表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/41

19 事の顛末と

 ウィリディス帝国には、貴族たちの治める領土の他に、戦争で属国とした公国が南北にひとつずつあった。二つの公国は現在、元来その国を支配していた王族の血筋を引く姫と、皇族の王子とを結婚させて治めている。それぞれの公爵家の家名よりも、(ノール)公国と(シュッド)公国と呼ばれることが多かった。

 (シュッド)公国では、現皇帝の従弟が現公爵だ。その公爵は自分の娘と婚約している第3皇子を皇太子にすべく、皇太子リシャール暗殺を目論んでいた。

 偶然エルローザが出くわした盗賊も、皇太子リシャールに毒を盛ったのも、この公爵の手によるものだった。


 また、(シュッド)公国は正確にはウィリディス帝国の西南部に位置しており、西方の海に面している。帝国内では唯一、鎖国気味なアルブズ国貿易している場所である。


 その貿易の中で、(シュッド)公国を治める公爵は、アルブズ国の貴族と取引を始めた。アルブズ国固有の、無味無臭の猛毒についてである。門外不出の筈のその毒を、公爵は大金を叩いて買い取った。売ったのはアルブズ国のエズライ伯爵。エルローザを殺した父親だった。



 と、ここまで調べ上げたうえで、皇太子とマルセルはエルローザを呼んで話を聞いた。もちろん、エルローザの過去も大方把握していた。彼女がその毒の解毒剤を作れることも把握はしていた。自分たちの調べた情報とエルローザの話が一致するかを確認していたのだった。


 皇太子の派閥により全ての裏が取れ、皇帝に提出されると、結果の分かりきっている裁判が形だけは開かれた。


 第3皇子は南公国の公爵に加担していたとして廃嫡。公爵とその妻は永久牢獄。その他公爵家関係者は貴族位の取り上げを行った。(シュッド)公国は皇太子の管轄になった。


 また、アルブズ国に対して慰謝料と開国を要求した。これは帝国の威厳のためであった。

 島国で武力の少ないアルブズ国は、交渉の末に開国の要求をのんだ。慰謝料の殆どはエズライ伯爵家から支払われ、その後にエズライ伯爵家は消えたという。


 その裁判の後、皇帝と皇太子より、イリスとエルローザは公の場で功績を称えられることになった。その案内を受け取ったイリスは、伯爵邸にエルローザを呼んだ。



「師匠?」

「ローザ、あの一件の裁判が終わって、王宮から正式に褒美を賜ることになった。」

「は、はい‥。え?」

「まあ、2回も殿下を助けたのだから当然の褒美だ。」

「‥‥‥え、と?え?正式って、公の場でって、ことですか?」

「そうだ。それで今日ローザを呼んだのは、私の立ち位置を説明していなかったなと思い出したからだ。」

「はぁ‥‥。」

「私はイリス・アニュレイ。アニュレイ伯爵であることは知っているね。」

「はい。」

「そして王宮薬師長でもある。」

「‥‥‥‥は?」

「アニュレイ家は代々、王宮薬師長が継いできた家名でね。というのも、王宮薬師長という地位の方が伯爵位よりもずっと高いんだ。王宮薬師長の別名みたいな扱いで、アニュレイ伯爵家には領地も無いしね。古い言葉でアニュレイは薬指を意味する。」

「え、待って下さい師匠。師匠は、だって、普段、薬屋で‥‥!」


 エルローザは、はたと気付く。薬屋の休暇中に貴族に会っているようだ、と、エルローザは知っていたではないか。


「これまでずっと王宮勤めだったからね。見込みのある弟子を見つけたから、8日に一度しか来ない!と言って出てきたんだ。」

「‥‥‥」


 絶句である。


「次期アニュレイ伯爵、つまり時期薬師長を育てるっていうのは私の1番大切な役目だからね。王宮側も"弟子を見つけた"と言えば、却下できないのさ。」


 からからとイリスは笑った。エルローザはまだ思考が追い付かない中、だからみんなアニュレイ"伯爵"ではなくアニュレイ"卿"と呼んでいたのだな、と思った。アニュレイ卿、つまり"薬師長閣下"と。


「で、ここからはローザの話だ。」

「私、ですか。」

「ああ。正式に王宮にも認められることになるんだ。そうしたらローザは、私の養子になる。覚悟は良いか?」

「はい、師匠。私を後継者に、と認めて下さったのですよね。」

「もちろん。ローザ以外に、私の後継者は務まらないからな。」

「まだまだ未熟者ですが、今後もよろしくお願いいたします。あれ、これからも師匠って呼んでいていいのですか?」


 イリスは、ふむ、と考えた。


「まあ、悪くはないが、公の場では良くない、か。ローザ、試しに"お母さま"って呼んでくれ」

「お母さま‥‥」

「あ、ダメだ。むず痒くて耐えられん。私も師匠‥‥前伯爵の事は"お父さま"なんて呼ばなかったしな。」

「それなら、イリス様、と呼びます。」

「ああ、そうしてくれ。」


 エルローザは頷いた。イリスと正式に縁続きになる。それはエルローザにとって喜ばしいことだったし、後継者にと認められたことは何よりも誇らしかった。




 ただ、ひとつだけ後悔がある。あの日から一度もセヴランに会えていないことだ。きっと、エルローザが呼ばれている公の場には、セヴランもいるのだろう。

 イリスの養子になり、公の場に呼ばれる。その時、エルローザは、女性として、本来の性でセヴランの前に姿を見せなければいけない。


「自分で伝えようと、思っていたのに‥‥。」


 あんな風に彼と過ごすことはもう無い。そう思うと悲しくて、苦しくて、涙が溢れて止まらなかった。


 それでも、時は進む。エルローザは伯爵邸で貴族としてのマナーを叩き込まれながら、その日を迎えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