↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】伯爵令嬢セシリアは今日も修羅場に遭遇する  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/26

第十八話 鯖が百匹に増えましたが、便利な乗り物があったので何とかなりそうです

「山田君!鯖百匹!」


 ぴちぴちぴちぴちぴちぴちぴちぴち――。


「……」


 増えた……本当に、百匹増えた。

 先ほどまで数匹の鯖料理を囲んでいたはずの中庭が、今や大量の鯖で埋め尽くされている。


「……壮観だな」


 アドリアン殿下が呟いた。


「感心している場合ではございません」

「お姉様!あちらにも!」

「見えております」


 ミシェルは楽しそうだけれど、私は頭が痛い。


 足元でも鯖が跳ねているし、少し離れた芝生でも跳ねている。

 キャンピングカーとやらの下に潜り込もうとしている鯖までいる。


「本当に百匹ですの?」

「九十七、九十八……」


 リタが数えている。


「百匹おります」

「山田君、仕事が正確ですわね……」

「でしょう?」

「褒めておりません」


 桶の中にいる、元凶の鯖が得意げにヒレを振った。


「お嬢様。さすがにこれ以上は、みなさまのお腹具合が……」


 徐々に魚臭くなる中庭……どうしたものか。


「市場へ持っていきます?」

「突然百匹の鯖を持ち込んだら、魚屋も困るだろう」

「王宮の料理人に配っても余りますわね」


 さすがに百匹もあれば、それなりの人数へ行き渡る。

 けれど、すぐ食べなければ傷んでしまうだろう。


「保存食にしたらいかがでしょうか。燻製や干物でしたら、日持ちいたします」

「では、このキャンピングカーを使いましょう!」


 リタが鯖を拾い上げながら言うと、商会令嬢が勢いよく手を挙げた。


「燻製器も乾燥設備もございます!」

「そんなものまで?」

「もちろんです!屋外でも温かい食事を作り、食材を保存し、快適に過ごせる。それがキャンピングカーです!」


 なんでもある。

 本当に便利な乗り物らしい。


「リタ、できます?」

「やってみます」


 リタはすぐに袖をまくった。


「では、まず頭と内臓を処理いたします」

「私も手伝いますわ!」

「ミシェルは危ないので離れていてください」

「ええー」

「百匹程度でしたら、お嬢様のお手を借りなくても十分です」


 リタは淡々としている。

 百匹を前にしても動じない。非常に頼もしい。


「では火力を上げますね!」


 商会令嬢も厨房へ入っていった。


 ブロロロロ……。


 キャンピングカーから低い音が響く。

 先ほど鯖を数匹焼いた時より、少し大きい。


「こちらで一度に十二匹焼けます!」

「十二匹!」

「こちらでは燻製を二十匹!」

「二十匹!!凄いな!!」

「乾燥設備にも二十匹入ります!」


 次々と鯖が運び込まれていく。

 殿下は相変わらず、数字に興奮している。


「……ずいぶん処理できますのね」

「大量調理も想定しておりますので!」


 リタが捌く、商会令嬢が設備へ入れる。

 料理人まで何人か呼ばれ、いつの間にか中庭はちょっとした鯖加工場になっていた。


 ブロロロロロ……。


「しかし、これは本当に便利だな。寝床があって、調理場があって、水も使えるんだろう?」

「はい!冷蔵設備もございます!」

「これを騎士団の野営に導入できれば、負担がかなり減るんじゃないか?」


 殿下がキャンピングカーを見上げる。


「雨が降っても食事を作れる。交代で休ませることもできるし、負傷者を寝かせて運ぶこともできそうだ」

