蠱毒に流る一雫
扉を。
くぐる。
……
音。
声。
足音。
何かを。
叩く音。
硬いものが。
ぶつかる音。
……
人。
多い。
……
案内所より。
ずっと。
多い。
……
広い。
高い天井。
太い柱。
奥まで続く。
いくつもの窓口。
壁には。
紙。
札。
地図。
……
その前。
人。
人。
また。
人。
……
長い杖を。
持っている人。
ローブを。
着ている人。
背中に。
大きな剣。
腰に。
何本も。
短い剣。
弓。
盾。
……
大きな荷物を。
背負っている人。
木箱を。
抱えている人。
帳面を。
持っている人。
……
服も。
違う。
持っているものも。
違う。
……
向こう。
何人かが。
大きな台車を。
押してくる。
……
人が。
道を開ける。
少女は。
そちらを見る。
……
台車。
その上。
大きな。
何か。
……
黒い。
硬そうな。
皮。
……
その端から。
爪。
……
一本。
少女の腕より。
太い。
……
もう一つ。
角。
折れている。
……
布の隙間。
赤黒いもの。
……
少女は。
足を止める。
……
なに。
……
隣。
金色の髪の少女も。
止まった。
少女の腕へ。
ぎゅっ。
くっつく。
……
さっきより。
強い。
……
桃色の髪の少女が。
眼鏡の奥から。
台車を見る。
すぐ。
顔を逸らす。
「わ。」
「わたし。」
「ああいうの。」
「苦手です~……。」
「エルネちゃんも。」
「くっつかないでください~。」
「嫌です。」
「怖いです。」
「わたしもです~。」
……
二人が。
少女の左右へ。
寄る。
……
重い。
……
茶髪の少年だけが。
台車を見る。
目が。
大きく開く。
「おおー!!」
前へ。
一歩。
出る。
「でっけー!!」
……
少女は。
茶髪の少年を見る。
それから。
台車。
「なに。」
「あれ?」
「魔獣!」
茶髪の少年が。
胸を張る。
「討伐されたやつだよ!」
……
少女は。
もう一度。
見る。
……
台車の上。
大きな身体には。
布が。
掛けられている。
……
その端から。
太い脚が。
はみ出している。
……
黒い毛。
大きな爪。
……
爪の根元に。
乾いた血が。
こびりついている。
……
「角とか。」
「爪とか。」
「皮とか。」
「売れるんだぞ!」
「すげーだろ!」
……
少女は。
爪を見る。
……
血。
……
『第七個体の報告書は。』
……
『魔力限界値測定中に破裂。』
……
『回収完了。』
『必要サンプルは確保。』
……
白い髪。
細い身体。
……
笑っていた。
少年。
……
少女は。
目を伏せる。
……
「……痛い。」
……
金色の髪の少女が。
少女の腕に。
さらに。
顔を寄せる。
「全然。」
「すごくないです。」
「怖いです。」
「すごいだろ!」
「怖いです。」
「このロマンがわかんねーかー。」
「かわいくないからどうでもいいです。」
桃色の髪の少女も。
少女の反対側へ。
寄る。
「もう。」
「なんでもいいから。」
「行きましょうよ~。」
……
少女は。
桃色の髪の少女の方へ。
頭を。
少し。
寄せる。
「まだ。」
「見たい!」
「一人で見てください~!」
……
台車が。
目の前を。
通り過ぎる。
車輪。
ごろ。
ごろ。
……
床が。
少し。
揺れる。
……
後ろ。
別の人。
腕いっぱいの。
草。
匂い。
強い。
……
その横。
小さな瓶を。
箱へ。
並べる人。
……
奥。
光。
魔石。
何個も。
台の上。
一つずつ。
何かを。
調べている。
……
別のところ。
剣を置いて。
紙に。
文字を書く人。
……
荷物を。
受け取る人。
渡す人。
……
話す人。
笑う人。
呼ぶ人。
……
少女は。
周りを見る。
……
知らないもの。
多い。
……
知らない人も。
多い。
……
その全部が。
同じところに。
ある。
……
茶髪の少年が。
振り返る。
まだ。
胸を張っている。
「な!」
「ギルドってすげーだろ!」
……
少女は。
もう一度。
辺りを見る。
……
「うん。」
「すごい。」
……
茶髪の少年が。
にかっと。
笑う。
「だろ!」
「オモチには。」
「伝わったか!」
……
金色の髪の少女が。
少女を見る。
「オモチさんが。」
「かわいいっていうなら。」
「ここも。」
