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【完結】伯爵令嬢セシリアは今日も修羅場に遭遇する  作者: 木風


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第二十四話 『王太子殿下から離れなさい』と言われましたが、聖女の能力は万能ではないようです

「……あなたが最近、王太子殿下に付き纏っている、セシリア・アースキンね?」


 背後から女性の声がして振り返ると、真っ白な衣に身を包んだ若い女性が立っていた。

 年は私とそう変わらないだろう。

 胸元には神殿の紋章が入った飾りをつけている。


 そして、その後ろには男性が五人。


 騎士らしき青年。

 神官。

 貴族令息が二人。

 魔術師らしき男までいる。


 全員が、なぜかこちらを睨んでいた。


「……どちら様でしょう」

「まあ!私を知らないの?先日、聖女として認定されたマリア・モーリスよ!」

「そうでしたか。初めまして。セシリア・アースキンと申します」

「それだけ?」

「他に何か?」


 マリア様の眉がぴくりと動く。


「聞いていた通りだな。愛想がなくて、冷たい女だ!」

「マリアに失礼だぞ!」

「聖女様がわざわざ名乗ってくださったんだ。もっと敬意を示したらどうだ」

「そうだ。彼女はこの国に選ばれた特別な女性なんだぞ」


 後ろにいた男たちが、次々に口を挟んでくる。

 まだ名乗っただけなのに、随分と怒られている。


「それで、その特別な聖女様が私に何か?」

「王太子殿下から離れてくださいまし」

「……はい?」

「最近ずっと、殿下に付き纏っているそうじゃない」

「今日は殿下からお誘いいただきましたけれど」

「そんなの、あなたが仕向けたんでしょう?」


 話が通じない。


「マリアは心配しているだけだ!」

「王太子殿下ほどの方が、伯爵令嬢ごときに惑わされているなんて見過ごせないんだよ」

「身の程を知るべきだ」


 後ろの男性たちが次々と言う。


「……私、まだほとんど喋っておりませんけれど」

「その態度が気に入らないのよ!」


 どうすればいいのだろう。

 殿下は今、店内で魅了効果の出てしまったハンカチについて、処理を進めている。

 もう少し早く出てきてくれないだろうか。


「私ね、昔から男性に好かれてしまうの」


 マリア様が髪を払う。


「女の人にはよく嫉妬されるけれど、仕方ないと思っているわ。だって私、聖女だもの」

「聖女になる前からでは?」

「そういうところ!」


 どこだろうと、後ろを振り向くけれど、何もない。


「この方たちも、みんな私を大切にしてくれるの」


 マリア様が両手を広げると、後ろに控える五人の男性が揃って頷いた。


「僕はマリアのためなら何だってする!」

「私もです」

「彼女ほど純粋な女性はいない」

「王太子殿下だって、きっとお会いすれば分かる」


 それは逆に、皆で同じ女性を取り合うことにはならないのだろうか。


「皆様、仲がよろしいのですね」

「そこ!?」


 なぜ怒られたのか分からない。


「とにかく!王太子殿下のお隣に立つのは、私の方が相応しいの!」

「そうですか」

「当然でしょう!伯爵令嬢と聖女よ?比べるまでもないでしょう?」


 マリア様が私を指差した。


「聖女になると、王太子妃になれる決まりが?」

「決まりなんてなくても分かるでしょう!聖女は王子様に愛されるものなの!そして、あなたは悪役令嬢なのよ!」

「私が?」

「そう!聖女である私を邪魔して、最後には断罪される役!」

「初対面ですけれど」

「これから邪魔するのよ!」

「まだしていないのですね」

「細かいことばかり!」


 ……また、妙な単語が出てきた。

 そして、ずいぶん先のことまで決められている。

 占い師か何かだろうか……?


