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明滅の綾


暗い。


何も。


見えない。


……


身体が重い。


腕を動かそうとする。


動かない。


脚も。


動かない。


……


息を吸う。


胸が膨らまない。


「……っ。」


声も出ない。


……


何かがいる。


見えない。


けれど。


わかる。


身体の上を。


何かが這っている。


腕。


肩。


胸元。


腹。


服の上を。


細いものが這う。


擦れる。


離れる。


また。


触れる。


「……や。」


声にならない。


身体を捩ろうとする。


動かない。


ぬるい。


何かが。


首元へ触れる。


少女の身体が震える。


嫌。


やめて。


お願い。


少女は目だけを動かす。


少し離れたところ。


人が倒れている。


白い髪。


おもち。


「……っ。」


呼ぶ。


声が出ない。


おもち。


動かない。


起きて。


お願い。


暗闇の奥で。


何かが動いた。


大きい。


人ではない。


何なのか。


わからない。


黒いものが広がる。


その真ん中が。


大きく開く。


口。


少女の呼吸が止まる。


それが。


白銀の髪の少女へ。


近づいていく。


嫌。


やめて。


おもち。


動いて。


お願いだから。


大きな口が。


白銀の頭を覆う。


「おもち――っ!!」


少女の身体が跳ねた。


「――っ、は……!」


目を開ける。


暗い。


天井。


部屋。


息を吸う。


「はっ……。」


もう一度。


「は……っ、は……。」


速い。


浅い。


胸が苦しい。


首筋を。


汗が伝う。


背中も。


じっとりと。


濡れている。


寝間着が。


肌に張りつく。


少女は辺りを見る。


暗い部屋。


窓。


閉じられたカーテン。


その隙間から。


夜の色が細く差している。


……


今のは。


……


夢……?