「かわいいのかもしれませんね!」
桃色の髪の少女が。
すぐに。
口を挟む。
「かわいいとは。」
「言ってませ~ん。」
……
金色の髪の少女が。
桃色の髪の少女を。
睨む。
「エルネちゃんが。」
「睨んでも。」
「かわいいだけです~。」
金色の髪の少女の。
眉が。
少し。
戻る。
「……そうですか。」
「はい~。」
……
その時。
少女の視線が。
止まる。
……
人の間。
金属。
光る。
……
鎧。
……
一人。
二人。
……
奥にも。
いる。
剣を。
腰に下げた。
騎士。
……
少女は。
フードの端へ。
手をかける。
少し。
下げる。
……
もっと。
顔が。
隠れる。
……
「ほら!」
茶髪の少年が。
前を指す。
「せっかく来たんだから。」
「魔力測定しようぜ!」
……
少女は。
茶髪の少年を見る。
「なんの意味があるの?」
「え?」
「測って。」
「なにがわかるの。」
「魔力を流すと。」
茶髪の少年が。
手を広げる。
「光るんだ!」
……
「それで。」
「一定時間。」
「光り続けたら。」
「素質あり!」
……
少女は。
瞬きをする。
「そうなんだ。」
「あと。」
茶髪の少年が。
指を立てる。
「子どもは。」
「参加するだけで。」
「お菓子がもらえる!」
……
「光り続けたら。」
「ピンバッヂも!」
「そうなんだ。」
……
金色の髪の少女が。
少女の腕に。
くっついたまま。
小さく。
息を吐く。
「テオは。」
「それがやりたいだけです。」
「違う!」
「ロマンだ!」
……
桃色の髪の少女が。
周りを見る。
……
剣。
鎧。
大きな荷物。
また。
人。
……
「わたし。」
「ここ。」
「あんまり。」
「面白くないです~。」
「私もです。」
金色の髪の少女が。
すぐに。
頷く。
「かわいいもの。」
「全然ないです。」
「あるだろ!」
「どこにですか?」
……
茶髪の少年が。
辺りを見る。
……
剣。
盾。
鎧。
魔石。
……
「いっぱいあるだろ!」
「ないです。」
「ないです~。」
「お前らには。」
「ロマンが。」
「わかんねーんだよ!」
……
少女は。
三人を見る。
……
ロマン。
……
やっぱり。
よく。
わからない。
……
茶髪の少年が。
少女を見る。
「よし。」
「まずは。」
「手本。」
「見せてやるよ!」
……
そのまま。
測定台へ。
向かう。
「お姉さん!」
「一回!」
台の向こう。
女が。
顔を上げる。
「あら。」
「今日も来たの?」
「今日は。」
「すげーの。」
「見せるから!」
……
茶髪の少年が。
振り返る。
少女を見る。
……
「見てろよ。」
……
台の上。
透明な。
丸い石。
その下。
銀色の台。
細い線が。
いくつも。
刻まれている。
……
茶髪の少年が。
両手を。
乗せる。
「いくぞ!」
……
目を閉じる。
肩に。
力が入る。
……
しばらく。
何も。
起きない。
……
やがて。
透明な石の奥。
小さく。
光。
……
ほんの少し。
白く。
灯る。
……
「あれ?」
茶髪の少年が。
目を開ける。
「なんか。」
「調子悪いな。」
「いつも。」
「もっと光ってるのに。」
……
金色の髪の少女が。
目を細める。
「いつもと。」
「変わらないです。」
「うるせーよ!」
……
台の向こうの女が。
笑う。
「でも。」
「テオは。」
「魔力操作は。」
「上手になったわね。」
……
茶髪の少年が。
女を見る。
「え。」
「ほんとか!?」
「その歳なら。」
「そこそこ。」
「頑張ってる方じゃない?」
……
茶髪の少年が。
胸を張る。
「やっぱり。」
「才能あるんだな!」
「そこまでは。」
「言ってないわよ。」
「なんでそこは。」
「素直に認めてくれないんだよ!」
……
女が。
小さな袋を。
一つ。
差し出す。
「はい。」
「今日も。」
「参加賞。」
茶髪の少年が。
受け取る。
「よっしゃ!」
……
金色の髪の少女が。
袋を見る。
「お菓子。」
「ちょっと。」
「羨ましいです。」
「後で。」
「みんなで食おーぜ!」
……
桃色の髪の少女が。
少年を見る。
「テオくん。」
「優しいです~。」
「だろ!」
……
茶髪の少年が。
少女へ。
振り返る。
「ほら。」
「オモチも。」
「やってみろよ!」
……
