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24 どんな君も愛らしいので

 セヴランはすぐに手紙を認め、彼女名を口の中で何度か呼ぶと、花束を選んだ。


「エルローザ。エルローザか。」


 執事を呼び、手紙と白バラの花束をアニュレイ邸まで送るよう言づけた。ひとりになった部屋で、今度は彼女に受け入れられた後に贈るドレスを考える。


「翡翠色を着てくれるだろうか‥。」


 自分の瞳の色を纏う彼女を想像して‥‥セヴランは机に音を立てて突っ伏した。


「俺は何を‥!友人だった男から瞳の色のドレスが贈られてきたら、流石に引くだろう‥‥。でも、しかし‥‥。」


 優しい彼女なら、着てくれるのではないか。と欲望にまみれた淡い期待を捨てられなかった。

 結局、エルローザから諾の返事を受けた後、セヴランは翡翠色に沢山の花をあしらった、美しさの中に愛らしさが咲いているようなドレスを贈ったのだった。


 そしてそのドレスを身に見纏ったエルローザに、呼吸が一瞬止まった。


「(花の妖精だ‥‥。)」


 こんなにも可憐な彼女を、これまでずっと男性と思い、性別に気付かなかった自分は、やはり目も頭も不具合を起こしていたのだ。そう思わずにはいられなかった。


 馬車の中で、セヴランはエルローザに「どうして怒らないのか」と尋ねられた。


「君が偽っていたのは、性別だけだろう?そんなもの、些細なことだ。」


 それは紛れもなく、セヴランの本心。エルローザが女性だろうと男性だろうと、セヴランは友人になったし、きっと恋をしたのだ。アプローチの仕方は変わったかもしれないが、大きな差はない。

 セヴランはエルという人と、友人になり、好きになったのだ。


「それに、あの日、きっと君はこの事を俺に告げるつもりだったのだろう?」

「どうして分かるのですか?」

「友人の事だ。何となくでも、わかるさ。」

「‥‥!」


 エルローザのアメジストの瞳が揺れて涙を湛える。零れてしまう前に、セヴランは胸元のハンカチを優しく添えて、水分を吸わせた。アメジスト色のハンカチ。衣装のどこかに夜会のパートナーの色を入れるのは一般的なことだ。ただし、恋人であれば、の話だが。


「ほら、泣くな、エル。」

「だって、セヴランさんが‥!こんな私を、まだ友人だと言ってくれるのですか?」

「嫌か?」

「そんなことは絶対にないです!」

 

 彼女が強めに否定したので、セヴランは笑ってしまった。こんな私だなんて、言って欲しくはなかった。そんな君だから、友人でありたいと、あわよくばそれ以上にと、思ってしまうのだから。


 そうして行きの馬車の中で、ふたりは友情を取り戻し、夜会ではダンスを1曲踊ったのだった。



 セヴランの暴走が始まったのはその後である。


 皇太子の誕生日を祝う舞踏会が終わると、その翌日からエルローザ宛に花やドレスが届くようになった。言わずもがな、セヴランからだ。

 エルローザへの贈り物は、セヴランからだけではなかった。次期宮廷薬師長であり皇太子に近しい貴族となった彼女と縁続きになりたいと考える貴族は多いのだ。そんな貴族達から、エルローザへの求婚や贈り物は毎週のように届いたが‥‥セヴランからのものは群を抜いて頻度が高かった。求婚こそ無いものの、エルローザへの好意がありありと感じられる贈り物達や頻繁に届くデートの誘いに、エルローザ以外の屋敷の者はセヴランからのアプローチなのだと気付いていた。だが、本人には全く伝わっていないのだから、意味を成してはいなかったのである。


 そしてセヴランは順調に気持ちが伝わっているものと思っていた。エルローザはセヴランの誘いを断らなかったし、デートの際にはセヴランが贈ったワンピースとアクセサリーを身に着けていた。それらは全てアニュレイ家の侍女たちの手によるものだったのだが‥。


「私たち、友人ですよね?」

「あ、ああ。」

「友人が男から女になっただけですよね?性別は関係ないってセヴラン様が仰いましたものね?」

「う、うむ。」

「では何故、友人が男から女になっただけで、大量の贈り物が?」


 芝居の帰りに寄った喫茶店でエルローザから「贈り物が多すぎる」と言われたセヴランは、ここで初めてエルローザへ自分の好意が全く伝わっていなかったことに気付いた。


 そしてちょっと迷惑そうにする彼女も、少し怒っているような彼女も愛らしいと思ってしまい、ここまで重傷だったのかと己の病状を再確認したセヴランである。


「セヴラン様?」

 と首を傾げるエルローザはセヴランの心臓にクリティカルヒットしたし、

「‥‥‥では、なぜ?」

 と不安げに瞳を揺らすエルローザにセヴランの息は止まりそうだった。


 この国で、同性を好きになる事は「そういう人もいる」という認識で、特別なことでも奇異なことでもなかった。ただ、異性を好きになる者の方が多いため、同性を好きになったセヴランは、相手も同性を好く者であるのかと悩んでいたのだった。そこへ実は異性だったと告げられたのである。セヴランはひとつ悩みが無くなったとばかりに好意を全力で示しだしたのだが‥‥エルローザから見れば、自分が女性と分かった瞬間贈り物を大量に送っている友人、なのであった。

 そのことに遅れて気付いたセヴランだが、エルローザはセヴランを疎んだり嫌ったりしなかったので、心の底から彼女の優しさと神に感謝した。



 彼女は自分を友人と言ってくれる。今は、それでいい。とセヴランは思いなおす。そして。


「(‥‥以前はエルも同性を好きであれば、と思ったが、そうであった場合‥‥‥エルの恋愛対象は女性ということになる、のか?)」


 自分が同性を好きになったように、彼女もまた同性を好く可能性に気付いたのだった。

 セヴランは居ても立ってもいられずに、帰りの馬車でエルローザに尋ねた。


「エル、その‥‥、」

「どうしたのですか?」

「君は、いや、君の恋愛対象は男性だろうか?」

「‥?」


 突然の問いに、エルローザは数秒考えていた。


「わかりません。」


 出てきた答えは、セヴランの想像して居た2択のどれでもなかった。


「わらかない、とは‥?」

「恋を、したことがないので‥‥」

「そう、なのか。」

「はい。なので‥‥女性でも男性でも、好きになった人が好き、なのだと思います。」

「‥!」


 少し照れたように笑って、エルローザはそう答えた。セヴランはその答えに一瞬驚いて、そうか、と嬉しげに目を細めた。自分と同じだったからだ。その人であれば、性別など関係がない、と。ならば、これから。少しずつでも確実に、彼女へ好意を伝えていこう。セヴランそう決心して、帰宅するとすぐに文通のための手紙を書き始めたのだった。


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