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透明に濁る欠片


「私が。」


「案内しますよ。」


……


少女は。


毛先の跳ねた少女を見る。


「いいの?」


「もちろんです!」


毛先の跳ねた少女は胸を張る。


それから。


片目を閉じた。


「星の聖女様なら。」


「きっと。」


「そうしますからね!」


……


星の。


聖女。


少女は瞬きをする。


「誰?」


「えっ。」


閉じていた目が開く。


「星の聖女様ですよ!?」


……


知らない。


「この国の英雄を。」


「知らないんですか!?」


「知らない。」


「王妃様です!」


……


王妃。


「王妃様といえばですね!」


毛先の跳ねた少女が身を乗り出す。


「王家に伝わる秘伝の魔法を使って。」


「世界中の人たちを助けて回った方なんですよ!」


「怪我をした人も。」


「病気の人も。」


「困っている人がいれば放っておけなくて!」


「それで。」


「みんなから星の聖女様って呼ばれるようになったんです!」


「この国じゃ知らない人なんていないくらい有名で!」


「今でも王妃様のお話は――」


……


たくさん。


喋る。


……


秘伝の魔法。


気になる。


人を。


助けた。


世界中。


……


すごい人。


らしい。


……


王妃。


王。


……


「ガゼル?」


「それは姫様!」


「姫様は王妃様の娘で!」


「姫様も同じ秘伝の魔法を使えて!」


「王都じゃ。」


「次の星の聖女様になるんじゃないかって。」


「すっごく期待されてるんですよ!」


「でも。」


「あんまりお姿を拝見できなくて!」


「王城から出られることも少ないみたいですし!」


「たまーにお姿を見られたってだけで。」


「しばらくその話ばっかりする子もいるくらいで!」


「この前だって。」


「姫様を見たっていう子がいて。」


「どこで見たのって聞いたら。」


「王城の近くを馬車で通ったとかなんとかで!」


「それ見たって言うんですかって――」


……


また。


たくさん。


喋る。


……


ガゼル。


秘伝の魔法。


期待。


あまり。


外に出ない。


……


それは。


知っている。


「ガゼル。」


「知ってる。」


……


毛先の跳ねた少女が止まる。


「……知ってる?」


「うん。」


「一緒に。」


「住んでた。」


……


「あー。」


何度か頷く。


「あなたも。」


「その手の人でしたか。」


……


その手。


「いるんですよねー。」


「姫様を一度見ただけで。」


「目が合ったとか。」


「お話したことがあるとか。」


「昔から知り合いだとか。」


「そういうこと言う人。」


……


少女は瞬きをする。


「手。」


「繋いだ。」


「はいはい。」


……


「それだったら。」


毛先の跳ねた少女が胸を張る。


「私なんて。」


「姫様のお写真。」


「持ってますから!」


……


しゃしん。


「もう。」


「親友みたいなもんですよ!」


……


親友。


「親友って。」


「なに?」


「一番の友達ってことです!」


……


一番の。


友達。


……


少女は。


毛先の跳ねた少女を見る。


姫様を。


あまり。


見られない。


そう。


言っていた。


……


「それは。」


「嘘。」


「なんでそこはわかるんですか!?」


……


毛先の跳ねた少女が声を上げる。


その向こうから。


「盛り上がってるところ。」


男がこちらを見る。


「悪いんだけど。」


……


少女も見る。


「君。」


男は。


ゴーグルの縁に。


指をかける。


「魔力に。」


「かなり敏感なんだろう?」


……


敏感。


「わからない。」


「うん。」


男が頷く。


「だろうね。」


……


少しして。


近くの棚へ手を伸ばす。


「じゃあ。」


「ちょっとだけ。」


「試してみようか。」


……


棚から二つ取り出し。


少女の前へ置く。


……


一つ。


薄い金属の板。


手のひらくらい。


四角い。


表面には細い線が。


いくつも刻まれている。


線は重なって。


繋がって。


一つの形を作っている。


……


もう一つ。


青い石。


小さい。


