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第五十七話 ささえるひと


四人は。


王城の廊下を歩く。


……


やがて。


大きな窓の前で。


赤い髪の少女は。


足を止めた。


「ちょっと。」


「休憩しよっか。」


窓際には。


小さな長椅子が置かれていた。


……


「うん。」


二人は。


並んで腰を下ろす。


……


少女は。


自分の両手を見る。


「……。」


赤い髪の少女は。


その様子に気付く。


「まだ。」


「木剣のこと考えてる?」


少女は。


こくりと頷く。


「……重かった。」


赤い髪の少女は。


苦笑する。


「私も。」


「びっくりしちゃった。」


少女は。


少しだけ首を傾げる。


「でも。」


「エステラは。」


「持ってた。」


妹は。


小さく微笑んだ。


「日頃の鍛錬ですよ。」


そう言って。


きゅっと。


小さく力こぶを作る。


赤い髪の少女は。


目を輝かせた。


「すごい!」


「私も。」


「頑張らなきゃ!」


そう言って。


自分も。


きゅっと。


力こぶを作る。


少女は。


その様子を見る。


自分の腕を見る。


そして。


真似をするように。


きゅっと。


力を入れた。


「……。」


何も変わらない。


……


赤い髪の少女は。


思わず吹き出した。


「あははっ。」


「おもちも?」


少女は。


首を縦に振った。


「……鍛錬。」


……


「私は。」


「騎士になる。」


赤い髪の少女は。


きょとんと目を丸くした。


「えっと……。」


少しだけ考える。


「それもいいね。」


……


「でもね。」


「お城には。」


「騎士さん以外にも。」


「みんなを支えてくれている人がいるんだよ。」


少女は。


小さく首を傾げる。


「……?」


赤い髪の少女は。


優しく笑う。


「例えば。」


「セレスとエステラだって。」


「私を支えてくれてるでしょ?」


少女は。


双子を見る。


「……たしかに。」


「じゃあ。」


「侍女にもなる。」


……


「ガゼルの。」


「役に立つ。」


赤い髪の少女は。


目を丸くした。


それから。


くすっと笑う。


「もう。」


「今日はそればっかりなんだから。」


少女は。


小さく首を傾げる。


「……?」


……


赤い髪の少女は。


その様子を見つめる。


ふっと。


優しく笑った。


……


姉は。


胸元から。


小さな懐中時計を取り出す。


蓋を開く。


……


「姫様。」


「そろそろ。」


「お食事のお時間でございます。」


……


赤い髪の少女は。


「あっ。」


「もうそんな時間なんだ。」


……


少女の左手を。


きゅっと握った。


「次はね。」


「今日は。」


「いつも食べてるところじゃない場所に。」


「行ってみよう。」


赤い髪の少女は。


双子を見る。


「急だけど。」


「大丈夫かな?」


「私が行ったら。」


「みんな。」


「ゆっくり休めなくならないかな?」


姉と妹は。


顔を見合わせる。


ふっと微笑んだ。


「ご心配には及びません。」


「皆。」


「姫様がお越しになれば。」


「きっと喜びます。」


「ご案内いたします。」


     ◇


やがて。


賑やかな話し声が。


廊下まで届いてきた。


……


食器が触れ合う音。


笑い声。


焼きたてのパンの香り。


温かな湯気。


少女は。


小さく目を丸くする。


「……?」


赤い髪の少女は。


くすっと笑う。


「着いたよ。」


廊下の先には。


大きく開かれた食堂の入口。


中では。


大勢の人が。


思い思いに食事を楽しんでいた。


……


一人が。


赤い髪の少女へ気付く。


「あっ。」


「姫様だ。」


「本当だ。」


「こんにちは。」


食堂が。


少しだけざわめく。


赤い髪の少女は。


少しだけ照れくさそうに笑った。