少女は。
測定器を見る。
……
透明な石。
銀色の台。
刻まれた線。
……
中。
魔力を。
受ける。
……
溜める。
……
流す。
……
逃がす。
……
少女は。
少し。
止まる。
……
小さい。
……
「コツはな!」
茶髪の少年が。
拳を握る。
「思いっきり。」
「やることだ!」
……
女が。
眉を上げる。
「こらこら。」
「初めての子に。」
「変なコツを。」
「教えないの。」
「人によって。」
「感覚が違うんだから。」
……
茶髪の少年の。
眉が。
少し。
下がる。
「俺なりの。」
「アドバイスなのに。」
……
女が。
小さく。
息を吐く。
……
少女を見る。
「慣れてないと。」
「魔力を流すこと自体。」
「難しいのよ。」
……
「だから。」
「最初は。」
「少しずつで。」
「大丈夫だからね。」
……
少女は。
測定器を見る。
……
少しずつ。
……
「いい。」
……
「えー!」
茶髪の少年が。
声を上げる。
……
少女は。
少年を見る。
「興味ない。」
……
「そっかー。」
茶髪の少年の。
肩が。
下がる。
「見たかったのにな。」
……
金色の髪の少女が。
少女を見る。
「オモチさんが。」
「興味ないなら。」
「仕方ないです。」
桃色の髪の少女も。
頷く。
「テオくんだけ。」
「やってればいいです~。」
「なんだよ!」
……
金色の髪の少女が。
もう一度。
少年の手にある。
袋を見る。
……
「でも。」
「私も自分のお菓子。」
「欲しいです。」
「じゃあ。」
「お前もやれよ!」
……
「そうします。」
金色の髪の少女が。
少女の腕から。
離れる。
……
測定台へ。
一歩。
近づく。
……
透明な石へ。
両手を。
乗せる。
……
「オモチさん。」
「私のかわいい魔法。」
「見ててください!」
……
目を閉じる。
……
しばらく。
待つ。
……
何も。
起きない。
……
金色の髪の少女が。
片目を。
開ける。
……
水晶。
透明。
「光って……ない?」
……
女が。
水晶を見る。
それから。
金色の髪の少女を見る。
「魔力。」
「流せてないわね。」
……
「えへへ。」
金色の髪の少女が。
笑う。
「私。」
「こういうの。」
「苦手なんです。」
……
「はい。」
女が。
小さな袋を。
差し出す。
「参加賞。」
……
金色の髪の少女の。
顔が。
明るくなる。
「わーい!」
「この袋かわいい!」
……
桃色の髪の少女が。
袋を見る。
「わたしも。」
「欲しいです~。」
金色の髪の少女と。
入れ替わる。
……
桃色の髪の少女が。
水晶へ。
手を置く。
……
目を閉じる。
……
少し。
……
透明な石の中。
光。
……
細く。
白いものが。
揺れる。
……
くるり。
……
また。
くるり。
……
渦を巻く。
……
「あら。」
女が。
少し。
身を乗り出す。
「ウルカちゃん。」
「今日は。」
「テオより。」
「明るいかも。」
……
「はぁ!?」
茶髪の少年が。
声を上げる。
「なんでだよ!」
桃色の髪の少女が。
目を開ける。
水晶を見る。
……
それから。
少年を見る。
「わたしの勝ちです~。」
「勝負じゃねーよ!」
……
桃色の髪の少女が。
水晶を見る。
「毎日来てるわりに……。」
……
金色の髪の少女も。
袋を抱えたまま。
水晶を見る。
「光は。」
「小さいままですね。」
「それは。」
「言っちゃいけねーよ!」
……
「事実です。」
「事実です~。」
「お前らなぁ……。」
……
茶髪の少年の。
肩が。
少し。
下がる。
……
少女は。
少年を見る。
……
「テオ。」
「……なんだよ。」
……
少女は。
少年の手を。
取る。
「え。」
……
掌を。
上へ。
向ける。
……
少女の指が。
掌の真ん中へ。
触れる。
「ここ。」
……
「ここだけから。」
「出してる。」
……
茶髪の少年が。
自分の手を見る。
「ここ?」
「うん。」
……
少女は。
自分の手を。
開く。
……
そのまま。
少年の掌へ。
重ねる。
……
ぴたり。
……
「手のひら。」
「全部。」
……
重なった。
手。
……
「ここから。」
「流した方が。」
「もっと入る。」
……
茶髪の少年が。
少女を見る。
「俺。」
「ちゃんとできてる?」