「さすが殿下です!まさにそういった用途も想定しております!」

「何人乗れる?」

「寝台を使えば六人。座るだけなら十人ほどです!」


 商会令嬢が嬉しそうに振り返った。


「なら数台あれば――」


 殿下が何かを計算し始める。


「これ、一台作るのにいくらかかったのでしょうか?」

「試作費込みで、千二百万ゴールドです!」

「千二百万!?」


 殿下の目が輝いた。


「殿下」

「違う!僕は大きな数字に反応したわけじゃないぞ」

「まだ何も言っておりません」

「本当だ!」

「そうですか」


 さすがに学習はしているらしい。


「量産すれば、もっと下げられます!」

「どのくらいまで?」

「八百万ゴールドほどには!」

「八百万……!」


 また少し目が輝いた。


「殿下、騎士団の予算は、そんなに潤沢なのですか?」

「……」


 殿下が黙った。

 頭の中で計算しているのだろう。


「何台くらい必要になります?」

「最低でも十台は欲しい」

「八千万ゴールドですわね。買えます?」

「無理だな……」


 商会令嬢の肩が落ちる。


「一台だけ試験導入するにしても、他に優先すべき装備がある」

「残念です……」

「でも、商品として悪いわけじゃない。裕福な商会や長距離旅行をする貴族なら欲しがるかもしれない」

「本当ですか!?」

「ああ。ただ、騎士団には高すぎるな」


 ちゃんと予算まで考えている。

 普段は妙な魔術に引っ掛かり、鯖に笑いの採点までされているけれど、やはり王太子なのだ。


「でしたら、今作っている鯖の保存食でしたら、騎士の皆様にも喜ばれるんじゃありませんか?」


 並べられていく鯖の燻製を指差した。


「お姉様!それですわ!」

「遠征にも持っていけるな」


 殿下の顔つきが変わった。

 先ほどまで鯖を食べながら謎の食レポを聞かされていた人とは思えない。


「騎士団の野営では、保存の利く食料はいくらあっても困らない。肉ばかりより魚もあった方がいいだろうし」

「キャンピングカーより、ずいぶんお安いですわね」

「比べる対象がおかしいだろう」

「鯖は百匹無料でしたもの」

「無料というか、勝手に出てきたというか……」


 元凶の鯖は、桶の中で満足そうにしている。


「いいですねー!鯖の保存食!」

「同族が加工されておりますけれど、平気なのです?」

「私ってサバサバしてるから!」

「便利ですわね、その言葉」


 ブロロロロロロロ……。


 先ほどから、音がさらに大きくなっている。


「……少々うるさくありません?」

「大量に処理しておりますから!」


 商会令嬢が答える。


「今は焼き台、燻製器、乾燥設備、冷蔵庫を動かしております!」

「全部同時に?」

「はい!」

「それと、お湯も使っております」


 リタが厨房から顔を出した。


「調理器具を洗いますので」

「給湯もですか?」

「はい」

「……ちなみに、換気は?」

「最大です」


 商会令嬢の笑顔が少し固まった。


 ブロロロロロロロロロロ……。


「それから次の鯖を焼くため、火力も上げました」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「どうしました?」

「一度に全部最大出力にすることは想定していなくて――」

「先ほど大量調理も想定していると」

「ここまで大量とは思わないじゃないですか!」


 それはそう。

 普通、突然鯖が百匹増えたりはしない。


「止めた方がいいんじゃないか?」

「殿下……そうですね!一旦――」


 ブロロロロロロロロロロロロロ!!


「……」

「……」

「止めます!燃料供給を――」


 車体が震え始め、商会令嬢が車内へ駆け込む。


 ボンッ!!


