約束 第1話
とある町の茶色の大きなおしゃれな高層マンション。
四角のマンションではなく、今、流行の台形の高層マンションである。
そのマンションの3F。
その1室から1人の中年男性が出てきた。
「行ってきます」
彼は中にいる妻と娘に出かけの挨拶をした。
背丈は平均並みで、少しお腹が気になる中年の男性であった。
少し疲れているのか、顔色は少し悪い。
足取りも重そうだった。
扉を閉め、マンションのエレベータに向かう。
チンッ。
丁度、エレベータが来た。
「今日は、運がいいな」
そういいながら乗り込むと、別の男性が乗っていた。
彼はマンションの管理組合にも参加していたので、お互い顔を知っている。
しかし、顔を知っているが、名前や家族構成などは知らない。
挨拶を簡単に済ませる。
エレベータの中は沈黙を保ったまま、1Fに到着する。
「どうぞ」
彼は先に相手の男性を降ろした。
エレベータを降りると、中庭にマンションの管理人さんがいた。
彼よりも若いのだが、気がきくし、人当たりもよい。
このような人と接する職業に就くために生まれてきたような人だと彼は常々思っていたのだ。
「安齋さん、おはようございます」
「おはようございます。
今日も寒いですね」
「寒くて、調子でないですよ。
早く春が来て欲しいですね」
「まだ、若いんだから、もっとしゃっきとしろよ」
管理人さんの肩を叩いた。
「もう、安齋さんは。
セクハラですよ」
「何がセクハラだ、嬉しいくせに」
確かに管理人の顔は笑顔だった。
その管理人さんは、
「安齋さん、少し顔色悪くないですか?」
「あぁ、そうか?」
「気候の変化も激しいから気をつけてくださいよ」
「ありがとう、君も気をつけてな」
「いってらっしゃい」
管理人と別れ、彼は駅に向かった。
「本当に寒いな」
コートの襟を立てて寒さを凌ごうとするが、それでも冷気が彼を襲う。
その寒さから逃れようと、足が速まり、歩幅も広がる。
同じように急ぎ足で駅に向かう人たちがいる。
徒歩で10分程度歩くと、駅では息が切れていた。
いつも通り、エスカレーターに乗り、自動改札へ。
ここから1時間半程度、電車での移動だ。
「今日も、この電車か」
いつも変わり映えのない電車。
電車の扉が開き、乗り込む。
以前より運転本数も増え、以前よりは混雑は収まっている。
それでも、自分のスペースはごくわずかである。
ゆったりとすることはできない。
「奥に入れるかな?」
彼は奥のつり革スペースを探す。
出入り口付近から人が埋まっていくので、奥の方にスペースがある場合が多い。
じっくりと見てみると、
「あった」
2~3人分のスペースが奥にあった。
彼はそのスペースに入るが、すぐにその分も埋まってしまった。
こここから1時間半程度電車に乗る事になる。
「本でも読むか」
彼はバッグから本を取り出し、読書に耽る。
気付くと、1つ目の乗換駅に着き、多くの乗客が入れ代わる。
彼の目の前の席も空いた。
「本当に今日は運がいいな」
彼はそう感じながら座った。
ここからさらに30分乗車する。
彼は心地よくなり、眠ってしまうのだった。
「どうして承認が終わっていないんですか!」
「すまん、いま資料を確認中なんだ」
「急いでくださいよ。
こういうのは、即時性が重要なんですから」
そう言い放って彼女は自分の席に戻った。
「ふぅ~」
彼がため息をついている。
彼の本音を言わせると、回っていないというのが現状だった。
課長としての通常業務、そしてプロジェクトマネージャとしての業務。
両方をこなすのは大変だった。
残業も増えた。
1つ1つじっくりと業務を遂行するタイプなので、この業務量は耐え切れなかった。
しかし、そんなことを忘れ去れてくれる存在があった。
「どうぞ」
珈琲が机に置かれた。
見上げると、1人の女性がいた。
「橋上君」
「課長、顔がしけてますよ。
大丈夫です、ちゃんと予定通り進んでいますよ。
あの人、課長に当たっているだけです」
「あぁ、何となく分かるが、、、」
「彼女は仕事はできるんですけど、性格がね。
それだから、前任のPMは体壊しちゃったんですよ」
「ありがとう、いつも、君には助けられるよ」
「何言っているんですか。
お互い様ですよ。
私だって、課長に助けられてきたんですから。
その恩返しですよ」
いつも、彼女はそう言うのだった。
「終点、下矢田、下矢田です」
どちらさまもお忘れ物のないようにお乗換え下さい。
「あぁ、いつの間にか寝てしまったのか」
彼は、バッグを肩にかけ、電車を降りた。