「うん。」
……
少女は。
重ねた手を見る。
「ちゃんと。」
「流せてる。」
……
茶髪の少年の。
肩が。
少し。
戻る。
「じゃあ。」
「次はもっと光るな!」
「たぶん。」
「たぶん!?」
……
金色の髪の少女が。
二人の手を見る。
それから。
少女を見る。
「私は。」
「どうなんですか?」
……
少女は。
金色の髪の少女を見る。
……
「エルネは。」
「多い。」
……
「え。」
……
金色の髪の少女が。
自分を見る。
「私が?」
「うん。」
……
少女は。
指を。
上げる。
……
金色の髪の少女の。
胸元。
真ん中あたりを。
指す。
……
そこから。
腕へ。
……
ゆっくり。
指先を。
沿わせる。
……
肩。
腕。
手首。
掌。
……
指先。
……
「ここまで。」
「繋がってない。」
……
金色の髪の少女が。
自分の腕を見る。
「繋げる……?」
「うん。」
……
少女は。
指先を。
指す。
「ここから。」
「出す。」
……
「手を置くだけじゃ。」
「出ない。」
……
金色の髪の少女が。
水晶を見る。
「私。」
「ずっと。」
「置けばいいと思ってました。」
……
茶髪の少年が。
振り返る。
「だから光らなかったのかよ!」
「知らなかったんです!」
……
少女は。
桃色の髪の少女を見る。
……
「ウルカは。」
「もう少し。」
「出せる。」
……
桃色の髪の少女が。
瞬きをする。
「わたし?」
「うん。」
……
少女は。
自分の人差し指を。
立てる。
……
ゆら。
……
右。
左。
……
指先で。
小さく。
波を描く。
「今。」
「こんな感じ。」
……
桃色の髪の少女が。
首を傾げる。
「渦巻いてました~。」
「弱いから。」
「安定してない。」
……
「もっと。」
「出していい。」
……
桃色の髪の少女が。
水晶を見る。
「危なくないです~?」
「ウルカなら。」
「平気。」
「なら。」
「やってみます~。」
……
もう一度。
水晶へ。
手を置く。
……
目を閉じる。
……
少し。
……
光。
……
さっきより。
強い。
……
白い流れ。
……
一度。
揺れる。
……
けれど。
すぐ。
真っ直ぐ。
伸びる。
……
「あ。」
桃色の髪の少女が。
目を開ける。
……
女も。
水晶を見る。
「……本当。」
……
桃色の髪の少女が。
少女を見る。
「まっすぐです~。」
「うん。」
……
桃色の髪の少女が。
水晶から。
手を離す。
……
金色の髪の少女が。
すぐに。
水晶へ。
向かう。
「私も。」
「もう一回。」
「やります!」
……
「お菓子は。」
「二個にならないわよ?」
「わかってますよーだ。」
……
両手を。
乗せる。
……
金色の髪の少女は。
目を閉じる。
……
胸。
腕。
掌。
……
少女に。
指で示されたところ。
……
しばらく。
何も。
起きない。
……
やがて。
水晶の奥。
光。
……
ぽっ。
……
白く。
灯る。
……
「!」
金色の髪の少女が。
目を開ける。
「光りました!!」
……
そのまま。
光。
少し。
強くなる。
……
台の向こう。
女の顔から。
笑みが。
少し。
消える。
……
水晶。
……
金色の髪の少女。
……
それから。
少女。
……
「……あなた。」
……
少女が。
女を見る。
……
「今の。」
「見ただけで。」
「わかったの?」
「うん。」
……
女が。
水晶を見る。
……
まだ。
淡く。
光っている。
……
「魔力操作。」
「習ってる?」
「習ってない。」
……
「誰かに。」
「教わったことは?」
「ない。」
……
女が。
瞬きをする。
……
「じゃあ。」
「どうして。」
「わかるの?」
……
少女は。
三人を見る。
……
テオ。
エルネ。
ウルカ。
……
「見えるから。」
……
女が。
黙る。
……
もう一度。
少女を見る。
……
「……お姉さん。」
「あなたに。」
「ちょっと。」
「興味持っちゃった。」
……
少女は。
瞬きをする。
「そう。」
……
茶髪の少年が。
目を丸くする。
「オモチ。」
「すげーな!」
……
「ほんとです!」
「かわいいのにかっこいいです!」
……
桃色の髪の少女が。
少女を見る。
「オモチさんは。」
「測らないんです~?」
……
少女は。
