第二十五話 -魔と鬼では鬼の方が良くないらしい-
「魔か鬼か――なー君はどう思う?」
地に伏す魔族を見つめ宇美音子さんはピクニックに来ているかのようなのんきな素振りでそう言った。
ガーゴイル的な存在は魔族を迎撃したこちらを警戒しているのか少し距離をおいて眺めるばかりで魔族を助けるに至ってはいない。
いや、彼らは既に本能と命令でのみ生きる存在だろう。
本能が戦闘を避け今の警戒態勢を生み、命令で俺達を討とうとしている。
それらが相反することでこの停滞が出来上がっているのではないだろうか。
「どう思うって言われても俺にはわからんよ」
そもそも興味がないし。
どう思おうと俺に出来ることは限られているわけだし。
俺としてはそれよりも後ろのベヒス嬢が気になる。
魔道書を見たわけだし思うところがあるだろう。
それを聞くつもりはさらさら無い訳だが。
ベヒス嬢を見ると、既に立ち直しているらしい。
話したい事があったり俺と行動を共にしたくないのであれば勝手に切り出すだろう。
俺から催促する形というのはなにかが違う気がするしなぁ。
「なー君のその伸縮自在な本はなーに?」
そういえば、全く説明する間がなかったか。
「これは、か――いや、糞爺に貰った不思議本だよ」
宇美音子さんが神器を知らないとは思うが、ゲーム廃人候補もしくはそのものであるからある程度想像出来るだろう。
ゲームでは不思議な爺さんに特別なアイテムを貰うというイベントはそこそこ王道に近いイベントなのである。
いざ体験してみると何も嬉しくなかったイベントだけれど。
この世界にこれたのは行幸だけど魔道書も魔力も殆使ってないしなぁ。
なんか、使わなくても何とかなってる感が大きいし。
「ふーん。あの白い所にいたお爺ちゃん? それだったらそのチートも納得行くよー」
ああ、もしかして宇美音子さんもあの神と会ったのか。
それに、これだけの応酬で魔道書の大凡に気がついたか?
まあその方が楽だからソッチの方が良い。
楽である方だと願っておこう。
「んもー、ホントになー君無口ねえ。アタシが付き合い長いし表情でだいたいわかるけど、読み取るのってそれでも大変なんだよー」
と、言われても口に出さずに考えるのが癖に近いものなのである。
直せと言われて直せるものではない。
善処はしても構わないけれど諦めてもらわなければならないだろう。
善処しても直せる自信はないからである。
「……はいはい、わかってるわよ。言ってみただけよもー」
宇美音子さんは魔族へと振り返る。
「なー君、その本を使って彼らを元に戻せない?」
魔族に目を向けたままガーゴイル達に指を向ける。
――確かに、あれは魔法によるものなのだろうから、魔法を司るこの魔道書ならなんとか出来るかもしれない。
「やってみる」
魔道書を展開すると必要だと思う知識が流れこむ。
ガーゴイルへと変化させた魔法の構造、効果、構成工程等作成者にしか知り得ないような知識まで感覚的に把握できる。
何度やってみても――という程回数は重ねていないが、不思議な感覚である。
他では体験できないのではないかという脳の充実感を得られるのである。
麻薬ってこんな感じなのかなぁ、等としょうもない思考へと移行しそうになったので知識を吟味することでそれを矯正した。
「どう? なー君」
という問に答えるように魔力をカタチへと構築する。
幸いにもガーゴイルを人へと戻すことが出来る方法は見つかった。
後はそれを実行する工程を再現すればいい。
「バカが! そいつらをガーゴイルにした魔法は実験段階のものだ。解除しようがねえんだよ! もうやめて――」
ガークの言葉が途中で途切れる。
「くひゅっ」
「うんうーん、そうそう。そうやって黙ってれば良いんだよねー」
あー懐かしいな。
宇美音子さんってあんまりにも余計なことを喚き過ぎたら喉を潰す寸前まで握り締める癖があるからなぁ。
本人に問うても知らぬというので無意識下の行動じゃないかと言う事で考えている。
