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形なき逡巡


私は。


何を間違えてしまったんだろう。


……


足元には。


銀色の輪。


私が外したもの。


……


つけている間は。


身体が楽だった。


外してから。


自分の身体が。


思っていたより重かったことに気づいた。


……


たぶん。


あれは。


私に必要なものだった。


でも。


ガゼルは嫌だった。


……


だから。


外した。


それでいいと。


思った。


……


なのに。


ガゼルは。


泣いた。


……


外すのも。


嫌だった?


……


わからない。


……


「……ガゼル。」


返事はない。


繋いだ手の向こう。


少女の顔は。


下を向いたまま。


……


私は。


何をしたらいい?


……


わからないときは。


聞く。


……


「肩、痛い?」


……


首が。


横に動く。


……


「怖い?」


横。


……


「寝る?」


……


また横。


……


全部。


違う。


……


わからない。


……


繋いでいる手を見る。


……


ここにいるのも。


違うのかな。


「私。」


「傍にいない方がいい?」


……


指を。


離そうとする。


……


ぎゅ。


……


離れない。


……


あたたかい。


……


「ここに。」


「いたらいい?」


……


返事はない。


でも。


手を掴む力が強くなった。


……


ここに。


いるのがいい。


……


なら。


いる。


……


座り直して。


壁へ。


背中を預ける。


顔を上げる。


……


……


……


     ◇


廊下から。


足音がする。


……


近づいてくる。


……


かちゃ。


扉が。


開いた。


「姫様……!?」


姉の声。


……


扉の前で。


二人の足が止まった。


姉と。


妹。


でも。


いつもの。


白と黒の服じゃない。


……


床に座る。


ガゼル。


その隣の。


私。


……


繋いだ手。


足元には。


銀色の輪。


……


「姫様!」


二人が。


駆け寄ってくる。


姉が。


その前へ。


膝をついた。


「どうされたのですか?」


……


顔を上げない。


……


妹が。


こちらを見る。


「おもち様。」


「何かあったのですか?」


……


何か。


……


あった。


……


施設の男が。


来た。


王様も。


いた。


……


命令された。


銀色の輪を。


つけられた。


……


カミュのこと。


森のこと。


施設のこと。


……


いろいろ。


あった。


……


でも。


ガゼルが。


こうなったのは。


……


私。


「私が。」


妹を見る。


「間違えた。」


……


「違う……。」


小さな声。


……


顔を伏せたまま。


「私が。」


「悪いの……。」


……


妹が。


私を見る。


それから。


隣を見る。


……


息を吐いた。


「また。」


「すれ違ってるんですか?」


……


妹は。


私たちを。


見比べる。


「お互いのことになると。」


「すぐ。」


「こうなりますね。」


……


こう。


……


「お二人とも。」


「対話が少ないんですよ。」


……


対話。


……


話すこと。


……


そうなのかな。


……


「エステラ。」


姉の声。


「茶化さないでください。」


妹が。


姉を見る。


「互いに大切だからこそ。」


「お二人なりに。」


「お悩みになられているのです。」


「わかっていますよ。」


妹は。


もう一度。


私たちを見る。


「でも。」


「このパターン。」


「多くないですか?」


……


姉が。


妹を見る。


「そういうお年頃なのです。」


「あなたも。」


「こんな感じでした。」


「私じゃなくて。」


「姉さんの方じゃない?」


「そういうところです。」


「えぇ……。」


……


姉は。


もう妹を見ていなかった。


隣へ。


手を差し出す。


「さ。」


「姫様。」


「床ではなく。」


「せめて寝台でお休みになってください。」


姉の目が。


右肩へ向く。


「まだ。」


「お身体もよろしくありません。」


……


隣の少女が。


顔を上げる。


目が。


赤くなっている。


……


それから。


繋いでいる手を見る。


……


私も。


見る。


……


姉の手。


ガゼルの手。


私の手。


……


その指が。


動く。


……


繋いでいた手が。


離れた。


……


姉の手を借りて。


少女が。


立ち上がる。


「っ……。」


右肩を庇うように。


身体が傾く。


顔が。


一瞬。


歪んだ。


姉が。


すぐに支える。


「姫様。」


「無理をなさらないでください。」


……


姉の手が。


服についた埃を。


払っていく。


裾。


膝。


……


床に落ちていた。


羽織も。


拾い上げる。


「こちらへ。」


少女は。


姉に支えられながら。


寝台へ向かう。


……


一歩。


また。


一歩。


……


私は。


その場に。


座ったまま。


見ていた。


……


寝台の前で。


姉の動きが止まる。


「……姫様。」


……


右肩。


白い包帯。


……


赤い。


……


さっきまでは。


なかった。


……


血が。


滲んでいる。


「傷が開いています。」


妹が。


すぐに右肩を見る。


「本当ですね……。」


……


姉が。


少女を。


寝台へ座らせる。


「エステラ。」


「姫様をお願いします。」


「はい。」


「治療師を呼んできます。」


……


姉が。


扉へ向かう。


足音が。


遠ざかっていく。


……


妹は。


寝台の傍に残った。