測定器を見る。
……
透明な石。
銀色の台。
刻まれた線。
……
魔力量。
……
興味ない。
……
もう。
見た。
……
少女は。
台の向こうの女を見る。
「賢人。」
「ここにいる?」
……
女が。
瞬きをする。
「賢人?」
「古い時代の。」
「魔法を。」
「研究してる人。」
「ああ。」
……
「ここにいるかは。」
「わからないけど。」
……
「魔力測定の。」
「記録があれば。」
「それを実績として。」
「魔法関係の窓口に。」
「話を通してあげられるわ。」
……
「そこなら。」
「古い魔法に。」
「詳しい人を。」
「知ってるかもしれない。」
……
少女は。
測定器を見る。
……
記録。
……
魔法関係。
……
賢人。
……
少女の視線が。
透明な石へ。
戻る。
……
小さい。
……
少女は。
指を差す。
「私がすると。」
「割れる。」
……
女が。
瞬きをする。
……
茶髪の少年も。
少女を見る。
「割れる?」
……
少女は。
頷く。
「うん。」
……
女が。
測定器を見る。
……
「今まで。」
「割れたことは。」
「ないけど……。」
……
女が。
水晶へ。
手を置く。
……
淡く。
光る。
……
「人の魔力では。」
「壊れないように。」
「作られてるのよ。」
……
女が。
水晶から。
手を離す。
……
銀色の台。
刻まれた線。
……
指先で。
一つずつ。
なぞる。
……
「……異常は。」
「ないわね。」
……
少女は。
光を見る。
……
人の。
魔力。
……
少女は。
女を見る。
「割れても。」
「怒らない?」
……
「怒る?」
女が。
目を丸くする。
……
それから。
少し。
笑う。
「怒らないわよ。」
……
「本当に。」
「割れたら。」
女が。
水晶を見る。
「怒るより。」
「先に。」
「びっくりすると思う。」
……
少女は。
測定器を見る。
……
割れる。
……
でも。
……
それなら。
……
素質なし。
では。
ない。
……
魔法関係。
……
賢人。
……
少女は。
茶髪の少年を見る。
「テオ。」
「ん?」
「これが光ると。」
「役に立つ……?」
……
茶髪の少年が。
瞬きをする。
「そりゃ。」
「素質があったら。」
……
胸を張る。
「この世界で。」
「ヒーローにだって。」
「なれるかもだぜ?」
……
「ヒーローって?」
「英雄だ。」
「英雄!」
……
英雄。
……
少女の視線が。
少し。
下がる。
……
星の聖女。
……
アイラが。
言ってた。
……
世界中を。
まわって。
たくさんの人を。
助けた。
……
ガゼルの。
母親。
……
星の聖女。
……
役に。
立った人。
……
少女は。
測定器を見る。
……
魔力量。
……
どうでもいい。
……
でも。
……
賢人。
……
役に。
立てる。
……
少女は。
顔を上げる。
「わかった。」
……
「やる。」
……
「お!」
茶髪の少年の。
顔が。
明るくなる。
「やるのか!」
……
金色の髪の少女も。
袋を抱えたまま。
少女の隣へ。
戻ってくる。
「オモチさんも。」
「お菓子。」
「もらいましょう!」
……
桃色の髪の少女も。
反対側。
「何が入ってるか。」
「あとで見せ合いましょう~。」
……
少女は。
二人を見る。
「うん。」
……
女が。
少女を見る。
「じゃあ。」
「ほんの少しずつで。」
「いいからね。」
……
少女は。
頷く。
「うん。」
……
茶髪の少年が。
口を開く。
「思いっき――」
「テオ。」
……
茶髪の少年が。
口を閉じる。
……
金色の髪の少女が。
小さく。
笑う。
……
透明な。
水晶。
……
少女は。
右手を。
伸ばす。
……
掌を。
水晶へ。
添える。
……
冷たい。
……
一度。
息を。
吸う。
……
少し。
……
ローブの裾が。
揺れた。
……
風。
ではない。
……
紺から。
紫へ。
色を変える布が。
ふわり。
浮く。
……
銀色の星が。
光を。
拾う。
……
フードが。
後ろへ。
滑り落ちる。
……
白銀の髪が。
肩から。
零れる。
……
視界の端。
白銀。
……
淡く混じっていた。
紫。
……
少しずつ。
濃くなる。
……
一本。
また。
一本。
髪が。
浮く。
……
台の向こう。
女の表情が。
止まる。