「っ、けほ……!」


喉が引っかかる。


「けほっ……。」


乾いている。


舌も。


喉も。


痛い。


少女は身体を起こそうとする。


「っ……!」


右肩に強い痛みが走った。


肩から背中へ。


首元へ。


身体のあちこちが痛む。


「ぁ……っ。」


力が抜ける。


痛い。


どうして。


その時。


廊下から音がした。


足音。


近づいてくる。


少女の身体が固まる。


扉が勢いよく開いた。


「姫様っ!!」


女の人の声。


少女の身体が。


びくりと跳ねた。


「……っ。」


黒。


白。


人。


近づいてくる。


「姫様!」


『ひめさまぁ?』


「いや……。」


声が重なる。


「姫様、大丈夫ですか!?」


『大丈夫ですよー。』


「いや……っ。」


少女は寝台の上を後ろへ下がろうとする。


右腕へ力が入る。


「ぁっ……!」


肩が痛む。


身体が止まる。


「こないで……!」


「姫様……?」


一歩。


足音。


「いや……!」


息を吸う。


「はっ……。」


もう一度。


「は……っ、はっ……。」


入らない。


胸が苦しい。


「こないで……っ。」


「姫様、私です。」


女の声。


丁寧な声。


「セレスです。」


『姫様ぁ?』


「いや……。」


何を言っているのか。


わからない。


誰なのかも。


わからない。


ただ。


近づいてくる。


怖い。


その時。


身体のすぐ横で。


指先が何かに触れた。


柔らかい。


少女の目が動く。


隣。


寝台の中。


小さく丸まった身体。


白銀に。


淡い色の混じった髪。


おもち。


「……おもち。」


息が止まる。


いる。


少女の身体が動いた。


眠る少女へ。


覆い被さる。


「っ……ぁ!」


右肩へ激痛が走る。


背中が軋む。


それでも。


離れない。


左腕を。


眠る身体へ回す。


自分の身体で。


覆う。


「姫様……!」


「いや!」


腕に力が入る。


「こないで……!」


「っ、けほ……!」


咳。


息。


「はっ……は……っ。」


吸っても。


吸っても。


足りない。


視界の端が暗い。


少女は眠る少女へ覆い被さったまま。


震えている。


「ごめんなさい……。」


掠れた声が落ちる。


「ごめんなさい……。」


……


「お願いします……。」


息を吸う。


「っ、は……。」


喉が痛い。


「お願いします……。」


腕の中の身体を。


もっと抱き込む。


「おもちは……。」


声が震える。


「おもちは……。」


「助けて……。」


「お願いします……。」


右肩がずきずきと痛む。


それでも。


腕を離さない。


「おもちだけは……。」


喉が震える。


「助けてください……。」


「姫様!?」


もう一つ。


声。


足音が駆け込んでくる。


「姫様……!」


後から入ってきた侍女の足が止まった。


「こ、これは……。」


顔が強張る。


「姉さん……。」


「エステラ。」


先に入ってきた侍女の声は低い。


「治療師を。」


「呼んできてください。」


「でも。」


「姫様が――」


「意識はあります。」


少女から目を離さない。


「呼吸が。」


「かなり乱れています。」


「はっ……。」


「は……っ。」


「お願いします……。」


「お願いします……。」


「おもちは……。」


「助けて……。」


「姉さん……。」


「今は。」


小さく首を振る。


「私達が。」


「近くにいない方が。」


「いいと思います。」


後から来た侍女が少女を見る。


黒。


白。


侍女服。


少女の身体が。


また。


びくりと震えた。


「ごめんなさい……。」


「お願いします……。」


「なにもしないで……。」


「おもちは……。」


「おもちは……。」


先に入ってきた侍女の手が。


強く握られる。


それでも。


声は変わらない。


「扉の前を。」


「空けておきます。」


「騎士の方には。」


「少し離れて。」


「周囲の警戒を。」


「続けてもらいます。」


「エステラは。」


「治療師を。」


「お願いします。」


「それと。」


「急に入らないように。」


「伝えて。」


「……わかった。」


「すぐ。」


足音が遠ざかる。


先に入ってきた侍女も。


一歩。


また一歩。


扉の外へ下がる。


扉は。


少しだけ。


開けたまま。


「お願いします……。」


「ごめんなさい……。」


「おもちは……。」


腕の下で。


眠っていた少女の眉が寄った。


「助けてください……。」


「お願いします……。」


「おもちは……。」


「……ぅ。」


小さな声。


少女は気づかない。


「お願い……。」


腕の下で。


身体が僅かに動く。


「……おも。」


掠れた声。


「たい……。」


少女の腕が止まる。


「が……。」


瞼が僅かに開く。


「ぜる……?」


「おも……たい。」


「ガ、ゼル……??」


少女の呼吸が。


一瞬。


止まった。


声。


腕の下。


「……お、もち?」


