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魔王物語  作者: ragana
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第二十六話 -強き者が勝者であるとは限らない-

「ちぃーっす、お届けものでーす」

 なんて軽いノリで入れることを願いたかったが、中を見ると筋肉隆々の猛者が大半を占めていたので目立たないようにこっそりと入ることにした。

 子供は適当にその内目に付く場所においておけばいいだろう。

 それ以降のことまで面倒をみる義理はない。

 正直、理解しているのだ。

 この世界に来てからの俺は明らかにトラブルメーカー体質になっているのだろうという事を。

 よくある漫画の主人公のようにそれの事などに全く気がつかないなんて事があれば気が楽だっただろう。

 が、生憎こう連続してと言っていい程度に短い間隔で何度イベントというか面倒が発生すれば自覚する程度に俺は過去を振り返る男なのである。

 神が何やら余計なことでもしでかしたのではないだろな。

 そうであるならあの糞爺に一発拳をお見舞いしてやらねば気がすまん。

 いや、してやろう。

 俺にこんな余計なパッシブスキル『トラブルメーカー』が付加されたのにそれを無効化するなりの対処をしなかった糞爺は拳を往復移動させる目的地に推奨しても良いと想う程度にジャイアン的思考回路で思考してやろう。

 と、心の中で好き勝手考えていたのだがよく考えたらこういう面倒が発生する原因の一つでよく表記されるのは天罰とかなのだろうが、その天罰の発生源というか天罰を落とす人物は神であった。

