約束 第7話
人々は無言で歩いている。
聞こえるのは足音と列車の発車音のみである。
その音は高いものもあれば、低いものもある。
まるで、1つの演奏かのようだ。
その演奏につられ、安齋の歩調は歩調も早くなってしまう。
その為か、胸の痛みは増すばかりであった。
「胸が痛い」
安齋は、胸をさすりながら、歩いていた。
いつもの場所で立ち止まり、休憩する。
そして痛みが落ち着き、再び歩き出す。
「今日も駄目か、、、」
少し休むと落ち着く。
「今日もベンチで、、、」
ホームは多くの乗客が入り乱れている。
そんな中、安齋は1人、フラフラと歩いている。
目の前に突然人が現れ避ける。
少し触れたようにも感じたが、相手は何の反応もない。
「触っていなかったか」
彼はそれ以上考えることはしなかった。
そのままフラフラと人を避けながら、いつものベンチに向かう。
「あと、もう少し」
なぜか、もっと近いベンチではなく、いつものベンチに向かってしまうのだった。
その場所がなぜか落ち着くからだ。
「よいっしょっと」
彼は、腰掛ける。
胸の痛みは落ち着いてきていた。
「ふぅー」
息を整える。
いつもこの繰り返し、彼も嫌気が指していた。
しかし、胸の痛みにこの嫌悪感が勝つことができなかった。
「どうしてこうなってしまったのだろう」
そして、思いにふけるのであった。
「課長、昨日提出した書類への押印はどうなったでしょうか?」
「安齋PM、早く承認印くださいよ」
彼の元には、多くの仕事が舞い込んできた。
ひとつひとつここなしても、次から次へと仕事がやってくる。
「早くしてくださいよ」
「間に合わないっす」
急かされ精神的にも苦痛の日々が続いている。
というよりは、続いていたのだ。
「あぁ、分かったから、、、」
彼も苛立ちを隠せない。
しかし、そこで、気持ちが切れてしまったら終わりである。
彼は必死にこらえ、業務を遂行する。
そんな彼に珈琲を入れてくれる女性がいた。
彼女は安齋にとって、会社での唯一の楽しみであった。
「いつも、ありがとうな」
そう言うと、彼女は笑顔を見せる。
その笑顔をみると、心が和むのだった。
安齋はふと目が覚めた。
相変わらず、多くの乗客が所狭しとホームにいる。
列車が発車する度に、ホームは閑散とするが、すぐに人でいっぱいになる。
その光景がいつも通りに繰り返されているだけなのだ。
「一時的な発作が続いている。
今度こそ、医者に診てもらおうか」
そんな風に思い巡らせながら、時計を見てみてみる。
「あっ、やばい、このままだと遅刻する」
しかし、彼の足は動かない。
「何で、足が動かないんだ」
彼は必死に足を動かそうとしたが、動けなかった。
胸の痛みはひいているはずである。
何度やっても同じ。
彼はいつも通り決断するのだった。
「しょうがない、休もう」
彼は、携帯電話を取り出し、会社に連絡する。
「あぁ、すみません。
今日、体調不良の為、会社を休ませてください」
今日も会社を欠勤してしまうのだった。