まあ、無意識下だと断言しても良いレベルでそうじゃないかと思っているのだけど。
だから今は本当に魔族が自主的に静かになってくれたと思っているのだろう。
「おし、これでいけるかな」
魔法を構築し展開すると、見る見る内に人へと――いや、肉塊へと変化した。
そういえば、元々人の原型をとどめていなかったのだった。
下手しなくてもこのまま死んでしまうので俺は若干慌てつつ回復――いや、復元魔法を展開する。
すると、面白いように傷が治っていった。
ガーゴイルから完治するまでおおよそ、10秒程である。
魔法とは非常にというか異常に便利であるなと実感した瞬間である。
「いけたいけた」
という俺の声が伴う結果が気に入らないのかどうかは知らないが魔族は嘘だ、とつぶやいていた。
俺としては完全に知ったこっちゃない。
さて、残る問題はこの魔族たちだけど――
「宇美音子さん」
「はいはい、わかってるよー。魔か鬼かって言えば鬼だもんねー」
と言うと魔族は細切れになった。
これがミンチ――は無理があるからサイコロステーキと言って販売しても変わった味の肉だなという程度で収まってしまうような具合に素敵な変貌具合だ。
ベヒス嬢が何やらいうかと思ったが想定以上に取り乱していない。
寧ろ、サイコロステーキになったこと等気にせず、いつの間に細切れになったかという疑問が頭を占めているのではないだろうか。
宇美音子さんのナイフさばきは目がなれないとついていけるものじゃないのである。
初見だとまず見切れない。
師匠の中でも群を抜いての速度を秘めているのである。
尤も、そのせいなのかは知らないが火力に乏しいという問題はあるのだが。
もしかすると、ナイフという武器の特性が原因かもしれないな。
「よしっ! 問題解決だわ。それじゃ、ここから出る?」
そういえば、ここから出る方法に迷走していたので何らかの気配があった森の中心に向かっていたのであった。
戦闘を終え、気配は実験として使用された子供しか残っていない。
その現状でも尚、脱出方法は発見できていないのである。
俺はある程度魔法を見ているので現状の深刻さが何となくわかるし、今は魔道書を展開しているので尚更理解できるのだが、宇美音子さんはそうではないのかもしれない。
それ故に気軽にいられるのか。
魔道書を使えばここの結界なんてものともせず脱出する方法は幾つもありそうだけれど。
実験に使用されていた子供は意識を回復していない為、魔道書を使うことに何の問題も見いだせないのでそれも可能だろう。
「ふっふっふー」
が、宇美音子さんのにやけた顔を見る限り、存外魔法について知っているのかもしれない。
俺は宇美音子さんがいつごろここに来たのか知らないのである。
もしかすると、俺よりも早い、という可能性もなくはない。
宇美音子さんと会うのは数カ月ぶりなのである。
その空白期間を考えるとその可能性は否定しきれるものではない。
と、そんな事を考えていると、俺が先ほど作成した宇美音子さんが持つナイフから砕けるような音が聞こえた。
鈍いが軽い、そんな不思議というか微妙な音である。
骨が折れた時と似た様な音かもしれない。
見ると、ナイフが塵のようになっていき、消滅した。
どうも、耐久値の限界が来たらしい。
宇美音子さんは少し驚いた表情をしてからスカートの中から別の何かを取り出した。
替えのナイフかと思ったが、戦闘は既に終了しているので必要性がないのでそれを注視することにした。
それは、長方形の木箱のようなものであった。
木箱、と言うわけではない。
形状がそれであるだけであって、木箱のように開閉できるシステムは採用されていないように見える。
魔道書を展開している今の俺になら理解が出来た。
「あ、それって」
「そう! これでここから出られるみたいなんだよね」
木箱のようなものは結界破り。
その様な機能があるものであった。
構成を見る限り、今までの人間が扱っていた、魔族から言うと似非魔法であるそれとは違うもので、魔族の扱う魔法ともまた違う様に感じた。