金属の枠に嵌められている。


……


男が二つを指す。


「これ。」


「違い。」


「わかるかい?」


……


少女は見る。


……


金属板。


薄い魔力。


表面の線を流れている。


端まで行く。


そこから。


外へ広がる。


……


薄い。


でも。


途切れない。


何度も。


同じところを巡る。


……


周りへ広がって。


近づいたものを。


外へ押す。


……


青い石。


こっちは。


違う。


……


魔力は中。


石の中に溜まっている。


……


冷たい。


……


少しずつ外へ出る。


でも。


遠くへは行かない。


石の周りに留まる。


……


少女は金属板を指す。


「こっち。」


「外に。」


「広がる。」


……


指先を少し動かす。


「ここを。」


「ずっと。」


「回ってる。」


「薄い。」


「でも。」


「途切れない。」


……


青い石。


「こっちは。」


「中に。」


「たくさんある。」


「冷たい。」


「少しずつ。」


「外に出てる。」


「でも。」


「近くに。」


「残る。」


……


男が黙る。


……


毛先の跳ねた少女が男を見る。


「……何です?」


「その顔。」


……


男は金属板を見る。


青い石を見る。


少女を見る。


「いや。」


……


「えぐいなぁ。」


「兄貴。」


「女の子に言う言葉じゃないです。」


「違う違う。」


男が手を振る。


「そうじゃなくて。」


……


金属板を持ち上げる。


「こっちは。」


「簡易結界盤。」


……


結界盤。


「玄関とか。」


「窓の近くに置いて。」


「虫。」


「小さい動物。」


「弱い魔物。」


「そういうのが入ってこないようにする。」


……


外へ。


押す。


……


男は青い石を持ち上げる。


「で。」


「こっちは。」


「冷気石。」


「食料棚とか。」


「箱の中に入れて。」


「中を冷やすためのもの。」


……


冷たい。


近くに。


留まる。


……


少女は二つを見る。


……


なるほど。


……


「ほとんど。」


男が呟く。


「そのままだ。」


……


そのまま。


……


「何も知らないのに。」


「魔力がどう流れて。」


「どこに留まって。」


「どう作用してるか。」


「そこまで拾ってる。」


……


男は少女を見る。


「そりゃ。」


「外にいたら。」


「目も回るよね。」


……


外。


……


たくさんあった。


魔力。


違うもの。


全部。


触れてきた。


……


男は立ち上がる。


「ちょっと待ってて。」


……


そのまま店の奥へ消えた。


……


がさ。


ごそ。


……


「兄貴?」


「たしか。」


「このへんに。」


……


がたん。


……


「うわ。」


「埃すご。」


「何探してるんですかー?」


「昔の在庫!」


「それ。」


「嫌な予感しかしないんですけど。」


……


がさがさ。


ごそ。


……


少しして。


「あ。」


……


また。


物が動く音。


「あった。」


「ありました?」


「あったあった!」


……


男が奥から戻ってくる。


腕には。


大きな布。


……


「げほっ。」


「けほ。」


……


毛先の跳ねた少女が。


男の抱えているものを見る。


眉が寄る。


鼻を押さえ。


一歩下がった。


「うわ、なにそれ……!」


「埃……やばい!」


「だいじょ……。」


男は言いかけて。


「けほっ。」


……


「これ。」


少女の前へ持ってくる。


「君に。」


「あげるよ。」


……


布。


長い。


少女の身体なら。


足元まで隠れそう。


……


男が広げる。


また。


埃が舞う。


「けほっ。」


……


肩のあたり。


深い群青。


光の少ないところでは。


黒にも見える。


……


そこから下へ。


少しずつ。


紫が混ざっていく。


群青。


紫。


……


どこから。


色が変わったのか。


よくわからない。


……


裾のあたり。


深い紫。


……


その上には。


小さな星がいくつも縫われている。


銀色。


大きい星。


小さい星。


点。


細い線。


……


少女の視線が。


