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廃棄された俺だけがアンドロイドの魂を修復できるらしい ~恋も出産も管理された未来世界で、機械の少女たちと反逆します~  作者: 好山 雪


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第16話 救った人は、仲間になるとは限らない

契約労働船《GOLDEN CAGE》から、十一人の労働者を救出したレンたち。


しかし、彼らに残された借金は消えていない。


住む場所。


新しい仕事。


船内へ残った家族や友人。


救助されたからといって、すべての問題が解決するわけではなかった。


そして、助けた者が感謝し、仲間になってくれるとも限らない。


 《GOLDEN CAGE》は、三時間の退去期限を待たずに動き始めた。


 金色の大型船。


 船体を飾る光反射塗料が、《NOMAD'S REST》の人工照明を受けて輝く。


 遠ざかる姿だけを見れば、犯罪的な契約で人を縛っていた船には見えない。


『契約労働船《GOLDEN CAGE》』


『港外縁航路へ移動』


『兵装の起動反応なし』


 ミラが報告する。


「本当に出ていく?」


 ノイが窓へ顔を近づける。


「ああ」


「もう戻ってこない?」


「分からない」


「悪い船だったんでしょう?」


「船が悪いわけじゃない」


「中にいた人?」


「それも、全員じゃない」


 ノイが首を傾げる。


「難しいね」


「難しいな」


 分かりやすい悪人を倒せば終わる話ではない。


 オルド・セインは、労働者へ住居と食料を与えていた。


 医療も提供した。


 登録番号を得る機会も。


 その代わり。


 返しきれない借金。


 説明されなかった人格処置。


 身体を止める債務管理端末。


 助けることと、支配すること。


 同じ契約の中に、両方が混ざっていた。


「レン」


 レナが後ろから呼ぶ。


「神経反応検査の時刻です」


「さっきやった」


「二時間前です」


「もう?」


「はい」


「今、船が出ていくところ」


「検査中も映像は見られます」


 移動椅子の肘掛けへ、検査端末が接続される。


「右脚を動かしてください」


 膝へ力を入れる。


 昨日より高く上がった。


「反応良好」


「左脚」


 足の指。


 わずかに動く。


「昨日より改善しています」


「立てる?」


「不可能です」


「即答だな」


「歩行を試すには、両脚の筋力が不足」


「一人で試さないでください」


「試さない」


 レナの金色の瞳が細くなる。


「本当ですか?」


「本当」


「記録します」


 窓の外。


 《GOLDEN CAGE》が港の構造物の向こうへ消える。


 そこに残ると決めた者たち。


 救助申請を取り下げた者。


 娘の登録審査のため、働き続ける者。


 自分の意思で選んだ。


 だが、安全だとは言えない。


「何かあれば、通信符号を送るよう伝えた」


 エリスが言った。


 彼女はいつの間にか、俺の反対側へ立っていた。


 大きな荷物を二つ持っている。


「それは?」


「生活用品」


「誰の?」


「私の」


「船へ持ち込むの?」


「数日泊まるって言ったでしょう」


「数日分にしては多くない?」


「機械腕の整備装置」


「交換用の指」


「着替え」


「化粧品」


「簡易武器庫」


「最後の物は駄目だ」


「武器は港の規則に従って封印する」


「置いてくれば?」


「狙われてるのに?」


 レナが荷物を走査する。


「拳銃二丁」


「圧縮刃四本」


「衝撃弾十二発」


「煙幕装置」


「高出力切断具」


「査定官の所持品ではありません」


「全部、仕事道具」


「何を査定するつもりですか?」


「危険度」


「実力で?」


「必要なら」


 レナとエリスの視線がぶつかる。


「荷物は武器庫へ」


 俺は言った。


「武器庫に空きは?」


『ありません』


 ミラが答える。


「レナの《TWIN ARC》」


「ガイの作業用爆破具」


「救難信号弾」


「回収した制圧銃」


「収納限界です」


「では、エリスの部屋へ」


「部屋はありません」


「じゃあ、レンの部屋」


「却下します」


 レナの返事が速い。


「船長代行の判断前ですよ」


「危険物管理上、不適切です」


「私自身も一緒に管理する」


「さらに不適切です」


「何が?」


「複数の意味で」


 エリスが笑う。


「意味を説明して」


「拒否します」


