ある展望
私とアイリーは、次のお休みに最寄りの街、エルデンベイルへ出掛けた。それぞれ、服や雑貨を見て回るためだ。
「わぁ、細やかな刺繍!」
しかも、シンプルで動きやすそう。カーネリアンのネックレスにも合うかな?
「こういう服が欲しかったんだよな~」
アイリーは、カジュアルな衣装セットを試着して、ポーズを取っている。
さらに、数軒目の店で片耳ピアスと出会っていた。
ピンクゴールドで、とがった形は小刀に似ている。
お屋敷へ戻ると、私とアイリーは別の部屋へ移動するよう、メイドさんから告げられた。
2人で話し合った結果、リネンさんのところへ行く。
「あのー、移動先のお部屋を見てきたのですが。あんな広い部屋を頂くのは、私たちには不相応かなと」
「そんなことありませんよ!ナガメさんは希少な火魔法の使い手です。
しかも、アイアンスキルも。すでに活躍だってしてくださったでしょう」
「あれは、たまたまで……今のところ、スキルをただ持っているのと変わりません」
「とんでもない。ナガメさんはこの間、火魔法で魔人に襲われそうだったメイドさんを助けてくれましたよね?
あの日以来、貴方は彼女達にとってちょっとした、英雄扱いなんですよ」
?……知らなかった。
「そして、アイリーさん」
「へ?はい」
「貴方はお料理もさることながら、小刀の技術がかなりのものですね。
狩人フリクトンさんからも聞いていますが、狩りの腕前、相当に買われているようですよ」
「え、ウレシイ!……です!」
「……これからも、安全には気を付けて、腕を磨いてくださいね」
持ち上げてくれたけど、安全に気を付けてって念はおされるんだ。
アイリー……。これ絶対やる気出してる。明日からずっと森にこもって走り込みして小刀投げてそう。
褒められたのはすごく嬉しいんだけど、広すぎる部屋だと落ち着かないということで、なんとか格上げにとどめてもらった。
新しい部屋は、清掃が行き届いていて、リネン製品からはお日様のニオイ。
寝心地もふっかふか。
何だろう、メイドさん達からの本気を感じた。
______________
その夜。食事のあとに、リッドさんが厨房へきて、手招きした。
ついていくと、カイ様の部屋で会議が行われるみたいだ。
驚いたことに、そこにはブラヴァートさんもいた。未だに、マスコット状態だ。
ブラヴァートさんが白状したところ、一連の事件の裏にいたのはこの2人。
街の住民の吸血事件、ザリウスさん一行。そして、野営地の襲撃。
ブラヴァートさんにはもう、尋問のスキルは使われない。自主的に情報を話してくれているようだ。
「肝心な情報は、もう明らかになってしまったからな。私は、命を取られなかったことに心から感謝している」
肝心な情報、というのはパンドゥールの領地を闇に染め上げ、人を完全に支配する計画のことだ。
カイ様が、ここで驚きの発言をした。
「元から屋敷にいてくれている皆には不快な思いをさせるだろうが。
ブラヴァートのこと、私はいまも変わらず友人と思っている。
それに……私たちも魔物の肉を食らっているのだ。ブラヴァートにしてみても、不快だったのではないか」
そういう考えかたがあったなんて意外だった。言われてみると、確かにそうだ。
その場にいた皆、それぞれ考え込むような反応をしている。
ブラヴァートさんは、ひと呼吸おいて話した。
「……それは、こちらが人間を敵視するのに使う理由の1つではあるだろう。
しかし、力に溺れ、または見誤り、見境なく人を襲い、破滅に追い込む魔物がいるのは事実。私にも、力の使い方を抑えられない時期はあった。
しかし、今は違う。尊敬できない輩を、私は仲間と思えない。
人間であろうと誰であろうと、返り討ちにして、その利を得ることには目をつぶれる」
少しの間、部屋には重みのある静かな空気が流れた。
沈黙を破ったのは、ブラヴァートさんだ。
「……領地を占領する計画についてだが。私は命令された。
私など遠く及ばない、偉大なる悪によって」
!!場が凍り付く。本当であれば、無視できない。
詳しい話を聞きたいところだけれど……。
黒幕の情報を少しでも口にすると、ブラヴァートは完全消滅する契約だという。
障壁のない屋敷から出ると、簡単に偵察され、元仲魔に裏切り者として消される可能性が高い、というので引き続き屋敷に留まるそうだ。
「ただ……あなた方に敬意を表するためにも、私と配下はこれからエネルギー源の切り替えに心血を注ぐ。増えすぎて危険だという、森の獣を相手にしよう。
そして、普段は節制をかねてこの姿でいるよ。ただ、戦力としてはあまり期待してくれるな」
「まあ、それは素晴らしい心がけ。いいですわね」
と、リネンさん。包容力ある彼女にとって、すでにブラヴァートさんは屋敷の一員なのだろう。
それに、今のほうが見た目もカワイイ。
「……お前、商人なのだろう。配下を呼び、ここを商いの拠点にする方法もあるぞ。
……もちろん、絶対に人は襲わないと約束してもらうが。
行商中の護衛や、障壁を張る方法ならあるぞ」
またまた、カイ様が言いだす。それは、思いつかなかった。
カイ様って、私が思っていたより遥かに大胆で、柔軟なようだ。
「む……それは。これまで実は、行商にそれほどの面白味を感じていなかった。
大々的な商売はせず、拠点も転々としていた。
私の配下は、私と行動している時以外は自由なのだ。私が帰らずとも心配はいらないが」
「そうか。承知だと思うが、刈り取った小麦が大量に保存庫にある。
街にも卸しているが、間に合っていないんだ」
「なるほどな。この屋敷でとれたルチェや、パンの価値も高いぞ。
もう少し加工を工夫して、販路を拡大すれば、いい売り物になるだろう」
「うん、頼みたい」
そこで、執事長セラフィさんが言う。
「オホン。提案ですが、お屋敷の敷地内に、新たに建物をつくるのはどうでしょうか。
そうすれば、お互いの境界線代わりにもなります。
防御障壁は、今より拡げねばなりませんが」
「うん、それはいいね。屋敷の敷地を広げ、滞在用に別宅を建てよう」
カイ様と、ブラヴァートさん。時に規格外なくらい柔軟なところが気が合いそう。
しかも、そろってとびきりの美形……は、関係ないか。
ただ、チラッと目線をやると、リッドさんは明らかに心労がかかっているのか、顔色を変えて硬直。
ブツブツと何かつぶやいている。
あ、キャパを超えるとああなっちゃうのね、お気の毒さま。
カイ様はそのあと、1人1人から意見を聞き出そうとしていた。
部屋へ戻るとアイリーが起きていて、話をせがまれた。
私の話を聞いたアイリーは
「……ここだけの話ブラヴァートって、カイ様のこと相っ当ラブだよな」
「ラ、ラブ?へ、へ~~」
その発想、なかった。アイリーにはそう見えてるんだ。
それと……ナゾの焦りを感じる。
「はぁ、それにしても、この屋敷。どんどん人が増えていくな」
と、ぼやくアイリー。
確かに、もはや屋敷というよりはちょっとした宿屋っぽい。冒険者向けの?
「まあ、あの姿ならそんな食べないだろうけど、一応は狩りを頑張るか」
あ、気にしてたの、そこなんだ。アイリーは順応性すごいなぁ。
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