少女の右肩へ。


視線を向けたまま。


手は。


伸ばさない。


……


私は。


まだ。


床にいる。


     ◇


治療が。


終わった。


床を強く叩いたことが原因らしい。


……


右肩には。


新しい包帯。


血は。


もう見えない。


……


姉と。


妹も。


部屋を出た。


……


扉の向こう。


近くには。


いるらしい。


……


部屋の中には。


私と。


ガゼル。


……


寝台の上。


俯いたまま。


……


私は。


窓辺の腰掛けに。


膝を抱えて座っている。


……


片方の膝へ。


頬を寄せる。


……


手の中には。


銀色の輪。


……


親指で。


縁をなぞる。


……


冷たい。


……


カーテンの端を。


指でつまんで。


少しだけ。


開く。


……


空。


……


雲が。


流れている。


……


カーテンを。


戻す。


……


寝台を見る。


……


少女は。


俯いたまま。


膝の上に。


左手を置いている。


……


指も。


動かない。


……


さっきから。


ほとんど。


変わってない。


……


もう一度。


カーテンの端を。


つまむ。


少しだけ。


開く。


……


空。


……


雲が。


流れている。


……


あの男。


……


私を。


管理していると。


言っていた。


……


施設でも。


覚えている頃から。


あの男は。


ずっといた。


……


だから。


覚えている。


……


いつも。


黒い面を。


つけていた。


……


一度。


聞いたことがある。


どうして。


いつも。


それをつけているのか。


……


観測を。


補助するため。


そう言っていた。


……


施設の研究員は。


聞いても。


答えてくれないことが多かった。


……


私を。


気味悪がる人。


……


私の身体には。


興味があるのに。


私には。


興味がない人。


……


でも。


あの男は。


違った。


……


聞けば。


答えた。


……


何を聞いても。


答えてくれた。


……


まるで。


私が知りたいことを。


全部。


知っているみたいに。


……


でも。


……


命令。


……


廃棄。


……


戦闘。


……


継続。


……


全部。


あの男が。


決めていた。


……


白い部屋。


たくさんの管。


よくわからない機械。


ガラスの向こうに。


たくさんの研究員。


……


いつも。


同じ。


……


そこまでは。


覚えてる。


……


終わったあとも。


覚えてる。


……


でも。


……


その間。


……


白い。


……


思い出そうとすると。


頭の中に。


白いもやが。


かかる。


……


何かを。


測っていた。


……


それは。


覚えてる。


……


あとは。


……


皮膚が。


捲れる感覚。


……


熱い。


……


痛い。


……


怖い。


……


嫌だと。


言った。


……


でも。


終わらなかった。


……


身体中が。


ぞわぞわする。


……


自分の身体じゃない。


みたいな。


……


気持ち悪い。


……


息が。


苦しい。


……


カーテンを。


握る指に。


力が入る。


……


違う。


……


今じゃない。


……


空。


……


雲。


……


風。


……


目を閉じる。


……


ガゼルの手。


……


あたたかかった。


……


息を。


吸う。


……


吐く。


……


大丈夫。


……


問題ない。


……


カミュ。


……


カミュが。


施設にいたことも。


知らなかった。


……


でも。


あの丘で。


私を。


O-M-1


そう呼んだ。


……


施設にいたなら。


知っていても。


おかしくない。


……


私が。


施設から出られたことも。


カミュが。


関係している。


……


あの男は。


そう考えていた。


……


たぶん。


あってる。


……


でも。


……


私は。


森にいた。


……


施設から。


五百キロ。


……


《静謐と紅の森》。


……


迷った人が。


辿り着く場所。


……


私が。


そこへ迷ったなら。


……


カミュは?


……


私を。


追いかけてきた。


……


なら。


どうやって。


あの森に?


……


わからない。


……


考えても。


答えは出ない。


……


それより。


……


これから。


どうなるんだろう。


……


あの男は。


私を管理している。


……


私は。


施設には。


戻りたくない。


……


でも。


……


どうしたら。


戻らなくていい?


……


わからない。


……


あの姿を見ると。


身体が。


強張る。


……


命令を聞くと。


動かしたくないのに。


身体が。


勝手に動いてしまう。


……


怖い。


……


『そういう風に、作りましたから。』


……


作った。


……


私を。


……


やっぱり。


私は。


人じゃないらしい。


……


なら。


言うことを。


聞くしかない?


……


あの男の言うことは。


全部。


正しく聞こえる。


……


必要。


だから。


……


正しい。


だから。


……


従わないと。


いけない。


……


だめ。


……


考えたら。


また。


苦しくなる。


……


「おもち。」


……


え。


……


顔を上げる。


……


すぐ。


傍に。


ガゼルがいる。


……


どうして。

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