約束 第2話
11月26日~12月24日 水曜日投稿。
全10話予定です。
その日、針谷影下は電車に乗っていた。
自宅から会社まではおよそ約40分である。
今日もこの路線は混雑している。
特に途中駅の下矢貝駅からその混雑は増す。
幸いにも、彼の駅は、その駅より手前なので、大混雑する前に、奥のつり革を確保できるのだった。
「へぇ~、あの芸能人が結婚ね」
スマホでニュースを確認する。
結婚、離婚、訃報など様々な情報が散乱している。
特に彼に興味のある情報はなかった為、スマホをしまう。
外を眺めると、いつもの景色が流れている。
駅間が短いのでそんなにスピードは出ていない為、外の様子が見て取れる。
「代わり映えしないな」
そんな風に感じるのだった。
そして、乗換え駅でターミナル駅でもある下矢貝駅に電車は停車した。
多くの乗客が入れ代わる。
いつも通りに、発車ベルが鳴った。
「ドア閉まります。
荷物を強くお引き下さい」
いつものアナウンスである。
扉が閉まりかけるが再度開く。
これも、代わり映えしない。
「駆け込み乗車はおやめください。
次の電車をご利用下さい」
いつも光景に誰も見向きもしない。
しかし、、、
「あれっ」
いつまで経っても、扉は閉まらない。
乗客の間にざわめきが走る。
そして開いたままである。
「あれっ、どうしたんだろう?」
そんな雰囲気が車内を駆け巡る。
そして、ホームに目を移すと何だかざわついている。
複数の駅員が走っている姿も見える。
「人が倒れた」
「列車とホームにはさまれている」
などという声がする。
そして、駅と車内アナウンスが流れた。
「ただいま、急病人救助の為、このホームの列車の運転を見合わせます」
そのアナウンスに車内がざわめく。
「参ったなぁ、会社に間に合わないぞ」
他の乗客たちも、時計を見合わせたり、会社に電話したりしている。
どういう状況か確認もしたいが、いても邪魔なだけである。
影下はこの駅から歩くことにした。
「この駅からなら歩いても30分くらいか。
ギリギリ間に合うかな」
彼は電車をあきらめ、徒歩を選択した。
ホームから改札を抜け、大通りへ出る。
この道を行けば、後は1本路地を入るだけである。
「就業時間ギリギリだな。
光矢にショートメールしておくか」
光矢は彼の相棒であり、雇い主である。
遅刻、欠勤の場合は、ショートメールする事になっていた。
以前、電話をしたことがあるが、
「電話はいらない」
と言われて以来、ショートメールのみにしている。
ブルルっ。
光矢からの返信が来た。
「今日は仕事ないから、慌てなくて良いぞ」
その返信をみた影下は少し寂しくなった。
「おいおい、仕事がないって。
昨日もなかったぞ」
月に1~2件の依頼を受けるだけである。
果たしてこんなので会社が成り立つのか。
「大丈夫か~
まぁ、給料の支払いが滞ったこともないしなぁ」
そんな不安が募る毎日であった。
光矢と中学時代から10年以上の付き合いである。
高校・大学・社会人と違う道を歩んだが、それでも交流はあった。
どちらかというと、光矢の方からの誘いが多かった。
会社員になってからは、土日に彼の仕事を手伝った。
初めはバイトであったが、現在、彼は正社員として勤務している。
『影下、いい加減に専属で俺の仕事手伝ってくれよ』
彼は光矢の熱意を受け、この事務所を専属で手伝うようになった。
給料も前職よりいいし、休日出勤はほとんどない。
毎日終電、休日出勤当たり前の前職と比べると、彼は物足りなさを感じていた。
転職を決意した時は、もっと仕事があって忙しいと思っていた。
しかし、蓋を開けてみれば、月に1~2件程度の依頼を受けて業務を遂行するだけである。
「もしかしたら、光矢が無給で働いているのか?
それにしても、結構派手な生活しているよな」
光矢の住まいは、東京都ど真ん中である。
そんな場所の2LDKのマンションに住んでいる。
『1件あたりの報酬が大きいんだよ』
以前、会社の収支について話した時の光矢の回答を思い出していた。
それでも、影下は納得することは出来なかった。
ただ、気になる点はある。
「報告書がな」
クライアント提出用の報告書は影下が作成し、クライアントへ提出までしている。
一方で、光矢も報告書を作成しているようだった。
1つは関係施設への報告書のようだった。
以前、都立公園での業務の時は、それを管理する都にも報告していたようだった。
もう1つは、、、
『光栄電気』
そんな伝票を俺は見つけてしまった。
その会社は、俺達の地元では有名な企業である。
「何で?」
その質問に、光矢は笑顔を見せるだけであった。
『確か、光栄電気って、光矢の親父さんが働いている会社だったよなぁ』
彼はそのように記憶していた。
「あぁ、もう着いたのか」
色々、考えているうちに事務所に到着した。
出勤時刻ギリギリだった。