 そしてその神は例の糞爺である。

 ……もしや、この不敬具合が原因でパッシブスキルが付加されたのではないだろうな。

 そうであるなら早急に改善が必要だ。

 だが、到底改善できるように思えない。

 俺の中では尊敬できない人物Best10にランクインしてしまっているのである。

 全力を持って票操作を試みるも上手く行くはずがなかった。

 人間には限界があるのである。

 この神と言う名のあの糞爺を尊敬するということは人間の限界を超えている事象の一つであるとここに宣言しよう。

 賄賂を渡されようと命に手をかけられ脅迫されようとも恐らくは不可能だろう。

 表面上は可能であるだろうが、今のように内面でそれは行える自信はない。

 寧ろ、反抗心によって更に内面は反抗的になるだろう。

 そう考えるとこのパッシブスキルの付加は避けられないもので仕方のないものなのかもしれない。

 それ故に更に反抗心が芽生える。

 ――どうも俺は半永久的に神への不敬度合いが上昇する一途である運命下にある様である。

 悪循環の極みなんじゃないかなこれ。

 まあでも俺にはどうしようもないから諦めるか糞爺に直談判で改善を要求するしかないか。

 宇美音子さんは神器を持っていなかったから自力出来たのだろうか。

 あ、いや、丹分清のエロ巫女がオカルティックだったし、あの結界破りを含め宇美音子さんに色々と助力していたからなぁ。

 エロ巫女の手助けがあるなら神に会えた事も納得である。

 後で方法を聞いてみるのも悪くないかもしれない。

 もし俺でも実行できる方法なら試してみてあわよくば改善を要求しに行ってもいいかもしれないな。

 面倒そうだけど。

 面倒そうだから誰かにやってもらうか。

「おい! あの村の生き残りはいなかったんじゃ!?」

 誰だ急に大声を出しやがって。

 ――話的に盛り上がりに欠けるだろうが流石にこの展開だと俺のパッシブスキルが発動した事ぐらい勘づける。

 大凡、ここに運んだ子供がいた村はあの魔族に壊滅へと追いやられていて生き残りがいなかったはずなのになんで此処にいるんだと騒ぎ始めたのだろう。

 案の定周囲の人間の声を聞いてみると俺はエスパーかとツッコミが入っても差し支えのない程度に予言と言える予測であった。

 そうと分かれば後は簡単である。

 見つからないようにここから脱出と逃亡を行えば良いのである。

 抜き足差し足忍び足とはよく言ったものだ。

 こっそりと移動しようとするとその言葉が似合う歩き方になりがちなのである。

 いや、俺だけかもしれんが。

 流石にわかる。

 このままだと俺が連れてきたという事までは判らずとも何やら関与している又は知っていると思われてしまうだろうと言う事を。

 幸いにもタイミングよく子どもが目覚めそちらに周囲の注目が集中している。

 逃げるのなら絶好の機会――

 うぇ、子供よ、こっちをガン見するな。

 バレたらどうする――もう遅いか。

「お前、何か知ってるのか?」

 取り敢えず、指名手配犯になっている可能性があるので顔は伏せ体勢を低くし見えないようにと悪あがきを行使する。

「おい、答えろや!」

 というか、何故こんなに喧嘩腰なんだコイツは。

 肩を掴まれそうになったので取り敢えず手を弾き出来るだけ最速で出口へと移動を試みた。

 都合の悪いことにここにはそこそこの使い手がいたらしく何人かはそれに反応したのかしなかったのかは知らないが結果的に俺の進路を妨害する位置で待ち構えていた。

 それに俺は思わず舌打ちをした。

 背後では武器を手に取る気配が感じられる。

 よく考えたら証拠など全く無かったので素知らぬふりをしていればよかった。

 後悔先に立たずである。

 このポカは非常に大きく辛いもので自分をフルボッコにしてやりたいと本気で思ってしまいそうなぐらい問題のあるものであったがまだなんとかなる。

 巻き返しというか対処法というかその辺りはまだ潰えてはいない。

 とは言っても俺に出来ることは結果的に逃走だけなのだが。

 このまま捕まれば明らかに面倒事に巻き込まれることは目に見えている。

 現状で手遅れ感が少からず漂ってはいるが諦めるよりはマシだろう。

 いかんな、若干弱腰になってしまっている。

 エドルみたいな変態的な強さを秘めいている奴はいなさそうなので数十人に囲まれているが何とか脱出だけなら触れられること無くこなせるだろう。

「答えろって言ってるだろうがああ」

 だから何故そこまで喧嘩腰なんだ全く。

 まだ体面ほど敵対意識は無いらしく、振り下ろされようとしている剣は軌道的に俺を切り裂く形ではなかった。

 外すのではなく、峰打ちという形になるだろう。