止まる。


……


星。


……


布のところどころには。


白い埃。


端には。


小さな染み。


……


男が鼻をこする。


「これさ。」


「親父が。」


「骨董好きでさ。」


……


骨董。


……


「大昔の魔法使いが。」


「使ってたらしいんだけど。」


「無駄に高くて。」


「ぜんっぜん。」


「売れなくて――」


「……はっ。」


「はっくしゅん!」


……


毛先の跳ねた少女がローブを見る。


「そ、それ。」


「何年。」


「奥に置いてたんです?」


「歴史ある品だから。」


「在庫歴を聞いてるんです。」


……


男の顔が。


横を向く。


「でも。」


「性能は。」


「まだ生きてる……はず。」


「はずって言いました?」


……


男は答えない。


……


少女はローブを見る。


……


布の中。


魔力。


……


強くない。


静か。


……


外へ出ていかない。


布の中を。


薄く巡っている。


……


外から触れてくる魔力。


それに当たる。


……


消える。


違う。


……


押し返す。


それとも。


少し違う。


……


弱くなる。


……


遠くなる。


……


少女は手を伸ばし。


指先で布に触れる。


……


店の中。


たくさんある魔力。


冷たいもの。


熱いもの。


尖ったもの。


重いもの。


……


指先の周りだけ。


少し遠い。


……


少女は瞬きをする。


「これ。」


男を見る。


「外の魔力。」


「小さくなる。」


……


男の眉が上がる。


「……そこまで。」


「わかるんだ。」


……


男はローブを持ち直す。


「そう。」


「外から入ってくる魔力を。」


「かなり弱くしてくれる。」


「魔力干渉を。」


「抑えるためのローブ。」


……


外の。


魔力を。


弱くする。


……


少女は。


もう一度。


布へ触れる。


……


さっきより。


少し。


息がしやすい。


……


「君みたいに。」


男が少女を見る。


「何でも。」


「あの精度で拾っちゃうなら。」


「外にいるだけで。」


「気分悪くなるよ。」


……


男は鼻を啜る。


「けほ。」


……


「だから。」


ローブを少女へ差し出す。


「これ。」


「あげる。」


毛先の跳ねた少女が男を見る。


「それ。」


「単に。」


「在庫処分じゃないですか?」


……


男の視線が。


横へ逸れる。


「違うよ。」


「お詫び。」


……


少女は首を傾げる。


「ほら。」


男が少女を見る。


「君が。」


「吐いちゃったの。」


「僕のせいでもあるからね。」


「質問しすぎたし。」


「揺らしたし。」


……


揺らされた。


たくさん。


聞かれた。


……


「だから。」


男が少し笑う。


「ごめんなさいのしるし。」


……


少女はローブを受け取る。


……


重い。


少し硬い。


……


近くなった。


……


匂いも。


近くなった。


……


少女は止まり。


布を鼻の近くへ寄せる。


……


「くさい。」


「あー。」


男がローブを見る。


「カビだね!」


「兄貴!!」


……


少女はローブを見る。


それから。


男を見る。


「これ。」


「着せて。」


……


男が瞬きをする。


「着せて?」


「うん。」


……


毛先の跳ねた少女の眉が寄る。


「え。」


「やめといた方が。」


「絶対。」


「埃とか。」


「カビとか。」


「すごいですよ?」


……


カビ。


くさい。


……


でも。


布に触れているところ。


魔力が遠い。


……


少女はローブを男へ差し出す。


「着たい。」


「まあ。」


男が受け取る。


「物は試しだよ。」


「兄貴。」


毛先の跳ねた少女が。


少女の着ている服を見る。


「それ着せるなら。」


「この服も。」


「ちゃんと洗ってくださいね。」


「あとでね。」


……


男がローブを大きく広げる。


また。


少し埃が舞う。


……


少女の肩へ。


そっと掛ける。


……


群青。


紫。


長い布が身体を包んでいく。


肩。


背中。


腕。


足元。


……


男は胸元の留め具を。


指で留める。


