執事長セラフィ様
農園管理官のほうで、心当たりはないのかという話になった。
官長らしき身なりのいいヒゲの男性が、帳簿を取り出して推理を始める。
「ここは、ルチェ園にしようという計画があった、と記録にある。ただし、うまくいかなかったようだな。ギフォがたまりやすく、土に影響しているせいだ。芽吹かなかった種が埋まっている可能性は高いが、相当前の話だ」
私はハッとなった。きっとそれだ。ミュリスティアの力で、奇跡めいたことが起きたんだ。
というか、あの『フッ軽女神様』なら、やりかねない。
「ナガメさんの言う火魔法が本当なら、地面に放ったことでそこだけ浄化された……?オホン、いや、うーん」
管理官長が言い、腕組みをする管理官たち。
そこへ、見知らぬ男性が現れた。白髪で、執事服を身に着けている。穏やかそうな外見。
そういえば執事は数名いると聞いていた。この方が、『執事長』なのだろう。
リネンさんの話では、領地の管理業務と屋敷内すべてにおいての調整役だから、めったにお会いする機会がないのだ。
「セラフィ様」
「執事長……!」
その場にいた全員が、改まった姿勢になる。この人物に一目置いていることが、見て取れた。
セラフィ様は眼鏡に手をやり、しばらくの間、木を観察しているようだった。
「これは、稀にみるルチェの木ですね。季節を問わず、これから色んな種類の実がつくでしょう」
1本の木に、同時期にさまざまなルチェの実。とんでもない話だ。セラフィ様は続けた。
「私は若いころ、王宮の大書庫でルチェの木に関する記録を読んだことがあります。かなりの短期間で実りをもたらす、特別な木があると。人知を超える何者かが直接、関与しているというお話です」
「それでは……この実りは、神様がくれたものだとでも……?」
農園管理官長の男が、困惑したように言う。
「どうなんです?ナガメ」
と、ルーヴァンさん。急に、話がこっちに向いてきた。慌ててしまう。
「え、えーと……」
セラフィ様の眼鏡の奥の目がこちらを向いている。なんだかドキッとした。
「あぁー、私、夢を見ていたのかも、なんて。アハハ……」
と言うしかなかった。あとで、ミュリスティアに確かめよう。
「まあ、古き時代の言い伝えでしょうね。結局は私にもわかりません」
ニコ、と笑うセラフィ様。それで、場の空気が一気に和んだ。
「せっかくのルチェなので、味見をしましょう!」
と、ルーヴァン。ペティナイフを持ちだしてきたようで、用意がいい。料理人たちが手際よく、皮をむいて、試食会になった。
「うーん、甘い!この香り、最高」
「ちょっと、酸っぱくないか?」
口々に、感想を述べている。私も食べてみた。知っているオレンジと同じくらい美味しい気がして、満たされる。
この世界で、この実はオランというらしい。あまりに豊作なので、街の市場へも卸す話が出ていた。活気のない市場を彩ってくれそうで、とってもいいことだ。
ところで、料理長ルーヴァンは、私が火魔法を使えるということだけ、しっかりちゃっかりインプットしたらしい。
「ナガーメ、明日からは点火の担当もお任せしまーす!きっちりやってね」
「はいぃ」
……まあ、そのくらいはやれる。前の世界で教員だったころに比べたら、ここで起こることのほとんどは楽勝だ。
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ミュリスティア、もといミュリに呼びかけたら、しばらくしてこたえてくれた。
『はいはーい、私、お水をあげておきました!』
やっぱりだ。私は心の中で、頭を抱える。そんな私に気づいていないのか、ミュリスティアは説明した。
『あのね、天界の人々は、地上の人々にキホン、干渉できないの。それは、生き物や作物、大地にも同じ。ただ、もともとそこにあったモノに、すこーし手を加えるだけなら大丈夫!』
すこーし、にしてはやりすぎだ。どんな聖なる水を使えばああなるんだろう。
『ナガメちゃんが魔法で浄化をしていたから、ずいぶんラクできたよ。それにね~、歌も聴かせたの!ルチェの苗木ちゃん、すっごく喜んでくれたみたい』
つまり、火の魔法直撃で焦げた(浄化された?)あとに、たまたまルチェ園計画のころのこぼれ種があり、ミュリがすこーし手を加えたってことらしい。
苗木ちゃん喜んでた?苗木の気持ちまでわかるんだ……。というか、ちゃんづけ……。
『あのね、ナガメちゃん』
ミュリが、ちょっとかしこまったような声で呼びかけてきた。
『ナガメちゃんの想いが、すごいの。イティや作物、動物のときも、ナガメちゃん信じてくれたでしょう?実る、良くなるって。無意識でも、それは通じるものなの。それって、この世界のほとんどの人にはできないことなんだ』
「……はあ」
『あ、信じてくれてないー!』
「いえいえいえ、ハハハ……」
ほんのり嬉しいけど、ムリやりにしか聞こえない。奇跡を起こしているのは、99%ミュリだと確信がある。
でも助かる。果物……じゃなくルチェは、いくらあってもいい。そのままかじるもよし、盛り合わせならおもてなしに最適。ジュースや保存食にもなる。
ルチェの木がこれからも様々な実をつけるところを想像したら、ヨダレがでそうになった。
そして、誰が起こした奇跡かを追及するのも忘れた。
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おジャマ説を知り、イラストを一部、整理しました。(公開済みを含む)
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