強すぎ?『フライパンスキル』
『あ、そうそう。ナガメちゃん。
この間、フライパンのスキルもあげておいたよね!もう使ってみた?』
ミュリスティアが、思いついたように言う。
「へっ!?フライパン?ああ、オマケのことです?」
『そうそれ!』
「えー、料理が上手くなるってことでしょうか」
だとしたら、けっこう嬉しい。
『チッ、チッ、チ。ささ、実践!』
気が付くと、私はフライパンを手に、お屋敷の訓練場に立っていた。
木の棒と、藁で作られた人形が、点在している。
「……!?」
『はーい、じゃあ、そのフライパンを、大きくふってみてー』
「こ、こここうでしょうか……」
ワンパン料理スタイルを思い出し、ちょっと大げさにタテに振る。
ん?フライパンの重みをあまり感じない。鉄製で、大きめだからもっとずっと重いハズなのに。
『あーっと、少し違います!』
ミュリの声が響く。笑いを含んでいると分かり、ちょっとムッとする。
ふわ、と優しく支えられた気がした。次の瞬間____
「えええーー!」
私はフライパンを振りかぶり、大きく横に振りぬいた。と同時に、人形が粉々に砕けたのだ。
バラバラ、と音を立てて崩れ落ちるのを見て、ボーゼンとした。……いくら何でも、威力がハンパない。
『よくできましたっ!あ、そのフライパンだけど~ココロで念じれば、どこでも取り出せるからねっ』
ますます、とんでもない。
「あ、ぁありがとうございま……」
ようやく見つかった言葉を口にしつつ、滝のような汗とともに、私は天を仰いだ。
『よく頑張りました~、これからも、バンバン使ってねっ』
このぶんだと打撃の他にも、知っておいた方がいいことがありそうだ。色々、検証しておこう。
『それはそうとナガメちゃん、ちょっと疲れてる?トクベツに、歌うね』
♪ らー ららー
唐突に、優しい、かすかに桃色をおびた音が降り注ぎ、私は癒された。さっきまでの、焦りや怒りの感情も消えていた。なんていう歌声。そして、影響力。
気まぐれな女神ミュリは、歌声を残して去ったようだ。呼びかけても、返ってこない。
私はフライパンを手に、しばらくその場に立ち尽くした。
_______________
それから、しばらくは平穏な日々が過ぎた。
料理の効果なのか、お屋敷に仕える人々が元気になり、士気がグッとあがった。食後グッタリも解消され、時間ぴったりに持ち場に来るし、仕事も倍くらい速い。
時間に余裕ができたので、私はアイリーを誘い、外出許可を取って散策にでかけた。
カイ様が気を遣ってくれたのか、アイリーと私用に、狩りの服が届けられた。軽い素材でできていて、動きやすくって助かる。
……屋敷の外に出て、しばらく歩いていくとギフォが立ちこめて辺りはもやがかっている。
「ナガメも気づいたか。前に、セラフィさんが話してるのをこっそり聞いたらさ、カイ様や執事連中、それに、リネンさんが、交代で屋敷に防御障壁をはってるらしい。だから、屋敷内のギフォは薄いんだ」
「そうなの、どうやって?」
「んー。メイドの噂話だと、屋敷の部屋のどこかデカい魔石があって、魔力を注ぎ込んで発動させるらしい。あと、屋敷に限らず領地全体をよく管理して、綺麗に保つのも大事って。アタシには、よくわかんないけど」
「へえ、魔石……!それと、キレイにするのも効果があるんだ。まるで、京都や神社仏閣の習慣みたい」
「キョート?ジンジャブカク?……ナガメ、たまに変なこと言うよな。いいけど」
外に出られてワクワクしているのか、アイリーは速足だ。私もつられて歩幅が大きくなる。
道沿いにポツポツと、初めて見る野草や花が生えていて綺麗だ。料理に使えるかもしれないから、摘んでいく。
アイリーが、上空に向かって小刀を投げ始めた。何をしているのかな?
何度か投げていると、鳥の鳴き声が響く。そして落ちてきたのは、カモのような鳥だった。
「命中!やった」
アイリーが駆け寄って獲物を手に取り、私に向かって白い歯を見せて笑う。
「アイリー、すごい!」
現実では、不可能に近い芸当だ。アイリーが言うには……
「ミュリさんのおかげだな、コントロールと威力が前と段違いだからさ」
そして慣れている。今までも、こうして狩りをしていたのだろう。獲物を提げるための縄を持ってきているし。準備がいいなぁ。
続いてアイリーは、足の長い野ウサギも小刀投げで仕留めた。見つけ出すのも早いし、すばしっこいのを見事に捉えている。ちょっとかわいそうだけど、貴重な食料。大事に頂こう。
そうして1時間ほどが経ち、ずいぶん遠くまで来てしまったかもしれない。
アイリーが急に棒立ちになり、目を輝かせている。
「?どうしたの」
「シーーーッ、見ろよ、あそこ。エルカーンだ」
指さす方向によく目を凝らしてみた。確かにいる。シカに似ているけど、顔が大きく首が短い。
「わあ、可愛い!エルカーンっていうんだ」
「静かにしろ、逃げるだろ」
アイリーが急に小刀を構え、狙いを定めだしたので、私は驚く。
「ちょ、ちょっと、もしかして……」
「今日のメニューはエルカーンのシチューだな!とびきりウマいぞ」
「え、ダメだよ。まだ子どもでしょ。そっとしておこう」
「はぁ?こんなチャンス、めったにないだろ!」
こちらをにらんでくる。再び小刀を構えた、次の瞬間。
ヒューーーーーン!
空気を裂くような音とともに、何かがこちらへ飛んできた。
「わわっ!な、何だよ」
突然のことに驚くアイリー。見ると、弓矢が背後の木の幹に刺さっていた。
腕をかすめたのだろう、少し血がにじんでいる。
矢の飛んできた先を追うと、そこにいたのは狩人風のいでたちの男。3~40代くらいかな。細身でえんじ色のマント。
「何すんだっ、せっかくの獲物が逃げただろ!」
怒り心頭のアイリー。腕の傷のことじゃなく、獲物が逃げたと怒るのが彼女らしい。
男性が、口を開いた。冷たい低音が響く。
「その言葉、お前に返す。森のマナーを覚えて出直せ」
男の言葉が耳に入っていないのだろう。悪態をつく、アイリー。険しい目つきをこちらに投げかけ、男はさらに言う。
「お前、エルカーンの親には気づいていなかっただろう。すぐそばにいたぞ。2メートルの巨体のわりに素早いし、立派なデカい角がある。お前が小刀を投げていれば、向かってきたはずだ」
「うっ……」
アイリーが悔しそうにうめく。
男は呆れたような顔をしてから、立ち去った。
「……あの人、怖い感じだけどこの辺りに詳しそうだったよね。
私、エルカーンの親に気づけなくってごめん。
水の音がするね、少し先に湧き水があるみたい。腕の傷を洗わない?」
「……」
うなだれたアイリーの手を取り、水辺へと歩いた。
※読者さんは賢いので大丈夫かと思いますが、小刀を空中に投げても鳥は獲れません。
非効率的かつ危ないだけで、古の狩りの方法にもありません(多分、やった人がいても成果なしか、自分が落ちてきた小刀で大けがしたとかで、記録が残ってないのではと……)
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