「だから、今のうちに殿下から離れなさい。そうすれば、私もあなたを許してあげる」

「何について許されるのでしょう」

「だから、私の邪魔をしていることよ!」

「まだしていないと、先ほどご自分で……」

「マリアを困らせるな!」


 今度は貴族令息らしき男性が一歩前へ出た。


「彼女は優しいから、君にも機会を与えているんだ」

「聖女様の慈悲を無駄にするな」

「王太子殿下に近づくのも今日限りにしろ」

「それは殿下がお決めになることでは?」

「なんだと?」

「殿下がどなたとお出かけになり、どなたと一緒にいるかは、殿下ご自身がお決めになることでしょう」

「でも、殿下はまだ本当の私を知らないの!」


 マリア様が胸を張る。


「お会いすれば、絶対に私を好きになるわ!」

「まだお会いしたことがないのですか?」

「ないけど!」


 会ったことがないのに、そこまで想うことができるなんて……なんという強さだろう。


「王太子殿下まで虜にするつもりとは……僕たちでは計り知れない……!」

「ああ!さすがマリアだ」

「僕たちは応援するよ」


 本当に、それでいいのだろうか。

 まるで、血を分けた兄弟の結束力のようにみえる。


「何の騒ぎだ?」


 やっと、後処理が終わったアドリアン殿下が店から出てくると、マリア様の表情が一瞬で明るくなった。


「殿下!初めまして!先日、聖女になったマリアです!」

「ああ、あの……」


 殿下は知っているらしい。

 どうやら聖女だというのは本当らしいけれど……なぜだろう。ほんの少しだけ、面白くない。


「私のことをご存知でいらしたのですね!」

「ああ。一応、聖属性を持っていたので、聖女として認定はした」

「一応?」

「今のところ、目を光らせることしかできないと報告を受けている」

「殿下!」


 マリア様の顔が赤くなる。


「……目が光るのですか?」

「光りますわ!」


 ぱあっ、と本当に両目が明るくなった。

 眩しさのあまり、目を薄める。


「……光りましたわね」

「光ったな」

「すごいでしょう!?あなたごときにはできないでしょう!?」

「暗い場所では便利そうですわ」

「またこいつは、マリアを侮辱して!」


 どうして私が怒られるのだろう。


「殿下、こんな女と一緒にいる必要はありません!」

「こんな女?」

「この女は、聖女であるマリアを侮辱したんです!」

「殿下に付き纏っているとも認めました!」

「認めておりません」

「殿下。マリアこそがあなたに相応しい女性です」

「我々全員が保証します!」


 殿下が五人の男を順番に見る。


「君たち全員、彼女を好きなのか?」

「もちろんです!」

「なら、君たちで大切にすればいいだろう。なぜ僕まで加えるんだ?」

「え?」


 誰も答えなかった。


「ですが殿下!私は聖女です!」

「知っている。目が光るんだろう?」

「そこばかり言わないでください!」

「それ以外の能力は、まだ報告を受けていない」

「これから増えるんです!」

「増えてから報告してくれ」


 殿下が私の隣まで来る。


「セシリア。何かされたか?」

「いえ。色々と言われただけです」

「何を?」

「私が悪役令嬢で、殿下に付き纏っていて、いずれ断罪されるそうです」

「……また随分と増えたな」

「殿下!その女の言うことを信じるんですか!?」

「今日セシリアを誘ったのは僕だし、手紙を出すのも僕からだ」

「でも!」

「付き纏っているとしたら、むしろ僕の方じゃないか?」

「殿下、ご自分でおっしゃるのですね」

「事実だろう?」


 そう言われると否定しにくい。

 けれど、楽しみな自分もいるから、付き纏われているだなんて思ったこともない。


「ですが、その女は聖女である私を馬鹿にしたんです!」

「セシリアが君に何をした?」

「だから、私の邪魔を!」

「今日初めて会ったんだろう?なら、何もしていないじゃないか」


 殿下の声から、いつもの軽さが消えた。

 私も普段から童帝だったり、魅了にかかりやすいのを見て久しく忘れていたけれど、やっぱりこの人は王太子なのだ。


「君たちがマリアを好きなのは自由だ。聖女として大切にするのも構わない。でも、そのためにセシリアを貶す理由にはならない」

「殿下……」

「それに、僕が誰と一緒にいるか、誰を大切にするかを、君たちが勝手に決めるな」


 後ろの男性たちを見ると、今度はマリア様を見る。

 誰も何も言わなかった。私も、言葉が出てこない。


「……私は聖女なのに」

「それとこれとは別の話だ」

「私の方が、その女より殿下に相応しいです!」

「だから、それを決めるのは君じゃない」

「じゃあ、誰なんですか!?」

「僕だろう。他に誰がいるんだ」


 当たり前のことを、当たり前に言った。


「そもそも、君たちに発言を許可した覚えもない」

「……それは……」

「僕に直接訴えたいことがあるなら、まずは嘆願書を出してくれ」


 きっぱりとした殿下の言葉に、誰も何も言えなくなる。

 マリア様は唇を噛むと、やがて後ろの男性たちを連れて去っていった。


「……行きましたわね」

「ああ」

「殿下、先ほどは、ありがとうございました」

「僕が君を誘ったのに、変なことに巻き込まれたんだから当然だ」

「珍しく、とても格好よかったですわ」

「珍しくは余計だ!」


 いつもの殿下に戻り、少しだけ安心した。


 買い物を終え、王宮近くまで戻る頃には、日も傾き始めていた。

 帰りの馬車が待っている。


「セシリア、今日はありがとう」

「こちらこそ」

「また……」

「?」

「いや」


 馬車に乗るため、数歩歩く。

 帰宅したら、ミシェルに今日はどうだったか聞かれるだろう。

 朝から準備をしてくれたリタにも、なんと答えようか……と考えると「楽しかった」と、素直に思えた自分に少し驚いた。


「セシリア」

「はい、何でしょう?」

「その……いや、やっぱりいい」


 先ほどからこればかりだ。

 私が立ち止まると、アドリアン殿下が数歩先で気づいて振り返る。


「どうした?」


 今日は、何度も妙なことが起きた。

 いや、今日だけではない……同じ日に、二人して婚約破棄をしてからずっとだ。


 そして、今日はチョーカーをプレゼントしてくれ、聖女から守ってくれたこと。

 デートだと言ったこと、そして今、何度も何かを言おうとしていること。

 ここまで揃っていて、分からないふりをするほど私は鈍くない。


「殿下。私に、何か仰りたいことがあるんじゃありませんか?」

感想欄でいただいた案を一部アレンジして使わせていただきました。ありがとうございました!

感想欄から修羅場が増殖しております。

次々に修羅場に遭遇する令嬢…次はどんな修羅場に遭遇するのか…

気になったら、ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

もし、こんな修羅場を見てみたい!などありましたら、感想でもらえると嬉しいです!

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面白くて1話から読み耽っていたのですが、 > 殿下の声から、いつもの軽さが消えた。 > 私も普段から童帝だったり、魅了にかかりやすいのを見て久しく忘れていたけれど、やっぱりこの人は王太子なのだ。 …
あれだけ精神耐性の無い王太子が引っかからなかったって事は、この聖女魅了持ちじゃない……? じゃあ取り巻き令息達は何で引っかかってんの? 単なるバ……ゲフンゲフン
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