表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
60/62

第五十八話 生活


食堂の賑わいは。


少しずつ遠ざかっていく。


王城の廊下には。


再び静けさが戻っていた。


赤い髪の少女は。


隣の少女を見る。


にこっと笑う。


「次はね。」


「侍女さんたちが。」


「住んでるところに。」


「行ってみよう!」


双子は。


ぴたりと足を止めた。


思わず。


顔を見合わせる。


「もちろん。」


「ご案内いたします。」


姉は。


穏やかに微笑んだ。


「ですが。」


「本日は。」


「侍女長がおられます。」


赤い髪の少女は。


小さく肩を跳ねさせた。


「そ、そっか。」


「今日は。」


「あの人もいるんだね。」


少女は。


赤い髪の少女を見る。


「……?」


赤い髪の少女は。


少しだけ苦笑した。


「優しい人なんだけどね。」


「ちょっとだけ。」


「緊張しちゃうの。」


少女は。


少しだけ考える。


侍女長……。


今日だけで何度も聞いた。


……


ガゼルの。


役に立てる何か。


知れる……かも。


……


「……会ってみたい。」


双子は。


少しだけ目を丸くした。


妹は。


ふっと笑う。


「仕方ありませんね。」


「それでは。」


「ご案内いたします。」


赤い髪の少女は。


少女を見る。


「うん。」


嬉しそうに頷いた。


「そうと決まれば!」


「早速行こう!」


     ◇


双子の案内のもと。


四人は。


王城の奥へ歩いていく。


豪華な装飾は。


少しずつ姿を消していく。


……


代わりに。


整然と並ぶ扉。


壁へ掛けられた予定表。


籠へ入った洗濯物。


静かな生活の気配が。


少しずつ増えていった。


「こちらです。」


姉は。


一つの建物の前で足を止めた。


「侍女棟でございます。」


赤い髪の少女は。


少女に向かって嬉しそうに笑う。


「初めて来た。」


「ドキドキするね!」


少女は。


赤い髪の少女の言葉を繰り返す。


「……どきどき」


……?