「はい。」


……


少女は瞬きをする。


……


少し。


違う。


……


店の中。


あれだけたくさんあった魔力。


冷たいもの。


熱いもの。


尖ったもの。


重いもの。


押してくるもの。


まとわりつくもの。


……


まだ。


ある。


まだ。


触れてくる。


……


でも。


さっきより。


弱い。


……


胸。


少し軽い。


喉も。


さっきより楽。


……


少女は。


息を吸う。


……


入る。


……


少女の指が。


ローブの端を握る。


「これ。」


男を見る。


「いい。」


……


男が少女を見る。


毛先の跳ねた少女も。


少女を見る。


……


二人の視線が。


頭から。


足元まで。


動く。


……


深い群青。


紫。


銀色の星。


その上へ。


白銀の髪が流れている。


……


淡い紫色の瞳。


……


男と。


毛先の跳ねた少女が。


顔を見合わせる。


……


「……なんだろう。」


男が首を傾げる。


「妙に。」


「しっくりくるな。」


……


もう一度。


少女を見る。


「なんだか。」


「最初から。」


「君の持ち物だったみたいだ。」


……


毛先の跳ねた少女も。


何度か頷く。


「わかります。」


少女を。


もう一度見る。


目が。


少し細くなる。


「すっごく。」


「似合ってます!」


……


眉が寄る。


鼻を押さえた。


「カビ臭いですけど。」


……


男は。


少し黙る。


肩をすくめた。


「それだけ。」


「歴史が染みついてるってことで。」


……


少女は自分の袖を見る。


群青。


紫。


星。


……


魔力。


少し遠い。


……


「ありがとう。」


「どういたしま――」


「くしゅん。」


……


少女の身体が。


小さく揺れる。


……


男と。


毛先の跳ねた少女が。


止まる。


顔を見合わせる。


……


「ふっ。」


「……あははっ!」


二人の声が重なる。


……


少女は。


鼻を少しこすった。


……


そのとき。


店の奥。


帳場の方から声がした。


「すみませーん!」


……


男が顔を上げる。


「あ。」


「呼ばれてる。」


……


少女の肩についた埃を。


軽く払う。


「はいはーい!」


声の方へ。


歩いていく。


……


毛先の跳ねた少女は。


その背中を見る。


「じゃあ。」


少女へ向き直る。


「私たちも。」


「案内所に向かいますか。」


……


案内所。


……


少女は頷く。


「よろしく。」


「はい!」


……


毛先の跳ねた少女が。


先に店の扉へ向かう。


少女も。


そのあとをついていく。


……


歩くたび。


ローブの裾が揺れる。


群青。


紫。


銀色の星。


……


扉の前。


毛先の跳ねた少女が。


取っ手へ手を伸ばす。


そのとき。


「君!」


……


店の奥から。


大きな声。


……


少女が振り返る。


帳場の陰から。


男が顔だけ出している。


「絶対。」


「学園においでよ!」


……


学園。


……


「君にしか。」


「できないことが。」


「絶対あるから!」


……


男は。


帳場の向こうへ消えた。


「はいはい。」


「少々お待ちくださいねー!」


……


帳場の陰から。


手だけが。


ひょいと出てくる。


……


ひら。


ひら。


……


少女は。


その手を見る。


……


手も。


引っ込んだ。


……


君にしか。


できないこと。


……


少女の指が。


ローブの端を。


少し握る。


……


「そうだ。」


毛先の跳ねた少女が。


少女の背中を指す。


「それ。」


「フードもありますよ。」


……


フード。


少女は手を伸ばし。


背中の布を掴む。


……


頭へ。


かぶせる。


……


長い。


白銀の髪。


入りきらない。


「あ。」


毛先の跳ねた少女が。


後ろへ回る。


「ちょっと。」


「失礼しますね。」


……


肩から。


背中へ流れる。


白銀の髪。


……


毛先の跳ねた少女が。


ローブの中へ。


少しずつ入れていく。


……


最後に。


フードを深くかぶせる。