「衣玉ちゃんから貰ったんだよね」
ああ、あのエロ巫女さんか。
彼女ならあれを作っても不思議ではないと納得出来る。
あの人といる時は、何やら超自然的な現象によく遭ったし宇美音子さんが何も言わなくても何れは行き着いただろう。
「じゃ、それで出ようか。ウヌクとは反対方向から出たら良いんじゃないかな」
一応、追手のみである可能性があるので警戒はすべきだろう。
このままベヒス嬢が付いてくるかはわからないが。
「ベヒスはどうする?」
視線を移すとベヒス嬢は既に身支度を整えていた。
というより、元々持ち物はほぼないのだけど。
「ついていきます。が、その前にこれからどうするかを聞きたいです。魔族が既にこの大陸へと侵入してきているとなると事態は王達が想定しているよりも遥かに切迫してるはずです」
確かに、だな。
電話のようなものがない様なので原始的に連絡へと回っているのだがそう悠長にしていられないのかもしれない。
間に合わないことも想定して何らかの策を練る必要があるかもしれない。
いや寧ろ現状を考えると間に合わないと考えたほうがいいだろう。
エドルがどの程度の速度で連絡に回っているかはわからないが、所詮人間の足なのである。
距離は現状の道筋と比較して考えると数日程度で回りきれるものではないことは明らかなのである。
幸いなのは魔族は現状二人しか見ていないことを考えるとそう多く無いのかもしれないということだ。
断言はできないのだが。
ガーゴイルで手数を増やしているぐらいだ。
その可能性は十分あると考えて良いのではないだろうか。
「混乱を覚悟で波紋の鐘を使うべきなのかもしれませんね」
波紋の鐘――
魔道書から知識が流れ込みそれを知る。
どうも、この大陸全土にいる人々へと声を伝える装置であるらしい。
これまでは魔族の件というか、勇者達の絵の変化は公にしていなかったのだが、魔族含め公にしてしまおうということだろうか。
そうすれば一瞬で事態は伝わるはずである。
が、市民の混乱はさけられないだろう。
もしかすると、軍の士気にも関わるかもしれない。
そう考えるとやすやすと選んでいい選択肢ではないことが理解できる。
「アタシがそのエドルって人に伝えたらいいんじゃないかな」
沈黙が場を占めていた中で宇美音子さんはのんきにそう呟いた。
宇美音子さんなら俺みたいに滑空不可能という様な制限がないだけでなく、そもそもの速度が俺よりも早いため俺よりも早く移動できる筈である。
問題はエドルを知らないということか。
「エドルって人の気配はその本で教えてくれるってのは出来ないの?」
そんな万能なモノではない。
いや、待てよ。
記憶の移植なら可能である。
ならばあるいは――
「やってみたいことがあるんだけど――」
「おーけー! 早くやっちゃって!」
内容も聞かずに即答とはこれまた。
俺を信用してくれているからなのかはわからないがありがたい事である。
「おしおし、これがエドルって人の気配ね。うん、場所はそれ程離れてないからすぐに追いつけると思うよ。なー君達はどうする?」
と、喜びの余り抱きつく、という振りをして俺のほぼ全身をくすぐる様な手つきで触ってきた。
曰く、これはワキワキという名称らしい。
多分だけど宇美音子さんの勝手なネーミングであるだろう。
「俺達はこの辺りで身を隠してるよ。現状は動きまわっても意味は見いだせないわけだし」
急ぎではあるのだけれども。
取り敢えず、ベヒス嬢から何か聞いてくる機会は与えたほうがいいだろうという事を思ったからこの選択を選んだと行っても過言ではない。
「おっけー、そんじゃエドルって人にどうすれば良いか聞いてきたらいいんだよね? 行ってくるねー!」
と、危ない。
「どうやって聞いてくるんだよ。取り敢えず翻訳魔法を施すからちょい待ってくれ」
ベヒス嬢と宇美音子さんの様子をみる限り言語が通じていない。
俺はこの神器の影響か、言葉を話せているらしいが宇美音子さんにはそれがないらしい。
