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教育者×フライパンスキルで、ゆるっと領地再生します!?  作者: 宙子
森の風向き

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19/65

狩人の本音、深夜の襲撃

 

「フリクトンさん。まだまだ、いっぱいありますからね!スープやパンも、召し上がってください」


 そこで、アイリーがサッと何かを取り出して言った。


「パンと一緒に、オランのジャムはどう、ですか?……フリクトンさん」

「ふ、(もら)うよ。うまそうだからな」


 オラン、というのは先日のオレンジみたいなルチェだ。アイリーのアイデアで、ジャムにすべく1人で鍋の番をしていた。

 皮も入れるオランのジャムは、何度も湯でこぼしをするとか、渋みを抜くのに一晩おくとか手間がかかるのに、ちゃんと完成させていたらしい。


 つやつやとした深いオレンジ色のジャムを口にして、フリクトンさんは嬉しそうだった。どうやら、お気に召したらしい。


「よかったね、アイリー」


 とささやくと、笑顔が返ってきた。

 私も試食させてもらったけど、少しだけほろ苦く、甘酸っぱい味。お酒が好きなフリクトンさんには、このくらいの甘さがちょうどいいのかも。


 ひとしきり食べて、フリクトンさんはこんなことを言い出した。


「今日仕留(しと)めた、エルカーン。もっと、ああいう大物を狙おうとずっと思ってたんだ。少しは間引くくらいのほうが、森の環境のためにもなるからな。でも、俺はビビッてた。何度射ても、矢が急所に当たらなかったら?仲間がいてくれたとしても、俺のせいで失ったら?自分が食うのに少しくらい困っても、狩りすぎはよくないとか。ただの言い訳だった」


 フリクトンさんの本音……なんだろうか。身体の線が細いのは、木登りのためや、行動を身軽にするためかと思っていた。

 むやみに狩りたくない、という言葉には命に対するリスペクトや、重みを感じる。決して、言い訳じゃない。そして、あれだけの腕があっても、悩みは尽きないんだ、と思う。


「それは、生き物の命を尊重しているからこそのお考えだと思いますよ。実際、狩りはほぼすべて、フリクトンさんの力でしたし」


 盛大(せいだい)に空ぶった、アイアン・スプラッシュを思い出しそうになる。


「お会いして間もない、しかも森のマナーを軽く見た私たちのために、フリクトンさんは最大限の努力をしてくれました。そのおかげでいま、大きなケガなくここにいられています」


「ん……そういわれると何だか落ち着かんな」


 フリクトンさんはまた、静かになった。けれど、瞳には目線の先にある炎が映り込んで揺らめき、表情もやわらかい。


 彼は、テーブルにうつ伏せになり、健やかな寝息をたてるアイリーのこともしばらくの間、見つめていた。


 カイ様は、リッドさんや従者さんらと話し込んでいるようだ。フライパン……洗ってみたけど、今はやめておこう。




 深夜。テントに入り、まどろんでいると。

 突然、強い横風が吹き、ゴゴーーー!と恐ろしい音がした。続いて、何かが近づいてくるような足音。


 同時に、黒い霧が立ち込めた。急に息苦しくなり、口元をおさえる。

 毛布に包まれ深く眠っているアイリーを、起こすべきだろうか。


「きゃーーああぁ!」


 それほど遠くないところから、恐怖に満ちた甲高(かんだか)い悲鳴が聞こえた。

 私はフライパンを呼びだし、立ち上がって構える。


 それから、恐ろしく長く感じる時がたち……。


「大丈夫か?!」


 リッドさんの声だ。助かった。外に出ると、カイ様も一緒に来ていた。


「は、はい、何ともありません」


 2人が胸をなでおろすのが分かる。


「でも……何だったんでしょうか。さっきの悲鳴は?」

「メイドの1人だ。自衛を身に着けているから、応戦もしていたし、目立ったケガはない。ただ、怖い思いをしたようで、もう1人のメイドが世話をしている」


「カイ様の防護壁をかいくぐるとは、あなどれません」


 と、リッドさん。


「黒い影だった。魔物かもしれない。従者2人に、追跡させている。恐らく、以前からこの付近で起きている脅威(きょうい)に関係しているだろう」


「そう……ですか」


 少しだけホッとした。アイリーもさすがに起きたようで、目をこすっている。


「そのフライパン……ナガメさんのスキルだよね」


 と、カイ様。こんな時でも探求心を忘れないらしい。


「あ、はい。さっき呼びました」


「!取り出すことができるのか。使い勝手もよさそうだ。……訓練場の人形で、もっと練習していいよ」


 私はかすかな赤面を隠したくて、会釈(えしゃく)した。ほんとうに何でもお見通しだ。まあ、人形を粉砕(ふんさい)してしまったという報告はしておいたんだけど。


「王国に知らせをやって、協力を仰いだし、フリクトンさんにもお願いして、警戒(けいかい)を強めた。だから、戻って安心して休んでいなさい」


 と言われて、アイリーとともに中へ戻る。

 黒い影……一体、何者なんだろう。そういえば、ザリウスさんのパーティが襲われたのって……。

 カイ様、夜通しで強力な守護の魔法を使うってこと?大変じゃないのかな。

 色々と考えていたけれど、押し寄せてきた眠気にあらがえなかった。



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