「みんな。」


「いつもおつかれさま!」


「今日は。」


「ここでいただくね!」


食堂は。


一瞬だけ静まる。


次の瞬間。


あちこちから。


笑顔が広がった。


「ようこそ!」


「もちろんです!」


「嬉しいです!」


「ありがとうございます!」


赤い髪の少女は。


ぱたぱたと。


小さく両手を振る。


「席はそのままで!」


「みんな。」


「ゆっくり食べてね!」


……


「はーい!」


「いただきます!」


「姫様もどうぞ!」


食堂には。


再び。


賑やかな笑い声が戻った。


少女は。


その光景を。


静かに見つめていた。


「……。」


姉は。


二枚の木製のトレーを手に取る。


一枚を。


赤い髪の少女へ。


もう一枚を。


少女へ差し出した。


少女は。


トレーを見る。


「……?」


姉は。


優しく微笑む。


「こちらでは。」


「このトレーを持って。」


「列に並びます。」


「お料理を受け取ってから。」


「お好きな席でいただくんですよ。」


少女は。


小さく頷く。


「……そうなんだ。」


トレーを見る。


「……。」


初めてだった。


……


姉は。


その視線に気付く。


穏やかに微笑んだ。


「私が。」


「すぐそばにおります。」


「ご心配には及びません。」


赤い髪の少女も。


笑顔で頷く。


「私が先に行くから。」


「おもちは。」


「それを真似してくれたら大丈夫だよ。」


少女は。


赤い髪の少女を見る。


小さく頷いた。


「……うん。」


騎士は。


前へ進む。


料理人は。


皿へ。


大きな骨付き肉の煮込みを乗せた。


騎士は。


目を輝かせる。


「おっ!」


「今日は大当たりの日だ!!」


「骨付き肉じゃねぇか!」


料理人は。


にやりと笑う。


「朝から頑張った褒美だ。」


「しっかり食え!」


騎士は。


豪快に笑った。


「これで酒でも飲めりゃあ!」


「最高なんだけどな!」


料理人は。


お玉を持ち上げる。


「昼間っから飲ませるか!」


「午後も訓練だ!」


食堂に。


笑い声が広がる。


少女は。


小さく首を傾げた。


「……酒?」


赤い髪の少女は。


くすっと笑う。


「大人が飲む飲み物だよ。」


少女は。


少しだけ考える。


「……子どもは?」


「まだ飲めないんだ。」


「大人になってからのお楽しみ。」


少女は。


こくりと頷く。


「……そうなんだ。」


赤い髪の少女は。


嬉しそうに笑った。


「私たちも。」


「大きくなったら。」


「一緒に飲んでみようね。」


列が。


一歩前へ進む。


少女は。


ふと。


厨房の奥を見る。


……


何人もの人が。


忙しく動いていた。


火の魔石で。


鍋の火加減を調整する。


大鍋を。


手際よくかき混ぜる。


野菜を刻む。


焼きたてのパンを。


籠へ並べる。


出来上がった料理を。


次々と皿へ盛り付ける。


奥では。


水の魔石から。


澄んだ水が流れ続けていた。


泡立てた布で。


皿を洗う。


風の魔石で。


洗い終えた皿を乾かす。


乾いた皿は。


次々と棚へ並べられていく。


誰一人。


手を止めない。


誰一人。


無駄な動きをしない。


温かな湯気。


漂う香り。


絶え間なく動く厨房。


笑顔で料理を運ぶ姿。


声を掛け合う声。


出来上がった料理を見て。


嬉しそうに頷く笑顔。


……


少女は。


その光景から。


目を離せなかった。


……


赤い髪の少女は。


少女を見る。


「おもち。」


「一緒に行こっか。」


少女は小さく頷く。


二人は。


並んで前へ出る。


料理人は。


赤い髪の少女を見る。


ぱっと顔を明るくした。


「おっ!」


「姫様じゃねえか!」


「今日は王様の料理じゃなくて。」


「こっちでいいのか?」


「うん!」


「今日はみんなと同じ!」


「はっはっは!」


「そりゃ嬉しいねぇ!」


「それとね。」


赤い髪の少女は。