「二人とも、まず荷物を床へ置いてくれ」


 俺はため息をついた。


「これから一時滞在区画へ行く」


「救助した十一人の今後を確認するんだろ」


「そうだった」


 エリスは大きな荷物を片腕だけで持ち上げる。


「これは船へ置いてくる」


「武器は?」


「ガイに預ける」


「嫌がるぞ」


「交換用部品を一つ渡せば大丈夫」


 機関区画から怒鳴り声が聞こえた。


『聞こえてるぞ!』


     ◇


 救助された十一人に与えられたのは、港外縁の仮設居住区だった。


 古い貨物コンテナを改造した部屋。


 寝台。


 小さな机。


 共用の洗浄室。


 一日に使用できる水は、一人二十リットル。


 食事は二回。


 七日目から居住費が発生する。


「無料じゃないのか」


 俺は表示を見る。


「最初の六日間は、救助者用の猶予期間」


 エリスが答える。


「その後は、仕事か信用が必要」


「追い出される?」


「すぐには」


「借金として記録される」


「また借金か」


「借金そのものが悪いわけじゃない」


「返せる範囲」


「内容が説明されている」


「返せなくても身体を取られない」


「その条件なら、明日を先に使える」


「明日を?」


「家を借りる」


「道具を買う」


「治療を受ける」


「今持っていないものを、未来の仕事で払う」


「その仕組みがなければ、何も持っていない人は始められない」


 借金で人を買うことはできない。


 だが、借金をすべてなくせばよいわけでもない。


「難しいな」


「だから査定官がいる」


 エリスが胸を張る。


「仕事、する気あったんだ」


「普段は何をしてると思ってたの?」


「停泊料を増やす」


「それも大事な仕事」


 仮設居住区の中央室。


 十一人が集まっていた。


 セナ・ロス。


 短い銀髪。


 救助信号を送った女性。


 ほかの者たちは、年齢も身体も違う。


 人間。


 片脚を義肢化した者。


 肺に人工器官を持つ者。


 指を二本失った高齢者。


「現在の選択肢を説明する」


 エリスが中央に立つ。


「一つ」


「《NOMAD'S REST》で仕事を探す」


「港内労働の信用で、居住費と食費を支払う」


「二つ」


「別の自由港へ移動する」


「移動費用は必要」


「三つ」


「《HELIOS LABOR SUPPORT》と交渉し、《GOLDEN CAGE》へ戻る」


 何人かの表情が動く。


「戻れるの?」


 男性が尋ねる。


「会社側が認めれば」


「罰は?」


「契約違反金を請求される可能性が高い」


「でも、選択肢からは外さない」


「四つ目」


 エリスが続ける。


「債務契約の無効を求め、港の仲裁手続きへ入る」


「時間は?」


「短くても三か月」


「長ければ数年」


「その間も働く必要がある」


「借金は消える?」


「保証できない」


 全員が黙る。


 助けた直後に、明るい未来が用意されているわけではない。


「《ウェイフェアラー》へ乗れる?」


 一人の青年が尋ねた。


 視線が俺へ集まる。


「今すぐは難しい」


 俺は答えた。


「船内には患者と子どもがいる」


「寝台も足りない」


「今後、乗員や乗客を募集する可能性はある」


「でも、助けた人を全員乗せる約束はできない」


 青年の顔に失望が浮かぶ。


「俺たちを連れ出したのに?」


「一時滞在区画が用意されると説明した」


「聞いた」


「でも、救難船なら、その後も助けるんじゃないのか」


「その後って?」


「住む場所」


「仕事」


「借金」


「全部だ」


 声が強くなる。


「俺たちは、会社に残れば食事があった」


「狭くても寝る場所があった」


「今は七日後の家賃さえ分からない」


「そんな状態で、助けたと言えるのか?」


 反論が浮かばない。


 会社にいた方が、明日の食事は確実だった。


 人格再調整の対象ではなかった者にとって。


 《GOLDEN CAGE》を出ることが、すぐ幸福につながるとは限らない。


「ダイン」


 セナが青年を止める。


「自分で出ると言ったでしょう」


「分かってる!」


 ダインは叫ぶ。


「でも、こんなはずじゃなかった!」


 その言葉が、胸へ刺さる。


 俺は無意識に、助けた後は少しよい方向へ進むと思っていた。


 サーティーン。


 救出した十三体のアンドロイド。


 診療所の患者。


 《LILY-4》。


 助けられなかった者もいる。


 それでも、助けた相手には、生きていてよかったと思ってほしかった。


「ごめん」


 俺は言った。


「謝ればいいのか?」