建物へ足を踏み入れる。


廊下では。


数人の侍女達が。


洗濯物を畳んでいた。


別の場所では。


制服のほつれを繕う。


誰かがお茶を淹れる。


柔らかな香りが漂う。


少女は。


静かに辺りを見渡す。


ちょい。


姉の服を。


小さく引く。


……


「……二人も?」


姉は。


服を引く小さな手を見る。


ふっと。


穏やかに微笑んだ。


「はい。」


「私達の部屋も。」


「この建物にございます。」


服を掴んだまま。


小さく口を開く。


「……二人は。」


「どうやって。」


「ガゼルを支えてるの?」


……


「ふふ。」


「気になりますか?」


「では。」


「私達の一日からお話しいたしますね。」


姉は。


腰の小さな鞄から。


一冊の手帳を取り出した。


丁寧に開く。


少女は。


手帳を覗き込む。


「……。」


細かな文字が。


隙間なく並んでいた。


時刻。


予定。


赤い髪の少女の体調。


食事の内容。


召し物。


一日の出来事。


……


そして。


小さく。


少女のことも書かれていた。


……


『朝食 三割程度。』


『笑顔を見て首を傾げる。』


『庭園で蝶を見る。』


少女は。


目を丸くする。


「……私?」


……


姉は。


優しく頷いた。


「姫様を支えるためには。」


「その日その日を。」


「忘れないことも大切なのです。」


「もちろん。」


「おもち様のご様子もです。」


……


「朝は。」


「お二人がお目覚めになる前に起き。」


「お部屋を整えます。」


「お食事の準備。」


「お着替えのお手伝い。」


「お洗濯。」


「お掃除。」


「夜は。」


「お二人がお休みになられてから。」


「そこで私達も。」


「一日が終わります。」


少女は。


姉の顔と手帳を交互に見た。


「でもね。」


赤い髪の少女は。


少しだけ困ったように笑う。


「お部屋のお掃除は。」


「たまに断っちゃうんだ。」


姉は穏やかに微笑んだ。


「そのたびに。」


「私達が。」


「泣きそうになっております。」


妹も困ったように笑う。


「最近はほとんどのことを」


「姫様が。」


「自分でやりますって。」


「言うんですもん。」


赤い髪の少女は。


少しだけ照れくさそうに笑った。


「だって。」


「二人も。」


「休んでほしいから。」


姉は。


その言葉を。


静かに受け止める。


柔らかく微笑んだ。


「ありがとうございます。」


「ですが。」


「私達は。」


「姫様に。」


「必要としていただけることが。」


「何より嬉しいのです。」


「それが。」


「私達の役目ですから。」


少女は。


三人を見る。


……


話してる。


笑ってる。


困ってる。


でも。


嬉しそう。


……


もっと。


知りたい。


……


……?


少女は。


小さく首を傾げた。


視線が。


繋がれた左手へ落ちる。


……


あたたかい。


……?