 当然、それも痛いので御免被るわけだが。

 折角の気遣いも方向性を良い方に向けてくれなければいい迷惑なのである。

 周囲の装備を確認しがてら辺りを見回してみるとこの包囲は偶然出来たものであることがわかった。

 必然にしては穴が空きすぎていて形も崩れている。

 そしてそれを修正しようという素振りがないのである。

 なら、現状それ程警戒はしていないのだろうか。

 少なくとも包囲網を築くほどまでではないようだ。

 ソレ以上に目を引いたことが一つあった。

 ここにいる武芸者らしき人物は全員異常なまでの重装備であった。

 過去を例に上げるのであれば、ヌーダイセ王国でエドルと死闘――と呼べる程でもないが戦闘をする事になった大会に出場するのかというような装備である。

 もしくは、ベヒス嬢と賊臭い集団の戦闘に介入するのかと言うような装備である。

 つまりは己が持てる最高装備なのではないかと問われるような装備なのである。

 俺も殆どこの世界の住人と関わりを持っていないが、平均的に見かけるソレとは別次元の装備である。

 何やら大きな仕事でもこなして来た後なのだろうか。

 それとも逆に今からなにかあるのだろうか。

 ――気にはなるが気にすべきことではないか。

 今はそこまで余裕ないし。

 俺は数多くの武芸者に囲まれても余裕綽々でニヤニヤしていられるような神経の図太さではないし、実力もないし変態でもないのである。

 俺が露骨に出口の方へと意識を向けているフリをした為皆が皆出口の方へと立ち位置を変え塞ぎに掛かり始めた。

 ようやく敵対意識が芽生えてきたらしい。

 全員の顔つきも強ばってきていることが明らかである。

 子供は未だ付いてこれていないのか俺をガン見したままである。

 それが引き金だと子供のせいにするつもりは毛頭ないが、ガン見は止めて欲しいものだ。

 まあ、もう今となっては関係ないのだが。

 全員がよってたかって安直に出口をマークしたところで俺は脇にあった窓から出るというフェイントをカマしてから普通に壁をぶち破って脱出した。

 無論、その勢いに乗せてそのまま突っ切る。

 脇道を見かけたら即行曲がるという戦法を行使することですぐさま撒くことに成功した。

 前の世界のスリに聞いた逃走法である。

 中々に有効活用させてもらっている。

 前の世界でも脱獄した時の追手から逃げるときに大いに役立ってくれたし。

 次あのスリに会うことがあればお礼をしてやらねばならんなぁ。

 何はともあれ一旦逃げ切れたのは大きいな。

 このまま捕まったら面倒事起きるってのあるけど、多分ベヒス嬢とかに迷惑かけちゃうだろうしな。

 全力で逃げさせてもらいますよ、と。

 この世界の科学力というか生活力というか、取り敢えず前いた世界のようにかなりしつこい追手が科学力で再現されていなくてよかったと思う。

 前の世界であの状況だと下手すれば捕まっていただろうし。

 逆にここの世界で注意すべきは、道が鋪装されていないからヘタこいて気がつかずに崖から自由落下とかしないようにということか。

 個人的に精神の生死に繋がるので細心の注意が必要なのである。

 もし自由落下しようものなら明らかなオーバーキル的ダメージがスリップダメージよろしく常時蓄積されていくのである。

 最早生き延びることなど不可能と言えるだろう。

 次に気をつけるべきはがけ崩れだろうか。

 この辺りの地層は乾燥気味らしくそこそこ崩れやすくなっている。

 崖の上にいる時に崩れて諸共落下するという危険性を孕んでいるが、ソレ以上に気がつかない可能性がある危機は下を歩いている際に上から岩が落ちてきて生き埋めになるパターンだ。

 生き埋め自体は問題ないのだが閉所へと押し込められる。

 それは自由落下同様オーバーキルのスリップダメージが施される事になる。

 この辺りもその例に漏れない。

 故に迂闊に全力で走れないのだ。

 いや、走れるが怖くて走れないのである。

 情けないとか思うかもしれないが俺にとっては銃を頭に突きつけられトリガーを引かれることよりも生死に関わるのである。

 それに遭遇するなら銃を頭で撃たれたほうがまだ生存率が高いというものだ。

 現状は一時的な意識の喪失だけで済んでいるが、そのまま目覚めず実質的なお通夜状態になっても不思議ではないと自負しているのである。

 目覚めなかったら楽になれるかなってたまに思ってしまうぐらい参っている俺がいなくはない。

 剣や銃といった武器に対しては全くと言っていいほど恐怖感がないのだが、高所や閉所もそれに見習った反応ができるようになれば良いのだが夢のまた夢というか、理想というか幻想に近い。

