狩りのあと
翌日。早い時間からフリクトンさんはアイリーを連れて狩りに出ていき、大きなイノシシ2頭と、けっこうな成果をあげて戻ってきた。今回は、アイリーから指南を申し込んだらしい。
昨夜、謎の黒い影に襲われたメイドさんは、ひと足先に転移魔法で屋敷へ帰され、姿がなかった。屋敷できちんと治療を受けられれば安心だろう。
王国からは、白い鎧の護衛が数名駆けつけていた。カイ様と王国のつながりが感じられる。
カイ様は徹夜のためか、早朝の狩りは休んでテントにいたらしい。
テントの外の止まり木に、濃いブルーの鳥が止まっている。
「使い魔だよ、カイ様の。かなり速く飛ぶらしい。普段は野生で自由にしていて、用事があるときだけ、呼ぶとか聞いたぜ。カイ様は動物にも好かれるから、他にも色んな種類と契約しているらしいな」
と、アイリー。なるほど、王宮まで知らせに飛んでくれたのは、この鳥さんだったみたい。
何か餌をあげたいと思って探し、戻ったらもういなくなっていた。残念、ちょっとだけでも触れあいたかった。
カイ様が皆の前で軽く演説したとき、昨日よりも少し機嫌がよさそうなくらいに見えた。王国任務としては、上々の結果みたいだ。
獲物の肉は、王国主催イベントの食卓を飾り、毛皮や羽毛などの素材は庶民向けにも加工・販売されるなど、適切に分配されるという。
さらに、お屋敷の取り分もあるようだ。驚いたことに、エルカーンの肉まで分配されるという。これは、料理長ルーヴァンの反応が楽しみ。
_______________
1週間ほどが過ぎた。あれから、アイリーはフリクトンさんのもとをしばしば訪れているようだ。
弓の名手で森に詳しいフリクトンさんと行動することで、もっと森に詳しくなりたいと思っている様子。関係的には、師弟かな?恩人として慕ってもいるようだ。
ただ、出かけるたびに、保管庫のジャムや焼き立てのパンを持っていくので、料理人仲間によくからかわれ、いちいち逆ギレ……じゃなく真に、受けている。
大人のエルカーンを狙った従者は、カイ様のはからいなのか、フリクトンさんのもとに長期で修行を兼ねたお手伝い要員として行かされているようだ。ただ、もともと狩りの意欲が強いだろうから、それほど罰ゲームでもなさそう。
欠員を埋めるためか、新たに従者が雇われたと聞く。メイドさんの間では、この新しい従者がとても物腰がスマートで、かなりの美形という噂だ。
実際のところ、フリクトンさんの狩りの収穫にはエルカーンをはじめ、グレッズ(クマっぽい生物)などの大物が増え、街の市場にも行き渡り始めている。
高い魔物肉のほかに、手に入れやすくてクセが少なく、安心?な肉が手に入るのは、住民にとっても理想的だろう。
料理長ルーヴァンの話だと……
「大人のエルカーンの肉について知りたい?肉質もよくて、最高のごちそうですね。何より、例えば子どもが2人いる家族4人で毎日お腹いっぱいになるくらい食べても、1頭分でおよそ半年の食料になるでしょう。干したり、塩漬けにすれば長持ちさせることもできますし。それに、あの立派なツノ!装飾品や魔道具の素材になるので、とっても高値で取引されるんですよ!」
……とのことだった。さすがに、詳しい。
「ナガメー、もしやエルカーンの肉を他にも隠し持っていないでしょうね~?!」
と距離を詰められたのには、ちょっとタジタジしたけど……。
料理人にとっても、のどから手が出そうなほど扱いたい食材なんだということは分かった。
狩りの報酬として正式に頂いたエルカーンの肉を使い、試作としてルーヴァンさんは野菜ロールを。
「パクペ(白菜風の野菜)を使いまーす!」
と張り切っている。絶対、美味しいのできるやつ。
下ゆででしんなりさせた白菜で、塩や麦酒、そしてパン粉を混ぜて風味付けしたエルカーンのひき肉を巻いている手元が繊細。
味のベースは、ミルダ乳のようだ。
ルーヴァンさんはレシピをゼロイチで生み出せない代わりに、アレンジが天才的にうまいんだと思う。
というのもこの間、私と見習いの男の子で作ってまかないに出した、煮込みハンバーグのレシピがあり、それをルーヴァンさんは料理に取り掛かる前、穴があくくらい見ていた。
名付けて、ロール・パクペかな?
私はちょっと贅沢に、厨房イチの大鍋でルチェ酒煮を仕込んでいる。
狩りの時に摘んできた野草も、麻紐でまとめて香りづけに入れた。元の世界の赤ワイン煮のイメージだ。
だいたい20人分で、貴重なエルカーンのお肉を2キロ以上。お酒も2瓶とたっぷり。ウッド・ターキのガラからつくったコンソメや、ニンニク(そっくりさん)のみじん切り。人参・玉ねぎ・ジャガイモ(っぽい野菜)も加えてある。
ルーヴァンさんがこの料理を気に入ってくれて、アイリーが持ち出す食料や、欠員の穴埋めができないかな、という下ゴコロ……いや、ねらいだ。
私があくびをこらえつつ、お鍋をかき混ぜていたら、途中からブルノさんが代わってくれた。
ブルノさん、優しいところあるよなあ。おかげで、少し休めそう。このところ、アイリーがいない間の代役をさせられて疲れぎみだった。私は、厨房の隅の椅子に座る。
……ん?ブルノさん、味見の量多くない?そして、すっごくいいお顔。まだ煮込み足りてないと思うけど。
うーん、まるきりの親切心から引き受けてくれたわけじゃなさそう。
まあ、シアワセそうな顔してるし、そっとしておこっと。
少しでも面白い、と思っていただけたら、ぜひブックマークを。
↓にある『☆』をタップしてもらえると嬉しいです!