隣の少女を見る。


にこっと笑った。


「この子の分もお願いします!」


「まだ病み上がりだから。」


「少なめで。」


料理人は。


少女を見る。


ふっと目を細めた。


「任せときな。」


「うまいもん食って。」


「元気にならなきゃな。」


料理人は。


手際よく。


料理を盛っていく。


こんがり焼けた肉。


湯気の立つスープ。


焼きたてのパン。


彩り豊かな温野菜。


「ほらよ!」


「病み上がりだからな!」


「ちょいと控えめだ!」


少女は。


皿を見る。


思わず。


目を丸くした。


「……。」


赤い髪の少女も。


思わず皿を見る。


「少なめ?」


料理人は。


豪快に笑った。


「ここじゃあ。」


「腹ぁ空かせたまま帰すなんて。」


「許さねぇ!」


「食えるだけ食え!」


「足りなきゃ。」


「何度でも来い!」


赤い髪の少女は。


嬉しそうに笑った。


「ありがとう!」


少女は。


料理を見る。


それから。


料理人を見上げた。


「……ありがとう。」


料理人は。


にっと笑う。


「おう!」


「いっぱい食って。」


「元気になれよ!」


姉は。


少女のトレーへ。


そっと手を添えた。


「こちらは。」


「私がお持ちいたしますね。」


少女は。


小さく頷く。


「……お願い。」


姉は。


赤い髪の少女を見る。


「姫様は。」


「お持ちいただけますか?」


赤い髪の少女は。


にこっと笑った。


「うん!」


「大丈夫!」


トレーを。


しっかりと持ち直す。


その時。


妹が。


小走りで戻ってきた。


「お待たせいたしました。」


「席をご用意しております。」


「それと。」


「王族用のお食事につきましても。」


「変更をお伝えしておりますので。」


「ご安心ください。」


赤い髪の少女は。


ほっと胸を撫で下ろした。


「ありがとう。」


「エステラ。」


妹は。


小さく一礼する。


「こちらへどうぞ。」


四人は。


妹の案内で。


食堂の奥へ歩き出した。


席へ着くと。


食堂は。


相変わらず賑やかだった。


笑い声。


食器が触れ合う音。


誰かを呼ぶ声。


料理の香り。


少女は。


静かに周りを見る。


……


目の前には。


盛られた料理。


おいしそう……?


……


でも。


きっと食べきれない。


……


みんな。


ごはんを食べて。


笑ってる。


……


この料理が。


みんなを笑顔にしてる。


食事なんて。


口に入れば。


同じだと思ってた。


……


料理も。


役に立てるんだ。


……


隣。


ガゼル。


笑ってる。


向かいには。


セレス。


エステラ。


……


食堂には。


笑顔が広がっていた。


……


笑うってなんだろう。


私も。


そのうち。


笑ってたりするのだろうか。


わからない。


……


「――おもち?」


少女は。


はっとする。


赤い髪の少女は。


小さく首を傾げた。


「ごはん。」


「手が止まってるよ?」


……


少女は。


目の前の皿を見る。


……


気付けば。


食事は。


ほとんど終わっていた。


……


「……おわり。」


赤い髪の少女は。


くすっと笑う。


「ふふっ。」


「考え事してた?」


少女は。


小さく頷く。


赤い髪の少女は。


立ち上がった。


「じゃあ。」


「行こっか。」


四人は。


席を立つ。


食堂の出口へ向かう。


……


少女は。


ふと。


足を止めた。


振り返る。


……


沢山の人の笑い声。


食器が触れ合う音。


料理の香り。


忙しく働く人達。


「……。」


視線だけが。


賑やかな食堂を追う。


……


赤い髪の少女が。


優しく手を引いた。


……


少女は。


そのまま歩き出す。


……


食堂をあとにした。

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