「きゃあっ!」


 大きな音とともに、真っ赤な炎をあげ、目の前が煙で真っ白になった。

 何が起きたのか分からない。

 しばらくして風が煙を運んでいく。


「……」


 私は自分の腕を見る。

 煤で黒い。


「お姉様!真っ黒ですわ!」

「あなたもです」

「リタは?」

「無事でございます」


 リタも黒い。

 商会令嬢は地面に座り込み、呆然と燃える試作機を見ていた。


「私の……キャンピングカー……」


 商会令嬢が呆然と炎を見つめていたかと思ったら、突然炎に向かって走り出そうとする。


「!ああああっ!帳簿!」

「落ち着いてくださいませ。危険です!」

「セシリアの言う通りだ!下がるんだ!」

「でもっ!試作費と仕入れをまとめた帳簿も中です!燃えてしまいますー!」

「帳簿?」


 再び車体へ駆け寄ろうとするので、慌てて殿下と一緒になって止める。

 二人がかりでも引っ張られる。彼女もなかなかの力の持ち主だ……


「帳簿がなくなったら商会が回らなくなってしまいます!」

「……確か、先日の件で帳簿も王家の監査に提出しておりましたよね?」


 殿下を見る。


「残ってる!写しも含めて全部だ!!」

「えっ」


 商会令嬢が止まった。


「では……私がいなくても、商会は普通に回ります?」

「後任が帳簿を引き継げばな。それがどうした?」

「私が商会を支えていたことに気づいて、誰かが『君の努力をずっと見ていた』と現れる可能性は?」

「……それは分からない」

「じゃあ、やたらたくさんの辺境伯が、私の能力を求めてくれたりは?」

「ないとは言い切れませんけれど、帳簿とは関係ないと思いますわ」

「我が国の辺境伯は四家だ。東西南北をそれぞれ一家ずつが守っている」

「四家しか!?」

「しか、じゃない。十分だ」

「でも物語ではもっとたくさん……」

「どこの国の話だ!?」


 やっと納得して、諦めてくれた商会令嬢の腕を離す。

 そして……先ほどから気になっていた、殿下の頭を見上げる。


「……それよりも殿下……髪が」

「髪?」


 殿下が自分の頭に触れる。

 爆発の勢いで、すべての髪が大きく広がっている。


「なんだこれは!?」

「アフロ……というやつでしょうね。でも、大丈夫です。すぐに戻るはずですわ」

「なぜだ?」

「さぁ……なぜかそんな気がします」

「本当に戻るのか!?」

「たぶん」

「たぶん!?」


 キャンピングカーから炎が上がる。

 燃料供給は止まったようだけれど、車体の一部が盛大に燃えていた。

 ミシェルが目を輝かせる。


「綺麗ですわ!」

「ミシェル!近づいてはいけません」

「キャンプファイヤーです!」

「違う!」


 燃えている車体を眺める。

 ……なぜか炎を見ていると、心なしか気持ちが安らいでくるのが不思議だ。


「殿下!」


 あまり聞き覚えのない――女性の声がすると、アドリアン殿下の顔が固まった。

 王宮の回廊から、一人の令嬢がこちらへ駆けてくる。

 少し膨らんだ腹部を庇うように手を添えながら、それでも足を止めない。


「殿下!もう一度、お話を聞いてください!」

「……アメリア」


 アドリアン殿下の元婚約者だった。

感想欄でいただいた案を一部アレンジして使わせていただきました。ありがとうございました!

感想欄から修羅場が増殖しております。

次々に修羅場に遭遇する令嬢…次はどんな修羅場に遭遇するのか…

気になったら、ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

もし、こんな修羅場を見てみたい!などありましたら、感想でもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『無華の花嫁』発売中
無華の花嫁
~華の加護なき無能な少女は、黒薔薇の殿下に愛される~
和風シンデレラ/異能恋愛/黒薔薇の殿下/虐げられ令嬢/救済&溺愛
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
あ、托卵令嬢だ!お腹の子は誰の子なんだっけw
なんかこう「恋愛ってなんだっけ?」なかんじな気もしないでもなくもないけど、王太子(童貞)と令嬢がいるからいいの…か? 二人ラブコメるよねきっと。 ドタバタラブコメっぽくね!w
キャンピングカーちょっと過剰に稼働してただけで、普通に高性能で普通に欲しいですわね……。1ゴールド=1円くらい? それはさておき……托卵令嬢なんでまだシャバにいるんですの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。