02-1
とある日の昼下がり、ダリアはいつものように執務室で仕事に追われていた。
その横ではランダルが届いた手紙をチェックしている。その中から白い封筒を見つけると、「届きましたよ」とそっとダリアの前に置いた。
招待状と書かれたそれを見てダリアは思わず固まる。
「とうとう来てしまった」招待状を指先だけで嫌そうに持ち上げ、大きく溜め息をついた。
「王家主催の夜会なら断ることなんてできないわよねえ」
姉を追い出した悪女なので、夜会やら茶会やらの社交の類は一切断ってきた。そもそも、貴族女性たちが集まる茶会には悪評が広まりすぎて呼ばれることすらなくなったわけだが。
「エスコートはどうされます?」
「どうもこうもないわよ。エスコートしてくれる人なんていないんだから、ひとりで行くわ」
「クライド様にお願いしてみては?」
「ダメよ。私とは関わりがないと思わせないと。彼にまで迷惑がかかるわ」
「エスコートしてもいいよ」突然声が聞こえた。
執務室のドアが開いていて、紅茶を運ぶメイドに続き、その後ろからクライドが入ってきた。
「ちょうどいいところに来たみたいだね。エスコートしてくれる相手がいないなら俺がやるよ」
「結構よ。ひとりで行くと最初から決めていたし。挨拶だけしてさっさと帰ってくるわ」
「当主になってから初めての公の場だろ。ひとりで出るのはきついぜ。針の筵だ」
「それでも一人で行くわ。当主になったときに覚悟したもの」
「ノーバック子爵家は君に借りがあるんだから、エスコートさせてよ。親にも君を助けるように言われてるしさ」
「私のエスコートなんてしたらあなたの信用ガタ落ちになるわよ。婿に来てほしい男ナンバーワンから陥落するわよ。そもそもあなたは他のご令嬢からエスコート頼まれてないの?」
「周囲には稀代の悪女にも優しい俺としてアピールするから大丈夫。むしろ株があがるよ」
それにね、と続ける。
「君が夜会にどう出るか、賭けの対象になってるんだよ。一番人気が欠席で、次が一人で出席。誰かにエスコートしてもらうってのは大穴なんだよね」
ダリアを見てにやりと笑う。
「ほら、うち貧乏だから」
ダリアは思わず吹き出した。
そんな賭けが本当にあるのかどうかはダリアにはわからないが、それは言い訳に過ぎず、ただダリアを思いやってのことなのはわかっている。
結局、クライドに頼ってしまう。そんな自分に嫌気が差しつつも、気にかけてくれることを嬉しいと感じてしまう。
「私にはまだまだ覚悟が足りないわ」
誰にも聞こえないように小さな小さな声でつぶやいた。