もぞ。


もぞもぞ。


「くる……しい。」


「……っ。」


腕から力が抜ける。


「ご、ごめ……。」


身体を離す。


「っ……!」


右肩に痛みが走る。


背中まで鋭く響く。


それでも。


身体を起こす。


「はっ……。」


「は……っ、はっ……。」


息はまだ戻らない。


少女は辺りを見る。


少し開いた扉。


薄暗い廊下。


誰もいない。


黒も。


白も。


近づいてくる人もいない。


「は……っ。」


「はっ……。」


それでも。


胸が苦しい。


隣で。


もぞ。


「ガゼル。」


少女の目が動く。


淡い紫の瞳が開いている。


「起きた。」


「おもち……。」


「うん。」


息を吸う。


まだ浅い。


隣の少女の左手が伸びる。


震える指先へ触れる。


指が重なる。


握られる。


「……ガゼル。」


少女は。


重なった指を見る。


少し。


ひんやりしている。


……


おもちの手。


「私。」


「生きてる。」


少女の瞳が揺れる。


隣の少女は。


少し力を込める。


「ガゼルも。」


「生きてる。」


少女を見る。


しばらく。


そのまま。


隣の少女の口元が。


ほんの少し。


上がった。


少女の瞳が大きくなる。


「……。」


今。


「わらっ……た。」


掠れた声。


「おもち……。」


隣の少女は。


そのまま少女を見ている。


少女の目に。


涙が滲む。


「生きてる……。」


おもちが。


生きてる。


指に力が入る。


……


生きてる。


だったら。


「……逃げないと。」


「?」


「逃げないと……!」


身体を起こそうとする。


「っ……!」


右肩に痛みが走る。


それでも止まらない。


「ガゼル?」


「ここにいたら……。」


「また……。」


息が速くなる。


「カミュが……!」


少女は辺りを見る。


扉。


廊下。


窓。


部屋の隅。


「カミュがいるの!」


隣の少女の眉が寄る。


「カミュ?」


「……え。」


「誰?」


少女の瞳が大きく開く。


「誰って……。」


「おもち。」


指に力が入る。


「忘れたの!?」


「丘の上の……!」


喉が詰まる。


「あの人……!」


「私達を……!」


隣の少女は。


しばらく少女を見る。


それから。


部屋を見る。


「いない。」


「……え。」


「その人。」


「いない。」


「でも……。」


「ここ。」


隣の少女が言う。


「城。」


「城……?」


「うん。」


少女の目が動く。


白い天井。


壁。


カーテン。


寝台。


小さな机。


水差し。


見覚えがある。


王城の病室。


「セレスと。」


「エステラも。」


「いる。」


少女は少し開いた扉を見る。


誰もいない。


「二人とも。」


「ガゼルのこと。」


「心配してる。」


少女は。


もう一度。


部屋を見る。


……


城。


呼吸が。


少しずつ長くなる。


「……は。」


「じゃあ……。」


眉が寄る。


「さっきのは……。」


身体の上を這っていたもの。


倒れていたおもち。


大きな口。


「なに……?」


胸元を見る。


何もいない。


「でも……。」


「いたの。」


隣の少女が少女を見る。


「さっき。」


「確かに。」


「誰か……。」


あの声。


『姫様。』


指が震える。


『私です。』


『セレスです。』


……


セレス。


……


『こないで……。』


『いや……。』


『お願いします……。』


『助けてください……。』


少女の唇が震える。


「私……。」


俯く。


「酷いこと……。」


声が詰まる。


「言って……。」


指が。


握られる。


「ガゼル。」


少女は顔を上げる。


淡い紫の瞳がこちらを見ている。


「私。」


「いる。」


「ずっと。」


「おもち……。」


「ガゼルの。」


……


「怖いの。」


「わかる。」


「私も。」


「そうだった。」


少女は何も言えない。


「だから。」


隣の少女は寝台のそばを見る。


「まず。」


「水。」


「飲んで。」


「……え。」


「喉。」


「痛いでしょ。」


少女は瞬きをする。


言われて初めて。


喉の痛みが戻ってくる。


ひりひりする。


息をするたび。


乾いたところが引っかかる。


隣の少女は左手を伸ばし。


寝台脇の水差しを取る。


少しぎこちなく。


コップへ水を注いだ。


「はい。」


差し出されたコップを。


少女は左手で受け取る。


「……うん。」


こく。


こく。


冷たい水が喉を通る。


もう一口。


こく。


コップから口を離し。


息を吐く。


「……は。」


さっきより。


少しだけ。


楽になった。


コップを置くと。


また。


指が触れる。


そのまま。


握られる。


「……怖い時。」


隣の少女が小さく口を開いた。


「嫌な夢。」


「見た時。」


「ガゼルの手。」


「握った。」


少女は顔を上げる。


「ガゼルの手。」


「あたたかい。」


