いえ、十分ですよ!
お屋敷用に貯蔵している小麦だけでも、来年の冬まで余裕で越せるって、執事長さんが言われていましたよ」
ミュリの『ちょっと』は今までがぶっ飛びすぎていたから。
「そうかな?でも私、ナガメちゃんや、お屋敷の皆のこと見守っているからね!」
「はい!ほんとありがとうございます」
「……はぁ、私もイティ飴、食べたいな~」
「!まだありますよ。皆で毎日、作ってますし」
料理人の特権かも。厨房に顔を出したメイドさんにおすそ分けするだけで、すぐなくなるけど。今日はまだ、あったハズ。
「えっ、いいの?じゃあ、おイノリしてくれる?」
「もちろんです。けど……どうすれば?」
「お供えモノを前に、ナガメちゃんのお好きな感じでおイノリしてくれれば!」
「分かりました!」
厨房の保管庫へ行き、イティ飴を3つと、アッポのジャムを1瓶抱えて戻る。
このくらいなら、大丈夫だろう。
部屋のテーブルに置いて、手を合わせる。……こうかな?それともこう?
「届いたよ~!わぁ~っ、すごいね、とっても綺麗!美味しそうっ」
ミュリがはしゃいでいる。声にキラキラが戻った感じ。
……テーブルの上のイティ飴とアッポのジャムは、まだそのままあるみたいだけど……。
「さっそく頂いちゃう!ホントにありがとナガメちゃんだーい好き。またねっ」
大好き?大好きって、言われちゃった。
私にHPとMPがあるなら、いまはきっと120%だ。
少し後でアイリーが戻ってきたので、話をすると
「会いたかったなーー!呼んでくれよ」
と何度も言っていた。
テーブルにあったイティ飴をパクッと口に放り込み、開け放った窓から空を仰いでいる。
アイリーの気持ち、きっと伝わってる。
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