 例えるなら、おとぎ話に近い程度に儚げで朧気で現実味がない。

 簡単に言えば、俺自身実現不可能だと諦めている。

 一時期は改善の余地があるだろうとトチ狂ったことを考えて敢えて高所や閉所に身を委ねたこともあったが、先に精神が瓦解しそうだったのである。

 ちなみに、先の猟兵所はもう少しで閉所認定されるという際どいラインであった。

 もう少し規模が小さければ俺は発狂していただろう。

 危ういところであった。

 と、そんな事を考えている内に猟兵所にいた奴らの気配が戻っていったので諦めてくれたらしいことがわかった。

 そろそろここを後にして待っているベヒス嬢の元へと戻ろうとしようか。

 というか、あまり時間を掛けていると宇美音子さんも待たせることになりかねないのである。

 宇美音子さんの行動力のありあまり具合と爆発力と持続力と無駄さは半端ではないのだ。

 並々ならぬモノを感じざるを得ない行動力なのである。

 そして、ソレに比例して物理的な行動力も上昇するのである。

 先程見た感じ、そこそこ機嫌がよくテンションが高そうであったので想像を絶する行動力を伴っているだろう。

 もしかするともう帰ってきているかもしれない。

 そんな有り得ないことでも現実的だと錯覚してしまいそうだ。

 エドルは俺が感知できないほどの遠方にいるが、宇美音子さんだと感知出来る程度の範囲にいたのである。

 それならば常人なら馬に乗って数日ぐらいで追いつく程度の距離だろう。

 宇美音子さんならテンションが低くてもその半分ほどで追いつける。

 テンションが高い今は未知数である。

 まあ流石にもう帰っているなんてことは物理的に有り得ないのだが。

 なら、必然的にあの森又はあの森付近にて数日待機することになる。

 となると、ここから森へ行く所は誰にも見られないように注意をする必要がある。

 面倒は避けてもまた別の面倒がやってくる。

 それこそ面倒である。

 よくいる逃走者は路地裏に逃げこんでそのまま人気のない場所を通って逃げおおせたりするだろうが、実際問題、ソッチの方が捕まりやすいというか見つかりやすい。

 と、俺は考えたので当然それを補う方法で逃走を試みる。

 人が大勢いる大通りを敢えて通るのである。

 服装も民間人と違和感が無いように能力により形状を変化させ馴染む。

 歩調も武芸者以外のそれと同じようにするのは勿論、重心移動などもそれに合わせて変化させる。

 こういう偽装は師匠の一人である秋田山小波に相当仕込まれた。

 俺が尤も会得に苦労したものの一つだろうものがこの偽装である。

 秋田山さんは隠密機動等による捜索や潜伏、偽装という技術に特化した人だった。

 最初、それを聞いたときは忍者かと思った。

 ちなみに、偽装とは言っても、変装したりではなく今のように重心を偽装したりというものである。

 正直、俺はその系統の技術を使用することは滅多に無い為、日に日にその知識は霞となって消滅していっている。

 今もその知識のかすれ具合から何かポカをしていないかと不安で仕方ない。

 が、このまま走って逃げようにもよく見るとこの街は塀で囲まれていたのでコレしか方法がなかったのである。

 不安にかられて答え合わせ的に周囲の一般人と自分の重心移動を比較しみる。

「……大丈夫だな」

「何が大丈夫なんだ?」

 不安の余り周囲と答え合わせしたが大丈夫そうであった。

 これならバレないだろう。

 不安が多少拭いされて気分が改善された。

 良いことである。

 ん、いやちょっと待てよ

 俺は慌てて横を見る。

 そこには俺と並んで歩いている少年がいた。

 当然、先の子供というわけでも俺の知り合いでも前の世界の住人でもない。

 知らない人である。

 魔族っぽくなくてよかった。

 魔族だったら死に物狂いで全力で逃げている所である。

「急に黙りこんでどうした?」

 俺は元々口に何かを出して意思疎通をしようと図る人間ではないのでこれが通常である。

 俺を知らない人間にはそれは知るよしもないだろうが。

 気になるのはこの少年が何故俺に話しかけてきたかである。

 俺は話しかけたつもりはないし、そうと誤解されるセリフを吐いたつもりもない。

 嫌な予感がしなくもなかったので一般人的に怪訝な表情をして見せてから多少歩調を早めた。

「ちょっとー逃げないでくれよ。まだ返答してもらってないし用事あるんだよねー」

 そういえばこのウヌク国はヌーダイセ王国で聞いた限り熟練者が集っている場所であったか。

 冷や汗と呼べる液体が見えないところで吹き出ているのではないかという錯覚に陥る。

「僕ねー、さっき猟兵所から逃げた不審者を追ってるんだけど――」

 是非ともそこいらの一般市民に不審者を見なかったかというような刑事ドラマでよくありそうな聞き込みというヤツにして欲しい。

 ソレならば懇切丁寧にホラを吹きこんであげようじゃないか。

「いやー、不審者なんて俺は見なかったなー」

 取り敢えずそう返す。

「そりゃそうだろうね。なにせ君が不審者だ」

 バレているのか?

 だが、不審者という言い方であるのでそうであるとは言い難い。

 バレているならソレは既に捕縛されていてしかるべきだろう。

 猟兵所の奴らを見る限りはソレぐらいの血の上りようだったし。

 適当にごまかしてこの場を去ることにしよう。

 応援が来ら穏便に逃げることは叶わないだろうし。

「それは悪かった。だけど俺はそこの路地から来たから猟兵所からは出てきてないんだわ」

 ご苦労さん、と呟いて少年から離れようと試みるが袖を掴まれて転けそうになった。

 なんだこいつは、という様な目を向けてみたが少年は悪怯れる節など一つも見せずに飄々としている。

 親の顔が見てみたいというものだ。

「あんたがさっき猟兵所から出たヤツだろ?」

 少年の目は少年らしからぬ目であった。

 今人を殺してきたとかいう目ではなく、今からテロを起こして大量虐殺するぞとか猟奇殺人者を思わせる目である。

 背筋が冷たくなる目線というヤツだ。

「いや、だから俺はそこの路地から――」

 言い逃れ出来るとは思えないが一般人を必至に装う。

 やはり何かポカをしたのだろうか。

 こうも簡単にバレるほど秋田山さんのシゴキはぬるくなかったはずである。

 確かにここは熟練者が集う場所であるのだが、少年は少年である。

 この少年と呼ばれる程度の年齢で偽装を見破れるほどの実力が得られるかというと首を傾げるのではなく横に振らざるをえない。

 少年は8歳程度の外見なのである。

 前いた世界なら天才と呼ばれる極一握りの存在ならあるいは可能だったのかもしれないが、この世界はそれ程武術に長けていないし、少年から魔力をあまり感じ無いので熟練の魔法使いという訳でもなさそうなのである。