隣の少女は。


重なった指を見る。


「思い出したら。」


「落ち着いた。」


……


「だから。」


「私も。」


「そばにいる。」


……


「ガゼルが。」


「怖くなくなるまで。」


少女の喉が小さく動く。


隣の少女は続ける。


「ガゼルが。」


「見つけてくれたから。」


「私は。」


「ここにいる。」


「あたたかい。」


「この。」


「あたたかいのが。」


……


「私に。」


「まだ。」


「ここにいて。」


「いいって。」


……


「生きてても。」


「いいって。」


「教えてくれた。」


少女の瞳から。


一粒。


涙が落ちた。


「だから。」


隣の少女は顔を上げる。


「私も。」


「ガゼルに。」


……


「生きて……。」


「ほしい。」


「笑ってほしい。」


もう一粒。


涙が頬を伝う。


「怖くない。」


首が。


少し傾く。


「……よ?」


……


「私。」


「わからないこと。」


「多い。」


「だから。」


「うまく言えない。」


一度。


視線が落ちる。


「ごめんなさい。」


返事がない。


隣の少女が顔を上げる。


翡翠色の瞳から。


大きな雫が落ちていた。


一つ。


もう一つ。


大粒の涙が。


次々と頬を伝っていく。


「ガゼル……?」


隣の少女の視線が。


頬を伝う涙へ落ちる。


それから。


重なった指へ。


……


「あ。」


顔を上げる。


「ガゼル。」


「みて。」


「……?」


繋いでいた指が。


離れる。


隣の少女が。


その掌を。


上へ向けた。


……


淡い紫の光が。


小さく。


灯る。


最初は。


目をこらさないと。


見えないくらい。


小さな光。


……


ぱち。


……


また。


ぱち。


……


眩しくない。


夜の星みたいな。


やさしい光。


……


掌の上で。


光が揺れる。


細い茎が。


伸びる。


小さな葉が。


ひらく。


その先に。


一枚。


また。


一枚。


花弁が。


重なっていく。


……


一輪の花が。


開いた。


……


少女の瞳が。


僅かに。


大きくなる。


「……え。」


淡い紫。


花のまわりを。


小さな光が。


ぱち。


ぱち。


瞬いている。


……


少女は。


見つめる。


……


「ガゼル。」


呼ばれて。


顔を上げる。


……


目が合う。


淡い紫の瞳。


花の光が。


映っている。


……


その奥。


小さな光が。


ひとつ。


また。


ひとつ。


……


細い線が。


伸びる。


光と。


光を。


繋いでいく。


……


少女は。


その瞳を。


見つめる。


……


「花が好きって。」


「だから。」


「これ。」


……


光る瞳が。


こちらを見ている。


掌が。


少し。


近づく。


「どう?」


……


視線が。


もう一度。


花へ落ちる。


……


「き、れい……。」


掠れた声。


隣の少女の口元が。


ほんの少し。


上がる。


「……よかった。」


……


少女は。


花へ手を伸ばす。


指先が。


まだ。


震えている。


隣の少女は。


その手へ。


花を乗せる。


……


指が。


花へ触れる。


「崩れない……?」


「大丈夫。」


……


少女は。


もう一度。


花を見る。


指先が。


小さく震える。


花も。


揺れる。


隣の少女の手が。


その下へ。


添えられる。


……


ぱち。


……


ちり。


……


淡い光が。


花のまわりで。


瞬いている。


少女は。


それを見ている。


……


息を吐く。


もう一度。


……


肩から。


少し。


力が抜ける。


……


涙は。


まだ。


頬に残っている。


……


花が。


揺れる。


……


花弁の端が。


光へ。


ほどける。


一枚。


また。


一枚。


……


さらさら。


細かな光が。


こぼれていく。


けれど。


床には。


落ちない。


……


ふわり。


ひとつ。


また。


ひとつ。


上へ。


昇っていく。


……


少女は。


顔を上げる。


淡い紫の光が。


二人の間を抜ける。


さらさらと。


空へ。


還っていくみたいに。


……


最後の。


ひとつまで。


目で追う。


……


やがて。


掌の上から。


一輪の花が。


なくなる。


……


ほんの少し。


淡い光だけが。


残って。


……


それも。


消えた。


……


「ふぅ……。」


隣から。


息が抜ける。


少女は。


顔を向ける。


隣の少女の身体が。


こちらへ傾く。


「お、おもち。」


身体へ。


重さが触れる。


「っ……。」


右肩が。


ずきりと痛む。


少女の身体が。


僅かに強張る。


けれど。


離れない。


……


白銀の髪が。


頬へ触れている。


少女は。


隣の少女を見る。


「……。」