……
測定器。
その下。
銀色の台。
……
刻まれた術式が。
魔力を。
流す前から。
淡く。
光り始める。
……
「え……。」
……
女が。
身を乗り出す。
……
光。
強くなる。
……
「ちょっと。」
……
少女は。
水晶を見る。
……
少しだけ。
……
魔力を。
流す。
「ま――」
――瞬間。
ぱんっ。
……
音。
では。
足りない。
……
水晶が。
内側から。
弾けた。
……
白い光。
……
少女の右腕へ。
叩きつける。
……
身体が。
大きく。
跳ねる。
「きゃああああっ!!」
……
透明な欠片が。
四方へ。
飛ぶ。
……
頬。
首。
身体。
……
熱いものが。
走る。
……
右手。
……
感覚。
飛ぶ。
……
次。
痛い。
……
強い。
……
少女の指が。
動かない。
……
動かそうとする。
……
動かない。
……
同時に。
銀色の台。
刻まれた術式が。
白く染まる。
……
光。
床を走る。
……
一つ。
二つ。
三つ。
……
繋がった先。
魔石。
全部。
……
壁。
天井。
窓口。
掲示板。
……
一斉に。
白く光る。
「なに!?」
「なんだ!?」
……
天井の魔石灯が。
激しく。
明滅する。
……
消える。
光る。
また。
消える。
……
ぱんっ。
……
一つ。
弾ける。
……
「きゃあっ!!」
ぱんっ。
ぱん。
……
次。
その隣。
……
天井から。
欠片が。
降る。
「伏せろ!!」
「魔石から離れろ!」
「頭を守って!」
……
悲鳴。
……
人が。
一斉に。
身を屈める。
走る。
ぶつかる。
……
椅子が。
倒れる。
荷物が。
床へ落ちる。
……
「いやあああっ!」
桃色の髪の少女が。
両腕で。
頭を覆う。
その場に。
しゃがみ込む。
……
手の甲。
赤い。
細い傷。
……
金色の髪の少女も。
身体を。
小さく丸める。
くまのぬいぐるみを。
胸へ。
強く抱いている。
……
頬。
一本。
赤い線。
……
茶髪の少年が。
二人の前へ。
身体を入れる。
……
腕を。
広げる。
「うわっ!」
「なんだよこれ!!」
……
少年の腕にも。
細い傷。
……
頬。
赤い。
……
奥。
別の魔石。
白く。
強く光る。
……
火花。
散る。
……
「止めて!」
「制御を切れ!」
「切れません!」
「全部おかしいんです!」
……
少女は。
動かない。
……
右手。
……
赤い。
……
手の甲。
掌。
指。
……
血。
……
袖。
肘の下まで。
裂けている。
……
その下。
腕。
……
赤い。
……
深く。
割れている。
……
肉。
……
その奥。
白いもの。
……
血が。
腕を伝う。
……
指先から。
落ちる。
……
ぽた。
ぽた。
……
床。
赤い。
……
頬。
首。
……
細かな傷。
……
少女は。
右手を見る。
……
指。
……
動かない。
……
痛い。
……
でも。
……
「エルネちゃん!」
桃色の髪の少女の。
声。
……
少女の顔が。
上がる。
……
金色の髪の少女。
……
頬。
……
一本。
細い。
傷。
……
そこから。
赤いものが。
流れている。
……
血。
……
少女の息が。
止まる。
……
胸。
どく。
……
エルネ。
……
血。
……
どく。
どく。
……
少女の右腕から。
血が。
落ちる。
……
見ない。
……
エルネ。
……
頬。
……
赤い。
……
「エルネちゃん!」
桃色の髪の少女が。
金色の髪の少女へ。
手を伸ばす。
……
その手も。
赤い。
……
「ち。」
「血が。」
「血が出てます……!」
……
少女の視線が。
止まる。
……
ウルカ。
……
手。
……
血。
……
金色の髪の少女が。
ゆっくり。
目を開ける。
……
頬へ。
手を当てる。
……
指。
赤い。
……
少女の視線が。
動く。
……
茶髪の少年。
……
腕。
……
傷。
……
頬。
血。
……
三人。
……
少女の胸が。
強く。
鳴る。
……
どく。
どく。
どく。
……
息。
入らない。
……
私が。
……
少女の唇が。
震える。
「ご。」
……
声。
小さい。
……
茶髪の少年が。
振り返る。
「オモチ……?」
……
少女は。
三人を見る。
……
エルネ。
……
ウルカ。
……
テオ。
……
血。
