拘束と尋問
そこで、執事長が素早く呪文を唱えた。
「……?」
その場にいた全員が、驚いた。
何か丸っこいものが大広間の隅の、宙に浮いている。
まるでマスコットキャラみたいな、可愛らしい姿だ。
……よくよく見ると、さっきまで戦闘していた黒槍の魔人の面影がある。
「クッ…………」
悔しそうにジタバタしているけど、見えない檻に閉じ込められているのか、逃げる見込みはなさそう。
執事長セラフィさんの呪文は、察するに強制的に魔物の姿を現し、動けなくする効果のようだ。
また逃げだされては困るということで、予定は変更。
その場でリッドさんによる尋問が始まった。
事前の簡単な説明によると、リッドさんには尋問のスキルがあるようだ。サラッと知ったけど、だいぶ怖いスキルだ。
能力が同格以下(弱らせた場合を含む)で人の言語を操る対象にのみ、有効らしい。
「サイレンス・オース」
スキル発動。
強制的に本当のこと以外を喋れなくなったうえに、だいぶカワイイ黒槍の魔人の口からスラスラと語られたのは___
「俺はこれまで、人間から吸い上げた負のエネルギーや血液を媒介し、土壌深くに注入。闇の属性に染め上げることで、勢力の拡大をはかっていた。
目下の目的は、この屋敷。何せ俺は、出会って以来、ずっとカイを狙っていたからな。身分や能力ある人間からは得るものも大きい。
屋敷の人間全員、無知でちっぽけで無力だから、いつでも征服下におけたんだ」
「はあ?そんなこと、許されると思ってんのか!」
アイリーが切れた。プルプルしだしてたから、一応準備できていた。
小刀を無限に投げだしかねないので、私とリネンさんで、止めに入る。
気持ちはわかる。無知でちっぽけっていうあたり、完全になめられている。
執事長セラフィがこちらの様子を見て、ため息をついてから、先を続けるよう促した。
「……だが、この領地には短期間で、着実な変化が起きていた。
まず、パンとスープがうまそうになった。パン、ふっかふかだし。
何だよ、あのイティのジャムってのは!」
(……口調、変わってきてない?)
「最近だけでも、小麦の収穫がわんさかで?ミルダまで元気になるし!
極めつけはあの、ルチェの木!
季節を問わず実をつけまくるとか、反則だろうがっ」
(……んん?ミルダって、名前じゃなかったの?
私、何も知らずにうしー、うしちゃーんって言わされてたの?痛い!
あの2人、今度会ったら問い詰める)
「何が許せねえかって、屋敷の人間だけじゃなく、街まで活気づいてきてることだ!あんなに無気力でネガティヴで、吸い放題。
好都合だったってのに!まだある。あんなうまそうな食事が、我々の力を奪う毒ってことだ!」
(やっかみっぽくない?矛盾してるし。
見た目美味しそうだけど、食べたら毒?)
「……だいたいは分かった。というか途中から薄々、気づいていたんだが」
腕組みしていたカイ様が、おもむろに口を開いた。
「ブラヴァートだろう、お前」
ブラヴァート?それって確か……。
「あーっ、カイ様のご友人じゃん!」
アイリーが、大声を出した。
そうだ、この間、屋敷にお客様として来ていたうちの1人だ。
もと、旅商人……だっけ。銀髪で笑顔で、話し上手。
端正なお顔ですこぶる上品だった彼は、偽りの姿だったのか。
「と、いうことは。お出しした料理はブラヴァートさんにとってまったく美味しくなかった、ということですか」
料理長ルーヴァンが、やけに丁寧な口調で質問した。
「そうだ!喉が焼けるようだった!あの毒をいかに口に運ばないようにするかと考えたあげく、旅商人の話をしてやって切り抜けた。
部下に助けられ、やっとの思いで根城に帰り着いた。
この屈辱が分かるかっ」
「ああー、それで貴方だけ、料理が沢山残っていたんですねぇ」
合点がいった、という様子のルーヴァンさん。
あ、怒ってる。
9割がた、ワタシが丹精込めた料理を残すなんて~!的なやつ。
「だから、何度も誘ったのに泊まっていってくれなかったのか」
と、残念そうにカイ様。
ん……何かコトの焦点ズレてきてない?
「ところで……やはり、沢山の人を襲ってきたのですか?」
リッドさんが、片眼鏡をクイッとしつつ、質問した。
さすが、核心突いてる!
「もちろんだ!それはもう、数えきれないほどにな。
とくに若い女、青年は最高だ!極上の味で……」
ちょっとしたポーズまでつけて応えるブラヴァート。
すぐ隣にいるアイリーが拳を握るのが見える。
すると執事長セラフィが、スッとブラヴァートの前に進み出た。
「……ほお。なるほど?」
ものすごい気迫。今にも最終魔法を詠唱し、吹けば飛びそうなブラヴァートを消し去りそう。
マスコット・ブラヴァートもさすがにヤバッとなったらしい。
「し、しししかし、私は1度たりとも人間を手にかけたことはないっ。本当だ!
いつだって、手加減していたっ」
急に焦り倒している。
「手加減……。じつに疑わしい。偽りではないのか?」
念を押すように、リッドさんが問いかけたときだった。
「ゲホッ……ほ、本当だ!この方は、そこらの魔物なんかとは違う。
知性も、分別もある。
弱った魔物、自ら闇落ちをした元人間まで、助けて下さった。
俺が失敗しても見捨てず、駆けつけてくださった。
さっきも、逃げようとしたんじゃない。魔力が尽きて不安定になってるだけなんだ」
いままで床に崩れ落ちていた魔人が、苦しそうに息をつきながら言う。
「サイレンス・オース」
リッドさんはすかさず、その魔人にも尋問スキルを発動させる。
が、だいたい同じことしか喋らなかった。
「それに、さっきは俺、包丁と小刀とフライパンで追い回されて、悔しかった……!
だって、あんなのただの調理道具じゃないか!」
といいだすので、ルーヴァンさん、アイリー、私の3人とも
「悪かった(わ)ね!ただの調理道具で!」
とツッコみ返しておいた。
「ブラヴァートさんにとって、その姿でいることがどれだけ耐え難いことか。
た、頼む、頼むからそれ以上は……」
ちょっとだけ哀れに思えてきたから、不思議だ。
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