……


少女の目が。


大きく開く。


……


静か。


……


さっきとは。


違う。


……


魔力は。


ある。


店の中。


棚。


壁。


帳場。


たくさんある。


……


でも。


来ない。


……


見ていなくても。


勝手に触れてきたもの。


冷たいもの。


熱いもの。


尖ったもの。


重いもの。


……


全部。


止まっている。


……


少女は棚を見る。


……


一つ。


魔道具。


……


見る。


……


魔力。


流れ。


中。


外。


細い。


二つ。


重なる。


……


わかる。


……


視線を外す。


……


消えた。


……


別のものを見る。


……


また。


わかる。


……


視線を外す。


……


消える。


……


「これ。」


「いい。」


「そんなにですか?」


……


少女は頷く。


……


見れば。


わかる。


……


見なければ。


来ない。


……


それが。


いい。


……


毛先の跳ねた少女が。


扉の取っ手へ。


手をかける。


「じゃあ。」


「行きましょうか。」


「うん。」


扉が。


開く。


からん。


からん。


     ◇


光。


……


声。


人。


馬。


荷車。


店先の魔石。


光る看板。


杖を持った人。


建物の壁。


……


魔力。


……


少女は。


扉の向こうを見る。


……


ある。


……


たくさん。


ある。


……


でも。


来ない。


……


少女は。


一歩。


外へ出る。


……


何も。


起きない。


……


胸。


重くならない。


喉も。


狭くならない。


お腹も。


持ち上がってこない。


……


もう一歩。


進む。


……


平気。


……


人が。


すぐ横を通る。


荷車が。


目の前を横切る。


馬の蹄が。


石畳を叩く。


誰かの声が。


重なる。


……


焼いた何かの匂い。


甘い匂い。


馬の匂い。


……


全部。


ある。


……


魔力も。


そこにある。


……


少女は。


近くの店先を見る。


小さな魔石。


……


見る。


……


中。


魔力。


少ない。


一定。


明るくなるたび。


少しずつ。


減っている。


……


視線を外す。


……


遠くなる。


……


少女は瞬きをする。


……


毛先の跳ねた少女が。


少し先で。


振り返る。


「どうです?」


……


少女は。


胸元へ。


手を当てる。


……


何も。


変じゃない。


……


「平気。」


「ほんとですか?」


「うん。」


……


毛先の跳ねた少女の顔が。


少し緩む。


胸元へ手を当て。


息を吐いた。


「よかったぁ。」


「また吐かれたら。」


「さすがに。」


「兄貴をもう一発蹴るところでした。」


……


少女は。


店を見る。


……


帳場の向こう。


男の姿は。


見えない。


「もう。」


「蹴ってた。」


「それは。」


「それです。」


……


毛先の跳ねた少女は。


前を向く。


「では。」


「今度こそ。」


「案内所へ行きましょう。」


……


案内所。


……


少女は。


フードの奥から。


前を見る。


……


人。


たくさん。


知らないもの。


たくさん。


……


でも。


さっきとは。


違う。


……


見たいものだけ。


見ればいい。


……


少女は。


毛先の跳ねた少女のあとを。


歩き出した。


……


しばらく。


二人で。


人の流れを歩く。


……


「そういえば。」


毛先の跳ねた少女が。


隣を見る。


「あなたのこと。」


「なんて呼んだらいいですか?」


……


呼ぶ。


……


「おもち。」


「オモチさん。」


毛先の跳ねた少女が。


少し首を傾げる。


「聞き慣れない名前ですね。」


「遠い国から来たんでしょうか。」


……


遠い国。


……


「ガゼルが。」


「くれた。」


「……何をです?」


「名前。」


……


毛先の跳ねた少女が。


少女を見る。


……


「もう。」


「その設定はいいですよ。」


