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窓辺、月の下で


少女は。


目を開けた。


……


暗い天井。


……


何度か。


瞬きをする。


……


部屋は。


暗い。


……


何も。


聞こえない。


……


少女は。


ぼんやりと。


天井を見つめる。


……


もう一度。


目を閉じる。


……


「……。」


……


眠れない。


……


左手が。


あたたかい。


……


少女は。


目を開ける。


……


顔を。


横へ向ける。


……


赤い髪の少女は。


眠っていた。


……


あどけない寝顔。


閉じられた瞼。


少しだけ開いた唇。


……


少女は。


その顔を。


じっと見つめる。


……


胸が。


ゆっくり。


上下している。


……


吸って。


……


吐いて。


……


また。


吸う。


……


生きてる。


……


少女は。


視線を。


少し下へ落とす。


……


二人の間。


……


左手には。


まだ。


赤い髪の少女の手が。


重なっていた。


……


眠っているのに。


繋がったまま。


……


少女は。


しばらく。


その手を見る。


……


あたたかい。


……


指を。


少しだけ動かす。


……


赤い髪の少女は。


起きない。


……


少女は。


もう一度。


その寝顔を見る。


……


しばらく。


見つめていた。


……


やがて。


繋がれた手から。


ゆっくりと。


指を抜く。


……


赤い髪の少女を見る。


……


起きない。


……


布団を。


少しだけ持ち上げる。


……


するり。


……


寝台から。


足を下ろした。


……


少女は。


立ち上がる。


……


窓へ向かう。


……


カーテンの隙間から。


月明かりが。


差し込んでいた。


……


窓際。


置かれた椅子へ。


腰を下ろす。


……


片足を上げる。


……


もう片方も。


……


膝を。


胸元へ寄せる。


……


両腕で。


抱える。


……


窓を見る。


……


夜。


……


王城の向こう。


深い夜空に。


月が浮かんでいた。


……


白い。


大きな月。


……


少女は。


頬を。


膝へ預ける。


……


解かれた。


長い白銀色の髪が。


肩から。


さらりと零れる。


……


椅子の縁を越え。


床へ流れる。


……


月明かりを受けて。


白銀色の髪が。


淡く煌めいた。


……


その中に。


ほんの少し。


紫が滲んでいる。


……


少女は。


月を見る。


……


ただ。


見つめる。


「……。」


胸の奥が。


ざわざわする。


……


いつも。


そうだった。


……


月を見ると。


胸の奥が。


落ち着かない。


……


それなのに。


不思議と。


嫌ではなかった。


目を逸らそうとも。


思わない。


……


ただ。


ずっと。


見ていたくなる。


……


少女は。


膝へ。


頬を預ける。


……


月を見る。


……


白く。


遠い。


……


時々。


思う。


……


私の居場所は。


もともと。


あそこにあるような。


……


そんな気がする。


……


どうして。


そんなことを思うのか。


分からない。


……


少女は。


瞬きをする。


……


月明かりが。


淡い紫の瞳へ映る。


……


今日も。


見えている。


……


同じ月。


……


少女は。


膝を抱えたまま。


じっと。


月を見つめる。


……


どれくらい。


そうしていたのか。


分からない。


……


少女は。


膝を抱えたまま。


月を見つめる。


……


左腕へ。


目を落とした。


……


何も。


巻かれていない。


……


朝は。


ここに。


白い包帯があった。


……


おまじない。


……


よく。


分からない。


……


忘れないためのもの。


らしい。


……


包帯は。


傷を治すためのもの。


……


なのに。

 

