思いがけないティータイム
これまでお屋敷でお世話になっていて、お金を使う機会があまりなく、意識していなかった。
料理長ルーヴァンさんのお使いで、今回持たされたのは金のコイン1枚と銀のコイン10枚。
金のコイン1枚は、銀のコイン10枚分。銀コインは、銅コイン10枚分。
金のコイン1枚は、街の宿屋さんで食事つき3~4泊できるくらいの価値。
魔物の肉ならおよそ3kg。動物の肉だとだいたい、7~10kgくらい。魔物の肉は希少なのか、価値が倍以上高く設定されている。
ルーヴァンさんの指示は……。
「今回は、魔物のお肉を1kg、動物のお肉を2種類、クセがなく新鮮そうなものを見繕ってきて。量は全部で4kgほどでけっこうですよ。それと、スープや付け合わせに使うお野菜を」
うーん、けっこう重たくなりそう。寄り道はほどほど、早めに帰ろう……。
街の市場に着いた。変わらず活気のある肉の売り場では、威勢のいいおじさんが手際よく切り分けてくれ、量ってから渡された。
青果の売り場。……この、小麦の束と大きなオラン、お屋敷が卸したものだ。オランは7個で銅コイン5枚の値。けっこう良心的な感じに思える。
見回すと、新鮮そうな葉野菜があった。根菜は小さなものが多いけど、ないよりはよさそう。色々と見比べて交渉し、お金を払い、カゴに入れた。
「うん、こんなものかな。買い忘れはないかな?」
あたりを見回していた時だった。
「ナガメさん?」
呼びかけに振り向いて、思わず声が出た。
「カイ、様」
「奇遇だね。ここへは、食材の調達に?」
「ええ。料理長に依頼されました」
こうしてお話しをするのは、初めてお会いしたとき以来だ。あのときの、表情のない様子と、そっけない会話が思い出され、内心ちょっと不安がよぎる。
それはそうと、カイ様ってこんな健康そうなお顔の色だった?それに、お肌や髪にもツヤが増したような。
つい、まじまじと見てしまった。それを察したのかカイ様は、軽く咳払いをしてから
「料理人になったと聞いた。何か不便なことはないか?」
と聞いてきた。気遣ってくれるのだろうか。素直に嬉しい。
「いいえ。料理長のルーヴァン様が、気を配ってくれていますので!」
ここは、立てておこう。まあまあ本当のことだし。
「それに、この世界に来てから睡眠時間が倍とれていますし、心への負担も軽くて」
「うん……?そうか、それならいいのだが」
しまった、余計なことを口走った。
「あ、あの、今のはちょっとした例えっていうか。空想の話で」
少しの間、沈黙が流れる。
「そうだ、こうして会えたのだし、少し話をしないか」
と、カイ様。断る理由は見当たらない。
私が両手で抱えていた食材山盛りのカゴは、カイ様の従者さんが預かってくれた。
しばらく歩いた先の店に入る。外観からは分からなかったけれど、お店の中は、なかなかに素敵だ。小さな花瓶には、可愛らしいお花が飾られている。
カイ様は、魔物肉のサンドを注文。
私はクッキーと温かいお茶にした。
すぐに料理が運ばれてきて、頂く。
「ん……」
カイ様の反応からして、ちょっと生臭いのだろう。
クッキーのほうは、予想より美味しかった。店主の腕がいいのかもしれない。今度、アイリーを連れてきたら喜ぶだろうな。
「それであのぅ、お話というのは」
「うん、できればあまり、かしこまらないでほしいんだけど。
ルーヴァンさんの話というか、報告に、ナガメさんがよく出てくるんだ」
「そうなんですか?」
気になる。どんな感じに報告されているんだろう。
「ナガメさんは、アイデアが素晴らしいって。そういう話ばかりだよ」
どうやら肯定的な感じみたい。なんだかホッとする。
「それで、どうしても気になって、率直に聞いてみたんだよね。次々に素晴らしい新メニューを作っているのは誰か。そうしたら、いつになくルーヴァンが焦っていて……」
「そうなんですか」
へぇ~、あのどっしりとしたルーヴァンさんにも、そういう一面が。
……ん?これって、私がレシピ考案してることがバレバレっていう。そういうこと?
私が青ざめると、カイ様は心なしか口の端をつりあげる。
「じつは、執事のリッドに鑑定の力があるんだ。黙っておくのは、失礼だと思って。それで……重ねて失礼ながら、1度みさせてもらっている」
「!鑑定、ですか」
「念のためだよ。ちなみに、お屋敷につかえる者はすべて、リッドの鑑定を受けている。全員に知らせているわけではないから、一応は伏せておいて」
「はい、もちろんです……かっこいいですね、リッドさん」
「そうか?鑑定もちはそれほど珍しくないぞ。私も、精度は落ちるが使える」
「すごいです、私もいつか使ってみたいな」
異世界モノのWEB小説によく出てくるから、存在だけは知っていたけど。
「それで、異世界から来た人なんだよね、ナガメさん」
「え、はい。そう……なんですかね」
そういえば、最初にあった時リネンさんがそれっぽいことを言ってたな。
「転生してくる人、この世界ではそれほど珍しくないよ。高い能力を持つ人もいれば、そうでない人もいる。屋敷にも数名いるから、話をしてみたらいい」
「知りませんでした、そうします」
カイ様って、知れば知るほど仕え甲斐のある人だ。誠実だし、有能そうなのに親しみやすい感じで。
きっと、お屋敷中の人から慕われているんだろうな。
カイ様は、サンドイッチを再び口に運び、かすかに顔をしかめている。
メニューには、魔物肉ではないお肉のメニューもいくつか載っていた。
なので、わざわざ選んだということは、魔物肉のほうがカイ様の口に合うのかも?
私も何度か魔物肉スープを口にしているが、少しずつ、独特の風味がクセになる感じだ。
「お好きなんですか?魔物のお肉」
「え、ああ。そうなんだ。子どものころから食べているし」
やっぱり。私の観察眼もわりといい仕事するじゃない。カイ様の好みなら、少し魔物肉のレシピを工夫してみよう。うーん、野菜でかさ増しビッグハンバーグ?あ、チーズインもいいな。
久しぶりにゆっくりと味わう温かいお茶。ひと時の間、心を奪われた。
少しでも面白い、と思っていただけたら、ぜひブックマークを。
↓にある『☆』をタップしてもらえると嬉しいです!