「分からない」


「でも、俺たちは、救助後の生活まで用意できなかった」


「それは事実だ」


「できないことを、できるように言ったつもりはない」


「それでも、期待させたなら悪かった」


「じゃあ、どうする?」


「今から一緒に探す」


「仕事」


「居住区」


「借金の扱い」


「全部を解決できるとは言わない」


「でも、船を出たから終わりにはしない」


「それで足りなかったら?」


「怒っていい」


 ダインの眉が動く。


「助けられた側が?」


「ああ」


「感謝しなくてもいい」


「俺たちの仲間になる必要もない」


「助けたことを理由に、言うことを聞かせたら《GOLDEN CAGE》と同じだ」


 ダインは何も言わなかった。


 怒りも、不安も消えていない。


 それでよいとは思えない。


 だが、無理に消すこともできない。


     ◇


 一人ずつ、希望を確認した。


 港へ残る者、七人。


 別の自由港を探す者、二人。


 仲裁手続きへ入る者、五人。


 複数の選択肢を同時に選んだ者もいる。


 《GOLDEN CAGE》へ戻ることを希望した者、一人。


 ダインだった。


「戻るの?」


 セナが驚く。


「妻が残ってる」


「初めて聞いた」


「契約区画が違った」


「救助信号のことも話せなかった」


「一人で出てきたのは?」


「外から妻の契約を無効にできると思った」


「でも、金もない」


「仕事もない」


「戻って、もう一度話す」


「会社が会わせると思う?」


「分からない」


 ダインは俺を見る。


「戻るのを止める?」


「止めない」


「でも、一人で《GOLDEN CAGE》を追うのは危険だ」


「通信から始める」


「会社が認めなければ?」


「別の方法を探す」


「俺たちに、また助けろと言うのか?」


 試すような言葉。


「必要なら」


「さっき、怒ったばかりだぞ」


「怒ったら助けを求めちゃいけないのか?」


 ダインが言葉を失う。


「感謝と救助は交換じゃない」


「俺たちにできる範囲は限られる」


「でも、話は聞く」


 ユーノから通信が入る。


『配偶者分離に関する労働契約規則を確認した』


「何か使える?」


『マーテル家族保全規則』


『登録配偶者の場合、本人の意思に反する長期分離は禁止』


「ダイン、結婚登録は?」


「ない」


「じゃあ駄目か」


『待て』


 ユーノが続ける。


『共同生活記録が三年以上あれば、準配偶者として申請可能』


「記録は?」


「同じ区画で四年暮らした」


 ダインが答える。


「証明できる?」


「給与明細」


「居住費の分担記録」


「なら、妻を港へ移す申請ができる」


 エリスが端末を開く。


「会社が拒否しても、拒否理由を記録させる」


「仲裁材料になる」


「今から?」


「今から」


 ダインの表情が、初めて少し変わった。


「どうして」


「何が?」


「俺は、あなたたちを責めた」


「聞いてた」


「それでも?」


「さっきレンが言ったでしょう」


 エリスが答える。


「感謝と救助は交換じゃない」


「ただし、手続き料は必要」


「やっぱり金を取るのか!」


「仕事だからね」


 ダインが声を上げる。


 先ほどまでとは少し違う声。


 怒りの中に、わずかな力が戻っていた。


     ◇


「私は、第十八農業区画で働きます」


 セナが言った。


「《LILY-4》の言語変換層を修理できる技術者を募集してる」


「経験は?」


 ガイが尋ねる。


「旧式船の制御設備を七年」


「灌水装置は?」


「三年」


「磁気軸は?」


「交換できる」


「《ウェイフェアラー》に欲しいな」


 ガイが言った。


 セナは首を振る。


「救難船には乗りません」


「どうして?」


 俺が尋ねる。


「また逃げる船で暮らしたくない」


 迷いのない答え。


「《NOMAD'S REST》に残る」


「自分の部屋を持つ」


「土へ触れる仕事をする」


「それが、今したいことです」


「分かった」


「残念?」


「少し」


「修理できる人が増えれば助かるから」


「正直ですね」


「でも、選ぶのはセナだ」


「助けた借りで乗れとは言わない」


 セナは、ほんの少し笑った。


「助けてもらった借りとは思っていません」


「私が救助信号を送り」


「あなたたちが仕事として応じた」


「対等な取引です」


「厳しいな」


「借りだと思えば、また誰かに人生を渡すことになる」


 その言葉は、エリスではなく。


 自分自身へ言っているように聞こえた。