……


設定。


「姫様は。」


「人に名前なんかつけませんから。」


……


少女は。


瞬きをする。


「つけた。」


「はいはい。」


……


毛先の跳ねた少女は。


前を向く。


「まあ。」


「オモチさんですね。」


「覚えました。」


……


それから。


自分の胸元を指す。


「私は。」


「アイラです。」


……


アイラ。


少女は。


一度。


その名前を聞く。


「アイラ。」


「はい!」


今度は。


少し嬉しそうに返ってきた。


……


毛先の跳ねた少女は。


前を向く。


少女も。


隣を歩く。


……


人の声。


荷車の音。


石畳を叩く。


靴音。


……


さっきまでとは違う。


聞こえるものだけが。


聞こえる。


……


しばらくして。


毛先の跳ねた少女が。


少女を見る。


「そういえば。」


「オモチさん。」


「どうして。」


「案内所へ行きたいんです?」


……


案内所。


少女の歩幅が。


少しだけ。


遅くなる。


「人を。」


「探してる。」


「人?」


「うん。」


……


宰相が。


言っていた。


……


魔法都市。


学園。


賢人。


……


「魔法都市。」


「学園。」


「賢人。」


「そこに。」


「私のことを。」


「知ってる人が。」


「いるかもしれないって。」


……


毛先の跳ねた少女は。


何度か頷く。


「なるほど。」


「それで。」


「案内所なんですね。」


「うん。」


「でしたら。」


毛先の跳ねた少女は。


少し前で。


足を止める。


両腕を広げた。


「魔法都市は。」


「ここですよ。」


……


少女も。


足を止める。


「ここ?」


「はい。」


……


フードの奥から。


周囲を見る。


高い建物。


店先に並ぶ。


魔石。


光を流す。


看板。


杖を持つ人。


荷車。


その向こうにも。


人。


……


魔力。


そこら中にある。


……


でも。


押し寄せてこない。


……


「ここが。」


「魔法都市。」


「そうです。」


毛先の跳ねた少女は。


広げていた腕を下ろす。


「世界でも。」


「かなり大きい方ですよ。」


……


少女は。


通りの先を見る。


……


知らずに。


入っていた。


……


二人は。


また歩き出す。


「それから。」


「学園も。」


「この王都にありますよ。」


少女は。


隣を見る。


「アイラ。」


「学園。」


「知ってる?」


「もちろんです!」


毛先の跳ねた少女が。


胸を張る。


「私も。」


「学院に通ってますから。」


……


学院。


……


魔術を。


学ぶ場所。


……


もっと。


たくさんの。


知識。


……


同じものを。


好きな人達と。


一緒に。


考える。


……


図書塔で。


聞いた言葉。


……


「アイラは。」


「魔法で。」


「なにができるの?」


「私ですか?」


「うん。」


……


毛先の跳ねた少女は。


少しだけ。


空を見る。


「私は。」


「まだ基礎だけです。」


……


「魔力を。」


「動かしたり。」


「魔石に。」


「込めたり。」


「そういう。」


「初歩のところですね。」


……


魔石。


……


「座学だと。」


「魔法の原理とか。」


「魔石についてとか。」


「魔力の流れとか。」


「そういうのも。」


「習ってます。」


……


少女は。


毛先の跳ねた少女を見る。


「アニキも?」


「ああ。」


「兄貴ですか?」


「うん。」


「兄貴も。」


「学院ですよ。」


……


男も。


学院。


……


「アニキは。」


「なにができる?」


「兄貴は。」


「工学ですね。」


……


工学。


少女の眉が。


僅かに動く。


「魔道具を作ったり。」


「術式を組んだり。」


「魔石を加工したり。」


「新しいものを作ったり。」


「そういうのが得意です。」


……


店の中。


机の上。


二つの魔道具。


……


流れる魔力を。


男は。


何度も。


見ていた。


……


「アニキ。」


「すごい?」


「すごいですよ。」


「変人ですけど。」


……


