閑話 娘が欲しい侯爵夫妻
閑話です。読み飛ばしていただいても、本編に影響はございません。
「こんばんは、エルローザ嬢。」
「こんばんは、セヴラン様。本日もよろしくお願いします。」
形式的な挨拶は程々に、ふたりはセヴランの馬車に乗って城へ向かった。
「贈ったドレスを着てくれて、嬉しいよ。良く似合っている。」
「ありがとうございます。このドレス、グラデーションがとても綺麗ですのね。」
「以前の可愛らしいドレスも良く似合っていたが、今日のような落ち着いたドレスもまた、良く似合うな。」
「セヴランさんも、今日のお召し物もとても素敵です。」
もし今、セヴランのもうひとりの友人であるオスカーがこの場に居れば「これが友人の会話か!?」と叫んでいたはずである。
「そういえば、以前のドレスも、今回のドレスも、セヴランさんが選んでくださったのですか?」
「ああ。君に似合うと思ったのだ。」
「そ、そう、ですか。」
「ローザ?」
「いえ。」
エルローザは準備中に話した侍女たちとの会話を思い出した。
―お相手のお色を身に着けるのは恋人の証ですもの!―
―同じ色と素材の衣装を着けるカップルも多いのですよ!―
―婚約式の定番でもありますし!―
セヴランはそれを承知で、彼の瞳の翡翠色や髪の黒色を選んでいるのだろうか。そう思うと、顔が熱くなったけれど、それを聞くことは出来なかった。
「‥‥今日は、セヴランさんのご両親、サジテール侯爵ご夫妻もいらっしゃるのですよね?」
「ああ。」
「それでは是非、ご挨拶をさせてください。こんなにセヴランさんに良くしていただいておりますのに、まだちゃんと挨拶もしたことがないだなんて、本当に申し訳ありません。」
「気にしないで良い。それに‥‥。」
「?」
「いや‥‥母上は少々勢いが良い女性だから、その、ローザが驚いてしまわないかと‥」
「もしかしてセヴランさんが、会わせようとしていなかった、ということですか?」
「あ、ああ。すまない。」
「‥‥、私は、侯爵夫人にお目にかかるに値いしませんか?」
「そんなことはない!断じて!そんなことはないとも!」
「でしたら!挨拶させてください。」
「ぐ‥‥わかった。」
「はい。」
そうしている間に、夜会の会場である城へ到着し、ふたりは広間へと向かった。
皇族への挨拶を終えると、エルローザの希望の元、すぐにサジテール侯爵夫妻の元へ向かった。
「初めまして、アニュレイ伯爵令嬢。ベルトラン・サジテールです。」
「初めまして、ニコル・サジテールよ。セヴランの申し出を受けて下さって嬉しいわ。」
上の者から発言するのが貴族の礼儀である。セヴランの両親、サジテール侯爵夫妻はにこやかにふたりを迎えた。
エルローザはサジテール侯爵夫妻に対して丁寧にカーテーシーをして名乗った。
「お初にお目にかかります、サジテール侯爵、サジテール侯爵夫人。セヴラン様にエスコート願えるとは、光栄なことでございます。」
「まあ、エルローザ嬢。そんなにかしこまらなくて良いのよ。セヴランの‥‥ご友人ですもの!私とも仲良くして欲しいわ。」
「母上、」
「いいじゃない、セヴラン。こんな可愛らしいお嬢さんをひとりじめしていたのですもの。ね、エルローザ嬢、今度家にいらっしゃい。一緒にお茶をしながらお話ししましょう?」
「光栄です、侯爵夫人。私でよろしければ、是非。」
「あら、侯爵夫人ではなく、おか‥」
「エルローザ嬢!」
「っ!?」
セヴランが侯爵夫人の声を遮るように声を出した。少しだけ大きく、唐突であったので、名を呼ばれたエルローザはビクッと一瞬返答が遅れる。
「は、はい、セヴラン様。」
「驚かせて申し訳ない。‥‥私と一曲、踊ってくださいますか?」
「え、ええ。喜んで。」
何事かとエルローザは思ったが、セヴランはひとつ咳払いをして、優雅に手を差し伸べた。紳士が淑女にダンスの申し出をする礼である。エルローザは不思議に思いながらもその手を取った。
「では、父上、母上。私たちはこれで失礼します。」
「‥お話の途中で申し訳ございません。」
「気にしないで、エルローザ嬢。家に来て欲しいというのは、本当よ?是非いらしてちょうだいね。」
「はい、是非。楽しみにしております。」
エルローザがそう言って微笑むと、侯爵夫人の後ろで侯爵が頷いた。それからセヴランがエルローザをエスコートしながら、ふたりは会場の中央へ向かった。
「‥‥少し気が早かったんじゃないか。」
「だって、あなた。見ているこちらが、もどかしくなってしまったのですもの。」
「それは分からんでもないが。」
「すごく良い子だわ。早く娘になってくれないかしら。」
「そればっかりは、セヴランに頑張ってもらわねばならんからな。」
「あら。あなただって娘に「お父様っ!」って呼んでもらいたい願望がお有りでしょう?」
「む‥‥。」
「アデーレちゃんも娘になってくれたけれど、フェリクスがあまり連れてきてくれないのですもの。息子が3人もいるのだから、娘も3人くらい欲しいわぁ。」
「‥‥‥‥うむ。」




