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教育者×フライパンスキルで、ゆるっと領地再生します!?  作者: 宙子
友と過ごす刻

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13/65

ナガメの望み、オランの実り

 

「……それで、ナガメさん。何か望みは?」


 しばらくして口を開いたカイ様が、唐突(とうとつ)に投げかけてきた。


「へ?望みというと、欲しいものとかでしょうか」


「そう。このところずっと頑張ってくれていると思うし。それにいまなら、屋敷の者に遠慮しなくていいでしょ」


 私の考えすぎだろうか。カイ様と初めて屋敷の庭でお会いしたとき、彼がそっけなかったのは、こういうことなのだろうか。


 メイドとして半人前で、雑用を押し付けられている中、人気のあるカイ様が人目をはばからず、私に笑いかけていたら。

 ワンパターン嫌味と食事抜きどころでは済まなかっただろう。考えすぎかもしれないけど、カイ様の配慮と優しさが伝わってきた。


 私は少しの間、考えを巡らせることに集中した。チャンスかも。


「……それでは時折、外出することができれば嬉しいです」

「外出。そんなことでいいの」

「はい、十分です。私、この世界をよく知らないので、色々見て回りたくて」


 周辺がどんな環境なのか、植物や生物のことも気になる。

 火魔法も練習したい。お屋敷で使うと、何かしら問題になりそうだし。

 魔物……には、できれば遭遇したくない。けれど、1度は本体を見ておいたほうがいい気はする。これって、怖いもの見たさ?!


「あ、それと……」

「?」

「美味しいものを食べて、のんびりできるのはいいですね!なるべくでいいので」


 元の世界で望み続けたこと。こちらではすでに、けっこう羽を伸ばせてるけど。


「あ、お屋敷に置いていただく以上、もちろんお仕事はします。外出時は前もってご相談も……」

「ハハッ、なんだ、そんなこと。屋敷はもう、ナガメさんの家だからね。好きに(くつろ)いだらいい。それにしても、律儀(りちぎ)だね。ナガメさんは」

「はぁ」


 ()め言葉と受け取っておこう。


「近々、狩りの予定がある。王国任務の一環でね。屋敷の者を数名、伴うんだ。よければ、着いてきていいよ」


挿絵(By みてみん)


「狩り……ですか。初めてなのでお荷物になりそうですけど、よければ」

「もちろん」


 カイ様が、ニコッと笑った。こんな柔らかい表情をする人なんだ、と思う。

 それよりなにより、充電された気分だ。



 カイ様はまだ用事があるとかで、街へ戻っていき、私は返されたカゴを手に……。


「ええっ、軽~~~い……!」


 従者さんの魔法らしい。モノを軽くする魔法。うーん、便利!魔法にがぜん、興味がわく。

 おかげで、軽い足取りで帰りの荷馬車へと向かった。


 ゴトゴト……と走りはじめた荷馬車に揺られながら、ナガメはつぶやく。

「そういえば、私の鑑定結果って詳しくはどうだったんだろう?」


 目の前のカイ様に気を取られて、ほとんど聞けていない。

 まあ、そのうち聞き出してみようっと。



 一方、街に1人(たたず)むカイ。顔色は白いが、その表情は明るい。

 すぐそばに待機していたのか、あらわれた執事のリッドが、うやうやしく声をかけた。


「彼女との時間は、いかがでしたか」

「うん……こうして話せてよかった。料理長にも、あとで礼を言おう。……それよりもコインだな、喜ばせるには。さて、行こうか」


 まるで、街での出来事が計画されていたかのようなやり取りだ。

 リッドの様子には、なぜかかすかないら立ちが見える。

 少し先を歩くカイは、そのことに気づいていないようだった。


 ______________


 お屋敷に戻ると、お昼におもてなしメニューとして提供した串焼きが、少しだけど取り置きしてあった。

 うん、なかなかの出来!


 ちなみに、カットしてお出しして、お客人から褒められたオレンジ(っぽいルチェ)、どこで入手したかというと……。少し前にさかのぼる。

 _______________


「こぉれはすご~~~い!ルチェの木とは思えません」


 屋敷の裏庭にて、料理長ルーヴァンが目をカッと見開いている。

 農園管理官が知らせに来たので、こうして見に来たわけだけど……。


 3メートル近くありそうな木で、幹も太い。オレンジそっくりの大きな実をつけていた。


 ルチェ、というのはそうそう、果物のこと。この間、ミュリスティアも言っていた。

 でもオレンジだなんて、この前いち……いや、イティが豊作だったから、春なのかと思っていたのに。季節感はゼロだ。

 そして、細かいことを言うと、この地面。前は古い石畳みたいだったのに、瑞々しい草が生い茂っている。


「むむむ……。一体、何が起きたのでしょう」


 考え込むルーヴァン。


「あのぅ、多分なんですけど」

「ん?ああ、ナガメさん。いいでしょう、聞いておきます」


「何日か前に、ここで火魔法を使ったんです。練習で」

「火魔法?アナタが?」

「はい。それで、ちょっと焦がしちゃって。地面を。ちょうどそのあたりだなー、と」


「何ッ?!ちゃんと消したんでしょうねっ?」

「そ、それはもちろんです。

 それで、ミュリ……ミュリスティアが、何かしたんじゃないかと……」


 ルーヴァンが太い首を傾げた。


「ミュリス……ティア?いったい何なんです?それは」

「か、神さまです、歌の。とってもいい声なんです」


 やれやれ、というように、ルーヴァンが首を振った。


 これ以上話しても信じてはもらえなさそうだ。


 _______________


 主人とともに屋敷に戻った執事のリッド。地下へと続く階段を下りていき、キイ、と音を立てて鉄の扉を開けた。


「ナガメさんとカイ様、親しすぎる……しかし、彼女は」


 今日、2人が店での時間を過ごす間、窓の外から様子を伺っていたのだ。早く用事が終わったので、途中から護衛と見張りを兼ねて待機していた。

 窓越しに見るカイ様の表情は、これまで見たことがないほど楽しげだった。会話を楽しんでいたに違いない。


 生真面目な彼の心中は、複雑だった。カイ様が領主となる前から、側でお仕えしてきたなりに、案じる気持ちが大きい。


 リッドは、さまざまな年代・種類のルチェ酒が眠る保管庫で1人、考えを巡らせる。


(有り(てい)に言ってしまうと、ナガメさんが異世界人なうえ、現状とくに実績のない料理人、ということが問題だ。……彼女が屋敷へ来て以来、提供されるようになった素晴らしい料理の裏に、彼女の功績があるにしても)


 屋敷のあるじで、辺境とはいえ領主でもあるカイ様と、釣り合うとは思えない。


 リッドに自覚はないものの、女性という存在は彼にとってあまりいいものではない。

 彼は、容姿端麗(たんれい)なだけにこれまで女性から数々のアプローチを受けてきた。アプローチ、というと聞こえはいいが、彼にとって思い出したくない、不快な出来事もなかには含まれる。


 はあ、と息をついた彼は、ルチェ酒のボトルを手に取ると、慣れた手つきでコルクを取り、グラスに少量だけを注いだ。広がる香りを確認する。


 ストレスを感じると、五感を使うのが習慣化している。こうして切り換えることで、芽生えた懸念(けねん)を少しの間だけでも忘れよう。そんな思惑が垣間(かいま)見えた。

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