キャンプファイヤーブレッド
「アイリー!大丈夫、ケガはない?」
ショック状態なのか、どこかボーッとしているアイリー。髪はボサボサだし、あちこちに擦り傷があって痛々しい。走っている途中、木の幹にぶつかったんだろう。
「ん、大丈夫。来てくれたんだ、ありがとな」
と言うのを聞いて、ホッと胸をなでおろした。でも、まだ安心できない。
「本当に、本当に大丈夫?」
音もなく木から降りてきたフリクトンさんが、眉根にしわを寄せている。怒鳴られるだろうか、と思っていたら……
「挑もうとしたんだろ、大人のエルカーンに」
と、ぶっきらぼうだけど意外な言葉をかけられた。
アイリーは、かすかに頬を赤くしてうなづく。
ただ、フリクトンさんはそのまま、背を向けると去っていった。野営地の方向とは違う。
ああは言ってくれたけど、やっぱり気分を害したのかもしれない。
「看ましょうか?」
同行していたメイドさんが言ってくれ、アイリーの手を取った。
「……これは、擦り傷ですね。どれも深くないので、さほど心配ありませんよ」
同行してくれていて本当に助かった。
帰る途中、アイリーに事情を聞いた。
どうやら、先にエルカーンに挑もうとしたのは従者のほうらしい。大きな獲物を前に、これは手柄を立てられると踏んだようだ。
ただ、あっさりと返り討ちにあい、逃げていたとのこと。
フリクトンさんの言っていた通り、大人のエルカーンの本気は超がつく恐さだった。
先に挑んだのに、アイリーにターゲットを取ってもらい逃げる従者には、ちょっと呆れた。危うく、やられるところだったというのに。
まあでも、アイリーのほうも1度だって引き留めてはいないみたいだ。
「小刀4発ぶんはあてたよ。それにエルカーンのやつ、何度も木にぶち当たってた。まだ、倍は走れたのに!アタシが狩ってやりたかった」
と息巻いている。頼もしいけど、心配にはなる。
野営地へ着くと、料理人仲間からものすごーく心配された。普段はあまり感じることがないけど、温かくって優しい人たちだ。
執事のリッドさんが、治癒魔法をかけてくれるという。
「応急処置ですが……」
と、リッドさんは謙遜。アイリーは、なぜか頬が赤かった。
男性に免疫がないのか、リッドさんが好みなのか分からないけど。
治療を受けた後しばらく、アイリーは心ここにあらずという感じだった。シアワセそうだから、いいことかな。
狩りで獲れた川魚と、小さめサイズの鳥を調理していいと聞き、料理人一同がワッ、とやる気を出した。私にとっては、この世界で初めての魚料理だ。
ちなみに私のスキル、フライパンは検証したところ2個までなら出せる。
大きさや深さも、イメージ次第だ。まあ、今のところ特大サイズは無理だけど。
前もって料理仲間には情報を共有しておいた。……全員に、驚かれたけど。レアスキルなのかも。
大きなフライパンに、お屋敷から持ってきていた野菜や敷き詰めたうえに魚の切り身をのせ、塩を振る。
臭み消しに、ルチェ酒。バターの代わりに、穀物のオイルをたっぷり。異世界版のムニエルかな。
さらに、獲れたばかりの鳥の肉で、スープも。塩とこのあたりで摘んだ野草で煮込んでいると、いい香りが立ち込める。
そこへ、カイ様がひょい、と顔を出した。
「いい匂いがしているね。ん?その料理は?」
「ムニエル、です。けっこう沢山獲れてよかったですね!まあ、私は見ていただけなんですけど」
あんまり役に立てなかったな……と思っていると。
「ああ、熟練者でもうまくいかないことがあるからね、狩りは。私も今日は、いつもの半分以下の成果だったよ。納品できるのはウッド・ターキくらいだ。……ところでそのフライパン、あとでよく見せて」
ちょっとドキッとした。さっき狩りに同行させてくれた従者さん伝いに、これがスキルだということはもう耳に入っていそうだけど。せめて、綺麗に磨いておこうっと。
野営地メニュー、ラストはキャンプファイヤーブレッド。言い換えると棒焼きパン。生地をこねて、木の棒に巻き付けて焼く素朴なものだ。
カイ様や、メイドさん達も一緒に棒に巻き付けて、炎に近づけ焼いている。とっても楽しそうだ。
いつの間にか、フリクトンさんも帰ってきて料理を食べていたから、何だかホッとした。
「お口に合いますか?」
ルチェ酒を飲んでいたので、お代わりを勧めるついでに、聞いてみた。
「あっ、ああ……この魚料理、とくにいい」
少しぶっきらぼうだけど、彼なりに褒めてくれているみたい。
「フリクトンさんが沢山獲ってくださった、新鮮なお魚ですからね」
「ふむ……ずいぶん久しぶりに、こんな料理を食べた」
ボソッとつぶやくフリクトンさん。
そういえば、メイドさんに聞いた話だと、フリクトンさんは一匹狼。長い間、1人で暮らしているそうだし、狩り仲間もいないという。
あれほどの弓の腕があれば、1人でも問題はなさそうだけど。
「おかげで、アイリーも助かりました。本当に、感謝してます」
そう言って、頭を下げた。側に来ていたアイリーも、空気を察してぺこり、と頭を下げる。
お酒が入ったからなのか、機嫌のよさそうなフリクトンさん。驚くべきことに、といったら失礼だろうけど笑顔がとってもいい。
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