「ただし」


 セナが続ける。


「《ウェイフェアラー》の磁気軸を直すなら、仕事として受けます」


「料金は?」


「港の標準額」


 ガイが顔をしかめる。


「高い」


「腕は確かです」


「自分で言うか?」


「無料では働きません」


「気に入った」


 ガイが太い手を差し出す。


 セナは、その手を握った。


 仲間にはならない。


 それでも、次に会う約束はできる。


     ◇


 《ウェイフェアラー》へ戻ると、四基の寝台が届いていた。


 今回は完成品。


 少なくとも、見た目は。


「一基目、医療区画」


 ガイが配置を決める。


「二基目、女性用区画」


「三基目、格納庫」


「四基目は?」


 エリスが尋ねる。


「お前の分だろ」


「私の部屋は?」


「ない」


「船長室は?」


「船長室自体がない」


「レンはどこで寝てる?」


「救難用体温維持寝台」


「広い?」


「成人二人分です」


 レナが答える。


「使用予定はありません」


「聞いてないけど?」


「先に説明しました」


「私なら一緒でもいいよ」


「却下します」


「レナが決めるの?」


「医療担当者と船長代行本人の同意が必要です」


「レンは?」


 三人の視線が集まる。


「四基目を女性用区画へ入れよう」


「逃げた」


 エリスが言う。


「合理的な判断だ」


 女性用区画には、すでにミサキと数名の患者がいる。


 そこへレナ。


 さらにエリス。


「広さは?」


『推奨定員、三名』


 ミラが答える。


「現在の利用者、五名」


「寝台追加後、六名」


「無理じゃない?」


「緊急状態です」


 レナが答える。


「私は低出力待機なら立ったままでも」


「寝台を使って」


 俺とミサキの声が重なる。


「ですが」


「使ってください」


 ミサキの口調が強くなる。


「エリスも」


「腕の整備中は、身体の均衡を取りにくいでしょう」


「詳しいね、先生」


「医師だから」


「見てもらおうかな」


「必要なら」


「接続部も?」


 エリスが上着を少しずらす。


 肩。


 生身と機械腕の境界。


 古い手術痕。


「今?」


 ミサキが驚く。


「整備装置をつなぐ前に確認したい」


「分かった」


「医療区画へ」


「ここでいい」


「人がいるでしょう」


「私は気にしない」


「周囲が気にするの」


 エリスが俺を見る。


「船長は?」


「本人が許可しても、見る必要がなければ見ない」


「昨日、腕は触ったのに」


「接続部は別だろ」


「レナは見せた?」


「なぜ知ってる?」


「反応で分かる」


 レナの胸部炉温度が上がる。


『警告』


「ミラ、報告しなくていい!」


「分かった、分かった」


 エリスが笑いながら上着を戻す。


「医療区画で先生に見てもらう」


 ミサキとエリスが移動する。


 ガイは寝台を運ぶ。


 ピコがその後ろを追う。


 格納庫に、俺とレナが残った。


「レン」


「何?」


「エリスの接続部を見たいですか?」


「医療や修理に必要なら」


「必要がなければ?」


「見ない」


「私の身体は見たのに?」


「許可をもらった」


「エリスも許可する可能性があります」


「許可されたら何でも見るわけじゃない」


「では、私のときは見たかった?」


 質問が細かくなっている。


「見たかった」


 正直に答えた。


 レナの瞳に文字が流れる。


「そうですか」


「嫌だった?」


「いいえ」


「では、次回も?」


「状況による」


「それ、俺がよく使う答えだな」


「便利です」


 レナは俺の移動椅子の後ろへ立つ。


「寝台へ移動します」


「まだ眠くない」


「神経回復には休息が必要です」


「もう少し、自分で椅子を動かしたい」


「壁へ近づかないなら許可します」


「誰の許可だよ」


「ナビゲーターです」


「船じゃなく、俺の椅子だ」


「借用品です」


 また同じ答え。


 俺は操作盤へ右手を置く。


 椅子をゆっくり前へ進める。


 レナは後ろから取っ手へ手を添えたまま。


 止めはしない。


 でも、何かあれば支えられる距離。


「今日、誰も仲間にならなかったな」


 俺は言った。


「はい」


「少しぐらい、《ウェイフェアラー》へ乗りたい人がいると思ってた」


「残念ですか?」


「少し」


「でも、よかったとも思う」


「なぜ?」


「感謝したから乗ると言われたら、断りにくい」


「それでは、本人の選択か分からない」


「そうですね」


「俺たちが助けたことを、返さなくていい」