……
「ご。」
「ごめん……。」
……
息を。
吸う。
……
浅い。
……
「なさい。」
……
また。
天井。
ぱんっ。
……
悲鳴。
……
騎士の声。
「全員伏せろ!」
「怪我人は!?」
「測定台から離れろ!」
……
金属の音。
何人も。
近づいてくる。
……
少女は。
一歩。
下がる。
……
自分の足元。
血。
……
右腕から。
落ちている。
……
でも。
少女は。
見ない。
……
三人。
……
血。
……
もう一歩。
下がる。
……
「オモチさん……?」
金色の髪の少女の。
声。
……
少女の肩が。
揺れる。
……
左手を。
フードへ。
伸ばす。
……
深く。
被る。
……
右腕。
痛い。
……
少女は。
身体を翻す。
走る。
「オモチさん!」
「えっ。」
「待てよ!」
……
人の間へ。
入る。
……
走る。
……
右腕を。
身体へ。
寄せる。
……
揺れるたび。
痛い。
……
指。
動かない。
……
血。
落ちる。
……
頬も。
痛い。
……
でも。
……
エルネ。
……
ウルカ。
……
テオ。
……
血。
……
少女は。
振り返らない。
……
走る。
◇
外。
……
人。
たくさん。
……
ギルドの前。
人だかり。
……
開いた扉から。
声が。
溢れている。
……
少女は。
その間を。
抜ける。
……
右腕。
血。
……
指先から。
落ちる。
……
ぽた。
……
石畳。
赤い。
……
空。
日は。
もう。
傾いている。
……
建物の影が。
長い。
……
少女は。
歩く。
……
手。
腕。
頬。
……
痛い。
……
右腕。
……
まだ。
赤い。
……
指。
動かない。
……
でも。
……
どうせ。
すぐ。
治る。
……
また。
血が。
落ちる。
……
大通りを。
外れる。
……
建物と。
建物の間。
細い道。
……
日が。
ほとんど。
入らない。
……
暗い。
……
少女は。
その中へ。
入る。
……
後ろ。
ギルドの声が。
少し。
遠くなる。
……
「オモチ!」
……
足が。
止まる。
……
茶髪の少年。
……
少女は。
振り返らない。
……
「おい!」
足音。
近づく。
「オモチ!」
……
少女は。
歩く。
……
テオ。
……
腕。
頬。
……
血。
……
見たくない。
「待てよ!」
……
後ろから。
手が。
伸びる。
……
左手。
掴まれる。
……
少女の足が。
止まる。
……
「お前。」
「怪我してるだろ!」
……
少女は。
俯く。
……
右腕から。
血が。
落ちる。
……
「離して。」
「離せるかよ!」
……
引かれる。
……
身体が。
後ろへ向く。
……
少女は。
顔を。
上げない。
……
茶髪の少年。
……
足。
服。
腕。
……
袖。
裂けている。
……
そこ。
赤い。
……
顔は。
見ない。
……
どんな顔を。
してるか。
わからない。
……
「お前。」
「それ。」
「やばいだろ……。」
……
少女は。
黙る。
……
右腕。
……
血。
……
地面へ。
落ちる。
……
「テオ。」
「なんだよ。」
……
「私が。」
「怖くない……?」
……
「怖くなんかねーよ。」
……
左手の指が。
少し。
動く。
……
掴まれた。
左手。
……
温かい。
……
「だから。」
「勝手に行くなよ。」
……
少女は。
黙る。
……
茶髪の少年が。
掴んだ手を。
少し。
緩める。
……
「エルネも。」
「ウルカも。」
「平気だ。」
……
左手の指が。
僅かに。
動く。
……
「俺も。」
「これくらい。」
「なんともねーし。」
……
少女は。
少年の腕を見る。
……
細い傷。
……
血。
……
「な?」
……
声。
さっきより。
やわらかい。
……
「お前の方が。」
「やべーだろ。」
……
少女は。
右腕を見る。
……
深く。
裂けた。
傷。
……
赤い。
……
その奥。
白いもの。
……
右手。
……
指は。
まだ。
動かない。
……
でも。
……
少しずつ。
……
赤い隙間が。
狭くなる。
……
血の流れが。
少し。
弱くなる。
……
裂けた肉が。
寄る。
……
白いものが。
見えなくなる。
……
また。
一つ。
……
深い傷が。
閉じていく。
……
少年の手が。
止まる。
……
少女は。