 いや、魔法使いに詳しい訳ではないので早計かもしれんが。

 どちらにしても、俺の偽装を見破り、しかも気づかれない内に人ごみに気配を紛らせて接近するとなると相当の実力者である。

 エドル程の実力者であると順当に言えばそうなるが、魔法があるこの世界ではそうとも言い切れないのが少しの救いである。

 それが幻想なのか真実の救済であるかは未だ不明であるが。

 出来れば救済であって欲しいと願うばかりである。

 俺の精神上では既に土下座の勢いである。

「それは無いね。だって、あんたは猟兵所から逃げ出したヤツと同じ波長を感じる」

 波長、とは何のことだろうか。

 もしや気配のようなものを指しているのだろうか。

 ああ、そういえば、重心偽装はしたが気配の偽装をし忘れていた。

 ブランクとは酷いものだ。

 俺はこのタイミングでそれを噛み締めることになった。

 とても望んだ状態ではないな。

「気のせいだろ、気のせい。じゃ、俺用事あるから!」

 あばよ、と叫ばん勢いで少年の手を振り払い早足でその場を後にした。

 が、少年の足音は未だ背後から聞こえてくる。

 逃げきるに至れてはいないらしい。

 今すぐ全力疾走して逃走を試みたいが、人ごみがソレを許さない。

 俺が高所恐怖症でなければ側面の建造物の壁を走ったり、建造物を塀もろとも飛び越え一気に脱出を図れるのだが、今それをチャレンジする気にはなれない。

 もし失敗して捕獲されてしまえば逃げ切れるかは断言できかねるからである。

 魔法とか言う道と言っていいもので捕縛されようものなら手も足も出ない可能性があるし。

 魔道書を使えばなんとかなるだろうが、両手足を捕縛でもされてしまえばそれを使用することも出来ないだろう。

 泣き出したい思いである。

 俺は子供を届けに来ただけなのに何故こんな目に合わなければならないのだ。

 少し怒りがこみ上げてきたが、やり場に困るのでなかった事にしようと努めた。

 相も変わらず少年の足音は途絶えない。

 距離も離れていはいないようである。

 このまま少年を撒くことが出来ないまま街を出ることになってしまいそうだった。

 騒ぎを起こさずに撒くのは至難の業だろう。

 騒ぎを起こしてもいいなら幾らか方法はあるだろうが。

 仕方ないので多少騒ぎが怒ることを覚悟で賭けに出てみるとしようか。

 最悪、この街に来れなくなるだけなので大したことはないだろう。

 俺の捜索が厳重になっても多少は逃げ切れるだろうし。

 ここで顔が割れて更に捕まりやすくなるよりはマシである。

 俺は少し走っているという程度まで速度を上げる。

 前触れ無くやったため背後から聞こえる足音からは焦りが感じられた。

 多少の焦りが漏れたがそれでも未だに背後を付いてきている。

 幸い、多少距離を離せたようではあるが。

 俺は目についた路地へと跳び込むように曲がった。

 足音は聞こえるが、急に曲がった俺を今は視界に入れていない。

 ならば後は早い。

 少年は気配が読めるようであったので、偽装ではなく遮断した。

 気配を消すのは師匠全員にしごかれたものである。

 かなり重要なのである。

「形状実装(リード)」

 横の壁を変化させ壁へと偽装し、素材として壁を使ったので壁に穴が開いた。

 当然俺はその穴に潜り込む。

 運良く壁の先には誰もいなかった。

 何やら雑貨店のようであるが今は店員の姿が見えない。

 昔あった駄菓子屋のようなシステムなのだろうか。

 取り敢えず俺はそのまま普通に出口から出て人ごみに紛れた。

 どうやら無事に逃げおおせそうである。

 路地の方を見ると少年はどうやったのか作った壁を破壊していたところみたいであった。

 こちらに気がついている素振りがないのでそのまま街の出口へと脚を向けた。

最近はヌルヌル話が進んでいった気分だったのですが、今回はまた話の展開がありませんでした。

反省しています。

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