「必要なら仕事として会う」


「その方がいい」


 移動椅子を止める。


 壁まで一メートル。


「今回は近づいてない」


「確認しました」


「信用した?」


「記録を一件更新します」


「信用までは?」


「もう少し必要です」


 レナが隣へ回る。


 俺の右手へ、自分の手を重ねた。


「でも」


「レンが一人で動こうとするとき」


「すべて止めるのではなく、近くで支える方法も覚えます」


 以前のレナなら。


 危険だからと操作権を奪っていただろう。


 俺も、助けられることを拒んだ。


 今は。


 自分で動かす。


 必要なら支えてもらう。


 どちらか一方ではない。


「ありがとう」


「感謝と支援は交換ではありません」


「セナのまね?」


「正しい言葉だと思いました」


「それでも、ありがとう」


「では」


 レナは少し考える。


「どういたしまして」


     ◇


 その夜。


 救助された十一人から、最初の連絡が届いた。


 セナ。


『第十八農業区画の仮採用が決まりました』


『《LILY-4》から、船長代行へ伝言』


『次の雨まで、バジルを枯らさないでください』


 ダイン。


『妻の準配偶者申請を提出した』


『会社は受領したが、回答はまだない』


『手続き料は高すぎる』


 ほかの者。


『港の清掃作業へ入った』


『別の自由港までの移動費を調べている』


『仲裁申請書の項目が多すぎる』


 感謝の言葉がない通信もあった。


 不満。


 質問。


 料金への文句。


 それでよい。


 生きているから、文句が言える。


 助けた後の人生は。


 助けた側の物語ではない。


 本人たちのものだ。


『追加通信を受信』


 ミラが告げる。


『発信者、契約労働船《GOLDEN CAGE》』


「内容は?」


『《HELIOS LABOR SUPPORT》より周辺航路へ』


旧式救難船ウェイフェアラー


『および乗員に対し、業務妨害と契約資産窃取の容疑を申請』


『情報提供者へ懸賞金を設定』


「懸賞金?」


 金額が表示される。


 停泊料どころではない。


 《ウェイフェアラー》を新しく作り直せるほどの額。


 隣にいたエリスが口笛を吹いた。


「高く評価されたね、船長」


「喜べない」


「私の分は?」


 追加表示。


『査定官エリス・ヴァント』


『企業機密の不正取得』


『契約労働者の逃亡支援』


『懸賞金――』


 俺より少し高い。


「勝った」


 エリスが笑う。


「何に?」


「値段」


「張り合うところじゃない」


「レナは?」


 検索。


『レナ・アークライト』


『該当情報なし』


 レナの表情がわずかに曇る。


「死亡扱いだから?」


「可能性があります」


「気にするな」


 俺は言った。


「家族の情報を調べれば、違う記録が見つかる」


「はい」


 その返事は、少し弱い。


『さらに、別の通信を確認』


 ミラが続ける。


『発信元、不明』


『《ORIGIN REGISTRY》認証』


 空中へ、黒い画面が開く。


 白い文字。


『BIOLOGICAL REBUILD対象、神代レン』


『稼働を確認』


『回収手続きを開始します』


 格納庫から、笑い声が消えた。


 《GOLDEN CAGE》の懸賞金。


 マーテルの追跡。


 そして。


 俺を、この時代へ戻した可能性のある存在。


 戦わない一日は終わる。


 新しい追跡者が、動き始めていた。


第16話では、救助された十一人が、それぞれ異なる道を選びました。


港へ残る者。


別の自由港を探す者。


借金の無効を求める者。


そして、《GOLDEN CAGE》へ戻ることを考える者。


救助されたからといって、感謝する義務も、《ウェイフェアラー》の仲間になる義務もありません。


セナは救難船への乗船を断り、第十八農業区画で自分の生活を始めました。


一方、ダインは船内に残した妻を救うため、港の仲裁制度を利用し始めます。


エリスは報復を避けるため、一時的に《ウェイフェアラー》へ滞在。


レン、レナ、ミサキとの距離も、少しずつ変化していきます。


しかし、《HELIOS LABOR SUPPORT》はレンたちへ懸賞金を設定。


さらに《ORIGIN REGISTRY》が、レンの稼働を確認しました。


次回、壊れた旧式救難船は、広い宙域へ名前を知られることになります。


第17話「古い救難船は、賞金首になった」へ続きます。

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