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約束  作者: おがわかなた
5/10

約束 第5話

ある日の昼下がり、安齋は昼休みで自分のデスクにいた。

昼休み中は消灯しており、パソコンのモニタの電源も切っている。

部屋に光源となるものはない。

しかし、窓から太陽の光が差し込み、部屋の奥まで照らしていた。

部屋は薄暗いものの、人の顔を見て取れるくらいである。

そよ風が吹いたのだろうか、その窓から見える木が少し揺れた。

ユラユラと。

その木の向こうには昼食を終えた社員たちが戻って来ているのが見える。


「よし」

安齋は気合を入れなおし、眼鏡をかける。

午後の仕事の時間がきた。

パソコンのモニターの電源を上げる。

モニターには、午前中に確認途中になっていた資料が表示されている。

「う、うん」

小さい文字が見にくい。

近づいても見にくいし、遠くても文字がぼやけてしまう。

安齋は目をもんでみるが、状況は変わらない。

「ついにきたか・・・・・・」

最近、近くのものがぼやけて見えるようになっていたのだ。

彼も四十半ばである。

老眼がきてもおかしくない年齢であった。

「今度、遠近両用眼鏡でも作るか・・・・・・」

そんなこと思っていると、突然声がかかった。

「安齋君、ちょっといいか」

部長が声をかけてきたのだ。

彼は会議室にむかった。

上司である部長と会議室に二人。

少し緊張する場面でもある。

長年の付き合いでもあるが、それでも、この強面は慣れない。

『あのことかな』

そう思っていると部長が話を切り出した。

「新規プロジェクトのマネージャの件だが・・・・・・」

「・・・・・・」

安齋はある程度予想していたので、驚くことはなかった。

「知ってのとおり、マネージャとその部下達の軋轢で進行が止まってしまった」

「・・・・・・」

「現在、実務をしている人たちを代えるとそれこそ、一からやりなおしだ。

 そこで、俺はマネージャを交代させることにしたんだ」

「・・・・・・」

「しかし、マネージャも人材不足なんだ。

 そこで、安齋君に兼務してほしいんだ」

「ありがたいことですが、現在の課長としての職務もありますし・・・・・・」

「・・・・・・」

「それに他に適した方もいるんじゃないですか」

「・・・・・・、色々な業務をマネージャに教える時間がないんだ」

「・・・・・・」

「それに、安齋君を慕う人間もこのプロジェクトに多く参加している」

「・・・・・・」

部長が突然立ち上がり、頭を下げた。

「頼む、君しかいないんだ」

その部長がこんなことをするのを彼は初めて見た。

安齋の心は決まったのだった。


プルルルル~

電車の発車音に安齋は起こされた。

多くの雑踏音が耳の中に入ってくる。

ちょうど、電車がホームに入ってきたところである。

「少し眠ってしまったか」

胸の痛みは治まり、体が軽くなっていた。

心の中が整理できたからなのか、頭の中がすっきりしていた。

「俺は、何の為に生きているんだろう」

会社に行くと急かされ、家庭に戻れば怒られる毎日である。

以前は、会社の業務にも多少の余裕があったが、今は、1日中、業務をしている状況だ。

彼に安息の日なんてなかった。

ベンチに座り、視線を落としながら彼は考える。

しかし、答えはすぐには見つかるはずもない。

次の電車がホームに入ってくる。

風が彼を襲う。

「うぉ、寒い。

 このままここにいたら死んじゃうぞ」

周囲を見渡すと、多くの人が電車に乗り込んでいる。

駅設置の時計が視界に入る。

時刻は8時30分。

「あっ、まずい、このままだと遅刻する」

彼は慌てて立ち上がり、到着した電車に向かった。

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