少女は。


瞬きをする。


「変人。」


「はい。」


毛先の跳ねた少女は。


頷く。


「兄貴は。」


「かなり。」


「変です。」


……


その目が。


少女へ向く。


頭から。


足元まで。


……


群青と紫のローブ。


深く被った。


フード。


……


「でも。」


毛先の跳ねた少女の目が。


少し細くなる。


「オモチさんも。」


「結構。」


「変ですよね。」


……


少女は。


自分を見る。


ローブ。


服。


靴。


……


隣を見る。


「そう?」


「そうですよ。」


……


毛先の跳ねた少女は。


何度か頷く。


「兄貴も変人で。」


「オモチさんも変なので。」


「工学。」


「向いてるのかもしれませんね!」


……


工学。


……


「私も。」


「工学志望なんです。」


「だから。」


「もしオモチさんが。」


「学院に入るなら。」


「一緒に授業。」


「受けられるかもしれませんね。」


……


一緒に。


授業。


……


「ガゼルは?」


「……。」


毛先の跳ねた少女が。


少女を見る。


「オモチさん。」


「あなた。」


「ほんと。」


「姫様好きですね。」


……


「うん。」


「好き。」


「そこは。」


「迷わないんですね。」


「うん。」


……


毛先の跳ねた少女は。


小さく息を吐く。


「まあ。」


「姫様が。」


「もし入学されるとしても。」


「私たちとは。」


「違う場所ですよ。」


……


「なんで?」


「それは。」


毛先の跳ねた少女が。


胸を張る。


「姫様だからです。」


……


姫様。


……


少女は。


少し。


首を傾げる。


「ガゼルは。」


毛先の跳ねた少女は。


周囲を見る。


すれ違った男が。


振り返っていた。


……


少女の耳元に近寄る。


声が。


少し小さくなる。


「オモチさん。」


「外ではせめて姫様と呼んで下さい。」


少女の眉が。


僅かに寄る。


「ガゼルは。」


「ガゼル。」


「それはそうですけど。」


……


毛先の跳ねた少女は息を吐く。


二人は。


歩いていく。


「ガゼルは――」


店先にいた女が。


少女を見る。


隣にいた人も。


顔を上げる。


「姫様です。」


……


少女は。


毛先の跳ねた少女を見る。


目が。


さっきより。


大きい。


「なんでだめ?」


「なんでって……。」


「ガ――」


毛先の跳ねた少女が。


少女の後ろを見る。


……


また。


誰かが。


こちらを見ている。


「わー!!」


ぶ。


……


口を。


塞がれた。


「ん。」


……


目の前。


毛先の跳ねた少女の顔。


近い。


……


「ひ・め・さ・ま!!」


……


「んー。」


「ここ。」


「王都なんですよ!」


「姫様を呼び捨てなんて。」


「下手したら捕まっちゃいますよ!」


……


口に当たる手。


少し。


強い。


……


息が。


しにくい。


「……くるしい。」


「え。」


ぱっ。


……


手が離れる。


少女は。


一度。


息を吸う。


口元へ。


手を当てる。


……


口を開く。


「ガ――」


「だからだめですって!!」


……


少女は。


口を閉じる。


「わかった。」


「言わない。」


「……ほんとですか?」


「うん。」


……


毛先の跳ねた少女は。


少女を見る。


「オモチさん。」


「なんか。」


「怒ってます?」


……


怒る。


……


少女は。


瞬きをする。


「わからない。」


「え。」


「私。」


「怒りかた。」


「知らない。」


……


毛先の跳ねた少女は。


少女を見る。


……


少しして。


口元が緩む。


「ふっ。」


……


「あははっ。」


少女は。


瞬きをする。


「なに?」


「だって。」


「怒りかたを知らないって。」


「そんなこと言うの。」


「やっぱり。」


「変です。」


……


変。


……


少女は。


少し。


首を傾げる。


……


毛先の跳ねた少女は。


まだ。


少し笑っている。


「まあ。」


「姫様が。」


「好きなことは。」


「よく伝わりましたよ。」


……


「うん。」