聞いてみると、俺はベヒス嬢と話す時はこちら側の言語を話し、宇美音子さんと話す時は日本語を話しているらしい。
今まで気がつかなかったが最も役に立っていた恩恵はこれであったらしい。
「これで良し。んじゃ、頑張ってね」
「はいはーい、頑張ってくるよー」
宇美音子さんが消えるのを見届けると俺は魔道書をしまった。
魔法で速度上昇を促した宇美音子さんは既に目視できるレベルではない。
真面目に見ようと思っても辛うじて見える程度だろう。
あの調子なら数日もしないうちに戻ってくるだろう。
宇美音子さんに各国への連絡を任せられたら楽なんじゃないかと思わなくもなかった。
俺がそんな事を考えてつったっているとベヒス嬢がついに話を切り出した。
「ナーク、その本は魔道書――神器ですか?」
いきなり根源を付く。
存外ベヒス嬢は容赦がないらしい。
まあ、話しても良いと判断したから使った訳なので問題はないのだけれど。
寧ろ話が早いと言って喜べば良い場面なのか。
「神器なのかはわからないな。言えるのは神から貰ったモノだから普通じゃないって事か」
「では、ナークは魔の勇者、と言うことになるのでしょうか」
ポジション的にそれは十分にあり得る話ではある。
が、神的に言うと飽きがないのでここに置いただけであって別段特別というわけではない。
そう考えると――
「いや、多分そんなもんじゃないだろうな。たまたま便利グッズを持っている一般市民、そんな位置づけじゃないかな」
「一般市民が持つ魔力量ではないです。一瞬だけでしたが、魔族を上回ると言っていい魔力をナークは有していました」
そう考えると普通の立ち位置じゃないと言いたいのか。
あれは神なりの謝罪というものなのではないだろうか。
俺からすればメリットではないのだけれど。
使わないし。
「まあ、それは色々と事情があるからな。説明はめんどうだから割愛するけど、俺の立ち位置に響くような要素じゃない」
ベヒス嬢はそれをどう受け取ったのか、頷いて質問は終わりであると伝えてきた。
なにやらベヒス嬢なりに納得できたらしい。
俺が魔の勇者というガラじゃないというのもあるかもしれないなぁ、と若干ふざけ気味に思った。
魔の勇者であるなら、俺は魔法を使って戦うべきなのである。
能力や魔道書自信と魔法は別物であるので俺は事実上ほぼ魔法を使用していない。
恩恵である魔力は多少使用したが、それでも魔法には至らない。
あくまで魔力を運用したという位置づけである。
魔の勇者というものが魔法の勇者ではなく、魔力の勇者であるならまた話は変わってくるのだろうが、それでも該当するほど魔力を乱用していないように思える。
殆が肉弾戦で済んでしまっているのである。
俺が魔法使いなら、これほど武闘派な魔法使いはこの世界にはいないだろう。
エドル等は魔法を使いはするが、魔法使いではなく剣士だろうし。
ベヒス嬢のような存在も居るわけだから、ベヒス嬢やエドルのように間違いなく人間の最上位に入る実力を持つ人間の中には武闘派の魔法使いがいるかもしれないけれども。
何にしてもそれらしくないというのはついてまわるだろう。
俺自身、魔道書の魔法に対しての反則性はある程度把握しているが、それでも魔の勇者であるかと言われると首をかしげざるをえないのである。
魔法は扱えるが、それは常時というわけではないのである。
現状、勇者はユウトとカタブキしか見ていないが、身体強化等の恩恵は常時施されていたように見えた。
運用されている力は魔力ではなく、別の何かであったのでそこまで詳しく見ることが出来なかったがおそらく間違いはないだろう。
常時気配が大きかったのである。
魔の勇者の恩恵であるであろう魔法知識が一時的にしか与えられない事を鑑みると俺はそれとはまた違うということが理解できる。
勇者とは似て非なる存在、それが俺の立ち位置なのではないだろうか。
「んじゃ、もう質問とかないのか?」
ベヒス嬢が頷くのを認めてから俺達は身を隠す場所を探すことにした。
