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18 見ていてくれましたか

 薬や毒に関して調べはしたものの、完全に素人なので、ファンタジーの気持ちで読んでください。

「アニュレイ卿!エルベルト殿をお連れしました!」


 エルローザが連れてこられたのは、豪奢で分厚い扉の部屋だった。騎士は声を上げると、左右に待機していた衛兵がその扉を開ける。中からイリスがエルローザを呼ぶ。


「エル!!!」

「しっ師匠!薬を!あの薬をお持ちしました!」

「よし、エル、こちらへ」

「っ!?」


 イリスに呼ばれて近づいたベッドには、金髪の青年が苦しげに横たわっていた。それは約半年前に会った、この国の皇太子だ。


「エル、落ち着いてよく見なさい。この症状はエルの知っているものだと思うが、どうだ?」


 皇太子の唇は青色で、顔は真っ白になっており、呼吸はひゅうひゅうと細い。


「バーティと、同じ‥‥!失礼します!」


 エルローザは皇太子の口を開き下の色が唇と同じ事を確認し、毒が触れていそうな個所を探した。首筋と手のひらに火傷のような炎症を確認すると、エルローザはイリスに報告した。


「師匠!あの毒に間違えありません!吐剤は!?」

「既に使用して、液体は全て吐かせてある。」

「症状から見て、致死量には至っていないと考えますが、あれはティースプーン1杯で成人男性を殺せる猛毒です。接種からどのくらい経っていますか!?」

「1刻だ。」

「まだ間に合います。解毒薬の処方のご許可を!」

「処方を許可する。」

「はい、師匠!」

「アニュレイ卿っ‥!」

「秘書官殿、我が弟子は優秀だ。全ての責任は私が取る。」


 だから黙っていろ。とイリスは、声を上げた皇太子の秘書官であるマルセルに鋭い視線を投げた。


 イリスから処方の許可を得たエルローザは持って来た解毒薬を量り、『ルース』で出した水に溶かす。これが皇太子の近くによる。上半身を起こしてやり、何度か声をかけて意識の浮上を促した。


「ぅ‥‥」

「殿下、殿下、聞こえますか。」

「ぁ、ああ‥‥」

「解毒薬です。どうか飲んでください。」


 コップからゆっくりと皇太子の口へ流し込む。コクリ、と皇太子の喉が動き、少しずつ解毒薬を飲んでいく。そうしてエルローザが作った解毒薬を溶かした水を、皇太子は時間をかけて飲み干した。

 エルローザは薬を飲み終えた皇太子を元のとおりに寝かせると、今度は水で濡らしたタオルで炎症を起こしている皮膚を優しく拭いた。本当は水で流すのが良いのだが、今すぐは無理だったのでそうした。


 それからエルローザとイリスは丸3日、交代で皇太子に付いた。いつ状態が悪化するか分からなかったからだ。



 ふたりの看病の甲斐があり、皇太子は3日後の夜に目を覚ました。




 その1週間後、皇太子の状態が回復したとして、エルローザとイリスは王宮に呼ばれた。この時、エルローザは女性と男性、どちらの恰好で行けばいいのか悩んだが、イリスが「エルベルトとして呼ばれているのだから、エルベルトとして行け」と言ったので、その通りにした。


 皇太子のいる部屋にふたりは通された。ぱたり、と扉が閉まる。ふたりの他に部屋の中にいるのは、皇太子と秘書官のマルセル、扉の前にいる衛兵だけだった。


「さて、改めて礼と感謝を。」


 皇太子はそう言って腰を折った。マルセルも同様に頭を下げる。非公式の場、と言っていたのはこういうことか、とエルローザは理解した。皇族が皇帝以外に頭を下げるなど、ありえないのだから。

 この場はふたりから皇太子に盛られた毒について証言を得る場だった。特に、エルローザから。


「殿下の解毒に貢献したあの薬は、エルベルト殿が調合した、ということで間違いないでしょうか。」

「はい。私が調合しました。」

「その解毒薬は、殿下が摂取された毒以外にも効果が?」

「いえ、ありません。殿下が摂取された毒と、私が調合した解毒剤は対です。」

「そうですか。その毒をご存知のようですが、それはどこで?あの毒はアニュレイ卿でも正確な判断を下せなかった。それを何故あなたが知っていたのでしょうか。」

「私の故郷、アルブズ国固有の毒だったからです。」


 エルローザは嘘偽りなく返答した。マルセルは、ひとつの見落としもない様に問いを投げかける。エルローザはそれが当然のことだと分かっていたし、全く自分が疑われていないとも思っていなかった。

 更に言えば、あの状況でエルローザが調合した解毒剤の処方を許されたことが信じられない。それほどイリスに信頼があったのか、そもそもエルローザの事を知っていたのか。両方か。


「なるほど、アルブズ‥‥。そこでこの毒について知った、と。」

「はい。‥‥その毒で、兄を亡くしたので。」

「兄、ですか。」

「はい。」


 そのやり取りで充分だった。マルセルと皇太子は、自分がエルベルトではなくエルローザだと知っていると理解する。


「双子の兄、エルベルトは、その毒で亡くなったので。」

「失礼、お名前をうかがっても?」

「エルローザ、です。」

「では改めて、エルローザ嬢。」

「はい。」

「殿下をお救い下り、ありがとうございました。」


 マルセルは深々とエルローザに頭を下げた。


「殿下をお助けしたという名誉をいただき、感謝いたします。これで私も、兄に顔向けできそうです。」


 ひと筋だけ、エルローザの頬を伝う雫があったが、誰も何も言わなかった。

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