……


二人は。


また。


歩き出した。


     ◇


少女は。


時々。


足を止めた。


「あれは?」


「あれはですね。」


「街灯です。」


「夜になると。」


「中の魔石が光るんですよ。」


……


少し歩く。


「あれ。」


「荷車用の補助魔道具ですね。」


「重いものを運ぶ時に。」


「軽くしてくれるんです。」


……


また。


少し歩く。


「これは?」


「案内板です。」


「魔道具?」


「ただの板です。」


「そう。」


……


店。


建物。


道の脇。


壁。


屋根。


……


少女が。


何かを見つけるたび。


足を止める。


「あれは?」


「これは?」


……


「あれはですね――」


「それは――」


「こっちは――」


……


毛先の跳ねた少女が。


そのたびに答える。


……


少女は。


隣を見る。


「アイラ。」


「はい?」


「なんでも知ってる。」


「すごい。」


……


毛先の跳ねた少女が。


少女の顔を見る。


……


少女も。


見る。


……


「……。」


毛先の跳ねた少女は。


少し。


顔を逸らした。


「そ、そうですか?」


「うん。」


……


「まあ。」


「これくらいなら。」


「王都に住んでれば。」


「普通ですよ。」


……


「でも。」


「アイラは。」


「知ってた。」


……


「……。」


毛先の跳ねた少女の顔が。


少し。


赤くなる。


「もう。」


「行きますよ。」


「うん。」


……


そうして。


いくつか。


通りを曲がった。


……


「着きましたよ。」


毛先の跳ねた少女が。


足を止める。


……


少女も。


止まる。


……


目の前。


人の出入りする建物。


入口の上。


大きな文字。


……


――王都総合案内所。


少女は。


その文字を見上げた。


……


「ここです。」


毛先の跳ねた少女が。


建物を見る。


「中まで。」


「一緒に行きましょうか?」


……


少女は。


入口を見る。


人が。


出入りしている。


……


「大丈夫。」


「一人で行ける。」


「そうですか?」


「うん。」


……


少女は。


毛先の跳ねた少女を見る。


それから。


小さく。


頭を下げた。


「ありがとう。」


……


毛先の跳ねた少女が。


瞬きをする。


「オモチさん。」


「お礼は。」


「しっかりしてますよね。」


……


少女は。


顔を上げる。


「ガ――」


……


口を閉じる。


「好きな人が。」


「そうしてた。」


……


毛先の跳ねた少女は。


少し。


目を丸くする。


「ふふっ。」


「確かに。」


「姫様なら。」


「そうしますね。」


……


少女は。


小さく頷く。


「うん。」


……


「それじゃあ。」


毛先の跳ねた少女が。


来た道を見る。


「帰りの道。」


「わかります?」


……


少女も。


見る。


「たぶん。」


「たぶんなんですか?」


……


「待ってましょうか?」


少女は。


首を横に振る。


「大丈夫。」


「戻れる。」


「ほんとですか?」


「うん。」


……


毛先の跳ねた少女は。


少し。


少女を見る。


「じゃあ。」


「用が済んだら。」


「戻ってきてくださいね!」


「オモチさんの服も。」


「まだ店にありますから。」


……


少女は。


小さく頷く。


「わかった。」


「また後で。」


「はい!」


……


毛先の跳ねた少女は。


手を振る。


そのまま。


来た道を。


走っていく。


……


少し。


離れたところで。


足が止まった。


……


振り返る。


「オモチさーん!」


……


少女は。


顔を上げる。


……


「なにか。」


「わかるといいですねー!」


毛先の跳ねた少女が。


大きく。


手を振る。


……


少女は。


その手を見る。


……


自分の手を。


上げる。


小さく。


振る。


……


毛先の跳ねた少女は。


もう一度。


大きく手を振った。


それから。


人の間へ。


走っていった。

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