赤い髪の少女は。


そんな少女を見つめる。


くすっと笑った。


「おもち。」


「また。」


「考え事してるでしょ?」


少女は。


はっと顔を上げる。


「……うん。」


妹も。


思わず吹き出した。


「私もわかるようになってきました。」


姉は。


穏やかに微笑む。


「きっと。」


「将来は聡明なお人になられますね。」


……


赤い髪の少女は。


少女の手を。


きゅっと握る。


「でも。」


「たまには。」


「私達にも教えてね。」


少女は。


三人を見る。


「……わかった。」


妹は。


「あ。」


小さく声を上げた。


「そういえば。」


二人へ。


そっと顔を寄せる。


小さな声で囁く。


「ここでは。」


「くれぐれも。」


「鬼ば――」


「――エステラ。」


姉は。


にこりと微笑んだ。


「その先は。」


「やめておきなさい。」


妹は。


軽く手を振る。


「はいはい。」


「分かってますって。」


「鬼ば――」


かつん。


かつん。


少女は。


ぴくりと肩を震わせる。


……


ぎゅっ。


赤い髪の少女の右腕を。


抱き寄せる。


「……なにか。」


「くる。」


赤い髪の少女は。


小さく目を丸くする。


「え?」


「ちょっ……。」


「おもち?」


妹は。


動きを止める。


「……。」


姉は。


そっと。


片手で頭を抱えた。


廊下へ。


杖の音が響く。


向こうから。


一人の侍女が歩いてくる。


……


妹の肩が。


ぴくりと跳ねた。


「……侍女長。」


姉が深く一礼した。


赤い髪の少女も。


姿勢を正した。


「こんにちは。」


侍女長は。


穏やかに一礼を返す。


「姫様。」


「常日ごろから。」


「背筋を伸ばしてください。」


「癖になってしまいます。」


「私を見てからじゃ遅いですよ。」


……


「あっ。」


赤い髪の少女は。


ぴんと背筋を伸ばした。


「はい。」


侍女長は。


今度は双子を見る。


「セレス。」


「エステラ。」


「あなたたちが。」


「姫様へお伝えしなさい。」


「侍女とは。」


「お仕えするだけではありません。」


「正しく導くことも。」


「務めです。」


……


「はい。」


双子は。


姿勢を正し直す。


侍女長は。


小さく頷いた。


「よろしい。」


……


侍女長は少女に気づくと。


ゆっくりと近づいた。


少女の頭を優しく撫でる。


「あらまぁ……。」


「かわいらしいこと。」


「お城の生活には慣れましたか?」


少女は。


小さく頷く。


侍女長を見つめる。


「……おにばばさま……?」


少女の視線が。


ゆっくりと上へ向かう。


大きい。


見上げても。


まだ高い。


真っ直ぐ伸びた背筋。


右足には。


鉄の義足。


腰まで届く。


白髪混じりの黒い髪。


丁寧に編まれた。


一本のおさげ。


左目を横切り。


右の頬から首元まで続く。


大きな傷跡。


少女は。


息を呑む。


……


廊下が。


しんと静まり返る。


「…………。」


双子の笑顔が固まった。


……


赤い髪の少女も。


目を丸くする。


「おもち……!」


侍女長は。


穏やかに微笑んだまま。


口を開く。


「誰が。」


「そのようなことを教えたのでしょうか?」


……


その瞬間。


廊下の空気が。


ぴんと張り詰めた。


少女は。


思わず息を呑む。


身体が。


小さく強張る。


言葉が出ない。


……


妹から表情が消える。


姉は。


静かに目を閉じた。


赤い髪の少女は。


少女の前へ。


一歩踏み出そうとする。


……


侍女長は。


少女へ視線を向ける。


にっこりと微笑んだ。


「お嬢ちゃん。」


「私は侍女長ですよ。」


……


少女は。


慌てて小さく頷く。


「じ、じじょちょう……。」


……


「ええ。」


「いい子。」


「お勉強。」


「頑張りなさいね。」


……


「……うん。」


少女は。


小さく頷いた。


侍女長は。


穏やかに微笑む。


そのまま。


歩き出した。


……


少女は。


侍女長の背中を見つめる。


……


まだ。


聞けてない。


知りたい。


「……まって。」


侍女長は。


足を止めた。


ゆっくりと振り返る。


……


少女は。


侍女長を見つめる。


「……ガゼルの。」


「役に立ちたい。」


「どうしたらいい?」


……


侍女長は。


少しだけ目を細めた。


杖へ両手を添える。


静かに考える。


……


「そうですねぇ……。」


侍女長は。


穏やかに微笑んだ。


「まずは。」


「誰かの力になりたい。」


「その気持ちは。」


「大切になさい。」


……


杖を。


床へつく。


こつ。


「ですが。」


「人には。」


「順序というものがあります。」


侍女長は。


杖の先を。


少女の足元へ向けた。


「ここが。」


「今のあなた。」


杖が。


少し前を示す。


「そして。」


「こちらが。」


「姫様のお役に立つ。」


「未来のあなた。」


……


「いきなり。」


「そこを目指してはいけません。」


「まずは。」


「そこへ辿り着くための。」


「一歩を踏み出しなさい。」


少女は。


侍女長を見つめる。


その言葉を。


静かに聞いていた。


「自分を粗末にしたままでは。」


「誰かを。」


「支え続けることはできません。」


侍女長は。


一瞬だけ。


赤い髪の少女へ視線を向けた。


……


赤い髪の少女は。


小さく目を見開く。


「だから。」


「まずは。」


「自分を大切になさい。」


「それが。」


「誰かを大切にする。」


「最初の一歩です。」


侍女長は言い終えると。


再び。


歩き出した。


かつん。


かつん。


杖の音が。


少しずつ遠ざかっていく。


妹がほっと息をつく。


「エステラ。」


「セレス。」


侍女長は。


振り返らない。


「後で。」


「執務室へ来なさい。」


歩みは。


一度も止まらなかった。


「……はい。」


双子は。


揃って頭を下げた。


侍女長の姿が。


廊下の角へ消える。


誰も。


すぐには動かなかった。


やがて。


思い出したように息を吐く。


「……終わりだ。」


妹が力なく呟く。


こつ。


姉が。


妹の額を軽く小突いた。


「口は災いのもと。」


「だってぇ……。」


妹は額を押さえた。


少女は。


侍女長が去った先を。


じっと見つめていた。


……


赤い髪の少女は。


そっと隣へ並ぶ。


「おもち?」


少女は。


小さく頷く。


……


「……まっすぐだった。」


赤い髪の少女も。


侍女長が去った方を見る。


「そうだね。」


少しだけ微笑んだ。


「あの人は。」


「ずっと。」


「この国を支えてくれている人なんだ。」


「厳しいけど。」


「とっても優しい人だよ。」


……


少女は。


侍女長が去っていった先を。


もう一度だけ見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