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27 また会えた

「ルダス‥!」


 イリスの執務室から出てきた執事のルダスに、息を切らして駆け寄って来たのは、エルローザだった。彼女が屋内を走るなんてことは珍しいにも程があり、ルダスは目を丸くして驚いた。


「これはお嬢様。そんなにお急ぎで、いかがなされましたか?」

「これを!急いでサジテール侯爵家へ届けて欲しいの!」

「いつもの文通ではない、と。かしこまりました。すぐに馬を出します。」

「ありがとう!!!」


 彼女が手渡したのは1通の手紙だった。その手紙は今朝エルローザ宛に届いた手紙で、送り主はセヴランだ。いつもの文通の返事かと思いながら、本文に目を通したエルローザは絶句した。何度も何度もその文を読み直した。夢かと、思った。



*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--

 親愛なるエルローザ嬢


 前回いただいた手紙への返事ではなく申し訳ありません。

 急ぎお伝えすることがあり、この手紙を書いております。


 私の兄で10数年旅に出ていたフェリクスが、先日帰って来たのですが、

 彼が旅の中で出会ったという奥方が、アルブズ国の出身でして。

 貴女のお知り合いかもしれないと思い、勝手ながら名前を伝えたところ、

 以前貴女の侍女だったそうで、こうして確認の手紙を出しました。


 彼女の名前は、アデーレ。

 彼女の祖父、ジュストという方が、貴女の実家の執事をしていたそうです。


 もし、貴女が覚えているのならば、彼女に会っていただけないでしょうか。

 もちろん、私も一緒に参ります。

 御返事をお待ちしております。


 貴女の友人 セヴラン

*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--




 サジテール侯爵家の馬車が、アニュレイ伯爵家へ到着したのは、エルローザが手紙を出した翌日の午後だった。イリスはどうしても王城へ行かねばならず、伯爵邸を留守にしていた。

 セヴランが、馬車からひとりの女性が降りるのをエスコートし、伯爵邸の玄関を跨ぐ。いつもなら、形式的な挨拶で出迎えたであろうエルローザは、その女性をひと目見ると駆け出した。


「‥アデーレ!!!」

「お嬢様‥‥!!!」


 アデーレと呼ばれた女性は、エルローザを抱きとめた。彼女がセヴランの兄、フェリクスの妻であり‥‥エルローザがアルブズ国の貴族だったころの侍女だった人だ。


「お嬢様‥!ああ、こんなに、美しくなられて‥!」

「アデーレ‥‥!アデーレっ!」

「私を覚えていてくださって、ありがとうございます。またローザ様にお目にかかれるとは‥。ああ、これで祖父に顔向けできます。」


 とんとん、と優しくアデーレはエルローザの背中を撫でる。エルローザは涙が止まらず、ぎゅうぎゅうとアデーレに抱き着くばかりだった。

 そんなエルローザにハンカチを渡したのはやっぱりセヴランで、涙を拭うためにアデーレから少し離れたのを見計らってルダスが声をかけた。


「お嬢様、客間の準備ができております。」

「ええ。ごめんなさい、アデーレ。」

「いいえ、お嬢様。」


 エルローザはアデーレの手を引いて、客間へ案内する。セヴランは夕刻前に迎えに来ると言って、そのまま馬車へ乗り込み、アニュレイ伯爵邸を後にした。

 客間のソファにふたりは腰かけて、伯爵邸の侍女が紅茶と茶菓子を運んできた。侍女が部屋を出て、静かになった部屋で、ふたりは懐かしさに目を潤ませた。


「またあなたに会えるなんて。元気でいてくれて、本当に嬉しい。」

「お嬢様こそ、お元気そうで。胸のつかえが取れたような気分です。」

「ずっと覚えていてくれたのね。」

「忘れる筈がありません!大変失礼とは存じますが‥‥エルローザ様も、エルベルト様も、私にとって主人であると同時に、妹と弟のように思っておりました。」

「‥‥っ!!」


 先ほどひいた涙がまたエルローザの頬を濡らした。


「あの時、どれほど後ろ髪を引かれたことか‥‥!お嬢様の命に背いてでも、一緒に王都へついて行くべきだったのだと何度も悔いたのです‥!」

「アデーレ、アデーレ‥‥あなたはずっと私たちと一緒だった。あなたとジュストだけが、私たちの家族だったの。」

「お嬢様‥‥」

「だから、あの時あなたを帰して正解だったのだと。だって、今、こうして元気なアデーレに会えたのだもの。」

「それでも、私は‥‥。必死にエルベルト様になろうとするお嬢様を、おひとりにするべきではなったのです。」

「あれは私の(とが)。私の決断。私の意思。あの時までずっと一緒に居てくれた。それだけで充分、救われた。13年も、一緒にいてくれたのだもの。」

「お支えすることは、できませんでした。」

「いいえ。ジュストとアデーレが居てくれたから、私たちは生きていられた。特に私は。」


 アデーレが嗚咽を漏らした。ふたり揃って子どものように泣いた。同じように鼻と目を真っ赤にするふたりは、まるで本当の姉妹のようだった。


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