約束 第4話
針谷影下が会社に到着したのは出社時間ギリギリだった。
会社は、かつて電脳の街であった春枝海駅の外れにある小さいレンタルオフィスだ。
『厚川探偵事務所』
入口の窓に書かれている。
影下はその扉を開け中に入る。
「おはようございます」
その声に反応腕をしたのは、少し高い声の男性だった。
「おはよう。
意外と早かったな」
小さな部屋に構える探偵事務所。
会社ではあるものの、従業員は2人である。
「おはよう、光矢」
雇い主ではあるが、中学時代からの友人である。
特段、仲がよかったということでもないが、未だに付き合いがある。
「影下、おはよう。
電車遅延って何があったんだ?」
「下矢貝駅で急病人だってさ」
「急病人?
まぁ、今日は冷え込んでいたからな」
「運転再開の見込みがなかったから、下矢貝駅から歩いてきたよ」
「よく、間に合ったな」
「あぁ、少し急いできたからな」
彼はコートを脱ぎ、ハンガーにかける。
「そのコートいいな。
俺に譲ってくれよ」
「俺のコートがなくなる」
「そしたら、買ってきてくれよ」
「あぁ、自分で買えよ。
俺のセンスになっちゃうだろ」
「それでいいんだよ」
「うわぁ」
光矢は彼のカードを影下に投げてきた。
何とか、影下はそれをキャッチした。
「もう、、、」
「今日は、コートを買いに行ってきてくれ」
「はぁ、、、
これと同じやつ?
お前とペアルックは嫌だぞ」
「俺は構わんぞ」
「俺が嫌だ」
「なら、俺をコーディネートしてくれよ。
お前のセンスに任せたよ」
「俺は、ファッションデザイナーじゃないぞ、、、」
光矢は、机に頬づえつき満面の笑みで見つめる。
こうなったらもう何を言っても結論が変わらないことを影下は知っていた。
「分かったよ。
色とかの希望はあるか?」
「お前のセンスで」
「トレンチとか、ミリタリーとかは?」
「お前のセンスで」
「身長は、170cmだっけ?」
「お前のセンスで」
「お前の身長は分からんぞ、、、」
「あぁ、悪い。
171cmだ。
よろしくな。
開店まで時間があるだろ。
そのカードで、喫茶店でお茶でもしてろよ」
「あぁ、分かった」
再び、影下はコートと手に取り、外へと出た。
事務所には、光矢が一人となった。
狭いとはいえ、一人では寂しいくらいである。
そんな一人寂しい時間をどれくらい過ごしたのだろうか。
コンコンコン
入口の扉がノックされた。。
扉を開けると、そこには初老の男性が立っていた。
光矢はその初老の男性を事務所に招き入れたのだった。
影下は事務所を出て、再び下矢貝駅方向に向かって歩き出した。
「いつもの喫茶店にするか」
光矢は月に1度程度、このような買い物を影下に依頼する。
先月は確か、
『来週、ゴルフに行くから、ウェアとゴルフセットを買ってきてくれ』
そう言われて、1日中歩き回った記憶がある。
ゴルフセットが異様に重かった気がする。
「あの時は大変だったな。
ゴルフクラブフルセットに、ウェア。
一人で運ぶものじゃないぞ、あれは」
過去を思い出し、彼は苦笑いする。
「ゴルフする人はすごいな。
あれを一人で運んじゃうんだからな」
彼はそんな感想を持っていた。
「あの時に比べれば、今日は楽か」
考えをめぐらせているうちに、いつもの喫茶店にやってきた。
ここで開店時間まで時間を潰すのだった。
光矢からは『終業時間までに帰ってくればいい』と言われている。
時間は十分にある。
「オリジナルブレンド珈琲1つ、Lサイズで」
影下は携帯電話を操作しながら、再び考えをめぐらす。
「あいつの金はどこから来ているのか」
経費にするにしても、接待費でもないから、節税にもならないはずだ。
それでも、光矢は無駄遣いをやめない。
さらに影下はある事を知っていた。
いつも、影下が探して購入したものをリサイクルショップに売却しているのだ。
「何でこんな無駄な事を」
といつも思っているのだが、
「何か理由があるのだろう、別に興味もないし」
そう思い、問いただしてはいない。
珈琲をすすりながらさらに考えをめぐらせて見るが、不安ばかりが募るのだ。
ブルルっ。
携帯電話が鳴った。
光矢からのショートメールだ。
「明日、猫ちゃん捜索、谷大駅集合、10:30、よろしく」
ぶっきらぼうなメッセージだ。
これもいつも通り。
「それにしても、探偵事務所で猫ちゃん捜索って。
こんなの金になるのか?」
影下の不安は募るばかりであった。
週間スケジュールです。
2014/12/15(月):復活!勇者の寝言 第8・9夜
2014/12/16(火):多くの商品はお客様の為にあります 第8話
2014/12/17(水):約束 第5話 ※11/26~12/26 全10話予定
2014/12/18(木):外国人はつらいのさ 51日目
2014/12/19(金):約束 第6話 ※11/26~12/26 全10話予定
2014/12/20(土):22歳の中二病
2014/12/21(日):なし