目元。


……


細い。


ひび。


「だ、大丈夫……!?」


隣の少女が。


目を開ける。


「ちょっと。」


……


「疲れた。」


「無理しないで……。」


少女は。


手を伸ばす。


その目元へ。


触れようとする。


……


指先が。


止められる。


隣の少女の左手が。


少女の手を。


掴んでいる。


「……おもち?」


「だめ。」


「でも。」


「ガゼル。」


隣の少女が。


こちらを見る。


「また。」


「ガゼルが。」


「怖くなったら。」


「花。」


「作る。」


少女は。


隣の少女の目元を見る。


細い。


ひび。


「でも……。」


隣の少女は。


少女の手を。


まだ。


止めている。


「私のは。」


「勝手に。」


「戻る。」


……


少女は。


その顔を見る。


それから。


止められた手を見る。


……


指から。


力が抜ける。


「……ありがとう。」


隣の少女が。


少女を見る。


「おもちのおかげで。」


少女は。


一度。


息を吸う。


「まだ。」


「怖いけど……。」


隣の少女を見る。


「怖くないよ。」


口元が。


緩む。


……


隣の少女は。


その顔を。


見ている。


「ガゼルが。」


「笑うと。」


……


「嬉しい……?」


……


隣の少女は。


もう一度。


少女の顔を見る。


「私も。」


「思い出すと。」


「怖い……けど。」


「怖くない。」


……


口元が。


ほんの少し。


上がる。


少女は。


目を見開く。


それから。


もう一度。


笑う。


……


目が合う。


しばらく。


そのまま。


……


少女は。


隣の少女の目元へ。


視線を戻す。


細い。


ひび。


「それでも。」


「治させて……?」


「だめ。」


「……どうして?」


隣の少女の瞳が。


少女の髪へ向く。


「ガゼル。」


「髪。」


「……え?」


「ガゼルの。」


「魔力。」


……


隣の少女は。


自分の髪へ。


視線を落とす。


白銀に混じった。


淡い色。


「私の髪から。」


「感じる。」


少女を見る。


「だから。」


「ごめんなさい。」


……


少女は。


きょとんと。


その顔を見る。


……


髪。


……


握られていた手を。


引く。


自分の髪へ。


伸ばす。


一束。


掴む。


暗い。


はっきりとは。


見えない。


けれど。


薄い。


いつもの色が。


ほとんどない。


毛先。


そこだけ。


少し。


残っている。


……


少女は。


その髪を見つめる。


……


長い髪。


色の。


薄くなった髪。


……


お母様。


……


指が止まる。


少しずつ。


色の抜けていった。


お母様の髪。


……


星癒魔法。


……


『人を想う心があってこそ、人を癒やすことのできる魔法でございます。』


……


『その代わり。』


『術者の心が、そのまま魔法へ映し出されます。』


……


少女の目が動く。


……


丘。


……


腕の中。


冷たい身体。


握った手。


……


『お願い……。』


……


『生きて。』


『生きてほしい……。』


……


光。


身体の中から。


抜けていった熱。


……


もっと。


……


まだ。


……


少女は。


自分の髪を見る。


「……そっか。」


小さく。


声が落ちる。


隣の少女が。


少女を見る。


少女も。


そちらを見る。


……


髪。


白銀に。


混じった色。


暗い部屋の中。


淡い。


桃色に見える。


少女はもう一度。


自分の髪を見る。


それから。


隣を見る。


……


同じ。


「……同じ色。」


隣の少女の目が。


僅かに開く。


少女の口元が上がる。


「お揃いだね……。」


二人の髪を。


もう一度見比べる。


「かわいい。」


「……かわいい?」


「うん。」


少女は笑う。


「かわいい。」


「おもちはどう思う?」


隣の少女は首を傾げる。


「わからない。」


「……ふふ。」


こん。


こん。


扉が。


軽く叩かれる。


少女の身体が。


僅かに強張る。


左手が。


寝台の上を探る。


すぐに。


隣の少女の手へ触れる。


握る。


隣の少女も。


握り返す。


「姫様……。」


扉の向こう。


聞き慣れた声。


少女は。


扉を見る。


「治療師の方を。」


「お連れしました。」


……


「入っても。」


「……よろしいでしょうか。」


少女は。


答えない。


隣を見る。


淡い紫の瞳。


もう一度。


扉を見る。


「……うん。」


扉が。


ゆっくり。


開く。


セレス。


エステラ。


その後ろに。


治療師。


少女の指が。


少し強くなる。


……


それでも。


手は。


離さなかった。

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