俯いたまま。
……
右手。
……
人差し指。
……
ぴく。
……
動く。
……
もう一度。
……
今度は。
全部。
……
ゆっくり。
指が。
曲がる。
……
さっきまで。
赤かった。
手の甲。
……
傷が。
薄くなる。
……
「お。」
……
声。
……
「お前……。」
……
さっきと。
違う。
……
少女は。
少年の顔を。
見ない。
……
細い道。
暗い。
……
何も。
聞こえない。
……
少女は。
掴まれた。
左手を見る。
……
右手を。
上げる。
……
少年の手に。
そっと。
重ねる。
……
「ありがとう……。」
……
「……ごめんなさい。」
……
返事は。
ない。
……
少女は。
手を。
離す。
……
一歩。
……
また。
一歩。
……
暗い道を。
進む。
……
後ろから。
声は。
来ない。
……
少女は。
振り返らない。
……
そのまま。
歩いていく。
◇
歩く。
……
一歩。
また。
一歩。
……
いつの間にか。
人が。
いない。
……
声も。
聞こえない。
……
少女は。
足を止める。
……
顔を。
上げる。
……
空。
……
赤。
橙。
その向こう。
薄い紫。
……
もっと。
上。
深い青。
……
星。
……
一つ。
……
少女は。
見上げる。
……
それから。
また。
歩く。
……
足。
重い。
……
右腕。
痛い。
……
血。
まだ。
出てる。
……
指先から。
ぽた。
……
地面へ。
落ちる。
……
一歩。
……
もう一歩。
……
足が。
上がらない。
……
つま先が。
石に。
引っかかる。
……
身体が。
前へ。
傾く。
……
手。
出ない。
……
そのまま。
地面へ。
落ちる。
……
どさ。
……
頬。
草。
……
冷たい。
……
少女は。
瞬きをする。
……
痛い。
……
でも。
……
気持ちいい。
……
身体を。
起こさなくて。
いい。
……
もう。
このままで。
いい……。
……
瞼が。
落ちる。
……
◇
空。
……
暗い。
……
少女は。
瞬きをする。
……
もう一度。
……
空。
……
さっきより。
暗い。
……
星。
……
一つ。
二つ。
……
もっと。
ある。
……
少女は。
しばらく。
空を見る。
……
星。
……
星の近くに。
……
少女は。
地面へ。
手をつく。
……
身体を。
起こす。
……
足。
重い。
……
それでも。
立つ。
……
歩く。
……
星。
……
見える。
……
そっち。
……
道が。
少しずつ。
上がっていく。
……
建物が。
減る。
……
石畳が。
なくなる。
……
土。
草。
……
風。
……
少女の髪を。
揺らす。
……
また。
一歩。
……
息。
浅い。
……
視界。
暗い。
……
少女は。
瞬きをする。
……
星。
まだ。
見える。
……
もう少し。
……
歩く。
……
坂。
……
上る。
……
一歩。
……
もう一歩。
……
足が。
震える。
……
それでも。
上る。
……
やがて。
坂が。
終わる。
……
空。
……
広い。
……
建物に。
隠れてない。
……
星。
たくさん。
……
少女は。
一歩。
前へ。
出る。
……
膝から。
力が。
抜ける。
……
どさ。
……
膝。
草の上。
……
少女は。
そのまま。
座り込む。
……
右腕。
……
血。
……
袖。
赤い。
……
傷。
まだ。
ある。
……
少女は。
手を見る。
……
こんな身体。
……
何の役に。
立つんだろう。
……
役に。
立ちたかった。
……
でも。
……
私がいると。
傷つく。
……
みんな。
……
ごめんなさい。
……
少女は。
俯く。
……
もう。
何もしない。
……
誰にも。
会わない。
……
そうしたら。
……
誰も。
傷つかない。
……
風。
……
草が。
揺れる。
……
少女は。
ゆっくり。
顔を上げる。
……
星。
……
たくさん。
……
さっきより。
近い。
……
少女は。
見上げる。
……
眠い。
……
瞼が。
重い。
……
もう。
動きたくない。
……
ここなら。
……
少女の身体が。
少し。
傾く。
……
草へ。
手をつく。
……
冷たい。
……
気持ちいい。
……
少女は。
目を。
細める。
……
星。
「おもち――」