周囲から確認しづらい場所であっても宇美音子さんは俺達の気配を察知してくるだろうし、俺も宇美音子さんの気配をある程度察知できるので落ち合えるだろう。
「あ」
よく考えたら宇美音子さんから結界破りを受け取らないままに行かせてしまったので俺はここから出られない。
魔道書を使うなら話は変わるだろうが。
「結界破りないしこの森で時間潰すか」
業々ここを出なければならない理由はほぼないし。
助かった子供辺りはウヌクへと届けたい気がするが。
先に見た結界破りの構成を応用すれば一時的に出ることが可能か。
「俺、こいつら届けるだけ届けてくるわ」
「わかりました」
今、ベヒス嬢がウヌクへ向かうのはあまり良くはないだろう。
俺単体なら逃げ切れてもベヒス嬢は移動が得意というタイプではないのでその場合足を引っ張る事になる。
結界破りの構成を真似て魔法を構築し、展開すると、結界に穴が開くのが目視できた。
目視とは言っても、魔力の流れを見たというものなので常人には目視出来るものではないのだが。
何はともあれここから出られそうである。
俺は子供を担いでウヌクへと戻ることにした。
一応、いつ追手とエンカウントするかわからないのですぐさま子供をおいて逃げ出せる準備を怠らない。
現状、俺の警戒網に引っかかる気配無い為それ程気張らなくて良いかもしれないが。
子供に負担をかけない程度の移動であるので先程よりも時間がかかってしまったが、致し方ないか。
さて、いざウヌクへ到着してみるも、警察という組織がないためどこに子供を置いてくればいいのかわからないし、そもそもウヌクの子供なのかも怪しい。
近くの集落がここであるので安直に来てしまったが今更であるが少々心配である。
もう少し事情に詳しいベヒス嬢の判断を仰いでからでも遅くはなかったのではないかと後悔するばかりである。
俺はこの世界には伝がないため、助けを乞うわけにも行かない。
故に、押し付けられる人員がいないのである――
マスターにおしつけるか。
それなら酒場の前にでも置いてくれば万事解決ではないだろうか。
すぐさま雲隠れすれば俺が犯人だとバレもしないだろうし。
問題は子供の親が既にいない場合である。
誰が養うのかという話になる。
下手すればマスターが養わなければならなくなるが、あの強面だ。
子供の躾は何もしなくても勝手に律されるであろう。
健やかに育つかは保証しかねるが。
俺なら二日としないうちにショック死しているかもしれない。
下手すれば目覚めた瞬間にあの顔が視界に入る可能性がある。
それならばその時点でショック死だろう。
即死とも言う。
ゴーゴンも真っ青なあの致死性と効果範囲を持ったあの強面は人間が所有していていいものかと疑問に思わざるをえない。
おまけに、あの緑色のトーストのコンボである。
味は保証されるのだろうが見た目が保証されない。
目覚めて強面に迎え入れられ緑トーストを口の中に放り込まれたら確実に死ぬ。
死ななくても廃人になる自信がある。
緑トーストがこの世界での一般的な料理であるなら後者の問題が排除される為、子供たちならあるいは助かるかもしれないが、俺はあの場所以外でも食事をした経験がある。
その際に緑トーストを見かけなかったし露店で見られる数々の惣菜を見てもそれは見受けられないため一般的な料理ではないように思えるので問題が片方排除されるという考えは甘いモノだと実感せざるを得ない。
「マスターの所は駄目だな」
俺の良心というか人間性が許さない。
あそこにおいてくるということはその子供を殺すと同義である。
ならば、猟兵所ぐらいしか思いつかない。
軍辺りまで運ぶのもありだが、手配されている可能性がある俺である。
もしかすると子どもが仲間だと思われ、何やら宜しくない待遇で迎えられるかもしれない。
それもやはり良心というか人間性が許さなかった。
「仕方ねえよなぁ。身分証あるし何とかなるだろ」
と、俺は安直にも猟兵所の扉を開けたのだった。




