閑話 もう1人の友人
セヴランの閑話です。飛ばしても本編に影響はありません。
「よぉ!セヴラン!元気だったか?」
「ああ。久しぶりだな、オスカー。」
王宮の回廊でセヴランを呼び止めたのは、彼の友人で第3騎士団の副団長でもある赤毛が特徴のオスカーだ。第3騎士団は、国境が少々荒れていたため、半年近く遠征に赴いていたのだが、戻ってきたようである。
「どうだ、今晩。家で1杯飲まないか?」
「つまみも付くな?」
「それはもちろん。」
セヴランとオスカーは同じ時期に入団した、言わば同期で気の置けない友人だった。また、ふたりは若くして副団長になり、団長や他の副団長、更には年上の部下という難しい問題を持つ仲間でもあった。
オスカーは現在家督を継いでポワソン伯爵であるので、彼の言う「家」はポワソン伯爵邸である。職業柄、ふたりで飲む時はどちらかの家が多かった。雑談から騎士団の話になる事も少なくなかったからだ。
セヴランは勤務が終わると一度帰宅し、オスカーの好きな白ワインを手土産にポワソン伯爵邸を訪れた。
「俺の活躍と!」
「無傷の帰還に」
「「乾杯!」」
ふたりは始め、第3騎士団の遠征の話しをしていたが、2杯3杯と酒が進み、良い具合に酔いが回ってくると仕事の話から離れることにした。
「で?セヴラン。俺がいない間に良い人は見つかったか?」
「‥‥そんなわけないだろう。」
「ふぅん、面白くねぇな。そういや、アニュレイ卿の弟子の少年に剣を教えてたんじゃなかったか?それはどんな感じだ?」
「言ってなかったか。少年ではなかった。」
「ん?」
「彼は19歳らしい。成人男性だ。」
「ふ、ははは!成人男性を少年に見間違えたってのか!よっぽど小柄なんだな!」
オスカーはその様子を想像したのか、面白そうに声をあげて笑った。
「しかしまあ、おまえが部下以外に剣を教えるなんて、相当気に入ったんだな。」
「ああ。おれ達みたいなのとは違って、エルは細くて小柄なんだが、だからこそ素早く軽く、様々な方向から切り込んでくるのが面白くてな。それに身体の使い方が上手い。」
「エルってのか。良い名前だな。」
「愛称だ。名前はエルベルトだ。」
酒を飲みながら、オスカーは横目でセヴランの様子を見ながら少しの違和感に首を傾げた。
「随分、そのエルベルトってやつに入れ込んでいるようだな?おまえがそんなに楽しげに話すのも珍しいだろう。」
「‥、剣の弟子でもあり、友人でもあるからな。」
「へぇ?」
「なんだその顔は。」
「いやぁ、もしかしてその友人を好きになったってことかな、と。」
「ぶっ!!おま、なんで!」
「ふはっ!図星か!」
「ぐ‥‥」
「なるほどなぁ。やっとおまえも好きな人が出来たか。初恋なんじゃねぇか?」
「‥‥‥」
「ははっ!無言は肯定だ!で、友人を好きになって、告白できずに悩んでいるってとこか?」
「‥‥ああ。」
「エルベルトが同性だから、それで悩んでいるわけだ。」
「おまえ、騎士より文官や密偵の方が向いていたんじゃないか?」
「馬鹿言え。俺は剣が好きなんだよ。」
楽しくなってきた、と言いながらオスカーはセヴランの持って来た白ワインを開けてグラスに注いだ。色と香りを楽しむのは礼儀程度で、待ちきれないとばかりに口を付ける。満足そうな笑みが浮かんだので、セヴランの手土産はお気に召したようだ。
「それで、相手に恋人はいるのか?」
「いや、いない‥はずだ。」
「そこはしっかり調査しとけよ。」
自然にどうやって聞けばいいのか分からなかったセヴランである。
「それじゃあ、相手も男が恋愛対象なのか?」
「‥‥」
「おまえダメダメじゃねぇか!」
「それは分かっているとも‥‥。」
オスカーの言葉がクリーンヒットした。セヴランは額に手を当てて、苦い声を出す。
「俺は知っての通り、当たって砕けろなんて無謀なことはしねぇからな。こういうのはしっかり事前調査をして、足場を固め、外堀を埋めて、万全の体制で臨むのが好きなんだ。戦術では同じタイプだったから、てっきり恋愛でもそうかと思ったが‥‥セヴラン、おまえは違うみてぇだな。」
「このまま友人を続けるのはあまりにも不誠実だと、そう思っている。」
「不誠実ねぇ。」
「エルは、俺を大切な友人だと、そう言ったんだ。それに応えたくもあり、壊したくもある。」
「俺から見ても、おまえは良い男だし、良い友人だ。きっとエルベルトにとってもそうだろうよ。セヴランは、おまえが告白して、友人を辞めるようなやつを、好きになるとは思えねぇしな。」
「オスカー‥。」
「ま、頑張ってこいってことだな!」
オスカーはグラスを差し出した。セヴランは自分のグラスを彼のグラスに当てる。軽くガラスのぶつかる音が、オスカーからの激励だった。
「振られたら1番良い酒で慰めてやるからよ!」
1番安い酒でお祝いさせてやる。と返したかったが、セヴランはそこまで言える自信が無かった。
オスカーは、根は真面目な男なのだが、癖なのか敢えてなのか、いつも軽い男の皮を被っている。仕事中もそうなので、他の副団長や団長たちからは、しばしば冷ややかに見られてしまう。しかし彼の所属する第3騎士団の団長は、彼の本質を見抜いているのでうまくやれているらしい。というのも、第3騎士団の団長は高潔な武人であり、自分にも他人にも厳しい人なので、特に若い騎士たちにとっては中々難しい相手であるらしい。そこで、オスカーが緩衝材の役割を担っているのである。
そういうわけで、年下の部下たちからの信頼は厚く、また年上の部下たちもそのやり様に感心しているとのことで、第3騎士団は存外にチームワークが良い。とはセヴランの上司である第1騎士団長の評価だ。
そういうオスカーの気質を知っているセヴランは、彼の言葉の裏が分かるわけで。この友人は本当に自分を応援してくれているのだな、ということは容易く汲み取れたのである。
オスカーにもエルベルトにも。大切な友人たちにはどうか誠実でいたいと。セヴランは心からそう思った。