セレスは。


何もない腕へ。


巻いてくれた。


……


少女は。


右手で。


左腕へ触れる。


……


指先を。


滑らせる。


……


包帯が。


巻かれていた場所。


……


手首。


……


手の甲。


……


指先まで。


……


何も。


残っていない。


……


それなのに。


覚えている。


……


きゅっと。


握られていた。


左手。


……


あたたかかった。


……


少女は。


左手を見る。


……


指を。


ゆっくりと握る。


……


開く。


……


もう一度。


握る。


……


さっきまで。


ざわついていた胸の奥が。


少しだけ。


静かになる。


……


少女は。


握った左手を。


じっと見つめる。


……


ガゼルは。


よく。


ここを握る。


……


歩くときも。


……


怖いときも。


……


何もないときも。


……


いつの間にか。


握られている。


……


少女は。


左手を。


もう一度。


きゅっと握った。


……


施設にいた頃には。


知らなかった感覚。


……


あそこには。


こんなものは。


なかった。


……


少女は。


月を見る。


……


どうして。


ここにいるんだろう。


……


あの日。


扉が。


開いていた。


……


ただ。


それだけだった。


……


逃げようと。


決めていたわけじゃない。


……


施設を。


出ようとも。


思っていなかった。


……


扉が。


開いていた。


……


だから。


歩いた。


……


その先にも。


扉があった。


……


また。


開いていた。


……


だから。


また。


歩いた。


……


それだけ。


……


死にたいとは。


思っていなかった。


……


でも。


生きたいとも。


考えたことはなかった。


……


ただ。


廃棄されたくなかった。


……


役に立てなくなれば。


廃棄される。


……


だから。


課題。


検査。


戦闘訓練。


その繰り返し。


……


言われたことを。


覚える。


……


求められたものを。


返す。


……


次。


……


また。


次。


……


終わらなければ。


積み上がる。


……


できなければ。


必要なくなる。


……


それだけだった。


……


少女は。


膝へ。


頬を預ける。


……


月明かりが。


左手を照らしている。


……


この城へ来てから。


知らないことが。


増えた。


……


木。


花。


鳥や蝶。


……


人の形を。


していないものも。


生きていた。


……


料理がおいしいこと。


……


いろんな人達がいた。


……


みんな。


何かのために。


何かをしていた。


……


誰かの。


役に立っていた。


……


図書塔。


ガゼルのとっておきの場所。


また行きたい。


……


少女は。


ふと。


部屋の机へ。


目を向ける。


……


月明かりの中。


一冊の薄い冊子が。


置かれていた。


……


今日。


渡されたもの。


……


魔法を学ぶための場所。


そんな場所が。


あるらしい。


……


私みたいな。


子供が集まるらしい。


……


その子供たちは。


笑えているのだろうか。


……


それとも。


私がいた所以外にも。


施設があるのか。


……


苦しい思いを。


してなかったらいいな。


……


知らないこと。


ばかり。


……


私は。


この世界のことを。


何も知らない。


……


少女は。


月を見る。


……


知らなかった頃は。


考える必要なんて。


なかった。


……


言われたことを。


すればいい。


……


それだけで。


よかった。


……


今は。


違う。


……


どうしたい。


……


何が好き。


……


どうして。


……


たくさん。


聞かれる。


……


守るって。


なんだろう。


……


人のためには。


まず。


自分のこと。


……


それは。


どういうことなんだろう。


……


おもちは。


おもちのままでいい。


……


それも。


分からない。


……


初めて聞くようなこと。


ばかり。


……


どれにも。


答えがない。


……


その度に。


考える。


……


分からない。


……


考えても。


分からないことが。


たくさんある。


……


知らないことを。


知るたびに。


また。


分からないことが。


増えていく。


……


少女は。


膝を抱える腕へ。


少しだけ。


力を込める。


……


知らないままの方が。


よかったんだろうか。


……


月は。


何も。


答えなかった。


……


少女は。


自分の身体を見る。


……


この城へ来て。


知ったことは。


それだけじゃない。


……


服。


……


一人では。


まともに着られなかった。


……


まさか。


そんなことも。


できないとは。


思わなかった。


……


髪も。


……


まとめてもらった髪は。


動きやすかった。


……


でも。


自分では。


できそうにない。


……


お風呂も。


……


食事も。


……


歩くことだって。


……


誰かに。


助けてもらっている。


……


少女は。


膝を抱える腕へ。


指を沈める。


……


爪が。


皮膚へ食い込む。


……


できないこと。


ばかり。


……


それなのに。


ガゼルは。


そばにいてくれる。


……


セレスも。


エステラも。


何度も。


助けてくれる。


……


私は。


何も。


返せていない。


……


役に立てていない。


……


少女は。


左手を見る。


……


おもちは。


おもちのままでいい。


……


やっぱり。


分からない。


……


このままで。


いいはずがない。


……


役に立てなければ。


必要なくなる。


……


それは。


ずっと。


そうだった。


……


だから。


探さないと。


……


私にしか。


できないこと。


……


私だけの。


役に立てること。


……


少女は。


左手を。


きゅっと握る。


……


見つけないと。


……


そうじゃないと。


……


ガゼルの。


そばにいることは。


……


許されない。


……


少女は。


月から。


目を逸らした。


……


膝へ。


顔を埋める。


……


長い白銀色の髪が。


小さな身体を覆う。


……


膝の奥から。


微かな声が。


零れる。


……


「……ガゼル。」


……


瞼が。


少しずつ。


重くなる。


……


膝を抱えた腕から。


力が抜けていく。


……


やがて。


小さな寝息が。


窓辺に零れた。


……


月明かりだけが。


白銀色の髪を。


照らしていた。

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